再会、そして別れ
マリエリアという名前を聞いた瞬間の私の感想。
なんだそりゃ!
なんだろう。
この世界の人って異世界と何か交流があるんだろうか?
勝手に脳内変換されているのか、それとも、何処か異世界(前世の地球)と繋がっているのか、名前が異世界風。
『サン』フェリオとか、『ムーン』サルトとか、『マリエ』リアとか。。
……うん、詳しいことは考えないことにしよう。
きっと、私みたいな異世界転生とか、異世界転移とかそんな地球人がいる世界なんだよね!
************************************
水晶に触れて、私は失った3年分のマリーの記憶を思い出した。
3才までの私は確かにこの国のこの2人の子供だった。この場所はこの世とあの世の境目のような場所で、神様がいる世界なんだとか。
そんな世界で、神様や、両親の光と闇の魔法を何重にもかけ、守護の力を与えられたが、精神は限界まできていた。
まだ子供だった私は、自分の手に負えない力に翻弄され、少しずつ闇の力に引き摺られていった。
母方の血を色濃く受け継いだらしく、闇魔法の力が特に強かった。
そして、闇魔法はとても制御しづらい魔法だったことが災いした。
精神が不安定だと、負の力に引き摺られてしまい、暴走してしまう。
(余談だが、ムーンサルト国は、その力故に『魔女の住む国』『魔王が住む国』と噂されていた。)
このままでは、精神が大人になる前に自らの力で自滅してしまう恐れがあった。
だから、神様は決断した。この身体に見合う精神の魂を転生させることを。
そうして選ばれたのが、私、石井真理恵の魂だった。
いくつもの条件があったらしい。
1つ、この世界に抵抗がないこと。
2つ、マリエリアとの共通点があること。(今回は名前にマリエがあることだったみたい。)
そして、一番重要だったのが、
『生きたいと強く願う意志』
だった。
好きな仕事だった。
大好きな友人と同僚に囲まれて、毎日が充実して楽しかった。
辛いことだってあったけど、それでも、まだまだやりたいこともたくさんあった。
それに、恋だって。
ほんとは誰かと恋人になりたかった。
デートしたり、キスしたり、そんな恋愛をしてみたかった。
こんなところで死にたくない!
死の直前、私のそんな本音はこの世界の神様の元に届いたのだ。
『新しい世界でもう一度生きてみない?』
私はその問い掛けに首を縦に振った。
***********************************
そんな記憶の全てを思い出し、私は父と母の元へトボトボと近付いた。
「父さま、母さま、ごめんなさい」
目に涙を浮かべながら、私は声を絞り出した。
「なっ!何故泣いているんだい!?マリーが謝ることなんて、何一つないよ!
むしろ謝らなければいけないのは、禁忌だと知りながら、ジュリーと愛し合ってしまった私の責任…っ」
「貴方が喋ると話がややこしくなりそうだから、ちょっと黙ってて。
ねぇ、マリー。どうして謝るの?何か悪いことでもしてしまったの?」
ショボくれる父を無視して話しかける母に、首を小さく横に振りつつ、小さな声で言葉を続けた。
「…ったし、2人のほんとの子供じゃないから…私が…っ、い、生きてることで、マリエリアちゃんの人生を奪っちゃったから…」
確かに、マリエリアとしての3年間の記憶は思い出した。
でも、ここにいる『わたし』は『石井真理恵』そのものの心を持っている。
それは、マリエリアのこれからの人生を私が奪ってしまったということだ。
『それは検討違いな心配だね』
そのとき、初めてジュリーとディトの後ろに人がいたことに気付いた。
『やぁ、転生ぶりかな?マリエちゃん。
順調に馴染んできたみたいだね。』
「あっ!あなた神様…!」
『そう、この世界の神様って呼ばれてる。
そもそも、全くの他人の身体に他の魂を宿せるわけがないでしょ?
君には伝える時間がなかったけど、その身体は間違いなく君のものだよ、マリー?』
「…え。そうなの…?」
『そ。ほんとは天寿を全うした君の魂の転生先がマリエリアには入る予定だったんだけど、色々手違いがあってね。慌てて君をこの場所に呼んだんだ。』
「手違いって…?」
「それはまた機会があれば教えてあげるよ。それより、2人にお別れの挨拶をしなくていいの?」
「お別れ…って、えぇ!?」
折角この世界の両親に会えたのに、もうお別れだとぉ!?
その反応をみて、困ったような顔をして、ジュリーがマリエに話しかける。
「あのね、マリー。この世界は特殊な場所って話したわよね?この場所はね、他の世界と違って、時間の流れ方が違うの。貴女は、この世界に来てから数十分しか経ってないと感じてると思うけど、きっとシュヴァルトの森では数日経ってるわ。」
「さっきから、ずっとあの森で君を呼ぶ声が聞こえているからね。…君はとても彼らに愛されているんだね。」
「うそ……」
そうだ、何か違和感があると思ったのだ。
この2人は、私が走馬灯のように見てきた過去の記憶のなかで、『百数十年前の出来事』だと語り継がれていたはずだ。
その2人が、異次元にいるとは言え、この場所にこの若さでいるはずがない。
「…一緒には、かえれないの…?」
その質問に、ディトは複雑そうな顔をして苦笑した。
「とても嬉しいお誘いだけど、僕たちは、僕たちのこの力は、君が住む世界にはもう引き継がれてはいけないものなんだ。とても危険だからね。
…だから、約束して欲しい。マリー、君ももう光と闇の魔法の力を使ってはいけない。あの力は人を惑わす。僕は君が誰かに利用される人生など望んではいない!」
今までになく真剣なその表情に、私は黙って頷く。
「ありがとう。もう君のそばにはいられないけど、ずっと君のことを見守っているからね。」
「勿論、私もよ。愛してるわ、マリー。私たちの大切な娘。元の魂がなんだって、貴女は貴女だわ。
どうか、幸せになってね。私たちのように力に振り回されず、どうか自由に生きて。」
「…っとぉさま、かぁさま…っ!!」
2人に抱き締められながら、私はぼろぼろと泣いた。2人のぬくもりが優しかったからか、今世での別れが悲しかったのか、『わたし』という人間を認められて嬉しかったのか…
きっと全部あったと思う。
「…っはい!とおさま、かあさま。
私、しあわせになります!!」
いかん、嫁に行く時の台詞みたいになってしまった。
そうして、2人とぎゅうぎゅう抱き合いながら、私は再び意識が遠くなるのを感じながら、この時空にさよならをした。
ー困ったときは俺を呼べよ、とどこか遠くで、神様の声を聞きながらー
やっと、異次元編終わりました…
どうしよう、当初の予定とまるで違う方向にいってる気がします。
次回、やっと妖精達の元に帰ります。
もうすぐ、もうすぐあの人を出せる…っ!!はずです(笑)