表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コードグラビティ・ロード  作者: 李戸 侑大
5/7

Code04『多重能力者』

自分の書斎にて、片手にマグカップを持ちズズ…と一口珈琲を啜る。

「うえっ…冷めてる…」

珈琲を入れてから大分時間が経ってしまった様だ。ずっと本を読んでいた事もあってか、もうすっかり冷めてしまった。

「入れ直すか…」

と席を立ち、ふと、一夜前の『あの』言葉を思い出す。


ーー『大規模『異能力』集団、名を、「ギルティ」。ここに、設立しようと思います!』ーー


あの衝撃から一夜。

俺も色々と考えるところがあった。

これからの未来、これからの『グラビティ』、これからの、兄弟ふたり

「いつまでも考えてはいられないな…」

と、モヤモヤした気持ちを断ち切ろうと、冷めてしまった珈琲を入れ直すべく椅子から立ち上がり、ダイニングへと向かった。

だが、窓から差し込む日の光に気付き、カーテンを閉めようとその足を向かわせた。

「日の光は、あまり好きじゃあない。」

そう呟き、カーテンを閉める。

隙間から差し込む光に多少ムッとしたが、致し方ないと断ち切り、ダイニングへと向かう止めたその足を再度動かそうと、一歩踏み出したその刹那。

ーーその刹那、『ナイトメア』に『銃弾の雨』が降り注いだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「こんなものか…」

と、シャーディーは降り注がれた弾丸を「全て」目の前に「落と」し、呟いた。

だが、瞬間的なものだったせいもあり、『グラビティ』"しか"守れなかった。

恐らく下の都市や村への被害は免れないだろう。

「しっかし…俺も舐められたもんだ。」

「あれだけ『重力グラビティ』を使って無かったんだ。無理も無い。」

いつの間にか真横に佇んでいたのは、俺の『使役獣しえきじゅう』、『エンプーサ』である。

ちなみに彼も、『吸血鬼ヴァンプ』だ。

「相も変わらず冷たい左足だな」

と、彼の冷たい「青銅」の左足を指差し、言った。

「そりゃあ青銅だし…な。だが、その分と言ってはなんだが、もう片足は我ながら美脚だがな。」

「ははっ。言うじゃあねぇか。流石は冥界の女神『ヘカテー』の機嫌取り役だ。面白い。面白いぞ、エンプーサ。」

「そりゃあ光栄だ。シャーディーさんよォ」

こんなおどけた会話をしながらではあるが、二人の表情、行動は、迅速であり、鋭くもあった。

そして何より、『目』が違った。完全に、『目つき』が違った。

「石仮面でも使って人間を辞めたんですか?お二人さん。」

と、不死者ノスフェラトゥがおどけながら今までずっと閉じていたその口を開いた。

「なんで俺も辞めた事になっているんだ。辞めたのはエンプサだけだろう。」

「生まれた時にはとうに辞めてる。そんなことよりシャーディーはどうなんだ。そんな『能力』を『奴』から授かっておいて、まだ人間を辞めてないとでも言えるのか?」

「悪いな、俺は往生際が悪くてよ」

と、おどけたように言う。されど、その顔は曇っていた。

シャーディーにも、色々あったのだ。今でも夢に見る程に。

「っと、雑談続けてすまねぇな。そろそろ出てきてくれよ。良いだろ?『Rains』さんよォ」


ーー『Rains』。

シャーディーの父、シャルルの保有するPプライベートFフォース。通称『Rains』。

その実情は、シャルル『個人』が保有する、フォースである。

端的にに言えば、シャルル『個人』が保有する親衛隊、だと思ってくれれば幸いだ。

だが…そんなことよりーー

「それにしても…おかしい。静か過ぎる。銃弾雨(rain)の先制攻撃だぞ…?追撃を行うのが定石ってもんだ、どうしたんだ…?」

「牽制にしちゃぁ『能力』発動の予兆が無い。シャーディーの言う通り、追撃も無い…ビビったか…?」

その場の何とも言えない緊張感に苛まれ、は握る拳に力を込める。

その、力を込めた瞬間ーー

ベゴッ、と言う奇怪な音と共にーー

「『ナイトメア』機体上部が…ッ!!」

叫んだ時にはもう、遅かった。

その言葉通り、『ナイトメア』機体上部が爆風と共に抹消され、綺麗な蒼、晴天の青空の下に晒される。

「うぐああああッ!!」

と、エンプーサが焼ける体を抱きながら叫ぶ。

そう、彼は吸血鬼。

故に、聖なる『太陽』に弱い。

「今すぐ『体』を『霧』に…ッ!!」

「んなもん…わかって…!だが、油断した…もうちからが…ッ」

「ちッ、仕方ねぇ!」

シャーディーは右手の人差し指の先を噛み切り、ぴゅっ、と飛び出た血を元に、床に『血の』魔法陣を形成する。

「久々だが成功してくれよ…!!」

その願いと共に、血で創られた魔法陣の術式をエンプーサの叫びと共に、解放する。

「『グラビティ』承認認識、承諾!目標、目前会敵交戦中敵の生命信号停止。共に、目前仲間の治癒、及び転送!!」

目を見開き、命令オーダーを下す。

「我がシャーディー・ヴィオラ・ロード。万物を…捧げるッ!」

《認識した、我が主。》

直後、シャーディーの全身を「気」が巡り巡っていく。

その様は、まるでかの伝説の吸血鬼、『アーカード(Arucald)』の様でもあった。

重力グラビティ』と揶揄された「力」。

それは上位の『使役獣しえきじゅう』にのみ許された『契約術』。

シャーディーは、その圧倒的な力を『契約』を通す、即ち、『使役獣』を通すことにより、より一層力を強められる。

その能力は、重力を操り、力のベクトルを操る『第一世代』の『能力ちから』。


かつて、『20世紀至上最も完璧な人間』。そう呼ばれた者が居た。

名を、チェ・ゲバラ。

ゲリラ戦法の父と呼ばれ、キューバ革命を起こした一人者である。

だとすれば今の彼、シャーディーは、『今世紀至上最も完璧な人間』。そう呼ぶに値する程の『能力ちから』なのでは無いだろうか。


「エンプーサ、待ってろ。」

彼は重々しくその体を起こしーー


「『第二世代』までの能力で十分だ。三分で終わす。」


そう言って、『ナイトメア』に風穴を開けた正体不明の敵に対して宣戦布告をした。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

彼の力は絶大だった。


「跳躍と同時に行うベクトル変換…凄まじい思考回路…さすがだ。」

「跳躍したと思ったら既に雲を突き抜けている。早さが違うな、奴は。」

「あれが、にぃ…ですよ」

それを一人でこなしている揺るがぬ事実。それが敵への抑止力となり、十分なまでの『重圧プレッシャー』へと変わる。

「圧倒的なまでの状況把握能力と計算能力…素晴らしいな」

と、助けられたエンプーサが賞賛の声を送る。

「けど…敵の手の内は分かってない。」

と、ノスフェラトゥが補足する。

続けて、

「でも、例えどんな手違いがあっても負ける事は無いと思うけど…にぃはどうやってこの状況を打開するんだろう…」


「頑張れ、にぃ。」

そう小さく、呟いた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

『ナイトメア』上空ーー

能力者が二人、会敵していた。

「お前が主犯か…単独潜入ってのも、粋だな。」

「異能力の集まり…異端者が、何をほざいてやがる。ほら、わかってるんだろう?かかってこいよ。」

と、挑発してくるのはゲル状の形をした、原型を保っていられるのが不思議だと思える形状の敵。

それだけに奇妙でもある。

プロは相手の体付き等で強さを測ると言うが、ゲル状なだけに、奴は強さを測ることさえ出来ない。

筋肉はあるのか、力は何処から出てくるのか、武器は、行動パターンは、初手は、戦闘経験は。

様々な考えが脳をよぎる。

「この条件で今出来る撃退、死滅法は…」

と、一つの考えを絞り出す。

「ゴリ押し。ただそれだけだ!!」

と叫び、意思を固めたシャーディーは左足で力強く地面を蹴り出す。直後、蹴った力のベクトルを変換、シャーディーの体が凄まじいスピードで射出される。

その様は、少佐が愛したかの『アハトアハト』から射出される大経口の弾丸の様でもあった。

「からのぉ…ッ!」

利き手である右手を強く握りしめ、大きく後ろへ引き上げる。

「エレクトロ…」

引き上げた右腕が、バチバチ、と言う音とともにうなりをあげ、強烈な閃光と雷鳴と共にゲル状の敵の顔面に向かって凄まじいスピードで伸びていく。

まさに『雷神』。

まさに『雷電』。

その『右腕』が、エンプーサには神々しく見えた。

「ちょっとまッ」


「駄目だ。散れ。」

死刑宣告と共に。


「ライジングッッッ!!」


「くかッ…」

と言う奇怪な音と共に、強烈な風と閃光がその場にいる全員を襲う。

「これは…ッ!?」

上を見上げると、雲が割れ、晴天の青空が再び顔を見せた。

「わからない、わからない…けどッ!凄まじい破壊力…!!これを、あいつ一人でやったってのか?」

完全なる畏怖。

その場が恐怖で支配され、満たされた。

「それにしても、あの電撃…ッ!あいつ、『グラビティ』使いなはずだ。『電撃』が使えているのはどういう…!?」

と言うエンプーサの率直な疑問に対し、ノスフェラトゥが応答した。

「『多重能力者』、ですよ。」

「な…ッ!?」

多重能力者。

それは、神から授かりし『能力ちから』。

時にはある『危機キューバ』を救い、時にはある『絶望トール』を救いし『能力ちから』。

「果たしてその力は、授かりし物、なのです。」

続けて、

「世界に確認出来るだけで三人といない逸材。いや、世間一般で言う『神の子供達ゴッドチルドレン』ですかね、それが、『にぃ』です。にぃの正体です。」

と、エンプーサは呆気に取られる。

「ふは…ッ、通りで強い訳だ。だが、あいつ…俺との戦闘では『重力グラビティ』しか使ってこなかった。使わないでも勝てると判断された、と言うわけだ。くそっ…俺も、堕ちたな…」

と、自嘲気味にその心情を吐露する。

悔しい。その一つの感情でエンプーサの心は埋め尽くされていた。

「そんなこともないさ。エンプーサ。」

「何がだ。シャーディー。」

空から堕りてきたシャーディーが、口を開いた。

それに対しエンプーサは、労いの言葉をかけるでもなく、つい先程まで考えていた事柄について質問を始めた。

「お前は俺に『加減』したのか?まぁそりゃあ俺も歳だ。全盛期程の力は無いさ。」

エンプーサが続ける。

「霧にするほどの体力も無いし、ましてや、聖なる『太陽サン』にも焼かれる始末…衰えたよ。だがな。」

握る拳に力を込め、声を震えさせながら吐露する。

「俺だって、『吸血鬼ヴァンプ』だ!俺にだってな…!プライドってもんがあるんだ!俺だっ」

エンプーサが言いかけた言葉を遮り、シャーディーは呆れたように、もう興味が無くなったかの様に、吐く。

「くだらない」

「な…ッ」

エンプーサは驚愕の表情を見せる。

シャーディーのそれは、心からの呟きだった。そう傍から見ていたノスフェラトゥはそう思った。

「今…なんと?」

「下らないと言ったんだ。えーと、なんだったか。プライド?歳?知ったものか。お前は『衰えた』んじゃない。初めから『無かった』んだ。力も、能力も、何もかも。お前は自分の『無い』力を過大評価し過ぎた。自身を持ちすぎたんだ。力を、『無い』力を、過信しすぎただけだ。それがこの結果だ。」

「手前ッ!」

エンプーサが首元に掴みかかる。

それを静止するでもなく、シャーディーは続ける。

哀れみの目でーー

「お前は、昔の方がいい奴だったよ。」

そう言って、

「お前はもう終わりだ。堕ちるところまで堕ちた。いや、堕ちてしまった。」

右の拳を強く握りしめ、自身の体より後ろへ引き上げる。

「エレクトロ…」

右手が閃光を纏う。

それと同時に、雷電の帯電が始まる。

「もうすこし待っててくれ。『グラビティ』」

《お安い御用だ。我がマイマスター。何処までも付いて行こう、主が望むのならば。》

その言葉を区切りに、シャーディーは目を見開く。

「じゃぁな。エンプーサ。来世では、立派な吸血鬼にでもなってくれよ。」

「嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だッッッ!!俺は…まだ…ッ!」

「終わりだ。『ライジング』ッッッ!!」

再度、閃光が辺りを覆い込み、閃光で包まれた。

雲が割れ、晴天の青空が覗き込む。

「来世でな。エンプーサ」

そう呟き、司令室へと戻ろうと、足を運ぼうとした。

「本当に、良かったんです?にぃ

そう声を掛けたのは、先ほどのやり取りを傍から見ていたノスフェラトゥ。

ノスフェラトゥの問いに対し、シャーディーは答えた。

「良くは無かった。他にも選択肢はあったかもしれない。だけど、」

「「俺には思いつかなかった」」

「ですか?」

「…」

一瞬呆気に取られたが、ノスフェラトゥの美しい微笑みに応じるかのように、

「ああ、そうだ。そうだな、ノスフェラトゥ。」

そう答え、『ナイトメア』の甲板を後にした。

戦闘会です。

初登場のエンプーサさん。亡くなりました。

いやぁ悲しきかな悲しきかな


実は死にキャラでした。

実はって言うかもう死んでるから何も言えないんだけれどもね。


次回もよろしくです!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ