第六話 「イジメだめ! 絶対!」
ミリヤと別れ、ようやく学園に到着。
まず目に映り込んで来たのは、とても大きく城のような校舎だった。煉瓦造りで趣のある外観。一歩中に入れば、きらびやかな装飾品の数々がお出迎え。床は真っ白なタイル張りで踏むのに躊躇うほど綺麗だ。
何だか、凄く場違いな気がしてきた。周りにいる生徒達は皆、品が良さそうで着ている衣服も質の良さそうなものばかり。
もしかして、この学校…………貴族とかが通う学校じゃないの?
周りの生徒達がチラチラと此方を窺ってくる。
うう、見られてる。そりゃそうだよね。今の僕の格好、多少お洒落に気を配っているけど、白色のカットソーに赤色のカーディガンを併せ、下は黒色の短パンだし。お母さんにはスカートの方がいいと言われたけど、履く勇気がでない元男だから。
めっさ視線が突き刺さってくるぅ…………。
視線に堪えきれなくなった僕は、逃げるようにこの場を去った。
入学式が行われる講堂に向かう。そこでもまた奇異なもの見るような視線が集まる。
なんて所に入れてくれたんだ、お父様!
こう敷居の高い学校じゃなくて、普通の小学校みたいな学校は無いのかね。物凄く居心地が悪い…………。
よく見渡すと、人族の子が多くて獣人族やエルフ族等といった人族以外の子は片手で足りるほどしかいないな。
王都には人族が多いって話、本当だったんだ。まぁ、この国の王様が人族だし、人族が多いのは当たり前か。
式が始まり、新入生たちは列を作りステージへ顔を向ける。
僕は列の最後尾に並び、息を潜めた。もう悪目立ちするのは御免だからね。
在校生代表祝辞から始まり、学園関係者祝辞、学園長祝辞を経てやっと長い入学式が終わった。
式の後、自分のクラスの教室へ。席順を決め、担任教師からの挨拶が今行われている。
「えー、皆さん、私はユフィリア・フォックスカートっていいます。今日は我がラルドフューレ学園にご入学おめでとうございます。皆さんは六年間、ここ初等科で基本的なお勉強をすることになります。クラスのみんなと楽しく仲良くお勉強しましょうね~」
担任教師のユフィリア先生の問いにクラスメート達は元気に「はーい!」と応えた。
いいね、小さくて元気でさ。心が和むねぇ~。僕、精神年齢二十歳越えてるから、無邪気に「はーい!」とか言えないよ。恥ずかしい。
「では、まず皆さんに自己紹介してもらいましょう。最初は――――」
クラス名簿の様なものを見ながら、僕を指名した。
「カリフォルンさん、お願いします」
おおぅ…………僕が一番手ですか。席順から言っても右端の最前席の僕か、左端の最前席、右端の最後尾、左端の最後尾の生徒から始まるよね。たまたま、今回は僕からだけど。
えっと、自己紹介ってなに言えばいいんだろ?
名前は当たり前として、趣味とか好きな食べ物とか言えば良いのかな? まぁその程度で良いだろう。
「えっと、アイリス・カリフォルンです。好きな食べ物はリンゴです。みなさん宜しくお願いします」
なんとも味気無い自己紹介になってしまったけど、今の僕にはこれが精一杯だ。
パチパチと拍手が起こる。
その後、順々に自己紹介は恙無く終わり、今日の所は下校。
特に用事もない僕は、学園保有の宿舎へ向かった。
「―――――――――なよ」
校庭に出てすぐ、校舎裏から何やら言い争いの声が聞こえてきた。気になり、そっと様子を伺う。
三人の男子生徒が一人の女子生徒を囲んでいた。
「平民の分際でこの学園にいるなんて、気に食わねぇんだよテメー!」
男子生徒の一人が女子生徒に蹴りを入れる。
女子生徒は「うっ…………」と呻き踞った。
他二人の男子生徒も続いて女子生徒を蹴りだした。
イジメだ。それも集団でだ。
言葉だけではなく、暴力まで奮って最低…………。それも、男子が女子に向かってなんて。
イジメよくない!
いてもたっても居られず、僕はイジメっ子達の前に飛び出した。
突然現れた僕に目を剥き驚く男子達。
「なんだテメェ!」
おうおう、一丁前にガンつけてくれるなぁ。でもね、如何せん迫力が足りないよ。そんなんじゃ、ぜんぜん怖くないし。
「君たち、イジメなんてカッコ悪いよ」
「お前には関係ないだろ! 俺達はこの平民をしつけているんだ。どっか行け!」
「平民だからしつけないといけないのかい?」
「ああ、そうだ。平民なんか俺達貴族の奴隷だ。しつけるのは当たり前だろ?」
何が当たり前だ…………。腹立つぅ、平民は貴族の奴隷じゃねぇっつの。今すぐズタズタにしてミンチにしてやろうかこのデブ。
っと、いかんいかん。ここは冷静に、話し合いで付けねば。入学早々、問題を起こしたとあっては停学、或いは退学処分を受けるかもしれない。高い入学金を支払って入れてくれた両親の為にも穏便に済ましたい所だ。
「僕には、その考えは理解できない。この学園では身分関係なく平等に接するのが校則で決められてるんでしょ? いくら君達が貴族だからと言って同じ立場の相手をイジメるなんて高貴なる者のすることかな?」
「なに、意味わかんね事言ってるんだ! 俺達は当然の事をしてるだけだんだよ! …………お前も平民だな? だったらお前もしつけてやる!」
デブが拳を振り上げ迫ってくる。
はぁ、全く。穏便に済ましたいのに。阿呆だなコイツ、頭ん中脳ミソじゃなくて脂肪が積み込んでいるのか?
仕方ない、多少手荒くなるけど…………。
「よっと」
「なっ!?」
デブの腕を掴みそのまま突っ込んでくる勢いを利用し投げ飛ばした。植え込みに頭から突っ込むデブ。
これぞ人間生花…………なんつって。
さてと、次は―――――。
「そこの二人」
「「は、はい!」」
ビシッと気を付けをし返事するノッポと丸眼鏡。
どちらも額から脂汗を浮かばせ、ガタついている。そんな怯えんでも…………。ただあのデブ投げ飛ばしただけじゃない。
「アンタら、またイジメしたら、次は容赦しないよ!
分かった? 分かったら返事!」
「「はいっ!」」
「なら、さっさとそこのブタ連れて失せなさい」
ノッポと丸眼鏡は植え込みに埋まったデブを引っ張りだし、そそくさと退散していった。
はぁーっ、スッキリした! …………あっ、貴族の子息ぶん投げちゃったけど、大丈夫かな?
っと、そんな事より、女の子の事だ。
イジメられた女子生徒の方を向くと、彼女は放心していた。
「君、大丈夫?」
「はっ! …………だ、大丈夫です。助けてくれてありがとう」
「どういたしまして。僕はアイリス・カリフォルン。君は?」
「えっと、ボクはユーシカ・べグラム」
おおぅ、僕っ子だ。
って、今の僕もそうだけど、この子のは純真なものだ。前世が男で前世の一人称をそのまま使っている僕とは違い、見た目も中身も女の子が使っている“僕”だ。なんか、愛嬌があるよね。
「ユーシカちゃん、怪我ない? さっき思いっきり蹴られてたけど」
「うん、大丈夫です」
良かった。見る限り打撲や擦り傷が多少見受けられるが、大怪我は負ってないようだ。
「立てる? これから宿舎へ帰るんだよね?」
「う、うん…………」
「じゃあ、一緒に行こう」
「え、あっ、ちょっと!」
ユーシカの手を取り、僕は宿舎へと向かった。