第五話 「上京、即トラブル遭遇です…………」
大変お待たせしました(^^;
申し訳ございませんm(__)m
「アイ、忘れ物ない? 鞄持った? ハンカチ持った? えっと、それから…………」
「全部持ったよ! もう、お母さんは心配性なんだから」
お母さんの執拗な持ち物確認に霹靂しながら返事する。
かれこれ何回、このやり取りをしただろうか。
僕がラルドフューレ学園に入学することが決まり、早一年。
今日、僕はラルドフューレ学園があるグランドール王国首都『ビスカニア』へ出立する。
ラルドフューレ学園に入学すると決まったあの日から一年。同級生たちに遅れてはいけないとみっちり基礎知識をお母さんから教授され、元冒険者だったというお父さんから剣術を教わった。
はっきり言って、もう学園に行く必要ないんじゃないかと思ったけど、学園にいくのは決定事項だからと学園行きの案は覆らなかった。
この世界の常識は一通り覚えたし、剣術もお父さんから一本取れるようになったから行く必要ないよね?
でも、行かないと怒られるし…………。ああ、憂鬱だ…………。
「アイ、そろそろ首都行きの馬車が出るぞ」
「あ、はーい」
お父さんに引き連れられて馬車乗り場へ行く。
そこには、見送りに来てくれたクリスちゃんとそのお母さん―――リリアさんがいた。
「アイちゃん!」
僕の姿を見た瞬間、クリスちゃんが抱きついてきた。
「ク、クリスちゃん?」
「私、寂しいですぅ…………。
アイちゃんと離れ離れになるなんて…………グスッ…………嫌ですぅ」
嗚咽を溢しながらクリスちゃんが言う。
僕だって、今まで仲良くしていた娘と離れ離れになるなんて寂しいし辛い。でも――――――
「クリスちゃん、もう会えなくなる訳じゃないよ。
会おうと思えば会えるし、僕手紙書くよ。だから、泣かないで」
「ヒックッ…………ほ、本当に?」
「うん、本当。絶対書くよ」
安心させるよう頭を撫で微笑む。
「分かりました…………。絶対ですよ! 絶対手紙書いてくださいよ!」
納得してくれたのか、クリスちゃんは僕から離れリリアさんの元へ戻っていく。
まだちょっと寂しいらしく、クリスちゃんはリリアさんの服の裾をギュッと握りしめた。そんな娘の頭を撫でるリリアさん。
リリアさん、見た目若々しく見えるからクリスちゃんと並ぶと親子ってより姉妹に見えるんだよな。
「はぁ…………はぁ…………ま、間に合った」
息を切らしてドランがやって来た。この場に来ていなかったから見送りに来ないものだと思ってたんだけど。寝坊でもしたのかな?
余程、急いで来たのかかなり呼吸が乱れている。
「ドラン、そんなに慌ててどうしたの?」
「はぁ…………はぁ…………っ、すぅーはぁー。
お前に、これを渡そうと思って」
手渡されたのは、無骨ではあるが切れ味の良さそうな短剣だった。
「作るのに手間取って遅くなった。間に合って良かったぜ」
「もしかして、これドランが作ったの?」
「ああ、父ちゃんに手伝って貰いながら作ったけどな」
よく見ると、ドランの手には包帯が巻かれていた。
何度も怪我しながら一生懸命作ったんだと、その手を見ると伝わってくる。
自分の為に作ってくれた、そう思うと自然と笑顔が溢れてきた。
「ありがとう、ドラン。この短剣、大切にするね」
「お、おう、そうか」
貰った短剣を胸に抱えお礼を言うと、ドランは何故か顔を赤らませそっぽを向いた。
そんな僕達を見て、お父さんとリリアさんが微笑ましい眼差しを此方へ向けている。それと対照的にクリスちゃんは面白くなさそうな表情を浮かべていた。
もしかして、勘違いされている?
「そろそろ出ますよ」
馬車の騎手から声が掛かる。
「アイ、ちゃんと勉強してくるんだぞ」
「はい!」
お父さんに背を押され、僕は馬車に乗り込んだ。
「アイちゃん、元気でね!」
「頑張れよ、アイ」
「うん、二人も元気でね!」
馬車が動き出す。
遠ざかっていく親しい人達が見えなくなるまで、僕は窓から乗り出し手を振り続けた。
向かうは首都『ビスカニア』。この世界に生を受け初めて訪れる街。不安もあるけど、一体どんな事が待ち受けているのか期待感もあった。
◇◆◇
グランドール王国首都『ビスカニア』
馬車を降り、手渡された地図を元に王立騎士育成学校『ラルドフューレ学園』へ向かう。
通りは人で溢れ返っていた。さすが首都、トトヤシ村とは大違いだ。少し歩けば人とぶつかりそうになる。
ここに来て、如何に僕が住んでいた村が田舎だったか思い知らされた。立ち並ぶ建造物をキョロキョロ見渡す僕は、完璧に上京したての田舎者だ。
「キャーーーーーッ!!」
突然、誰かの悲鳴が聞こえた。
何事だと急ぎ悲鳴が聞こえた方に向かうと、細い路地から逃げ去る人影が見えた。この路地にはもう誰もいない。僕は逃げ去った怪しい人影を追った。
影は二つ。大柄の男二人。一人は小脇に人を抱えていた。
誘拐?
思いの外、足が早く跡を着けるので精一杯だ。
二人組は人通りの無い路地を抜け、廃墟らしき建物へ入っていった。大きさからして、倉庫か何かに使われていたんだろう。
「こいつは上玉だな」
「ああ、いい金になりそうだ」
入り口付近で中の様子を伺う。すると、二人の会話が聞こえてきた。耳を澄ましてよく聞き取る。
「さすが、公爵令嬢だ。見た目もいい。
調教すればいい奴隷になるな」
コイツら奴隷商人か。
床に寝転ばされている僕と同い年くらいの少女を下卑た笑みを浮かべ見下ろす二人組。
胸糞悪いな。こう言う場合、検非違使にしらせるべき何だろうけど…………。
「なぁ、売っぱらう前にこいつ犯っちまわねぇか?」
な、なにぃ~!? 年端もいかない女の子を犯すぅ!?
変態だ! 粉う事なく変態だ!!
早く助けないと!
「馬鹿、売り物の価値下げる気か。
処女の方が高く売れるだ、下手に手ぇ出すんじゃねぇよ」
「ちっ…………わぁったよ。最近ご無沙汰で俺の息子が破裂寸前だぜ」
ホッと胸を撫で下ろす。どうにかあの女の子の身は大丈夫そうだ。しかし、なんて下品な会話をするんだあの野郎共は。
女の子が犯される心配は無くなったとは言え、このままでは奴隷にされてしまう。
でも、相手は二人。しかも大人だ。どう考えても子供一人で敵う相手ではない。それに、戦うにしても武器が…………。
…………いや待てよ。
懐に仕舞っていたドランから貰った短剣を見る。
なにも、倒す必要は無いよな。なら!
意を決して僕は二人組の前へ飛び出した。
「その子を離せ!」
突然現れた僕に驚く二人組。
「なんだ、ガキか」
「今日は運が良い。こいつも奴隷に仕立てあげるか」
「お、それ良いな。では早速…………」
厭らしい笑みを浮かべ男達が近付いてくる。
ジャックナイフ片手に二人組が襲い掛かった。
遅い。お父さんと比べたら天と地ほどの差だ
短剣の柄で右側から迫ってきた男の鳩尾に打撃を加え、もう一人を腕を振り下ろす勢いを利用して投げ飛ばした。
「グホッ…………!?」
「なっ!?」
投げ飛ばされた男は、積み上げられた箱にぶつかり崩れてきた箱の下敷きになった。もう一人の男を見ると、まだ呼吸がうまく出来ないらしく蹲っていた。
思いっきり打ってやったからな、暫く動けまい。
この隙に、女の子の元へ。
身体に縛り付けられている縄をほどき外へ逃げるよう促す。
女の子は怯えながらも素直に従い、外へ逃げていった。
「糞ガキがぁ!!」
「げほ…………っ、ぶっ殺してやる…………!!」
まずい、二人組がもう動き出した。
二人組は怒り骨髄みたいです…………。だって、もう顔が真っ赤っかでトマトみたいになってるし。
こんな奴らなんか相手にしてたら時間が勿体ない。それに、当初の目的は果たされてる。ここは逃げるが吉だ。
「死にさらせ、糞ガキぃ!!」
「うらぁぁぁーーーーっ。―――――――!?」
二人組に向かって手をか翳し、魔力を放出する。すると、眩しい光が辺りを覆い尽くした。
「っ、なんだ!? め、目がぁ!!」
「何処だ! くそっ」
クリスちゃんから少しだけ魔法を習っていて助かった。奴らは目が眩んで何も見えていない。逃げるなら今のうちだ!
僕は全力でこの場から去っていった。
ここまで来ればもう心配ないだろう。
先程の廃墟からかなり離れた路地裏で一息つく。
そう言えば、助けた女の子どこ行った? ちゃんと逃げ延びたのかな?
「あ、あの!」
振り返ると、先程の女の子がいた。
「君は…………良かった」
「先程は、助けてくれてどうもありがとうごさいます」
「いえいえ、どういたしまして」
そう笑顔で言うと少女はホッと表情を和らげた。
改めて見ると、彼女はとても可愛らしい容姿をしている。水色の髪は肩に掛かる程度でコバルトブルーの瞳がルビーのようで綺麗だが、ドングリのようにクリクリで愛らしい。
着ている水色のフリルがあしらわれた青いドレスが、可愛らしくも上品な雰囲気を醸し出している。多分、どこぞの貴族令嬢なのかもなこの子。
無事助け出す事が出来た少女を連れて、僕は大通りへ出た。
「じゃあ、僕はこれで…………」
「あ、あの! お名前をお聞かせ下さいませんか?」
別れ際、少女に呼び止められる。
「アイリス。アイリス・カリフォルンだよ。君は?」
「私は、ミリヤ。ミリヤ・ベレフットです」
「ミリヤちゃんか、また何処かで会えるといいね。バイバイ」
ミリヤちゃんに別れを告げ、僕は学園へと急いだ。
思わぬ所で時間を食ってしまった。入学式に間に合うと良いんだけど…………。
「アイリス様………………」
アイリスの後ろ姿を見送りながら、ミリヤはそっと呟く。
頬が僅かに紅潮し、送っている視線に熱が籠る。
ピンチの状況に陥った所を颯爽と現れ、自分を助け出してくれたアイリス。そんなアイリスの姿がミリヤの瞳には物語に登場する王子様のように映っていた。
「また、………………いずれ」
もう一度再会を胸に誓うミリヤ。
「皇女殿下! こんな所におりましたか!」
振り返ると、ミリヤ直近護衛騎士が息を切らして此方に向かっていた。
「困ります、勝手に私の傍を離れては…………。
御身にもしもの事があっては――――」
「申し訳ございません。以後気を付けます」
そして、ミリヤは護衛騎士に連れられ、アイリスに想い馳せながらグランドール城へ帰っていった。