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第四話 「お説教と反省せです」

 僕たちとファントムスパイダーの間に飛び込んできたその人影。

 この世界に生まれ落ちて今日までの六年間、見馴れた後ろ姿は粉う事なく僕の父親──ルドリア・カリフォルンその人だった。


「お、おとう…………さん…………」

「アイ、話は後だ。先にこいつを片付ける!」


 言うとお父さんは、構えた剣を横凪ぎに振るいファントムスパイダーを撥ね飛ばした。

 地に着地したファントムスパイダーは体勢を立て直し、お父さんへ猛烈な勢いで差し迫る。が、お父さんはファントムスパイダーの動きを完全に読み切り、横一閃。

 いつ剣を振ったのかも分からない程の早さでファントムスパイダーは切り伏せられた。


 僕たちがあんなに苦戦したファントムスパイダーを一撃で…………。

 

 呆然としていると、お父さんがこちらに振り返り近付いてくる。

 表情の無い顔をしている所為か言い知れぬ恐怖心が掻き立てられた。


「アイ、傷は痛むか?」


 傷?

 そうだ、僕ファントムスパイダーに腹を抉られたんだった。

 

 腹を見てみると、既に傷はうっすらと跡を残し塞がっていた。

 クリスちゃんが治癒魔法を掛け続けてくれてたんだ。


「大丈夫、痛くは無いよ」

「そうか…………」

「す、すみません! 今の私では傷跡を残さず治す事が出来なくて…………」


 お腹の傷跡のこと気にしてるのか。別にクリスちゃんが気にする事じゃ無いのに。

 お父さんがクリスちゃんの肩に手を置き、諭すように言う。


「君が気にする事じゃない。君はリリアさんの娘さんだね?」

「は、はい…………」

「君が居てくれて良かった。もし君がアイの傍に居なかったら、アイは死んでいたかもしれない。アイの傷を治してくれてありがとう」


 確かに、あの受けた傷はヤバかった…………。正直言って死んだと思ったし。


 お父さんの言葉を受け、クリスちゃんは涙ぐみながら頷く。


「よし、二人とも無事だし帰ろうか。

こんなところに長居は無用だ。

…………おっと、言い忘れる所だった。

アイ、帰ったら母さんと俺とでお説教だからな」


 ひぃぃぃっ、お、お説教…………。


 急に帰りたくなくなったよ。

 お母さんのお説教か…………、うぅ、嫌だ、

 脳裏に浮かぶは冷たい微笑みを携え静かに怒っているお母さんの姿。

 お母さん、基本的に怒鳴ったりしないけど異様な威圧感があるんだよな。しかも、お説教が長い。最長で五時間とかあったし。


「あ、あの! ドランくんがまだ…………」


 あ、すっかり存在忘れてた。


「大丈夫、あの子ならガイルさんが保護したから」


 ガイルさんも来てたんだ…………。


 お父さんに引き連れられ僕たちはトトヤシ村へ帰った。

 村の入り口でクリスちゃんのお母さん──リリアさんがお出迎え。リリアさんを見付けた瞬間、クリスちゃんはリリアさんに向かって猛ダッシュ。勢いそのまま抱き付き声を上げ泣き出した。抱き締めるリリアさんの目尻にもうっすらと涙が浮かんでいた。

 良いね…………親子の感動的な抱擁。

 ちらりとお父さんを見上げると、苦笑を浮かべていた。

 

 クリスちゃんから離れるとリリアさんはお父さんに深くお辞儀した。


「娘が大変お世話になりました。クリスティナを助けて頂き誠に有り難う御座います」

「いえいえ、そちらの娘さんにはうちの娘を助けてもらった。礼を言うのなら此方だ。何にせよ、子供たちが無事で良かった」


 と互いに安堵の息を溢す大人たち。

 本当に心配していたと言うのが二人の表情から伝わってきて、非常に居心地が悪い。危険な場所と知りつつ向かったんだ、弁明の余地もない。

 この分だと、お母さん物凄く怒ってるだろうな……。


「おーい!」


 村の方から野太い声がした。見るとガイルさんが大手を振りながらこっちに駆け寄ってきていた。そして、僕とクリスを一瞥してお父さんに話しかけた。


「二人とも無事だったか!」

「ええ、お陰様でなんとか間に合いましたよ。

 二人とも無事です」

「そりゃ良かった! 家のバカ息子が唆したみたいですまねぇ。オラがあのバカに森の館のこと話さなければこんなこと事にはならなかった筈だ、本当に済まない!」


 地面に頭突きする勢いで土下座するガイルさん。その様子を見て、慌てて頭を上げるようお父さんが促した。


「頭を上げてください! 子供たちは無事だったんです。今後この様なことが起きないよう注意すればいいじゃないですか」

「いや、そう言うわけにはいかねぇ。しっかりけじめを着けなきゃならん! ドラン! お前も土下座して謝れこのバカ息子!」


 ドランいつの間に………。

 ガイルさんの斜め左後ろにいつの間にか立っていたドランが頭を押さえ付けられるように土下座させられた。


「ぐっ………………」

「声を出してしっかり謝れ!」

「………………ご、ごめんなさい………………」


 謝罪を述べるドランの声は屈辱にまみれていた。


「もう良いですよガイルさん。 貴方の誠意はよく伝わりました。みんな疲れているだろうし今日のところは解散と言うことで」


 お父さんの一言によりこの場は解散。

 その後、家に着いたら即、お父さんとお母さんの長い説教が始まった…………。



◇◆◇



「いっつつ…………」


 説教をくらいかれこれ二時間。正座で受けていたから足が痺れて痛い。

 ようやく、長い説教から解放され自室のベッドの上に寝転ぶ。

 今日は割りと短かったな。何時もなら軽く五時間は越えるのに。特に今日みたいに命に関わる事だったら尚更長くなると思っていたのにさ。


「アイ入るぞ」


 一言そう言い、お父さんが部屋に入ってきた。

 お父さんよ、せめて入っても良いか聞いてから入りなよ。いくら娘の部屋だからって…………。


 やや憂鬱な気分のまま体を起こす。


「ちょっと、話がある」


 入ってきて早々、神妙な面持ちで話し出すお父さん。

 また説教?


「今回の事で、魔物がどんなに恐ろしい者かわかった筈だ」

「うん…………」

「魔物に対抗する術、つまり方法を知らなくては魔物と出会ってしまったとき殺されてしまうかもしれない」


 ? 一体何が言いたいんだ?


「そこで、アイお前を王立騎士育成学校『ラルドフューレ学園』に入学させることにした」


 は、…………はい!?

 いきなり何を言い出すのかな、このお父様は!

 確かに、今の僕の年齢なら学校に通っていてもおかしくは無いけど、それは僕の前世での常識であってこの世界の常識では無いと思うし…………知らんけど。それに、騎士育成学校と言うからに貴族や皇族とかが通う学校でしょ? 家ってそんなに身分の高い家柄だったの? それとも、誰でも通える学校なのだろうか。


「ラルドフューレ学園にアイを入学させることについて母さんとも話はついている。入学は来年の春だ」

「あのぅ…………何でそのラルドフューレ学園に入学しなくちゃならないの?」

「…………ふむ、今回の事で俺は思い知った。この先、何時までも俺がアイを守って行くにも限度がある。だから、一般教養も学べ武芸も習得出来るラルドフューレ学園に入学させることに決めた」


 道理が通っているような、ないような…………。

 てか、学園に通わせるかどうかはまず本人に聞いてから決めるもんでしょ!?


「そう言うわけだから、アイ来年からしっかり勉強を頑張るんだぞ」

「え、あっちょっと――――――――」


 言うだけ言って、お父さんは部屋から出ていった。

 ポツンと残される僕。

 あまりの急展開に頭が付いていけず、放心状態だよ。

 なんですか、もしかして今回の騒動の罰ですか!?

 自分の進路くらい自分で決めさせて欲しいよ…………。


 あぁ、前にもこんなことあったなぁ…………


 前世での失敗を今世でも繰り返してしまうなんて…………。僕は今、海よりも深く反省してます。

 過去に戻れるのならやり直したい…………。

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