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第三話 「初めての冒険です後編」

 ──カラドの森。


 僕達は今、トトヤシ村から西へ5キロ行った所にある《カラドの森》を縦列進行していた。

 列びは、ドラン、クリスちゃん、僕と言った具合だ。


 先程通ってきた草原とは違い、森の中は魔物が多く生息している。

 気を抜いたら急に魔物に襲われ死んでしまうかもしれない。そんな考えが頭を過る度に緊張感が増し、頬を冷やかな汗が伝う。

 クリスちゃんなんか、辺りをひっきりなしに警戒してドランにくっつくように歩いていた。

 緊張と恐怖が入り雑じった表情をしてはいるが、時折妙に嬉しそうな顔をしている。


 クリスちゃん、この状況を楽しんでないか?

 

 暫く進むと、茂みから青い物体が飛び出した。

 それは生き物のようにプルプルと揺れていて柔らかそうだった。

 これが有名な“スライム”と言う奴か。

 ゲームなどで見るスライムは可愛らしい目と口があって愛嬌があるが、実際は何とも形容し難い姿をしているんだな。

 目と口が無く、ただ揺れて跳び跳ねている。


 雑魚として定番なスライムだけど、この世界ではどうなのだろう。

 スライムが跳び跳ねながら近付いてくる。


「へっ、スライムなんて俺が一撃で倒してやるぜ!」


 そう果敢にドランがひのきの棒でスライムに挑み掛かった。

 ひのきの棒を振り下ろす。だが、スライムの形を変形させるだけでダメージは与えられていない。

 スライムがドランに向かって体当たりをした。

 避ける間もなく、ドランは顔面に体当たりを受けた。


「むぐぅ!?」


 スライムの体にドランの顔がすっぽり入ってしまう。

 スライムは粘着質な水の固まり、そんな中に顔なんか突っ込まれたら息など出来る筈もなく…………。


「ゴボ…………ゴボボ…………!?」


 酸欠で瞬く間にドランの顔が真っ青になっていく。

 不味い…………、迂闊に攻撃すればドランに当たるし。かと言って、このままではドランが酸欠で死んでしまう。

 何か良い手は…………。


「ドランくん!」


 考えあぐねていると、クリスちゃんが血相を変え魔法を放つ体勢をとった。


「ちょ、まっ─────」

「ドランくんを離しなさい! “フレアブレット”!」


 止めようとしたその時、クリスちゃんは魔法を繰り出してしまった。

 魔力で生成された炎の弾丸がドランの頭を覆っているスライムへ飛んでいく。

 炎の弾丸は見事にスライムへ命中。爆発を起こしドランの顔から黒煙が上がる。

 そして、糸が切れた操り人形のようにドランが倒れ込んだ。

 あーあ、やっぱり…………。


 案の定、ドランにも攻撃が当たっていたらしい。


「あぁ!? ドランくん!」


 慌ててドランに近付くクリスちゃん。

 だから言わんこっちゃない。迂闊に攻撃してはダメだって。

 あ、言ってはないか。止めようとしただけだったな。


 僕もクリスちゃんに続き、ドランの元へ行く。


「ああ、ドランくん…………ご、ごめんなさい!」

「おぉー、これは…………」


 ドランの顔は真っ黒になり、髪がアフロになっていた。

 アニメや漫画でよく見る“爆発ヘアー”だ。

 実際にお目に掛かれるとは。


「すすす直ぐ治しますね! “リカバリー”」


 クリスちゃんが翳す手が淡く光る。

 すると、ドランの顔が元通りになっていった。


 魔法って便利だな。

 ちょっとした傷や怪我ならあっという間に治してしまうんだから。

 覚えたいな魔法。あとでクリスちゃんにでも教わろうか。


「うっ…………うぅ…………」


 気を失っていたドランが起き上がる。

 無事ドランが起き上がった事に感極まりクリスちゃんが抱き付いた。


「良かったですぅー! ドランくんごめんなさいぃ!

うぇ~~~~んっ」


 ドランに抱き付いたまま泣きじゃくるクリスちゃん。


「ちょ、何なんだよ…………」


 状況が掴めず、首を傾げるドラン。

 結果はどうあれ、無事でよかった。

 スライム相手にこの体たらく。またこんな事が起きないようドランには釘を差しておいた方がいいな。


「ドラン、これに懲りたら一人で突っ込まないでね。

ああも、一人で先走られたらフォローのしようがないし」

「…………わかったよ」


 珍しく素直に頷くドラン。

 だが、その瞳は闘志で燃えていた。

 こりゃ、また一人で突っ込むな。

 その時、どうフォローするか考えておく必要があるか。


 気を取り直し、森の奥へ。

 進んでいると行き止まりにぶつかった。

 この森は人が通れる道が入り組んでいて、まるで迷路のようになっている。

 もう既に三回も行き止まりにぶつかっていた。

 その間に何度か魔物との戦闘もあったが、クリスちゃんの魔法が大活躍し初戦よりは苦戦しなかった。


「またかよ…………」

「さっきの丁字路を右だったのかもね」

「ふ、二人とも、ちょっと」


 クリスちゃんが手招きをしながら僕とドランを呼んだ。


「どうかしたの?」

「うん、あそこの茂みの草が押し倒されていて、歩きやすくなってるんですよ」


 クリスちゃんが指差す方を見ると、確かに草が押し倒されて道が出来ていた。所謂“獣道”と言う奴だ。

 この道を辿れば、他の道へショートカット出来るかもしれない。


「行ってみるか?」


 《アイリス脳内コマンド》

 選択

 ・行く  ≪ ピッ

 ・行かない


「そうだね…………行ってみよう」


 獣道を歩くこと数分。

 急に視界が拓け、古びた館が現れた。

 無数のヒビが壁に走っており、何枚かの窓ガラスが割れている。

 至る所が壊れていて、如何にも“廃墟”という雰囲気を醸し出していた。

 ほんと、お化けとか出そうな感じがする。


「もしかして、ここが…………」

「うぅ~、お、おお化けでないですよね」

「きっと、ここだ! 二人とも行くぞ!」


 目的の館かも確認せずドランがまたも先走った。


「だから、先走るなって!」

「ま、待ってくださいよー!」


 ドランの跡を追って僕とクリスちゃんも館の中に入った。

 中に入ると、ドランの姿がどこにも居ない。


「ドランの奴どこ行った?

まったく、先走るなって言ったのに…………」

「ド、ドランくんどこですかぁ…………」


 左右に通路があり、目の前には踊り場へ上がる階段が二つ。

 はてさて、どこから探すか。

 踊り場から二階へ行けるみたいだが、ここは一階から探す方が無難かな。


 で、どっちから探そう…………。


 《アイリス脳内コマンド》

 選択

 ・右の通路≪ ピッ

 ・左の通路


 よし! 右の通路から行こう。


「クリスちゃん、右の通路から探してみよう」

「わ、わかりました」


 右の通路へ入ると、通路の両側に幾つかの部屋があった。

 この部屋のどれかにドランが居るかもしれない。

 まったく、一々面倒を起こしてくれるなドランは。


 通路に入ってすぐ左側の部屋から入った。


「ここじゃないね…………」


 ガランとしていて何もない部屋だった。

 埃っぽくて薄暗い。

 この館自体、何年も人が足を踏み入れてないみたいだし、汚いのは当然か。


「アイちゃん、次行きましょうよ」


 クリスちゃんが僕の裾を引っ張りながら言ってくる。


「そうだね…………次行こっか」


 部屋を後にしようと扉を閉める瞬間、何かの視線を感じた。

 もう一度、扉を開け部屋の中を確認するも誰もいない。


「どうかしましたか?」

「何でもない…………」


 何だったのか…………さっきの視線は。


 順々に他の部屋も確認していく。だが、ドランの姿は何処にも居なかった。


「居ないですね…………」

「……………………」


 やはり、感じる。

 どの部屋に入っても必ず感じた。

 ねっとりとした視線が体に纏わり着くこの感覚…………。

 確かに誰かに視られている。

 五感を研ぎ澄ませ周囲を探る。


「そこ!」


 視線を感じ取った場所へ鞭を打つ。

 すると、その一角が歪み蜘蛛が現れた。

 2メートルを超える巨体。8本の足にそれぞれある鋭い爪。

 魔物であろう事は、一目見て判る。

 しかし、ここまで来る間にこんな巨大な魔物と遭遇したことがない。精々1メートルを超える魔物と一度だけ遭遇した程度だ。


「フ、ファントムスパイダー!?」


 クリスちゃんが巨大蜘蛛を見た瞬間、叫んだ。


「ファントムスパイダー?」

「し、知らないんですか? 普段は光を屈折させる特殊な体液を皮膚から発生させ纏い、身を隠していますが、獲物が現れると背後から忍び寄り襲う魔物です! 一度姿を消すと臭いや気配すら探す事が出来なくなるため、獲物にされたものは必ず音もなく食われてしまいます!」


 そりゃ怖い。

 姿を消し、獲物に忍び寄るってそれはまるで“プレ○ター”のようだな。

 

「でも、なぜこんな所に…………」

「何かおかしいの?」

「はい、ファントムスパイダーは湿地に生息しています。

本当なら、こんな所にいる筈が…………」


 考える暇もなく、ファントムスパイダーが糸を吐き掛けてきた。

 僕達はそれぞれ左右に飛び退き糸を避けた。


「考えるのは後にして、まずはこの蜘蛛倒さないといけないみたいだよクリスちゃん」

「ええ、そのようですね!」


 ファントムスパイダーの動きを封じるため、鞭を脚に絡める。

 物凄い力で抵抗されるも一瞬の隙がファントムスパイダーに生じた。


「“フレアブレット”!」


 その隙を突き、クリスちゃんが無数の火の弾をファントムスパイダーに撃ち込んだ。

 傷を負わせたものの、倒す決定打には至らなかった。

 ファントムスパイダーが爪で攻撃してくる。

 間一髪の所で避けるも、僅かに脇腹を掠めた。

 危ない。直に喰らっていたら串刺しになっていた。


 体勢を立て直し、僕は鞭を入れた。

 …………。

 全然、効いてねぇ。


「アイちゃん、危ない!」

「…………え?」


 クリスちゃんの声に反応するも、ファントムスパイダーの爪が無情にも僕の腹部を引き裂いた。

 真っ赤な鮮血が腹部から噴き出す。ヤバイ、結構深く抉られた。

 腹部に伝わる激痛に僕は片膝を付く。

 ゆっくりファントムスパイダーが近寄ってくる。

 僕に止めを刺すべく、前肢を振り上げた。


 に、逃げなきゃ…………逃げないと。


 分かっているのに、痛みが強すぎて身体が言うことを聞かない。

 

「“ファイアーブレス”!!」


 灼熱の炎がファントムスパイダーを襲う。


「キェイィーーーーーッ!?」

「アイちゃん、今の内にこっちへ!」


 力を振り絞りクリスちゃんの元へ。

 クリスちゃんは僕の傷を見るや息を詰まらせた。それは仕方ないこと、傷は大きく隙間から臓物が見えているのだから。


「あ…………アイちゃん!」

「ぐっ──」


 こりゃ、致命傷だな。血を流しすぎて意識が朦朧としてきた。


「ど、どうしよ…………。そうだ、な、治さないと!

“リカバリ”!」


 僕の傷口に魔力が集まっていき治癒していく。

 小さい傷ならば、直ぐ治るが僕が受けた傷は大きい。完全に治すには時間が掛かる。敵であるファントムスパイダーが傷を癒す時間を与える筈もなく襲い掛かってきた。


「キシャァアーーーーッ!」


 ファントムスパイダーの爪がクリスちゃんに振り落とされる瞬間。何者かの影が飛び込み爪を受け止めた。

 太陽の如く輝く金髪、獣耳、それほど広くはないが頼もしさを感じる背中。

 その後ろ姿に見覚えがあった。


 こ、この人は…………っ!

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