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第二話 「初めての冒険です前編」

 ある日、僕はガイルさんの息子ドランと共に見晴らしのよい丘に来ていた。

 ここは、僕達の住むトトヤシ村が一望出来る場所だ。

 ドランと遊ぶようになって早三年、この丘は僕達の待ち合わせ場所となっていた。

 ドランは顔が広く村の子供達の殆どと友達になっている。

 同い年の子の中ではガキ大将的ポジションだ。

 と言っても、僕やドランを含め同い年の子は三人しかいないけどね。


 ドランを中心に鬼ごっこやかくれんぼを村の子供達数人でやっている。

 今日もドランともう一人、同い年のクリスティナと言う女の子と遊ぼうと待ち合わせをしていた。

 待ち合わせ場所の丘には既には、僕とドランが来ていた。あとはクリスちゃんを待つだけだ。


「クリス遅せぇな」


 ドランがポツリと呟く。

 僕達がこの丘に来てまだ数分しか経っていない。

 せっかちなドランにとって数分は長く感じるのだろう。


「まだ、待ち合わせの時間には早いよ。

 もう少し待とうよ」


 少々、苛立ち始めたドランを宥める。

 と、遠くの林の方から人影が見えてきた。

 金色の髪を靡かせながら、少女が駆け寄ってくる。


「はぁ、はぁ、…………ご、ごめんなさい。

 すこし遅れました」


 乱れた呼吸を整えながら謝る少女。


「遅せぇぞ、クリス!

 もっと、はや───あ、いたっ!?」


 少し遅れてきた少女──クリスティナに怒鳴ろうとしたドランを叩く。

 そして、ドランの口を塞いだ。


「なにすん───んん”!?」

「クリスちゃん、気にしなくても良いよ。

 僕達もさっき来たところだから」

「そうですか…………よかった」


 安堵の表情を浮かべホッと胸を下ろすクリス。

 サァァァッと微風が吹き、クリスの金髪の髪の間から尖った耳が見えた。

 彼女はこの世界で最も魔法が得意と謂われる種族、エルフ族だ。

 エルフ族は容姿端麗な人が多いと聞く。

 クリスも例に漏れず、とても可愛い美少女だ。

 艶やかな髪を腰まで降ろしていて綺麗で、肌も白く染み一つない。

 将来、絶世と言っても過言ではない美女になるだろ。


「あの…………アイちゃん、

 ドランくんが白目剥いちゃってますけど…………」


 おっと、うっかり忘れてた。

 ドランの口を塞いでいた手を退ける


「ぷっはぁーーーーっ。ぜぇー、はぁーっ。

 殺す気か!! お前は!」

「あははは、ごめん、ごめん」

「ごめんで済むか! お陰で俺は死にかけたぞ!」


 余計なこと言おうとするドランが悪い。

 少しは気遣いって物を覚えてもらいたいものだ。


「はいはい、で今日は何して遊ぼうか」


 なにやら文句を言っているドランは置いといて話を進める。


「こら! 俺を無視して話を進めるな!」

「今日は、鬼ごっこする? それとも木登り?」

「だから、無視を…………」

「たまには飯事とか良いかもね」

「えっと…………」


 ドランがみるみるショボくれていく。

 その様子を見てクリスちゃんはどうして良いのか分からず、狼狽え始めた。


「すみませんでした、俺も話に交ぜてください」


 頭を下げるドラン。

 別に仲間はずれにしてるつもりじゃないんだけど。

 今日何して遊ぶか早く決まらないから話を進めているだけだし。


「はぁ…………ドラン、ドランは何か提案ある?」


 そう話を振ると、ドランはパッと表情を輝かせた。


「あるぜ! おまえら、村の外にある館しってるか?」

「館? クリスちゃん知ってる?」

「ううん、知りませんよ」


 コホンと咳払いをし、ドランが話始める。


「父ちゃんから聞いた話なんだけどな。

 村から西へ行ったところにある森の中に古い館があるらしいんだ。

 何でも、その館、誰も住んでないのに夜になると苦しそうな声が聞こえるらしいんだ。

 他にも部屋の明かりが点いていたり、人影が見えたりするんだとさ。

 実はさ、昔、その館に住んでいた家族が全員殺されてしまった事件があったんだって。

 夜に聞こえたり見えたりする声や人影は殺された家族がお化けになってさ迷ってるんだとさ」


 ふむ、それはなんとも典型的なお化け屋敷の設定ですな。

 曰く付きの物件なんて、前にいた世界でも存在した。

 けど、お化けなんかが出たりはしないんだよね大概。

 ドランの話を聞く限り、気味が悪いが心底怖い話ではない。

 しかし、クリスちゃんの方を見ると彼女は肩を抱き震えていた。

 血の気が引いたように顔が真っ青になっている。

 クリスちゃんの反応を見てドランの口端が僅かに吊り上がる。

 この流れだと…………、


「でさ、その館に行ってみないか?」


 はい、予想通り。

 ドランならそう言うと思った。


「ええー!? い、行んですか?」


 いち早く反応したのはクリスちゃんだった。

 ただ話を聞いただけなのに、クリスちゃんの目尻には俄に涙が滲んでいた。

 そんなに怖い話だったろうか。

 クリスちゃんは怖がりだな。


「なんだ、クリス怖いのか?」

「あ、当たり前です! おおお化け出るんでしょ!?

 いやですよ! 私は行きたくありません!」


 おお…………。いつも物静かなクリスちゃんが声を荒げて抗議してる。

 よほど嫌なんだろうな。


「そうか、じゃあアイはどうだ?」

「僕は別に構わないけど」

「よし、じゃあ俺とアイの二人で行くか」

「えぇーーー!?」

「なんだよ、クリス。やっぱりお前もいくか?」

「そ、それは…………」


 一緒に行くかと問われ良い淀むクリスちゃん。

 躊躇いがちにクリスちゃんが言う。


「も、森の中には魔物がいっぱい居るんですよ?

 危険ですよ! 子供だけで行くなんて…………」

「危ないのは知ってる。だから、ちゃんと武器と盾を持ってきたんだ」


 そう言いドランが荷袋の中から、ひのきの棒となべの蓋を取り出した。

 某RPGゲームの初期装備かよ。

 確かに、最初の冒険に出る時のテンプレ装備だけども。ベタ過ぎやしないか?


 定番初期装備を目にして「うぅ~」とクリスちゃんが唸る。

 クリスちゃんの心情は、一緒に行きたいけど怖いから行きたくないというジレンマなんだろ。


「ねぇドラン、クリスちゃんだけ仲間はずれは可愛そうだよ。

 館に行くのはまた今度にして、今日は別の事して遊ぼう」

「えぇー」


 ドランが心底残念そうな顔をする。

 すると、クリスが意を決し言った。


「わ、わかりました。行きましょう館に」


 意外な言葉に耳を疑う。

 あれほど嫌がってたのに一体どんな心境の変化だ?


「いいの?」


 確認を取るとクリスちゃんは「はい」と答えた。


「ドランくんがどうしても行きたいと言うのならば、私も覚悟を決めて行きます!」


 クリスちゃんの瞳にドランが写る。

 ドランを見つめるその瞳は熱っぽいものだった。

 頬が若干赤く染まっている。

 ああ、そう言うこと。

 ドランも隅に置けないねぇ。


「ドラン、クリスちゃんがアンタがどうしてもって言うんなら行くって言ってるけど、どうする?」

「どうしても行く! 絶対行く!」


 嬉しそうに言うドラン。そんなドランを見てほっそり微笑むクリスちゃん。


「なら、決定ね」


 森の館に行く事が決定し、森に入る準備をするべく僕とクリスちゃんは一旦家に帰った。

 ドランは、既に張り切って準備万端な格好で来ていた為、暫し待機。




 ──数十分後。


 準備を済ませ、丘に向かう。


「二人とも遅せぇ!」


 丘に着いて出迎えたドランの第一声。

 誰の所為でアンタが待つはめになったんだ!

 待っていたドランが僕達を睨んでくる。


「無茶言わないでよ。

 これでも急いで来たんだから。

 大体、ドランが館に行こうって言うから、わざわざ家に帰って準備する破目になったんだから多少は大目に見なさいよ」

「ごめんなさい、ドランくん。お待たせしました」


 文句を言い返す僕とは反対に素直に謝るクリスちゃん。

 クリスちゃん、きみ良い子過ぎるよ。ドランなんかには勿体無い。

 ドランの何処が良いんだか。


 全員揃った所で、皆の装備を確認する。

 まずは、ドランから。


 ドラン。

 装備──ひのきの棒、なべの蓋、シャツ、ズボン、革の靴


 僕。

 装備──革の鞭、タンクトップ、ズボン、革の靴。


 クリスティナ。

 装備──木の杖、癒しのローブ、シャツ、スカート、守護の指輪、シルクのブーツ。


 何だか、クリスちゃんが一番いい装備してる気がする。

 それに比べ、僕やドランの装備は…………ショボい。

 ドランなんか、ネタ装備だろ。

 僕に至っては、なぜか家にあった革の鞭と何時もの服装だ。


 この鞭、細かい傷が見受けられるからに新品ではない。使い込まれた鞭だ。

 では、何に使っていたのか。

 日常生活で鞭なんか使う機会など毛頭ない。もしあるとしたら…………。

 一瞬、頭を過った考えを振り払う。

 いやいや、そんな…………。

 まさか、お母さんとお父さんが夫婦の営みにこの鞭を使っていたなんて、あり得ないよね。


 でも、してたりなんかしたら…………。

 蝶のマスクを着け、際どいボンテージ衣装に身を包んだお母さんが裸で四つん這いになっているお父さんを踏みつけているイメージが沸いた。


 ……………………。


 考えなかった事にしよう。


「そう言えば、クリスお前、魔法が使えたよな?」


 ほう、それは初耳だ。

 クリスちゃんが照れ臭そうに頬を掻く。


「少しだけですけどね」

「すごい! クリスちゃん魔法使えたんだ!」

「魔法が使える奴が居れば安心だな」


 安心とは何が安心なのだろうか。

 魔法が使えるとしてもまだ子供。突然のアクシデントの対応がうまく出来るか、僕は不安だ。

 何事もなければ良いんだけど…………。


「よし、出発だ!」


 僕の不安を他所にドランが号令する。

 張り切るドランを先頭に僕達は森の館に向かった。



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