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その八

 二人がそのようなやり取りをしていると、ラフィットが静かに口を挟んだ。

「ジューク様、お話中失礼いたします」

「……なんだ?」

 ジュークはきょとんとしているが、フェニルにはラフィットが次に言わんとしていることが想像できる。ジュークを毒殺しようとした犯人について()()()()()()()()吹き込もうとしているのだろう。

「ラフィット!」

 ほぼ何も考えることをせずに、フェニルは叫ぶ。如何してか、ラフィットの言葉を遮らなければならない、と考えていた。

 それは漠然としたイメージ、勘、と言える物。

 衝動的な行動であった。

 けれどもラフィットはフェニルの制止を聞かず、話し続ける。毒によってジュークが倒れたこと、毒が完全には抜けきっていないこと、そして……手を下した者のこと。

「止めなさい」

 その名をラフィットが口にするよりも前にフェニルが再びラフィットに制止をかける。

 しかしそれを逆手にとり、逆に問い返すラフィット。

「何故でしょうか? それは自白と取っても宜しいのですか?」

「自白ですって!?」

 二人がバチバチと火花を散らしている(これはもちろん比喩だが)横で、一人話について行けていないジュークがいることはここではあえて叙述する必要もないだろう。

「私はあなたの『主』でしょう。『主』に向かっての態度とは思えないのだけれど?」

「『主』? 私の主はジューク様お一人です。

 薬どころか毒にしかならない人間の娘など主と呼べるはずがないでしょう」

 権力を笠に着た態度で威圧すれば、飄々として言い返すラフィット。けれどさすがにこれには引っかかるところを感じたのか「ラフィット」とジュークが声をかけた。

 これには少々の間ラフィットも口をつぐんだが、少々の間でしかない

「……ジューク様。恐れながら申し上げます。

 フェニル様……いえ、この女(・・・)は人間です。何かに長けたところもない。

 そんな方をどうして主と敬うことができましょうか?」

「なんですって!

 ラフィット、あなたに言われるほど私は落ちぶれてはいないわ。その場に今すぐ五体投地するのなら許さないわけではないけれど……?」

「頭を下げろ、と? お断りいたします。なぜ人間ごときに頭を下げる必要があるのですか?」

 もとより他人から蔑まれることにはなれていないフェニルだ。この言葉に怒気をあらわにした。

「いい加減になさい。

 私があなたに劣っているなどいうこと、あり得ませんわ」

 それは紛れもない本心だった。

 人間の中では運動能力も比較的高く、また知能も優れていたフェニルにとって他人より劣っている、という言葉は信じられない。ましてや『ごとき』と軽んじられるなど、はじめての経験である。

「では試されますか?」

「……は?」

 試す?

 意味がわからず、二の句が継げなかった。

 話の流れからすれば、フェニルのことを試すのだ、ということはわかったけれども。しかし「試されますか?」で意味がわかるはずがない。

 フェニルがそう考え、ラフィットが次の言葉を紡ぐのをじっと待った。だが、ラフィットが声をかけたのは、フェニルではなかった。

「ジューク様。マルテリントカーメルを使用してもよろしいですか?」

(マルテリントカーメル?)

 フェニルが首をひねっていると、ジュークが

「許すわけがないだろう!」

 と珍しく怒りをあらわにした。

「あの……ジューク。マルテリントカーメルとは一体何なのですか?」

 狼狽しつつ、フェニルが問うた。

 けれどそれに答えたのはラフィットだった。

「優れた者を選別する部屋のようなものです」

 それにしてはジュークがいやに取り乱しているじゃないか、とラフィットに目で訊けば彼はそこに一言だけ付け足した。

「失敗すれば命はありませんが」

(それで、ジュークはあんなにも慌てたのね)

「いいわ、試せば。

 私が命を落とすことなどあり得ない」

 そう言い切ろうとしたけれど、途中でジュークに遮られてしまう。

「使用許可など出さない。あんな危険なことをフェニルにさせるわけにはいかないだろう」

「そうですか。それは残念です。

 ではこの先もこの城の者達に不満を燻らせたまま過ごせ、と?」

 反論できずにいるジュークにラフィットはさらに言葉を次いだ。

「そこのいつ裏切るかもわからない、現にあなたを屠ろうとした人間を傍に置き続けると仰るのですか?」

「ラフィット! フェニルが俺を屠ろうとしたなどお前の身勝手な想像だろう」

 ジュークが声を荒げる、と同時にガチャリと扉が開き何者かが部屋に入ってきた。

 自然とフェニルの目はその方向に向く。

 そこにいたのは、いつもフェニルの身の回りの世話を行う侍女であった。とはいえ口をきいたことなどはないが。

 彼女は四十五度に礼をして

「失礼いたします」

 フェニルとジュークが呆然と見ているなか、ラフィットだけは平然として「何かあったのですか?」と侍女に尋ねた。

 すると侍女は一歩進み出て、一つの小瓶を三人に見えるように示す。

「フェニル様の部屋から発見しました。

 勝手ながら調べさせて頂いたところ、毒であることが判りました」

 彼女の冷静な言葉に、四人中二人が――――具体的にはフェニルとジュークが―――――ピタリと時間が止まったかのように固まった。




……なんだろう。ジュークの影が薄くなっていく……。

いや! ジュークの出番は作るから!

ブクマ感謝します。

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