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その六

遅くなり、申し訳ありません。

「好き、という言葉を使う場合には相手に勘違いをさせないためにも、考えてから口に出してくださいまし」

「勘違い? 何を勘違いするというのだ?」

 ジュークはいまだに理解できないようで、首をかしげている。フェニルは『最後まで言わなければわからないの!?』と再び小腹が立ったが、深呼吸を一つしたのち一息で言った。

「あなたが私に好意を持っているのではないかということをですわ!」

 言ってからフェニルは羞恥に顔を赤らめた。

(こんなこと口にするつもりなどありませんでしたのに。ジュークに理解力がもう少しあれば……!)

 そう悶えるフェニルに、ジュークは悪意なく追い打ちをかける。

「それは勘違いではないだろう? 俺はお前のこと、好きだぞ」

「――――好き、ですって!?」

「ああ。俺はお前のこと、好きだぞ」

 同じ台詞を二度繰り返すジューク。フェニルはさらに悶絶した。

 耳まで真っ赤に染まった顔を白魚のごとき手で覆い、うつむいている状況だ。ジュークの邪気の無い笑顔がまた憎たらしい。

「嘘でしょう? ……いえ、絶対嘘ですわね」

「本当だ。お前は美しい。それに他人を思いやることもできる優しさを持っている。そんな『妻』なのだから。好かぬはずがない」

 自分のことを必要以上に美化され、フェニルは言葉に詰まる。 

 自分の姿がジュークにどう映っているのかはわからぬが、フェニルは自分が汚れた人間だと思っていたためだ。

(私は自分の感情に左右され、冷静な判断が出来なくなるような。そんな人間だもの……)

 他人に危害を加えることでしか、自分が優位に立つことのできない人間は愚者である。そしてそれにフェニルは該当していた。

 あの学園での出来事。(マリア)に勝つことができないからと、排除しようとしたあの出来事。

 普段のフェニルならばあんな愚行は犯さなかっただろう。けれど間違いだと判っていても止めることをしなかった。

(全て手に入ると思ったから。

 愛も、そして王妃の座も。全て手に入ると……)

 甘く阿呆な考えしかできぬ自分(フェニル)は間違ってもジュークの言うような人間ではなかった。

「ジューク……」

 口を開いた状態で止まるフェニル。

 何を言おうとしていたのか、覚えていなかった。

 何かを口にしようとしていたのかもしれない。もしくはただジュークの名を呼びたかっただけなのかもしれない。

(だとしたら一体、何故私はジュークの名を呼んだのかしらね……)

「どうした?」

「……いえ。何を言おうとしていたのか、忘れてしまいましたわ」

 最近は忘れかけていた作り笑いをジュークに向ける。ジュークはそれを見破ったのか顔を軽くしかめた。

「ほら、早く粥を食べなければ冷めてしまいますわよ」

 ぎくしゃくとした雰囲気の中、意を決して発した言葉は静かな小さい部屋にさえも響き渡らぬようなか細い声。それでもすぐ傍にいるジュークへは届き「そうだな」と、ジューク。

「だが、一つだけ言わせてほしい。

 俺は他人の心など読めぬ。だから……お前が笑い、怒り、ころころ変わる表情が俺は見たい。言いたいことがあるのなら隠し立てせずに言え。

 お前は俺の『妻』であり、俺はお前の『夫』なのだからな」

 自分勝手、自己中心的、ともとれるその台詞はしかし、フェニルに対しての優しさが伝わってくる。

「表情が変わってばかり、というのは令嬢として失格かと思いますわ」と言って、赤らむ頬を隠した。

 そしてぐいぐいと粥を押し付ける。まだ熱かったようでジュークが肩を震わせたが、謝ることはせず「早く食べて頂戴」とうそぶいた。

「何を怒っているのだ?」と不思議そうなジューク。それに対し、フェニルは「怒っているわけではありませんわ。早く部屋に戻りたいだけですの」とわけのわからぬ言い訳を返す。わけのわからぬ、というのは台詞もさることながら、理由も、だ。ジュークが粥を食べ終わるまでフェニルが部屋にいる必要はないためである。

(ああもう、自分の考えていることまでわからないだなんて……)

 やきもきするフェニルの目線の先でジュークが粥をさじですくい、口に運ぶ。

 

 ぼうっと見ていたジュークの様子が変わったのは、それからすぐのことだった。





 



 

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