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幕間 ある竜人の過去

大幅改稿いたしました(というか原型をとどめていない)。2/24

 その男は、ある雨の日に大怪我をしているところを村の門で発見された。

 男は細身で童顔のひ弱そうな人間だった。


 『人間』

 それはその村を営んでいる『竜人』という種族にとって敵対する者と考えても間違いではない。しかし村は閉鎖的であり、人間に対して何の敵対心も疑心も持ち合わせてはいなかった。


 村に住む彼らは、その人間の男を丁寧に介抱した。中でも村に住む唯一の医者の男とその妻は、彼に薬を渡しただけでなく彼を自分たちの家に住まわせた。

 さて、村医者の家には二人の子がいた。閉鎖的な村で過ごした子どもたちは、もちろん男に疑惑を抱くこともなく、特に兄の方は男に懐いていたと言って良い。長子である少年にとって、男は兄のような存在となった。


 男が村に来て一月。男はほぼ完治していたが、それでも気の良い村医者は彼に薬を渡していた。

 男に渡す薬は近くの森で取れる木の実や植物根などから精製される。その薬の材料を手に入れるため、村医者の息子の少年は、その日森へ行っていた。少年は十を超える頃には森へ入り、薬の材料を手に入れると言うことをしていた。当然父親の村医者は少年の採ってきたものをチェックしたけれど、物心つく前から薬と関わっていた少年にとって間違えるなどということはほとんどなかった。

(よし。これでいいかな)

 少年は籠に入れた薬の材料を確認して満足げに微笑む。

 それから雨が降りそうな曇天を見上げ呟いた。

「これは、雨が降るか……早く帰ろ」

 少年の予想通り、すぐに雨が降り出す。

 そしてそれは雷を伴った土砂降りに変わった。

 「なんでこういう予想は当たるんだろうな……」と、ぼやく少年。

 早足で、慎重に動く。

 すると歩く先の空が赤く燃えていることに気づいた。

 夕日が沈む時刻ではないし、そもそも今空は曇っており日は出ていない。

(……なんだろう)

 やけに胸騒ぎがして、少年はその足を早めた。


 そうして近づくにつれて、熱気を感じる。この先は、少年の住む村だ。

(まさか……)

 その時頭に浮かんだのは火災が起こったのではないかということ。

 六年前にも一度大きな火事が村で起きている。その時は少年の友人とその母親が亡くなった。


 しかし少年の予測は外れた。

 最悪の結果を持って。

「……なんだよ、これ」

 村は、たしかに燃えていた。

 だがそれ以上に目を引いたのは、鉄色と朱。

 血の赤、だった。

(そうだ、家は……)

 少年は駆け足で家へ向かった。

 煙と炎で視界がぼやけていたが、それでも家の場所くらいわかる。

 向かう途中、たくさんの死体を見た。その数が増えると共に嫌な想像は膨らむ。


 果たして、家はもはや原型をとどめていなかった。屋根は焼け落ち、骨組みだけが残っている。

「うそ、だよな……」

 首を振って否定するけれど、その事実に変化はない。

(母さんは? 父さんは? 妹は? ……あの、男の人は?)

 周囲を見回すが、人の姿は見えない。

「どこに、いる……?

 隠れてないで、皆出て来いよ……冗談だろ? 誰もいないなんて、あり得ない! なんで出て来ないんだよ! 姿を……見せろよ……」

 次第に小さくなるその声は、雨の音にかき消される……と、その時だった。

 少年の耳に自分ではない誰かの声が聞こえたのは。


「まだ生きているヤツがいたとはねェ」


 その男にしては少々高い声は、ここ一月ですっかり馴染んだもの。

 少年は振り向く。そこには"あの"少年の家に居候している『人間』の男。

「……『まだ』って……まさか、皆を……」

「まァ僕だけじゃないけども?」

 男はその比較的整った中性的な顔を歪めて嗤う。

「……なんで……」

 少年が独り言のように呟いた。

 男は更に顔を歪める。

「さァね? あえて言うなら君たちが竜人だったから、かな?」

「僕たちが、竜人だから……?」

 自分たちが竜人だからなんだと言うのか。少年は男を睨みつけた。

 一月の間、人間と共にいたけれど大きな違いなんてなかった。同じ言葉を使って、同じ時間に起きて、同じものを食べて。

 竜人だから、と言われる意味がわからなかった。

「それじゃァ運が悪かった、とでも言えば良いのかい?」

「……っ」

 少年は涙を堪えて男を見る。

 その男は確かに一月共に暮らした相手であり、そして兄のように思った相手だ。それなのに彼は今、残酷な笑みを浮かべて自分を観察している。

「悔しそうだねェ。でも君たちも悪いんだよォ。僕のことを信用した君たちも悪い……」

 男が全てを言い終わる前に、少年は男に殴りかかった。

 しかしその拳は男に当たる前に力を失う。

 少年の脇腹に男がナイフを刺したのだ。

「あーあ。君くらいは助けてあげても良いと思ったのにィ」

 そう言って男はナイフを引き抜く。

 少年は温かいもののが脇腹からながれていくのを感じた。

 頬を流れたのは涙か、雨粒か。


 男は少年を一瞥すると、そのまま去っていく。

 少年は『待て』と声をあげたが雷の音に負け、男には届かない。

 冷たくなっていく己の体は、重く……

(僕は、死ぬのか……?)

 指先を動かす気力も、もはやない。

 遠のく意識の中で少年は自分の死を覚悟した。

 そして少年は、意識を手放す。

 ――――心の中で、人間への恨みをつのらせながら……

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