その十四
それから四半刻ほど経ったころにジュークがフェニルの部屋の戸を叩いた。
「入って頂戴」
フェニルがベッドに腰掛けて言うと、扉がきぃと開きジュークが入ってきた。
「それで?」
「……すまなかった」
入って早々謝るジューク。
やはりフェニルの言葉を本気にしていたようだ。
「顔をあげて」
「……謝らなくて良いのか?」
「始めから怒ってなどおりませんでしたもの。
……ただ、一つ聞きたいことがあっただけですわ」
「聞きたいこと?」
ジュークはわかりやすく首を傾げた。
「ええ」
と言ったものの、いざ訊こうと思うと気恥ずかしさが勝り口が開かなくなってしまう。
数十秒の間、沈黙が続いた。
(べつに恥じらう必要もないことじゃない。普通に問えば良いのですわ)
と理性では考えるのだが、どうしても恥ずかしいと感じてしまう。
「聞きたいこと……聞きたいことが…………――――聞きたいことなんてありませんわ!!」
「どっちだ?」
自分は何を言っているのだ。フェニルは頭を抱えたくなった。
「ですから……その……私の考えくらい察してくださいまし!」
我ながら無茶なことを言っている自覚はある。あるのだが……。
「私の夫ならばわかるはずですわ!」
思ってもいない言葉が口をつく。
「……りょ、料理人への罰は一応与えて置いたぞ」
その様子から料理人に罰を与えたというのは嘘とわかるが、フェニルは料理人のことなど微塵も聞きたいと思っていない。
違いますわ、フェニルは言った。
「ですから……その…………私、少々嫉妬してしまいましたの」
「誰にだ?」
全く想像つかないと言うようなジューク。
当然だろう。以前ジュークがラフィットととても親しくしていたのではないかという己の推測からフェニルが嫉妬するなど誰が想像するだろうか。いや、相手が女ならばあり得るだろうが、男に。
「ラフィットにですわよ!
一体どんな関係ですの! いえ、ジュークが男色家とは思っておりませんが、それでも……」
「どんな関係と聞かれてもな……」
困り顔のジュークである。
「あえて言うならば……――――兄、のようなものだが」
その言葉をジュークは現在形で言った。
つまりジュークは自分に毒を持った相手とわかっても、そのように思っているということだ。
どれだけ信用しているのだろう。
「物心つく前から一緒にいたからな」
「何ですって!?」
初めて知ったそのことに、フェニルは目を丸くする。
「そんなこと、聞いていませんでしたわ!
重要なことはしっかりと伝えて頂戴!」
「……重要ではないかもしれないが、この城に住んでいる者は皆兄弟のように育った者ばかりだぞ?」
「重要ですわ!!」
驚愕して叫んだ。
というか、兄弟のように育ったとはどういうことだろうか。
「詳しく教えて貰えるかしら?」
自分の隣に座るように促す。座っていた方が落ち着いて話せる。
「わかった」
ジュークは隣に腰掛けると、語り出した。
今回は短め