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竟憶のリトロス  作者: 鉄乃 鉄機
1章:プロローグ
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第1話「何も語らない空白―1」

 現在、時にIE(統合年代) 0090年。

 巨大複合企業G.K.companyによって産み落とされた兵器は、戦場にあって異形とされてきた形状の有用性を証明するに至った。武装保持に留まらない汎用性を誇る腕部。装輪駆動でも無限軌道でも無い、移動装置としての足部。それらを備えた人型という形状の有用性を、である。

 文字通り巨大歩兵として完成された人型兵器は、電気仕掛けの巨神に喩えられることとなった。神話における雷神の名を冠され、それはようやくにして世に認められたのである。

 MNCS(マナクス)搭載式機動歩兵 TOR(トール)

 それこそが新機軸たる兵器の正式名称であった。

 そして今や、トールに求められる性能は、相手がトールであっても圧倒出来るだけのものへと変化しつつあるのだ。そこで構想されたのが、トールを駆逐するトールとしての第三世代型である。

 最新鋭たる第三世代型は、特性の大きく異なる数機が建造された。

 そのいずれも試験先行運用部隊によって運用が為され、運用データは軍部を通した後にG.K.company開発部門へと送られている。その過程で試作機たる第三世代型は実戦すら経験し、より実践的な新型機の開発へと繋げられるのだ。

 それこそ試験先行運用部隊が実戦部隊である意義であり、通常のテストパイロットチームには行えない点でもある。全ては将来的なエークス軍全体の装備刷新を見据えた上で、欠かす事の出来ない重要な行為と位置づけられるのだ。



 ――――以上の全ては、試験先行運用部隊の意義を部外者に向けて説明する為の言葉である。


 これを誰が作ったのかと尋ねられれば、挙げられるべき人物は一人。他ならぬ試験先行運用部隊の隊長、バルト=イワンド大尉であった。短い黒髪は全体的に後ろへと流され、高い身長も相まって精悍といった印象を付加している。しかし、その黒髪とて白い部分が混じっているとなれば、やはり彼を四十台後半相応に落ち着いた風貌足らしめるのだった。

 彼が今、部隊の現状を伝えねばならない相手とは、ルデア=エドモンド中佐――――上官であると同時に、試験先行運用部隊専用母艦ホエールの艦長に赴任した初老の軍人であった。


「報告ご苦労、バルト大尉。試験先行運用部隊……報告すべきことは以上かね?」


 既にエドモンドの手は提出したばかりの書類を纏めだしていた。それは部隊概要の説明という、バルトに与えられた仕事の一つが終わったという事である。


「ハッ、私の立場から言える事は以上であります。現状、試験先行運用部隊は順調に任務を遂行しております」


「そうか、ご苦労だった大尉。ところで一つ、私から伝えておかねばならん事がある」


「は……何でありましょうか」


「どうやら私以外にも一人、転属が決まったようなのでね。上がって来た人事報告書を一足先に渡しておく。大尉は早めに把握しておくべきだ、ここで構わないから目を通したまえ」

「では、拝見させて頂きます」


 エドモンドが差し出した封筒には、たしかに複数の書面から成る報告書が収められていた。正式な報告書とは微妙に形式の違うそれらは、人事報告書と銘打たれた表紙で一つに留められている。それから察するに、どうやらエドモンドは命令の交付を待たずしてその書類を手に入れたようだった。その事へ感謝と共に一片の疑問を覚えつつ、バルトは中身へと目を通す。

 だがページを進めれば進めるほどに、彼の表情は困惑で塗り潰されていった。無論、それはこれから配属される者の経歴を確認したにしては不自然な反応である。しかしそれも当然の反応と言えた。何故なら、その者の経歴は一切が空白(・・・・・)で埋められていたのだ。

 

「これはいったい何が……! 経歴が抹消されている、と考えて宜しいのですか」


「そうだ。その上、参謀本部会議で新たな第三世代型トールのロールアウトも決定されたと聞く。当然、配備先はこの試験先行運用部隊だ。大尉には追って連絡も入るだろう」


「ハッ、了解しました。では失礼します」

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