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竟憶のリトロス  作者: 鉄乃 鉄機
4章:過去
29/123

第27話「追憶、憎しみと再起の業火」

 次に意識を取り戻した時、バルトの身体はさらさらとした感触に覆われていた。だが、全身に満ちていたのは指一本動かせない程の倦怠感であり、わざわざ眼球を動かす動作を意識しながら、自分の身体があると思しき場所に視線を向ける。白く、柔らかな感触を持つそれは全身に被せられ、その下には間違いなく彼自身の身体が横たえられていた。はっきりとしない頭で、自分はベッドに寝かせられているのだと理解する。

 ……ここは、どこだ。

 特に考えるともなしに起き上がろうとしたが、やはり駄目だった。力の込め方を忘れてしまったかのような身体は言う事を聞かず、ぼやけた触感を肌に感じるだけだ。むきになって更に力を込めると、唐突に突き抜けるような痛みが背骨を貫き、輪郭の無い鈍痛となって彼の肺を潰した。バルトは思わず呻き声を上げて、再びベッドに倒れ込む。

 そして、肺の隅に至るまで空気を満たそうと、大きく息を吸う。が、どうにも息苦しい。口元を覆う圧迫感のようなものに気付くと、彼はようやく酸素マスクが着けられていた事に気付いた。同時に、ベッドの端から延びるチューブが自分の腕に繋がっている事にも気付いた。口には酸素マスク、そして腕には点滴。ようやく飲み込めてきた現状は、彼に一つの現実的な理解を与えた。

「お……ぐ」

 ここは軍病院か。何気なく呟こうとした言葉すらも、上手く発音できない。

 バルトは、どうやら自分は生きていて、深刻な運動機能障害が発生しているらしいと悟る。あの状況から生き延びたのが紛れもない奇跡である事を理解しながら、彼の浅い意識は再び闇へと沈んで行った。見回りに来た衛生兵が一時的な回復に気付いたのは、そのすぐ後の事だ。

 バルトが本格的に意識を回復させたのは、更に一週間後となった。

 昏睡を経て頭がはっきりとして来た彼は、ここが紛れも無く軍病院であること、自分が友軍に救出されてから計10日を意識不明の状態で過ごしたこと、そして自らの負傷が決して軽いものでは無い事を、軍医から聞かされた。

 未だに身体に残る麻痺は、延髄・脊髄の深部にまで強い衝撃を受けた事による、一時的な運動機能障害の表れであるらしかった。呂律が回らない、即ち構音障害に陥っているのは、舌下神経に及んだ機能障害によるものだった。更に、軽い麻痺のせいでバルト自身は気付いていなかったが、いつの間にか右大腿骨の開放骨折という重傷も負っていた。ギプスを着けていなくとも、どのみち動けるような状態では無かったから、それ自体はどうでも良い事だったのだが。

 否、むしろ自分の負傷自体がどうでも良いくらいだった。そんな事を聞かせるくらいなら、仲間とレオーツの現状を教えてくれと、バルトは呂律(ろれつ)の回らない状態で必死に軍医に頼んだ。落ち着いてくださいという衛生兵の制止を無視してなお、彼は諦め切れなかった。

 結局は、負傷についてのみ伝えるつもりだったらしい軍医の方が折れた。探して欲しい人物の名前を伝えてから数分後、病室に戻って来た衛生兵からの報告を聞いた軍医は、渋い表情を浮かべるに留まった。そして、目覚めてからというもの、どうしても知りたかった幾つかの事実が、淡々とバルトに伝えられる。

 まず彼が教えてもらったのは、同じ車両に乗り込んでいたシーグとロズエルの無事だった。彼らは、バルトと同じくそれぞれに重傷を負っているものの、命に別状はないらしい。また別の病院にて治療を受けている最中だと聞かされて、しばらく顔を合わせることは無いだろうとバルトは理解する。しかし、喜ばしい報せであるのは間違いなかった。

 次に、軍医はやや遠回しな形で、レオーツ避難民についての現状を語り始めた。

 レオーツからの避難者はいずれも最寄りの都市へ身を寄せるか、あるいは何らかの救助を求めるという形で、軍や警察に保護されている。レオーツで発生した避難民に対しては、既にエークス軍も非公式に動いており、各地の軍病院・民間病院にはレオーツ在住者のリストが共有されているという話だった。つまり、彼の地から脱出した者、あるいは何らかの機関に救出された者については全て、リスト上に名前を載せられているのだ。そこまで徹底した調査が行われている背景には、どうやら軍特殊情報局の働きが噂されているらしい、とも伝えられた。

 しかし、アリエル=イワンドという名前はどこにも載っていなかった。生きてレオーツから脱出していたならあって然るべき名前が、どうにも見付けられなかったと、軍医は語る。彼女がレオーツを出たという記録は無いし、新たな生存者が発見されたという報せも無い、と言い切ったのを最後に、彼は持ち場へと戻って行った。衛生兵もまた、事務的な挨拶だけを残して去って行き、レオーツの生存者については沈黙を守った。

 いったい何を言っているんだ。

 バルトはただ、理解出来なかった。たかだか10日が過ぎてリストに載っていなかったからといって、一体それが何だと言うのか。アリエルはきっと生きている、生きていると信じていればそう遠くない内に会える。

 会った時にはきっと、贈った懐中時計の時刻がずれ始めているだろうから、

 時刻の調整は俺がやるという約束になっているから、

 アリエルは裏蓋の開け方も知らないから、

 だから――――生きていると信じ続けなければならない。

 バルトが徐々に身体を回復させていく間にも、軍病院内に飛び交うニュースはきな臭いものへと変化していった。リハビリの最終段階に至った時には既に、バルト達が巨神像と交戦した戦いは〈レオーツ戦役〉の発端と呼ばれ、エークス――ゲルバニアン紛争の序章として語られるようなっていた。そう、一連の軍事行動がゲルバニアン軍を刺激したとして、遂に二つの超国家連合間で戦争が始まってしまっていたのだ。

 まるで転がり落ちる雪玉が、瞬く間に膨張していくように。軍事的緊張状態が、本格的な武力の行使を伴う戦争へと発展するのに時間は掛からなかった。しかし、その元凶たる『黒い巨神像』については、どの筋でも全く触れられないし、誰も語ろうとしない。軍からの公式発表の文中にさえ、あの忌まわしき人型の存在を匂わせる情報は含まれていなかった。

 やがてバルトは、衛生兵に頼み込んで、改めて生存者リストを調べさせてもらう機会を得た。が、そこにアリエルの名前は記載されていなかった。待てども、待てども、新たに生存者が増える事も無くなって来た頃には、もう一か月が過ぎようとしていた。それはちょうど、ギプスを外せぬまま退院を迎えたバルトが、教導隊の壊滅により宙に浮いた所属を持て余していた時分だ。

 そんな彼が限界を悟ったのは、まったく唐突な出来事だった。何の前触れも無く、心の底で何かが引き千切れる音を聞いた。

 生存者のリストがあるならば、当然、死傷者や行方不明者を載せたリストも存在する。こちらは既に世間に出回ってより久しく、見ようと思えばとっくの昔に見られたような代物だ。それでも目にする事を意図的に避けて来たのは、一旦見てしまえば、もう二度とアリエルを迎えに行けなくなりそうで恐ろしかったからだ。つまり、もう分かっていた。

 見れば、死傷者の一覧にこそアリエルの名は無かったが、もはや生存を絶望視される行方不明者の中に、ずっと探し求めていた名前は載っていた。しかし、バルトは特別驚かなかったし、予期していたような哀しみを覚える事も無かった。そんな自分に絶望こそすれ、心が壊れてしまったかのように動かなくなったのは、未だにアリエルの顔をはっきりと思い出せないからなのかも知れなかった。

 ……今までアリエルは、一体どんな顔で笑っていただろうか。もう、分からない。



 結局、バルトは何もかもを捨て去って、ただ死んだように生きる道へと逃げ込んだ。これまで戦車兵としての道を歩んで来た彼にそんな事が許されたのは、軍病院から退院した後に、特殊情報局の方からある非公式の取引を持ち掛けて来たからだ。

 接触してきた情報局にとってのバルトは、本来なら知ってはならない事を知ってしまった関係者A、というものであるらしかった。殊に、機密対象に濃厚に接触したうちの一人として、教導隊の生き残りたちには同様の取引が持ち掛けられていたのだ。となれば、特殊情報局を使ってまで軍上層部が何を隠したいのかは、バルトにも容易に想像がついた。

 そして予想外にも、情報局員たちは、レオーツを襲撃したと思しき組織の情報を掴んでいると言い出した。軍における組織の名称は〈フェンリル〉。例の人型兵器によって破壊活動を行い、軍事的緊張状態を故意に刺激したテロリストとして、既に認識が固められていると。他にも、組織に関するお粗末極まりない機密情報とやらも教えられたが、核心に至るような手掛かりが与えられるはずも無い。バルトは、自分にせめてもの機密情報が明かされたのは、軍に対する不信感を和らげる為の措置では無いのかと思えた。不信を募らせて反動分子になられるよりは、細やかな機密を有する共犯者として飼い殺しておく方が、軍としても扱いやすいはずなのだ。

 しかし、自分が利用されるのだとしても、たとえ戦友たちが散った真実を抹消されるのだとしても、不思議なほどに怒りは湧いてこなかった。レオーツ戦役における一切を口外しないという誓約を結ばされた後は、今後の配属について何か希望はあるかと問い掛けられた。それこそが取引に応じる見返りだったのだ。実質的に拒否する権限など無いとはいえ、バルトが望んだならその通りの経歴を得る事が出来る。つまるところ、特殊情報局が裏から手を回して、希望通りのキャリアを積むという道が提示されていた。

 バルトは、その条件を躊躇いなく受け入れた。特殊情報局と結託した上層部からの根回しによって、彼はすぐに兵器管理局事務担当という立場を手に入れた。ただ戦場から離れたい、その一心で選び取った道には、もう彼を取り巻く現実としての戦場は存在しない。あるのは、書類上に記された数字としての戦争であり、どこか遠くの戦地に運ばれる物資の数量管理であり、ある意味では最も生々しいかも知れない戦場の形だった。

 兵器管理局事務担当として過ぎていく毎日、ひたすら書類を処理していく毎日。それは、弾を撃つ事も無ければ、戦場の悲惨な光景を見る事も無い日々だ。バルトにしてみれば、そうして過ごす毎日にはどこか破滅的な誘惑が隠れ潜んでいるようだった。しかし、虚無的な安心感に包まれていながらも、その日々は死んでいるも同然だった。このまま(いたずら)に生を摩耗させていけば、いつかは本当に楽になれるのだと、彼はいつしかそう信じるようになっていった。

 そんなある日、バルトの耳に飛び込んで来たのは、MNCS搭載式機動歩兵〈TOR〉開発の報だった。それは、世間においては全く認知されていなかった人型陸戦兵器であり、G.K.companyが開発に成功した新機軸の新兵器。これまでの兵器体系に新たな項目が付け加えられた事を意味する、華々しくも懐疑的な快挙と言っても良い報せだった。

 軍内外に喧伝される限りにおいて、トールは初めて実現された人型兵器を表す規格だ。故に、その有効性を疑う声も大きく、ナンセンスだと切り捨てる人々の方が多いくらいだった。誰も巨大人型兵器の有効性を知らない。無論、本来ならそうあって然るべきなのだ。

 だが、バルトは違った。彼はあまりに苦い敗北の経験と共に、人型兵器の有効性を身を以て理解していた。あの時には届かないと思っていた力が、トールという呼び名を以て実現されようとしている。絶対的な陸の覇者とも思えたあの存在に、あるいは手が届くかもしれない。その可能性に気付いた途端、閉ざされていたバルトの心に塞ぎようの無い亀裂が入った。

 まるで、あの時から氷漬けになっていた怒りが、憎しみが、無念さが一気に解凍されたような心地だった。何もかもを失ったと知った時の新鮮な絶望が亀裂から噴き出し、彼の脳裏にまざまざとレオーツの惨状を蘇らせる。もう二度と元に戻らない生活、そして思い出せなくなったアリエルの表情、あの黒い巨神によって奪われた全てが、まるで走馬燈のように意識を駆け巡っていく。もう見て見ぬ振りなど出来るものではない。取引に応じて以来、死んだように過ごしてきた日々は、ずっと自分を欺き続けた日々だったのだと、ようやくバルトは気付いた。

 忘れられる訳が無かった、何も感じない訳が無かった。自分はずっと、求めるべきものが分からなくて、いっそ求めようとする気持ちさえ封じ込めようとしていただけだったのだ。アリエル一人にさえ報いる事が出来ない自分の無力さから、目を逸らしていたかったのだ。次々に、そして瞬く間に剥ぎ取られていく無感情の仮面は、彼自身も気付いていなかった思いを、もはや隠そうとはしない。

 バルトは、トールという形に具象化された力を望んだ。あの時に見た巨神像と同じ力、同じ形、そしていつか同じ地平に立った暁には――――必ずや失ったものの代償を払わせる、と。身を任せればいずれ喰われる炎に、一人の男が自ら飛び込もうとしていた。

 バルトという男は、黒い巨神への復讐を見出した事で、ようやく息を吹き返したのだった。

 それは、鋼の巨神〈TOR〉に乗り込み、操る、パイロットとしての人生が始まった瞬間でもあった。彼は程無くして募集され始めた、開発黎明期たるトールのテストパイロットへと志願し、試作段階にすら至らない原型機の操縦を幾度も経験した。

 劣悪極まりない環境の中で、バルトはたとえ、どれほど自らの限界を知らされようとも、諦める事だけはしなかった。文字通り血を吐くような努力と、テスト運用に明け暮れ、トールという力を手にする事だけを考え続けた。もはやそうする事でしか、彼の心臓は鼓動を続けようとしなかったからだ。

 ただし、その頃に建造されていたのは、〈第一世代型〉と呼ばれる純粋な技術試験機でしか無かった。誰も本当に有効な扱い方など知らず、まして実戦に投入すべく作られた機体でもない。当然、機体建造技術も未成熟なものであり、インターフェースや構造材の問題に起因する事故によって、何人もの人間が脱落せざるを得なかった。ある者は転倒事故によって圧死し、ある者は機体の暴走事故によって腕を潰され、生死を問わずパイロットとしての人生を絶たれた者も多い。バルトは、今でも彼らの名前を忘れることは無かった。

 ザスフット、テトル、タフカ、オフケイト、エドワナ。

 命を落とすまでには至らなかった者たちだが、自身の将来が断たれた無念は本物だったことだろう。そう思えば、様々な形で脱落していった彼らの幻影が、いつだって背後の闇から自分を見ているような気配を感じるのだ。バルトは時折、そんな気がしてならなかった。その感覚は、ある種の罪悪感が引き起こしていたのかも知れない。

 しかし、それだけだった。執念の果てに手にした第三世代型トールは、あの日には時代錯誤の被造物としか思えなかった人型を成している。そしてバルトの駆る一号機には、まさに巨神像が手にしていたものとよく似た粒子砲まで備わっている。彼はレオーツを焼いた巨神像と同じ高みへと、ようやく辿り着いたのだ。だから、後悔などするはずが無かった。

 復讐を誓った黒き巨神像、そして〈フェンリル〉と戦える舞台に、彼は立っていた。


  *  *  *


「ええ、ですから、何故トール部隊が基地を襲撃しに来たのか、それを答えて頂きたい。まさか偶然で片付けられるとは思っていませんね」

 凝った古典様式の木彫りがなされた電話機を片手に、男は半ば笑みを浮かべるようにして問いかけていた。ある種、滑稽にも思えるクラシック趣味は、男の所作と見事に融け合い、周囲の空気と混然一体となって劇の一場面を形作っているようだった。まるで、そこだけが鮮烈なライムライトで照らされていてもおかしくないような――――そんな芝居じみた劇の一幕に。

 切れ目のない余裕を身に纏っているせいか、男は青年と壮年の狭間に位置するような年齢でありながらも、既に老練さすら漂わせていた。真っ黒いスーツは部屋の闇に溶け込み、声音との乖離を感じさせるような引き締まったシルエットしか、判別する事を許されない。おおよそ終わり掛けの青年らしからぬやり取りは、更に錯誤的な違和感を引き立たせていた。

「現場の独断? まあ、そういう事にしておきましょう。あなた方も我々の力を信じかねていた、だから彼らを送り込んだのだろう、などとは、もう言いません。あれは不幸な事故だった」

 男はいっそ、受話器越しに相手をからかっているようでもあった。相手の意図を把握し、自身の立場を理解し、その上で決して触れてはいけない部分を理解していなければ、そういった真似は出来ない。からかっているように見えるのは、やや大胆に相手の腹を探っているからだ。

 これまで度重なる交渉を重ねて来たという経験が、まるで綱渡りの綱を揺らしてみせるような行為に走らせる。とはいえ、それは薄紙のような信頼関係の上に成り立つ、危うい均衡。釣り合いを僅かにも破ってしまえば命取りになりかねないような雑談を、男は楽しんでいる最中だった。むしろ、自らの命運を弄ぶことを楽しんでいた。

「……そうですか、彼らとはまた会う事になります。それまでには、こちらの名前くらいは教えてあげておいて下さい。我々だけが知っている、というのも不公平ですからね。では」

 そこで会話を終えたと思しき男は、受話器を静かに台へと置いた。同時に室内の照明が灯り、色味を含まない真っ白な光が四方を照らし出す。すっかり影絵のようになった男の横には、更にもう一枚の影絵が用意されていた。人型にくり抜かれたその影絵は、とりもなおさずもう一人の男を形作る立体物だ。初めから、部屋には二人の人間が居た事になる。

 傍らに立つ男は、既に若くない風貌をコートの間から覗かせていた。しかし、その眼光は鋭い光を帯び、無表情の覆いを外せば今にも斬り付けてきそうな圧を放っている。様々な暗部を潜り抜けて来た苦労を滲ませるものの、実のところその年齢は未だに四十台を出ない。老いを感じさせるにはまだ早い、しかし若くもないという、隣に居る男とはまた別の意味で、若さと老いの狭間に立たされているような人間だった。

 まるで金属シャッターのように閉まっていた彼の口が、必要最低限の動作で開かれる。

「して、どうだったのだ。連中は何と言っていた、トレイク」

「彼らと我々が、また会えるよう計らってくれるとのことです。あなたは当然と思っているかもしれませんが、それでも粋だとは思いませんか、ロズエル」

 トレイクと呼ばれた方の男は、明らかに年上の人間でさえ呼び捨てにする事を厭わない。一方、ロズエルと呼ばれた男にしても、その不遜な態度を非難するような素振りは見せなかった。特に屈辱に耐えているという訳では無く、ロズエルはただそれが当然と思っているだけの事なのだ。良くも悪くも、分厚い無表情の仮面はそう簡単に外れない。

「そのような事は関係ない。我々は連中を利用するだけだ」

「まったくその通り」

 微塵も洒落を匂わせない愚直な言葉に、トレイクは薄く笑みを浮かべる。それでこそ、と。

「全ては、我らフェンリルの宿願を果たす為に――――」


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