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竟憶のリトロス  作者: 鉄乃 鉄機
3章:実戦
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第20話「狼狩り―1」

コード3(三号機)からコード2(二号機)へ。中尉殿、送られて来たこの命令って、これで良いんですかね』

『ああ、そうらしい。コード2(二号機)より各機へ。撤退だ、B1が動きを見せない内にここから撤退する』

 リーグからの命令は、四号機のコックピットシートに座すナオトにも伝えられた。しかし彼は、B1を巡って次々に転がっていく状況を、実に不可思議なものとして捉えていた。作戦を終えて撤退し始めたかと思えば、B1を発見した途端に中断。そして今また、敵機が動かない内に撤退を始めようと言うのだ。全てはB1の出現と動きを巡って、部隊の行動が二転三転している。ナオトにしてみれば、まだ動いてすらいないトール一機に対して、どうしてこうも一個小隊が翻弄されているのかが理解出来ない。

 試験先行運用部隊に配備されているトールはいずれも第三世代型で、先程までは実に三個小隊ものトール部隊を相手取っていた。それにも関わらず、B1というトール一機に対してここまで警戒を露わにする状況というのは、やはり不可解そのものでしか無かった。

コード4(四号機)よりコード2(二号機)へ。敵は一機だけです、こちらは三機揃っているのにどうして撤退なんですか? バルト大尉からの支援だって、充分望める状況にあるのではないですか。あれを倒してからでも」

『こちらコード2(二号機)。ナオト少尉、この状況の主導権を握っているのは誰だと思う? いや、こう言った方が伝わるか。俺たちがB1に勝てる保証があると、そう思ってはいないか』

「え? それって……でも、少なくとも三対一ですよ」

『大尉にしても俺にしても、奴が危険だと感じているからだ。まだ確証は無いが、そういう可能性もある。作戦目標を達成した事には違いないんだから、これ以上危険に晒される利も無いだろう』

「それは、そうです」

 ナオトはやや納得のいかない心地で、判断の意味を問おうとするのを止めた。自分などよりよほど実戦経験のある人間が言うのだからと、状況判断の正しさを信じる事にした。

 早速、B1に背を向けるように後退し始めたところで、コックピット内に三号機から発せられた通信音声が届けられる。『ちょっと遅かったみたいだな』と、唐突に切り出すルーカス。彼が報告を切り出した時のいかにも残念そうな口調は、瞬時にナオトの警戒心を刺激していた。遅かった、などという言い回しが、良い意味合いを含んでいるとは到底思えない。ナオトはもはや嫌な予感を抱くしか無くなっていた。

 四号機は二号機に遅れる形で進行を停止し、ホバーシステムの恩恵で滑らかに機体を反転させる。後方を振り返りつつ、その場でサブマシンガンを構え直した機体は、ルーカスから伝えられた通りの光景を遠方に捕捉した。対地レーダーもまた微かな周波数の変化を検知し、炎の中に潜む動体反応を知らせていた。

 足を踏み出すごとに左右へ揺れるB1の姿を見れば、果たして人間が乗っているのか、などと今さら疑ってもいられない。今や、狼のような頭部は試験先行運用部隊に真っ直ぐ向けられ、交互に脚部を踏み出して向かって来ていた。おまけに、頭部を宝石細工のように飾るカメラアイは三つに増えており、中央に存在を主張する単眼とは別に、まるで鋭い切れ込みのような二つの双眼がナオトらを見つめている。見る間にも、B1は脚部を覆っていた装甲カバーを展開させ、ふくらはぎから下をまるで黒い花弁のような形へと変化させた。一瞬で裾の広いベルボトム状へと変形した脚部からは、周りの炎を押し退けるだけの強大な気流が発生し始めていた。

『B1がホバーユニットを起動させた模様……って、一気に向かって来るぜ!』

 ルーカスの緊迫した声が聞こえた時には既に、メインモニター上で瞬く間に拡大するB1の姿があった。そこに余計な解釈の余地は無い。ほとんど全てが未知とも言える機体との交戦は、試験先行運用部隊にとって逃れ得ぬものとなっていた。ただ一つだけはっきりしていたのは、B1が敵だという事実だけだ。

『動いたか! 仕方ない、ルーカスは後方に下がって、B1の解析並びに妨害を』

コード3(三号機)、了解。電子戦支援開始、連鎖解析システム連動、全て正常! 身体の隅まできっちりB1を拝んでおきますよ』

 指示を受けた三号機はすぐさま後退をかけ、ただ一機のトールに対して観測機器のほぼ全てを向ける。敵機と交戦するのは、実質的に二号機と四号機に限られるという布陣だ。二号機はガトリング砲を正面に構えながら、B1を迎え撃つべく滑るように前進し始めていた。

 B1という脅威が動き始めた今、撤退が好ましい選択でなくなった事を皆が理解していた。今撤退すれば、敵をホエールまで案内するという事態になりかねない。実働部隊をたった四機のトールに依存するホエールにとって、それは即座に撃沈を招きかねないような危険な状況だ。つまり、B1を撃破するか足を止めるかでもしなければ、部隊に帰艦は許されない。

『ナオト少尉は、B1の隙を見て懐に突っ込め。俺が援護する』

コード4(四号機)、了解。行きます!」

 ナオトがフットペダルを踏み込むと四号機は加速し、隊から突出する形で二号機の斜め前につけた。B1の武装構成などは全く不明だったが、四号機の特性を最大限発揮出来なければ危ういかもしれない。そう判断したナオトは、牽制目的のサブマシンガンを左手部に持ち替えさせ、より自由の利く右手にコンバットナイフを装備させる。近接格闘戦をも辞さない構えだ。

 加速する四号機を追い越すように、断続的な火線が燃え盛る格納庫区画へと延びていく。背後から射撃を行う二号機は、ガトリング砲の給弾モードを切り替えた上で、実に分間あたり数百発分に相当する分の発射レートを引き上げていた。高サイクルに設定された多砲身の連続射撃は、一秒以下のバースト射撃に分割されて幾度も撃ち込まれる。一瞬で百発単位の徹甲弾が発射される度に、巨大な蜂の群れが騒めくようなブーンという低音がナオトの耳に届く。その威嚇的な低音は、ガトリング砲の作動音と発射音とが混じり合って出来た、ある種の咆哮だった。

 発射レートが上がれば、五発に一発という周期で仕込まれている曳光弾の発射密度も上がり、よりくっきりとした飛跡が夜の大気に浮かび上がる。その曳光弾は悉く、B1の上半身から頭部に集中して着弾しており、黒い狼は光の飛沫を撒き散らしながら進んでいるような光景となっていた。光る軌跡の裏には、その四倍に匹敵する数の徹甲弾も撃ち込まれており、B1へと殺到する弾頭の数は計り知れない程だ。

 通常、90mm徹甲弾単発なら耐えられる装甲であっても、ガトリング砲特有の暴力的なまでの連射性、そして集弾効果による口径以上の破壊力が合わされば、紙切れも同然に千切られてしまう。並の第二世代型トールであれば、それどころか第三世代型トールですら、とっくの昔に上半身ごと吹き飛ばされていて然るべき状況だった。

 だが、B1は止まらない。B1に接触すると同時に逸らされていく軌跡は、全く目標を貫徹する気配を見せない。ちょうど目標に突っ込んでいくのと同じだけの光量が、着弾すると同時に一気に拡散させられているのだった。まるで分厚い鉄板に、子供が手持ち花火を向けているかのような光景、無意味さ。飛散する光跡の一つ一つが戦車を撃ち抜くほどの破壊力を秘めているというのに、B1に撃ち掛けたそれらはただの火花と化してしまっていた。

 陽電子砲を耐えた可能性のある相手に対し、実弾が致命傷になるとは思えない。頭の隅ではそう考えていたナオトだったが、いざ実際の現象として目にするのでは訳が違った。敵トールを軽々と粉砕せしめた90mmガトリング砲の連射が弾かれているというのは、どこか肌に迫るような現実味を帯びている。分かり易いが故に、恐ろしい。彼にとっては、B1が陽電子砲の直撃を耐えたということよりも、今、目の前で90mm徹甲弾の連射が弾かれていることの方がよほど理解し易い、そして生々しい脅威に他ならなかった。

 一旦ガトリング砲の連射を止めた二号機が、四号機との距離を開け始める。ナオトは視界の端で隊形の変化を捉えていたが、B1から目を離そうとはしていなかった。索敵システムと連動するサブモニターに相対距離を見る限り、接触まではあと一分程の猶予も無い。赤黒い光を背景として残骸の中を突っ込んで来る敵機に目を凝らし、ナオトは生唾を飲み込む。

コード2(二号機)よりコード4(四号機)へ。援護射撃は続けるが、仕掛けるのはもっと距離を詰めてからだ。慎重にタイミングを見極めろ。センサー部分に集中して曳光弾を撃ち込んでみる』

コード4(四号機)、了解」

『何を持っているか分からないからな。焦らなくていい、ナオト少尉』

「援護、お願いします!」

 ナオトの手が操縦桿を握り締め、戦闘推力にまで高められていたホバーユニットを勢い良く噴かす。左右のフットペダルに差をつけて踏み込むと共に、偏向された推力は四号機を大きく左旋回させ始めていた。ともすれば、コックピットシートからそのままずれ落ちてしまいそうな感覚。緩やかな遠心力によって足元へと集められていく血は、ナオトの足元にぞわぞわとしたむず痒さをもたらす。左上のコックピットモニターを半ば見上げるような姿勢となった彼だが、大きく傾いた地平からは注意を逸らさない。

 四号機は、B1の進行方向に対して、左から回り込むような位置を確保していた。機体は大きな曲率半径によって表されるような弧を描き、敵機を中心とする半包囲の布陣を取りつつある。その間にも、リーグ機からの猛烈な連続射撃は再開されている。二号機の大口径ガトリング砲は絶え間なく給弾ベルトを飲み込み、断続的な発火炎がコマ撮りの夜景を切り出していった。

 弾着の煙が、敵機の姿を覆い隠さんばかりに広がっていく。繊細なセンサー部ばかり執拗に狙われる敵機にしてみれば、目の前で絶え間なくフラッシュが焚かれているにも等しい状況だ。センサー至近における曳光弾の着弾によって、B1は少なからず索敵性能を低下させていた。やや動きを鈍らせた敵機は、いかにも鬱陶しそうな様子で二号機を見据え、自らが包囲されるのも構わずに足を止める。これを好機とばかりに、ガトリング砲の多砲身は常に頭部へと向けられ、敵機が射線上から逃れる事を許さない。

「後ろを取れば……いける!」


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