月夜 2
白いシーツの女。
小学生の頃だったと思う。
まだ、昔の家にはお風呂がなくて、銭湯に通っていた。その帰り道…
嫌な予感はしていた。
いつものあの感じがあったから、
ふと家の前で自転車を止めると、白いシーツが目の前を通っていく。
その様子を理解できず、見つめていたら、
遠くで女の人がシーツの中にいたようにみえた。
なぜか顔も見ていないのに女の人だと感じるのだ。
私の場合、天井が怖い時もあれば、近所の公園が怖い時もあり、今回はなんだろうと思っていたら、
いちごを作っている家が無性に気になった。
あの家のおじさんは朝からみんなに挨拶して、元気な優しい人だから私も朝の挨拶は何度かした事がある。
ただ…おじさん以外誰も見たことがない。
女の人がいる?
モヤモヤした気持ちで家に帰ると、夕ごはんができていた。
ごはんを食べて、テレビをみてたら、やっぱり気になってもう一度確かめたくなって見に行く事にした。
気のせいか、見間違いだろうと自分に言い聞かせて。
いちごの家の隣のアパートから、たくさんの家具が運びだされているところだった。
こんな時間に、引越し?
変だなぁ。。と思っていたら、若い男の人がでてきて
『ここは無理です…すみません…』と話しているのが聞こえてきた。
私は急に怖くなって駆け出した。
いちごの家から髪の長い女の人のシルエットが見えたからだ。
それからしばらくして、いちごの家のおじさんが入院したと聞いた。
おじさんはやはり独身で、この家はもう売りにだすか処分するという話だと、うちに来ていた近所のおばさんが言っていた。
ただ、家を片付けていた親戚の人が
不思議そうに大量のシーツを片付けていたという。
なぜかいろんなところにシーツをかけて生活していたらしい。
あの時のシーツ。そして女の人。隣のアパートの男の人の言葉。
あれはなんだったのか…
いちごの家 住人 三上伸宏
25年前
今日こそ話かけよう。朝から決めていた。
たぶん、彼女も自分のことを気になっているはずだ。
『よかったら、うちでお茶でもどうですか。』
彼女はニッコリ笑って頷いた。
コーヒーを2人で飲みながら、ただ何も話さず時間だけが過ぎていった。
その時、寝室から物音が聞こえ、2人はカップを置いた。
なぜか分からない。
自分が突然誰かに操られるように、彼女を寝室に連れていき、服を脱がせ押し倒した。
彼女は泣きながらシーツを必死に掴み、抵抗した。
でも部屋の中は静かだった。
そう、彼女は声をだすことができないのだ。
だから、物音が聞こえたのも自分だけのはずだったのに、あの時は確かに彼女も反応していたように見えた。