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6 世界を食らう者

前回までのあらすじ


遂にゼノアが動き出した。ゼノアの策略に嵌まり、殺し合いを始めてしまうアデルとレイジン。ビャクオウとヒエンの活躍により、最悪の結末は回避されるが、そこへゼノアが現れる。とうとう、二つの物語の元凶との、最後の戦いが始まった。

「エンドオブソウル!!!」


「オールレイジンスラッシュ!!!」


 まず最初に攻撃したのはアデルとレイジンだ。アデルはイグニスドライブ。レイジンは全霊聖神帝のまま、ゼノアの両肩に向かって必殺技を叩き込む。だが、二人の攻撃は命中こそしたものの、ゼノアの鎧に一ミリも刺さっていない。


「何を出し惜しみしている。そんなものではなかろう?」


 ゼノアは広げていた両腕を二人に向けて衝撃波を放ち、吹き飛ばした。


「プラチナアローシューティング!!!」


「ハウリングシュート!!!」


 続いて攻撃したのはアンジェと空子。アンジェが光の矢を放ち、空子がハイパーギガトラッシュのレールガンシステムを起動し、矢の上から四十発のドリルバレットを寸分違わず同じ箇所に撃ち込む。しかし、それでもゼノアの鎧は貫通できなかった。


「エクストリームテンペスト!!!」


 すかさず狩谷が大風を起こしてゼノアをその中に巻き込み、メイリンが全力の炎を放つ。不意を突いて、室岡がゼノアに掛かる重力を五百倍にする。それでも、ゼノアは揺らぎもしなかった。ゼノアが座っている玉座すら、傷一つ付いていない。


「闇影武装!! 瞬獄殺!!!」


「覇氣鎧装!! 岩山破砕!!!」


 レスティーが気を纏ってゼノアの全身に小太刀と打撃を浴びせ、皇魔が覇気を鎧と化して無双の拳を顔面に喰らわせる。しかし、それすら、ゼノアにダメージを与えられなかった。鎧に覆われていない、顔面を狙ったというのに。


「二人とも下がって!!」


 さだめの声を聞いて二人は一度後退し、そのすぐ後に光輝とさだめが水と雷をぶちまける。それでも、ゼノアにはダメージが入らなかった。その後ビャクオウやゴウガ、協会組や学生組、妖怪組も攻撃を仕掛けたが、ゼノアは一切受け付けなかった。


「みんなの攻撃が、全然効いてない……!!」


「美由紀さんこっちへ! ゼノアはまだ、攻撃に移っていません!」


 ソルフィは戦えない美由紀を自分の後ろに隠す。ゼノアは防ごうともかわそうともせず、ひたすら攻撃を受け続けるのみだ。反撃に移っていない。


「どうしたのだ? 私はこの世界の敵だぞ。今まで諸君らがやってきたように、力の限りをぶつけるだけの相手だ。なぜそれをせん?」


 頬杖を突いて、アデル達を挑発するゼノア。少ししてから、ため息を吐く。


「どうやら、まだいまいち気合いが入らんらしい。では、少し喝を入れてやるとしようか」


「喝、だと……?」


 喝を入れる。その言葉に言い知れない、不吉な予感を覚える皇魔。

 そして、その予感は的中した。


「我は力を求める者。ただ一つ、力を入れる器が脆かったというだけで、目指した道、憧れた道を諦めねばならなかった者」


 突然呪文のような言葉を唱え始めるゼノア。そのどこかで聞いたような言葉が紡がれる度にゼノアの胸の中心が光り、光は強くなっていく。


「されど我は諦めぬ。ゆえに我は力を求める。決して敗れることのない強大な力と、滅ぶことのない永遠の肉体を」


 さらにゼノアは唱え続け、光はどんどん強まっていく。


「そして我は、力によって全てを手に入れ、力によって全てを支配する。我が名はルーラー! 我らの名は、デザイア!!」


 ゼノアが呪文の最後の一説を唱えた瞬間、胸の光は六つの光球となって飛び散った。

 やがて光球は人の形となり、怪物の形に変化する。炎のような怪物。氷のような怪物。武器を装備した騎士のような怪物。兵器を装備したロボットのような怪物。白装束を着込み杖を持った神官のような怪物。そして、黄金の怪物。


「こ、これは……!!」


「闘弍と、デザイアの幹部!?」


 皇魔とレスティーはいち早く気付いた。現れた六体の怪物は、かつて彼らが滅ぼした組織、デザイアの首領ルーラーと副首領イズマ。四大幹部のウォント、アプリシィ、コレク、メイカーの怪人形態である。


「彼らは私が記録した力の中に残されていた、記憶の欠片。心配せずとも、君達にやる気を出させるのが目的だから、力は大幅に弱体化させてある」


 ゼノアは力を記録する時、相手の全盛期の力と、その時に相手が想っていた最も強い気持ちを一緒に記録する。その記憶を読み取ることで、力の持ち主を自身の意のままに操れる分身として再現することができるのだ。


「貴様、自分が何をしているかわかっておるのか!?」


 皇魔は激怒した。当然だ。ゼノアがやったことは、己の望みと命を懸けて散っていった者達への、紛れもない侮辱である。


「言ったはずだ。私が敬意を払うのは力のみであって、持ち主ではないと。しかし、この程度のことでずいぶんと喝が入ったものだ」


 この程度。ゼノアは誰よりも切実に力を求めた者と、それに従った者達を無理矢理顕現させたことを、この程度と断じた。多少なりとも怒りを感じてくれれば、ぐらいにしか思っていなかったのだが、想像以上の効果に驚いている。


「では、もう少し喝を入れよう。当然、私が再現できる相手がこれだけだとは、思っていまいな?」


 そう言いながらゼノアが見たのは、アデルだった。


「平和。争いなき世界。私が願ってやまぬものは、ただそれ一つのみ」


 ゼノアは新たな呪文を唱え始める。それは、世界から全ての争いをなくしたいと強く望んだ、とある女性の祈り。


「誰もが戦いを望まぬのに、それでも戦いをやめられぬ。そんな世界から争いをなくすには、一体どうすればいい? 答えは一つ。争う者全てを、それらが生まれる世界を、消し去ってしまえばいい」


 それは、彼女が望んだ方法。いや、無理矢理望まさせられた方法、と言うべきだ。なぜなら、彼女にその方法を吹き込んだのは、他ならないゼノアなのだから。


「全てを無に還そう。争いを起こす罪深き者も、虐げられる罪無き者も、これ以上争わぬよう、これ以上苦しまぬよう、皆等しく滅ぶがいい。生まれぬことこそ、死滅することこそが、真の幸福であり平和である。我らヴァルハラが、その盟主ミレイヌが、最後の聖戦を実行しよう!」


 またゼノアの胸の中心から、六つの光球が飛び散る。それらが形成したのは、槍を持った怪物。グリフォン。クリスタル。四本の腕を持つ怪物。多数の尾を持つ怪物。そして、ドレスを着て背中から翼を生やした女性の怪物。


「ミライさん……!!」


 アデルは動揺した。現れたのは、ヴァルハラのメンバー。ハイブリッドウォーリアー、ベルセルク。トップソルジャーのフィス。三将軍のゴーザ、マヴァル、ネイゼン。盟主のミレイヌこと、赤石ミライだ。


「てめぇ、どこまでおちょくりゃあ気が済むんだ!! よりによってゲイルの前でそんなことしやがって!!」


 アデルの代わりに、狩谷が激怒する。しかし、


「君達が本気を出さないのが悪い。もっと気合いを入れてくれていれば、私は使わなかったさ」


 と、ゼノアは悪びれた様子もなく言った。


「さて、君達の反応が面白いから、もっと喝を入れてやるとしよう」


 どころか、かつての強敵達を再現する度に怒るアデル達を見て、喜ぶ始末だ。


「森羅万象、あらゆる存在の中には善と悪が存在する。二つの性質は互いが同じ場所に存在することを許容できず、常に争い荒れ狂う。そこに在るだけで繰り返される永劫の闘争を、いい加減終わらせよう」


 次にゼノアが唱えたのは、太古の昔より繰り返される善と悪の闘争を、終わらせるために台頭した一人の男の思想。


「二つの性質があることがそもそもの問題なのだ。一つにすれば、戦いは起きず天下は大平。ならば、善をしばしば上回る悪を残すべきだ。アンチジャスティス。我らは善を、正義を否定するがゆえに!」


 唱え終えたゼノアの胸から飛び散った光は、三つしかなかった。だが、その内の一つは見上げるほどに大きい。やがて大きな光は、三つ首の竜へと変わり、残り二つは黄金と漆黒の二体の獅子王型聖神帝に姿を変えた。大きさこそ小さくなっているが、かつてレイジンの手で存在そのものを消滅させられた邪竜、アジ=ダハーカ。シエルが正義の名の下に命を断った、兄ブランドンが変身するカイゼル。そして、そのブランドンが造り上げた輪路のホムンクルス、廻藤正影が変身する聖神帝、カゲツだ。


「に、兄様……!!」


 シエルは戦慄する。本人ではないとはいえ、かつて決別した兄と、こんな最悪の形で再会を果たすとは思わなかった。


「……てめぇ、舐めてくれてんじゃねぇか。くそったれな呪文まで唱えやがって!!」


 怒るレイジン。今までゼノアが唱えた呪文は狩谷が言ったように、まるで闘弍やミライ達をおちょくっているかのような、ふざけた内容だった。


「ああ、これは君達の神経を逆撫でするためのものだよ。即興だが、なかなか的を射ている内容だろう?」


「……ふざけんな!!!」


 意図的にあんな内容にしているとわかったレイジンは、ゼノアに斬り掛かる。ミライ達が邪魔だが、関係ない。分身ごと斬り進んで、何がなんでもゼノアを両断する。しかしその時、


「焦りすぎだ」


 分身達の前にバリアが出現し、レイジンは弾き飛ばされた。


「せっかくこれだけの数の私の分身を作ったのに、簡単に壊さないでくれ。それに、君も他人事ではないのだぞ?」


「ま、まさかてめぇ……!!」


 ゼノアはニヤリと笑って、次の詠唱を始める。


「許さぬ。決して許さぬ。我らの憎悪は何より大きく、そして深い。生きとし生ける者全てを、我らは憎む」


 それはゼノアから罰を与えられ、偽りの憎悪を植え付けられた、哀れな魂達の慟哭。


「我らが創るは死者の国。そのために我は名を捨て、殺しの徒となる。さぁ、今こそ滅びるがいい。それこそ、我が望む唯一の快楽なり!」


 ゼノアが放った光は五つだった。そしてその光は、二本の槍を持った怪物と、ピエロの服を着た怪物と、二枚の扇を持った怪物。そして、聖神帝に似た二人の戦士に変わる。黒城一派のボス、黒城殺徒が変身する邪神帝オウザと、その妻黄泉子が変身するリョウキ。そしてその配下である上級リビドンの集団、死怨衆のデュオール、カルロス、シャロンの三人だ。


「隼人……優子……」


 レイジンは呆然と呟く。それを聞いて、光輝は自分の両親が本当に悪霊にされてしまったのだということを知った。


「父さんと母さんは、あんな恐ろしい姿に変えられたのか……!!」


「といっても、これは彼らがリビドンとして変わった姿ではなく、彼らが身に纏う邪神帝だがね」


 震える光輝に、ゼノアは補足説明をする。


「さて、このくらいでいいだろう。気合いは入ったかな?」


 ゼノアはアデル達の顔を見る。全員がゼノアを睨み付け、怒りや悲哀に満ちた顔をしていた。変身しているせいで見えない者もいるが、同じような顔をしていることは容易に想像できた。第一、気配でわかる。


「よろしい。では、晩餐を続けよう」


 軽く片手を動かすゼノア。その瞬間、分身達が一斉に動き出し、遠距離攻撃を仕掛けてきた。身構える一同。いや、一人だけ飛び出している者がいる。


「エリック!?」


 ビャクオウだ。あろうことか、あの一斉攻撃の中に飛び込んでいく。


「無茶だ!! 下がれエリック!!」


 アデルが言う。しかし、もう遅い。分身軍団の攻撃は、全てビャクオウに直撃した。

 と思ったその時、ビャクオウに当たったはずの攻撃が、全て分身軍団に跳ね返った。自分達の攻撃でダメージを受ける分身軍団。よく見ると、ビャクオウの身体の色がおかしい。さっきまではいつもと変わらない色だったはずなのに、いつの間にか鏡のような色になっているのだ。


「ニトクリスリフレクション。再改造を受けたのは、あなただけではないのですよ」


 ビャクオウもまた、再改造を受けた際に新しい能力を追加されていた。能力の名前は、ニトクリスリフレクション。受けた遠距離攻撃を、そのまま相手に跳ね返す能力だ。


「ほう、そんな能力まで身に付けていたのか! これは、喝を入れた甲斐があったというものだ。どうかね? 希望さえあれば、君の愛しいナイアルラトホテップを再現して」


 全部言い終わる前に、ビャクオウがニトクリスリフレクションを解除して、ゼノアの口の中に超高速エネルギー弾を叩き込んだ。


「それ以上彼女を侮辱するとマジで消し飛ばすぞ。ゴミクズ野郎」


(エリック……)


 ナイアは賢太郎の中で、自分を想ってくれているビャクオウの愛を感じていた。


「……ふむ」


 口の中にぶち込んでやったというのに、これでもゼノアはダメージを受けていない。


「それでいい。私は君達の、さらなる力が見られれば、何があろうと全く構わん」


 ゼノアがそう言うと、分身軍団が近距離戦闘に切り替えて飛び掛かってくる。だが、今度はアデル達の方が早かった。


「闘弍。今解放してやる」


「嫌なやつらだったけど、こんな外道のオモチャになんかさせないわ!!」


 皇魔、レスティー、光輝、さだめの四人は、デザイア組と戦う。


「ゲイル!! やろう!!」


「ああ!!」


「「エルピスシステム起動!! コード・アインソフオウル!!!」」


 アデルとアンジェはエルピスシステムを使って融合し、アインソフオウルモードに強化変身する。再びミライと対峙し、揺らいだゲイルの心を、アンジェが支えた。


「ミライさん。俺達はあなたの想いを、否定させない!!」


『だって、ここには私達がいるから!!』


 もはや迷いはなかった。アデルはミライと、彼女を守るように進み出てきたフィスに向かう。


「こんな再会になっちまうとはな……湿っぽいのはナシだ。さっさと終わらせるぜ。お前のためにもな!」


「何回だって、倒してあげる!!」


 ゴーザとマヴァルに向かう狩谷と空子。


「シルバーキーシステム、始動!! コード・ケイオス!!!」


 ビャクオウも、ケイオスモードに強化変身する。先ほどはヴィリザ相手に不覚を取ったが、再改造によって強化変身後の能力も大幅に強化されている。


「また付き合ってもらいますよ、将軍。そして、殲滅屋」


 ビャクオウが向かっていった相手は、因縁深いネイゼンと、ベルセルクだった。


「私達も!」


「はい!」


 メイリンと室岡も、教え子達を死なせまいと戦う。


「輪路さん!」


「わかってる。あいつらには、魂が入っていない。力が具現化しただけの、ただの人形だ」


 美由紀に言われるまでもない。あの隼人やブランドン達の中には、生き物が持っていなければならない魂が入っていない。あくまでも、ゼノアが作った人形だ。彼らが生き返ったわけではない。


「だが、だからこそ許せねぇ」


 褒められたものではないが、彼らには引くに引けない理由があった。譲れない戦いの果てに、敗れた。そんな彼らの想いを、人形として扱っているゼノアを、レイジンは絶対に許せなかった。


「神帝、極聖装!!」


 彼らを今一度眠らせるため、究極聖神帝に変身して、その前に立つ。


「来な。まとめて相手してやる」


 修行を重ねたレイジンにとっては、一人で相手をしても充分だった。

 だが、


「神帝、極聖装!!」


 その横に、同じく究極聖神帝に変身したヒエンと、聖神帝達が並び立つ。


「お前一人だけで片付けようとするな」


「我々も、奴の所業を許すことはできん」


「彼らの解放は、我々の総意です!」


「手伝わせてくれ。それがせめてもの礼儀だ」


「私も戦います。会長として、一人の討魔士として!!」


 三大士族、ゴウガ、そしてシエルが変身するカイゼル。彼らもまた、共に戦いたかった。


「……好きにしろよ」


 ここまで来たなら、もう止めはしない。レイジンは共闘を許可した。


「じゃ、あたい達もやろっか?」


「はい!」


「逃げ場なんかないしね~。やるしかないでしょ!」


「必ず、ゼノアを!!」


 奮い立つ学生組。


「お姉ちゃん達は、私が守るから!」


「やれやれ。こいつらだけは守ってやんねぇと、輪路が許しちゃくれねぇわな」


 学生組を守る決意をする七瀬と三郎。彼ら以外の妖怪組は、もう死怨衆に挑んでいた。


「シャロンさんごめんなさい。私がもう一度、眠らせてあげるから!」


「私も強くなりました。見て下さい、デュオールさん!」


「わしは貴様に同情などしとらん。だが、貴様を地獄に送った者として、最低限の責任は負わんとな。カルロス!」


 瑠璃、命斗、麗奈の三人は、それぞれ因縁のある相手と戦う。

 かつての強敵達との、思わぬ再戦が始まった。











「怒涛炸裂拳!!!」


 闘弍の全身に拳を叩き込む皇魔。


「手裏剣無限分身の術!!!」


 レスティーの放った大量の手裏剣が、コレクとメイカーの武器を破壊して突き刺さる。かつて苦戦した強敵達ではあったが、ゼノアが大幅に弱体化させてあると言っていた通り、それほど強くはなかった。

 だが、メンタルを揺さぶる手段としては絶大な効果を持っており、光輝はウォントを思ったように攻められない。


「あっ!」


 一瞬の隙を突いたウォントが、光輝の両方の剣を跳ね上げた。燃える拳が迫る。

 しかしその時、


「何をしている!!」


 突如として、横から氷の拳が飛んできて、ウォントを殴り飛ばした。


「アプリシィ!!」


 光輝はその者の名を呼ぶ。再生怪人ではない、本物のアプリシィだ。異変を察知して、光輝を助けに来たのである。


「アプリシィ!! そのウォントは、あいつが作った偽者だ!!」


「……そうか」


 特に何か感じた様子もなく、アプリシィは再生ウォントに冷気を放った。ウォントが死んだことは知っているし、何より本物のウォントなら光輝にこんなことはしない。偽者であることは明白だった。教えてもらうまでもない。


「行くぞ、光輝」


 両手を、氷の刃へと変化させるアプリシィ。


「うん!!」


 光輝も羅刹刃に雷を、水神刀に水を宿し、二人は同時に再生ウォントを斬りつけて倒した。


「……僕とアプリシィが、こんな風に一緒に戦える日が来るなんてね」


「兄さんとの約束だ」


 アプリシィにとって光輝は、兄の仇である。だが、ウォントから決して光輝を恨まないよう言われているのだ。兄との約束が、憎しみを凌駕している。


「さだめが苦戦している。助けるぞ」


「あっ、本当だ!」


 アプリシィと光輝は、再生アプリシィとの戦いに苦戦するさだめを助けに行った。

 助けに来たのは、アプリシィだけではない。


「はぁっ!」


 レスティーに背後から襲い掛かろうとしていたイズマを、ダークスが蹴り飛ばした。


「アーサーさん!」


「遅くなってすまない!」


 エドガーから許しが出て、ヘブンズエデンから駆け付けたのだ。レスティーは今いるイズマが本人ではなく、コピーのような存在であることを教える。


「父上。あなたの息子として、もう一度、あなたの生を終わらせる!」


 イズマに飛び掛かるダークス。影を操る能力を持つ彼にとって、影が少ないこの場所はかなり不利なのだが、構わずに拳にエネルギーを込めて殴り掛かる。

 すると、イズマは攻撃をやめて両手を広げ、ダークスの拳が心臓を貫いた。


「!?」


 イズマは自らダークスの拳を受け入れたのだ。イズマは人間態に戻ると、微笑みを浮かべて消滅した。


「……父上……!!」


 拳を握り締めるダークス。その光景を、コレクとメイカーを倒したレスティーは黙って見ていた。


「覇道烈破!!!」


 皇魔も闘弍を消し去った。




「うおりゃああああああああ!!!」


「はあああああああ!!!」


 ゴーザとマヴァルをそれぞれ倒す狩谷と空子。妙だ。この二人、抵抗らしい抵抗を、あまりしなかった。


「よお! 楽しそうだな!」


「木林陰斗!?」


 ネイゼンとベルセルクの二体を同時に相手にするビャクオウの前にも、救援が現れた。木林陰斗。ベルセルクの変身者である。


「つーかよ、何でオレがもう一人いるんだ?」


「わけは後で話します!」


「いいよ別に。大体わかるから、さ!」


 オリジナルベルセルクは、再生ベルセルクをアームズベルセルクで切り裂いて倒した。他の将軍二人と違い、ネイゼンは光線で反撃してくる。ニトクリスリフレクションで反射してもよかったのだが、ビャクオウは再改造で手に入れた二つ目の能力を使うことにした。


「サウンドインパルス!!!」


 二つ目の能力は、音と衝撃を操る能力、サウンドインパルスである。ビャクオウは全身から物質を崩壊させる音を、衝撃波に載せてネイゼンに放ち、破壊した。




 早々にフィスを打ち倒したアデルは、ミライと対決する。だが、こちらも抵抗らしい抵抗をしない。


「『ブラッディーファング!!!』」


 武器をチャウグナルファングに切り替えて、ミライを斬りつけるアデル。その直後、


「……」


 ミライはアデルを正面から優しく抱き締め、消えていった。



 レイジンとヒエンとゴウガ以外の聖神帝は、アンチジャスティス組と戦う。


「正影さん!!」


 協会組を圧倒するカゲツに、思わず叫んでしまう美由紀。と、カゲツはそれに反応して美由紀を見た。直後、ブラックライオンを自分の心臓に突き刺す。


「美……由……紀……」


 カゲツは正影の姿に戻ると、美由紀の名前を呟きながら消えていった。自害。無抵抗な者はいたが、自害したのは正影が初めてだった。


「兄様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 シエルは叫びながらカイゼルスラッシュを放ち、ブランドンも消える。

 アンチジャスティス組で残ったのは、アジ=ダハーカのみだが、これがまた厄介だった。


「全力で攻撃してるのに……」


「あんまり聞いてないわね……」


 彩華達は霊力弾を使ってアジ=ダハーカを攻撃しているが、弱体化しているとはいえほとんどダメージが通らない。下手に傷付けると、傷口から呪詛の魔物が出てくる。メイリンと室岡が対応してくれているが、このままではきりがない。


「ヤッホー。久しぶりー」


 苦戦する明日奈達の元へ、暦が駆け付けてきた。


「大体のことは占術で知ってるよ。こいつを倒すには、神浄界を使おう」


「よし……三郎! 力を貸して!」


「へいへい」


「とどめは僕が!」


 明日奈と暦は、三郎と協力して神浄界を発動した。邪悪な意思を持つ者を浄化する結界が、アジ=ダハーカをさらに弱体化させる。アジ=ダハーカもただやられることはなく、魔術を使って反撃してくるが、


「敵の魔術は!!」


「あたし達が!!」


「撃ち落とす!!」


 神浄界で強化された霊力で霊力弾を放ち、彩華、茉莉、七瀬が賢太郎を援護する。


「エルトリオ・アポレティス!!!」


 賢太郎は右腕を剣に変化させ、魔力を込めてアジ=ダハーカを脳天から両断した。


「今の技は……!!」


 ビャクオウはナイアの技を見て、賢太郎を見る。


「理由は後で話します!! 今は……!!」


「……約束ですよ」


 二人は事情を後で話す約束をして、飛び散ったアジ=ダハーカの血液から発生する呪詛の魔物を、メイリンや室岡と共に倒していった。


「必滅の瞬き!!!」


「鬼斬一閃!!!」


 それぞれ必殺技を放ってシャロンとデュオールを倒す瑠璃と命斗。


「ええい! うろちょろするな! 九尾変闘術!!」


 麗奈は動き回るカルロスに、九つの武器に変化させた尾の攻撃を一斉に叩き込み、倒した。


「アルティメットレイジンスラッシュ!!!」


「オールゴウガスラッシュ!!!」


「朱雀狩り・極!!!」


 レイジンとゴウガとヒエンも、オウザとリョウキを倒した。ゴウガは一度美由紀を殺されているので、一撃だけでも叩き込んでおきたいと思っていたようである。


「……ふむ。力に残っていた記憶が、戦うことを嫌がったか……」


 ゼノアは分析する。ほとんど抵抗しなかったり、自害した者がいた理由は、因縁の相手との戦闘を拒絶したためだ。中には積極的に戦った者もいたようだが。


「これでまたてめぇだけだぜ!! ゼノア!!」


 レイジンはゼノアを斬りつけた。


「そのようだ」


「がっ!!」


 だがゼノアはそれを片手で受け止め、軽く流す。


「シャイニングフェザーストーム!!!」


「炎獄翼!!!」


 アデルとヒエンも光の羽と炎の羽を飛ばして攻撃するが、効いていない。


「物理が駄目なら、精神を攻めるのみ。マインドクラッシュウェイブ!!!」


 ビャクオウはサウンドインパルスと、イリュージョンナイトメアを同時に発動した。相手の精神を攻撃するイリュージョンナイトメアに、精神を破壊する音も追加した上で、しかもそれらはケイオスモードの力により強化されている。例え神だろうと、狂い死には避けられない。


「……耳障りな音だ」


 しかし、ゼノアには精神攻撃も効かなかった。


『まだ、あいつを倒す方法はある!!』


 物理にも精神にも高い耐性を持つ相手を倒すにはどうすればいいか。簡単だ。物理の威力を上げればいい。


「『エルダーサインブースト!!』」



 アデルは一度ゼノアから距離を取ると、バルザイの偃月刀を振り回し、六十というおびただしい数の旧き印を出現させた。


『みんな!! 私達と一緒に、あの印に向かって攻撃して!!』


 アンジェが一斉攻撃を促す。エルダーサインブーストは、印を通り抜けた攻撃の威力を三倍に強化する技だ。ここにいる全員の全力を、六十枚の旧き印で強化し、一点を狙えば、さすがのゼノアも死ぬはずである。そこまでは行かなくても、ダメージは確実に通る。


「『ワールドエンドブレイカー!!!』」



「ライオネルバスター!!!」


 攻撃を仕掛ける主人公達。


「鬼神激動拳!!!」


「五行滅殺の術!!!」


「「バスターブリッツハイパー!!!」」


「アブソリュートゼロ・バーストストリーム!!!」


「シャドーブラスター!!!」


「オーバーキラーシュート!!!」


「ギャラクティックエンドジェノサイダー!!!」


「エクストリームエクスタシー!!!」


「ポジトロンボイス!!!」


「インフェルノショット!!!」


「グラビティウェイブ!!!」


 次々に全力の必殺技を放つ、アデルの仲間達。


「極炎鳳凰!!!」


「レッドウルフ!!!」


「ドラグフラッシャー!!!」


「カイゼルハウリング!!!」


「ゴウガバスター!!!」


 ヒエンは鳳凰を、ウルファンは赤い狼を、ドラグネスは緑の竜を飛ばし、カイゼルとゴウガは胸の口から霊力砲を放つ。


「天照大君煌!!!」


「月光魂浄波!!!」


「「「絶拳波!!!」」」


「「「三位一体、妖力砲!!!」」」


 明日奈と暦も全力の霊力を、彩華と茉莉は七瀬の後押しを受けた霊力拳を、麗奈と瑠璃は命斗に力を集め、妖刀宿儺から妖力を飛ばす新技を放つ。

 それぞれの技が旧き印を通り抜けていく。三倍、三倍、三倍。通り抜けた攻撃は一つの光線へと合わさり、さらに強化されていく。三倍、三倍、三倍、三倍、三倍。三倍三倍三倍三倍三倍三倍三倍三倍三倍三倍三倍三倍三倍三倍!!!

 かつてない最高威力の攻撃を、ゼノアは不敵な笑みを崩さないまま、受けた。











「……あっぶな……」


 賢太郎、いや、ナイアは呟いた。彼女と三郎、ソルフィは攻撃に参加していない。全力で結界を張り、アデル達と宇宙に被害が出ないよう因果律を操作したのだ。そうしなければ、彼らは宇宙もろとも、今の合体攻撃で消し飛んでいる。それにしても凄まじい攻撃だ。ざっと計算して、宇宙破壊の数百倍といったところだろうか。


「大丈夫ですか?」


「はい」


 ソルフィは霊力回復薬を美由紀に渡し、自身もそれを飲む。彼女達の霊力だけでは足らず、美由紀の霊力も借りなければならなかった。美由紀も限界ギリギリまで霊力を使ったため、かなり苦しそうだ。まぁ、こんな攻撃でも壊れない結界を張って、欠乏症に陥らない美由紀の霊力も大概である。


「野郎はどうなった?」


 三郎はゼノアの生死を確認しようとする。あれだけの攻撃を受けたのだから、無事ではないと思うが。


「……!!」


 三郎は絶句した。ゼノアは生きていたのだ。


「う、うそでしょ!?」


「これでも死なないのか!!」


 空子と狩谷は驚く。今のは間違いなく、全力の攻撃だった。しかも六十枚の旧き印で強化したのだ。それでも、ゼノアは死んでいなかった。


「……そう悲観視するものでもありませんよ」


「えっ?」


 だが、彩華はまだ希望を持っていた。茉莉がなぜか尋ねると、彩華は答える。


「鎧が壊れています」


「……あっ!」


 そう。ゼノアの鎧が、跡形もなく消滅していたのだ。ついでに玉座も。あの頑丈な鎧が、彼らの攻撃に耐えられなかったのである。


「じゃあ、もう一回やれば……!!」


「はい。あの防具がなければ、次の一撃には耐えられないはずです!」


 ゼノアの防御力は、かなり落ちている。もう一度やれば、ゼノアを倒せるのだ。

 しかし、


「くくく……」


 ゼノアは笑っていた。鎧を破壊されたというのにだ。


「防具か。確かにその通りだ。あの鎧は外敵から身を守るためのもの。だがな、それだけではないのだ」


「えっ? ま、まさかそれって……」


 茉莉は嫌な予感を感じていた。他の者は、一言も喋っていない。なぜなら、彩華達より強い彼らは、感じていたのだ。

 ゼノアの力が、少しずつ上がってきているということを。


「あの鎧は私の力から生み出した、私の力を抑えるためのものでもあるのだ。というより、元々そのために生み出したものなのだが」


 ゼノアは既に、数万以上の世界を滅ぼし、数々の強大な力を記録している。その結果、力をより多く記録できるようになるために、ゼノアの力と肉体がもっともっと強大なものに進化していったのだ。存在しているだけで世界を歪め、破壊してしまうほどに。その歪む速度はもはや、超究極邪神帝オウザの比ではない。

 力を見出だし、育て、奪うことを生きる目的としているゼノアにとって、見出だす前に壊してしまうなど論外だ。力を記録する能力は、あらかじめその力をゼノア自身が認識していないと使用できない。だから、力を一つたりとも逃さないようにするため、やりすぎないようにするため、己を抑える鎧を作り、身に纏った。あの鎧は拘束具だったのである。そしてアデル達は、それを壊してしまった。


「ああ……もう抑えられない……!!」


 壊されてからも自身の力を抑えようとしていたゼノアだったが、沸き上がる力、そして共に封じていた力を求める衝動を、もう抑えきれなかった。

 次の瞬間、ゼノアの力が数億倍に跳ね上がった。同時に、ゼノアの肉体にも変化が現れる。右半身が真っ白で、まるで天使のような高貴な姿に。左半身が真っ黒で、悪魔のような醜悪な姿に。そして右の背中に白い光の翼が、左の背中に黒い闇の翼が現れた。神々しさと邪悪さを両立させた怪物に、ゼノアが変身したのだ。それから、ゼノアの周囲の空間が歪む。時間が歪む。理が歪む。その歪みは世界全体へと浸食し、拡大していく。


「やべぇ!!!」


 レイジンとヒエンは浄化の力を使い、アデルとビャクオウは因果律に干渉して世界を修復しようとするが、間に合わない。


「ライトニングスワスチカ!!」


 ゼノアが右手を上に向けると、空に白い卍が現れる。それを下に向かって振ると、卍が落ちてきて爆発した。爆発に巻き込まれ、吹き飛ばされるアデル達。


「ははははは!! 安心しろ!! すぐには殺さんよ!! 限界まで追い詰めて、お前達のさらなる力を引き出してやるぞ!!」


 ゼノアが今までやったのは、分身の召喚と、軽い反撃だけだった。ゼノアが本格的な反撃に転じる時が、とうとう来てしまったのだ。











 冥界。


「白宮隼人」


 輪路との戦いに敗れ、冥界で眠りについていた隼人は、目を覚ました。


「君は?」


「赤石ミライ。あなたと同じく、あの男に利用された者です」


「……そうか。で?」


「あなたを解放した廻藤輪路が、あの男との戦いで危機に陥っています。あなたの息子も」


 それを聞いて、隼人は一瞬動きかけたが、すぐやめた。


「……僕にどうしろっていうんだ。どうにもできないだろう?」


 彼は所詮死人だ。もう何もできはしない。


「いいえ、できます。あなたは、このままでいいのですか?」


 利用されたままでいいのか。ミライはそう尋ねた。


「……」


 力強くミライを見つめる隼人。その瞳には、かつてのような憎悪はなかった。

ニトクリスリフレクション


ビャクオウが再改造で得た能力。遠距離攻撃を反射する。名前の由来は、ニトクリスの鏡。



サウンドインパルス


ビャクオウが再改造で得た二つ目の能力。音と衝撃を操る。音は相手の精神に干渉する特殊な音を出すこともでき、イリュージョンナイトメアやケイオスモードと組み合わせれば、相手の精神を崩壊させることも可能。

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