3 悪い知らせと良い知らせ
時系列は、ゲイル編と全く同じです。
「うあ、あ……」
一人の討魔士が、呻き声を上げながら倒れた。
「これで百二十人目……」
討魔士を倒した男は、静かに呟く。
「思ったより早くここまで狩れたな……」
そう言うと、男はどこかへ姿を消した。
*
かつて死者の軍勢から世界を救った男、廻藤輪路が冥界に去ってから、二年の歳月が流れた。
「……」
ヒーリングタイムでは一人の女性が彼のことを思い出し、物憂げな表情を浮かべている。
篠原美由紀。輪路と相思相愛であり、誰よりも輪路との別れを拒否していながら、彼が離れることを許した女。しかし、輪路の気持ちを考えると、拒否することはできなかった。あれは輪路が美由紀を愛していたからこその行動であって、決して嫌いになったからではないのだから。
彼女が見ているのは、輪路から送られた指輪。何の飾り気もない、銀の指輪だ。美由紀も輪路に、これと同じものを送った。この指輪を通じて、二人は繋がっている。離れていても、二人の心は同じだということが、二年前の黒城事件でわかった。だから、輪路がいなくても、美由紀はこの指輪を見ることで、寂しさを紛らわすことができるのだ。
「また輪路ちゃんのこと考えてるでしょ」
そう言ったのは、この店の店長であり美由紀の父の、佐久真。
「寂しいわよね。私も寂しいもの」
輪路を長く居候させていた身としては、もう輪路を息子のようだと思っていたので、いなくなれば寂しいに決まっている。だが、それでも美由紀には及ばないだろう。
「「「こんにちは~!!」」」
そんな彼女の悲しみを、慰めてくれる者達がいる。彩華、茉莉、賢太郎、明日奈の学生組だ。今日は七瀬もいる。
「あら~彩華ちゃん達じゃない。今日は何にする?」
「コーヒーお願いします」
「あたしも!」
「僕も!」
「わたしミルク!」
「あたいはレモンティーにしようかな」
「はいはい。コーヒー三つにミルクとレモンティーが一つずつね」
注文を受けた佐久真は、五人に言われた通りの飲み物を出す。
「月日が経つのは早いわねぇ~」
佐久真はしみじみと言う。学生組と言ったが、彩華と明日奈は卒業しており、賢太郎と茉莉も卒業式を控えている。ここまであっという間だった。
「みんなよく来てくれたのう」
「私達もずっと励ましてるんだけど……」
麗奈と瑠璃はそう言いながら、美由紀を見た。一見、彼女には何の変わりもないように見える。だが、人を超える感覚の持ち主たる彼女らは、美由紀が心に翳りを見せているのに気付いていた。この二年間、あの手この手でその翳りを消し去ろうとしたが、無理だった。
「やっぱり、輪路兄様に会うのが一番なんでしょうね……」
賢太郎達が来たことでその翳りも幾分か消えるかと思ったが、やはり命斗の言う通り、美由紀が今一番会いたい相手、輪路に会わせる以外の方法はないのだろう。
「美由紀お姉ちゃん可哀想……」
七瀬もなんとかしてやりたいと思ってはいるが、肝心の輪路に会わせる方法がない。何せ彼は冥界におり、宇宙の千倍もの広さを持つ冥界のどこにいるのか、捜し出す方法がないのだ。
学生達がいろいろ話をしていた時、また一人来客があった。
「お邪魔します」
二年前、輪路と共に戦った英雄、青羽翔だ。
「なんじゃ翔兄も来たのか」
「ああ。少し注文があってな」
翔は麗奈に返すと、すぐ佐久真に言った。
「佐久真さん。少しの間美由紀さんをお借りしたいのですが、よろしいですか?」
「ええいいわよ。何があったかわからないけど」
一体どういうわけか、翔は美由紀に用があるようだ。佐久真は少し驚きながらも、美由紀を貸し出す許可を出した。
「待ってて下さい。今着替えます」
美由紀は素早く奥に引っ込むと、エプロンを脱ぎ、上着を着て出てきた。
「お待たせしました」
「では行きましょう。時間が惜しい」
翔は美由紀を連れて出ていった。
「……何だったんでしょう……?」
「さぁ……ただ青羽さん、すごく切羽詰まった顔してたけど……」
彩華と明日奈は顔を見合せた。
*
美由紀は翔に連れられて、討魔協会の本部を訪れていた。ここに来るのも久しぶりだ。翔の話によると、どうも翔ではなく、シエルが美由紀に用があるらしい。
「お久しぶりですね。ご足労頂きありがとうございます」
会長室にいたのは、討魔協会の会長、シエル・マルクタース・ラザフォード。美由紀より歳上のはずなのに、相変わらず女子高生にしか見えない容姿だ。
「ど、どうも……」
美由紀は頭を下げる。
「本日来て頂いたのは、あなたに協力をお願いしたいからなのです」
「協力? 一体何のですか?」
「まず、今世界で起こっている事件から話さなければなりません」
シエルは真剣な顔で、その事件について話した。
「実は今日の早朝から、協会に次々と連絡が入っているのです。討魔士や討魔術士が、何者かから襲撃を受けて倒されていると」
協会に所属しているかどうかの有無に関わらず、世界中で次々と討魔士や討魔術士が倒されているらしい。既に犠牲者は二百人を越えているそうだ。
「そしてその何者かは、シルヴィーをも襲いました」
会長室にいるのはシエルと美由紀、翔だけではない。副会長ダニエル・レッドファングと、副会長補佐シルヴィー・グリーンクローもいる。シルヴィーはシエルに言われて、状況を説明した。
「私は今から一時間ほど前、イギリス支部の視察に行っていました」
協会は世界中に支部があり、今回シルヴィーはたまたまイギリス支部の視察に行っていた。その時、世界中の討魔士達を襲っている正体不明の敵が、襲撃を仕掛けてきたのだ。
とてつもない実力者だった。イギリス支部は壊滅し、シルヴィーは逃げるのが精一杯だったという。
「戦ったからこそわかります。あれは我々が全員がかりで挑んでも、勝てる相手ではありません。青羽会長補佐でも無理でしょう」
美由紀はシルヴィーの発言に驚いた。最高峰の討魔士の一人であるシルヴィーが圧倒されたことにも驚いたが、翔ですら無理だと言ったことにもだ。翔は最も清らかな戦士、聖神帝の力の極致、究極聖神帝の領域にたどり着いている。その翔ですら勝てないのなら、もうこの世界で謎の敵に勝てる者はいないのではないだろうか。
「黒城事件以来の世界の危機が、今再び迫っていると私は感じています。そこで私は、私が知る中で最強の討魔士の力を借りることにしたのです」
シエルは言った。美由紀は考える。翔以上に強い討魔士がいるだろうかと。そして、思い出した。いる。翔より強い討魔士が。そして、理解した。シエルが何をしようとしているのか。
「廻藤さんを、現世に呼び戻します」
輪路はまさしく現世も冥界も含めた、最強の討魔士である。シエルは事態を収拾するために、輪路を冥界から呼び戻そうとしているのだ。
「でも、どうやって?」
「我々も冥界と現世を自在に行き来する方法については、長年研究を続けてきたのです」
「そしてその研究が、ようやく実を結びました」
ダニエルとシルヴィーが言い、最後にシエルが告げる。
「しかしこの方法で廻藤さんを確実に呼び戻すには、あなたの力が必要なのです。協力して頂けますか?」
ようやく美由紀が呼ばれた理由がわかった。輪路を呼び戻すには、美由紀の存在が不可欠なのである。
「はい!!」
美由紀は即答した。輪路に会える。それを思うと、断る理由はなかった。
「そう言って下さると思っていました。感謝します」
シエルは頭を下げる。
「それで、私は何をすればいいんですか?」
「ご案内しましょう。少し席を外しますよ」
シエルは冥界の門を開く詳細な方法を教えるため、三大士族を残してその場所に美由紀を連れていった。
二人がたどり着いたのは、日本のどこかにある森の中の、社だった。
「あっ! 美由紀さん! お久しぶりです!」
「ソルフィさん!?」
社の周辺には多数の討魔術士が集まって何かの作業をしており、その中にはソルフィもいた。
「これから儀式について、美由紀さんに説明するところです」
「そうでしたか。では、こちらへ」
ソルフィは美由紀とシエルを連れて社の中に入る。社の中央には、金属で作られた四角い何かがあった。どことなく、門のようにも見える。
「これは……門?」
「はい。現世と冥界を繋ぐ門を、この金属の門の中に開きます。ただし、門を開くには多大な霊力が必要となり、しかも一分しか開けません」
シエルの説明によると、この門は未完成であるらしい。門を開くにはとてつもない量の霊力が必要になり、しかもどんなに霊力を注いでも、最大で一分までしか門を維持できないのだそうだ。しかも、冥界のどこに開けるかわからず、これでは輪路を捜し出して連れ戻すなど不可能だ。
「この門を廻藤さんの元に出現させるために、あなたの存在が必要なのです」
美由紀と輪路は、指輪を介して見えない縁を繋いでいる。美由紀の霊力を使ってその縁をより強固なものにし、シエルが縁を利用して輪路の居場所を割り出す作戦だ。これなら、輪路の目の前に門を作ることができる。
「作戦の決行は明日です。それまでゆっくり休んで下さい」
「わかりました」
シエルは美由紀を連れて本部に戻る。準備が終わるのは明日。終わり次第、すぐ作戦を決行する。
(会える。輪路さんに、また会えるんだ!!)
美由紀の心は踊っていた。
*
見渡す限り、荒野。その先には砂漠がある。命というものが、この場所には欠片も見られない。それもそのはず。ここは命を置いておく場所ではあっても、芽吹かせる場所ではないから。
ここは冥界。現世で死した魂が行き着く、死後の世界。死んだ者しか基本的に来れないこの場所を、奇妙な一団が歩いていた。先頭を行くのは、ぼろ布を身に纏った若い男。かつて世界を救い、そして愛する者のために冥界に残る道を選んだ英雄、廻藤輪路である。その後ろには、同じくぼろ布を纏った、着物を着た男女がいた。輪路の先祖の廻藤光弘と、その妻、廻藤由姫だ。
「この辺りでいいだろう」
光弘は輪路を追い抜くと、休むように言った。冥界の広さは宇宙の千倍。それに何もないので、急いだところで意味はない。
「もうか? 俺は別に疲れてないぜ」
しかし、輪路は特に疲労を感じていなかった。疲労だけではない。飢えも、渇きも、生物として必要な欲求を、ほとんど感じていなかった。生きているのにだ。
その理由は二年前の戦いで、輪路が究極聖神帝のさらに先にあった領域、超究極聖神帝に変身したからだ。その力は、あらゆる全てを破壊し死滅させる超究極邪神帝を凌駕し、打ち倒すほどだった。だが、もはや神すら超える領域に踏み込んで、人の身である輪路が無事なはずはなかった。その肉体はだんだんと、神に近付きつつあったのだ。聖神帝のような偽りの現人神ではなく、本物の現人神へと。神に食事も休眠も必要ない。よほど大きく力を消耗でもしない限りは。
「……いいから休め」
しかし人間としての自分らしさを忘れさせないために、光弘は休ませた。水や食糧については、天国からもらってきたものがあるため、問題ない。
「あ」
と、由姫が突然何かを感じ、片手をこめかみに当てた。
「はい……はい……」
そのまま、誰かと話をするように頷いた後、輪路に言う。
「輪路くん。出動要請よ」
「……またか」
輪路はため息を吐いた。今由姫が話していた相手は、閻魔大王だ。そして輪路は、ある件で度々大王から要請がかかる。
「仕方ねぇ。ちょっくら行ってくる」
本当は地獄などという恐ろしい場所に行きたくはないのだが、行かねばならない。仕方なく輪路は地獄に向かった。
地獄。生前罪を犯した者が、その罪を償うため数々の罰を与えられる場所。針の山、血の池などの様々な刑罰地を通りながら、輪路は連絡のあった場所へ向かう。
「死ねオラァァァ!!」
「ぎゃあああああ!!!」
地獄の奥地に、それはいた。ナイフを持ったピエロと怪物が混じったような男が、獄卒の鬼を次々と切りつけている。名前は、カルロス・シュナイダー。二年前全宇宙を死者の世界に変えようと暴れ回った、黒城一派と呼ばれている悪霊の集団の幹部、死怨衆の一人だ。輪路達の活躍で黒城一派は壊滅し、死怨衆も全員地獄送りになった。
だが他の連中がそれぞれの未練を晴らされたのと違い、カルロスは麗奈の手によって強制的に地獄に送られた。というのも、カルロスはとある事件をきっかけに殺人の快楽に目覚め、未練ももっとたくさんの人間を殺したいというどうやっても晴らせないものだったからだ。未練を持つ魂は、死後もずっと冥界をさまよい続けることになる。未練は憎悪に変わり、その憎悪は幽霊を邪悪な怨霊、リビドンへと変える。冥界のリビドンは一定の周期ごとに訪れる、冥界と現世を隔てる壁が薄くなる時期を狙い、門を開いて現世に戻り、生きている者を襲う。憎悪を浄化されない限り成仏はできず、天国にも地獄にも行けないが、魂に特殊な刻印を刻むことで、強制的に天国送りや地獄送りにできる。カルロスの場合は人殺しがしたいなんて未練を晴らしてやるわけにはいかないし、やってきたことがやってきたことなので、リビドンになれないよう憎悪を消し去って強制地獄送りにした。
しかし、リビドンでなくなっても、カルロスの並外れた殺意と、死怨衆時に主の黒城殺徒から与えられた高い霊力と戦闘力はそのままで、さらにどうやったのかまたリビドンへの変身能力を取り戻した。強すぎて獄卒達の手に余る。だから、獄卒相手に暴れ回る。輪路は閻魔大王から要請を受けて、度々カルロスの鎮圧に動くのだが、回復するとカルロスはまた暴れ出してしまう。しかも何回輪路に叩きのめされても、全く懲りない。人殺し大好きなカルロスにとってこの地獄は、獄卒も罪人も自分より弱いから、殺し放題の楽園なのだ。じっとしていられるわけがない。
「おいカルロス!!」
「ああ? 廻藤輪路か?」
輪路が呼び掛けると、カルロスは殺しの手を止めた。その間に、他の獄卒達が負傷した獄卒を救助する。
「お前いい加減にしろって言ったよな? 死者の世界なんてできないから、お前がいくら暴れたって無駄だって言ったよな?」
「関係ないねぇ。俺は殺したいから、殺してるだけ。それにここは俺にとって最高のパラダイスだから、死者の世界なんてどうでもよくなっちまった。あれ? これ何回言ったっけ?」
少なくとも、四十回は言っている。救い難いド悪党。輪路は魂を消し去るべきだといつも閻魔に言っているのだが、更正の可能性が少しでもある者の魂を消すわけにはいかないと止められている。そんな可能性は微塵もないと思うが。
「……やれやれ。何回叩きのめしてやりゃ懲りるんだろうなお前は?」
輪路は腰に差してある木刀、シルバーレオを日本刀モードに変えると、ゆっくりと抜きながら構えた。
「懲りるわけねぇだろ。こんな楽しいこと、何言われようが何されようが、絶対にやめられねぇよ」
カルロスもまた、ナイフを出す。このナイフはカルロスの霊力で作られたものだ。ナイフ以外にも、爆発するジャグリング用のボールや、曲芸用の剣、マジック用のボックスなど、様々な物を出せる。威力はカルロスの霊力次第だが、いくらでも出せる。
「お前も死にな!!」
カルロスは両手にナイフを構えて切り掛かる。だが輪路は両手のナイフを素早く弾き、カルロスの胴を斬った。
「ぐっ……うらっ!!」
この程度で倒れはしない。両手のナイフを投げつけ、その後すぐに両手に大量のナイフを構えて一斉に投げつける。だが、輪路は全てさばいた。かすりもしない。
「まだまだ行くぜぇっ!! そぉらぁっ!!!」
今度は武器を爆発するボールに変えて、いくつも投げつける。十、二十、三十、四十、途切れることなくボールを爆発させるカルロス。やがて爆発の回数が五十回を越えた頃、カルロスは輪路の姿を確認するため、一旦投げるのをやめた。
「気は済んだか?」
爆煙の中から姿を現したのは、無傷の輪路だった。輪路はその恐るべき剣速でボールを、爆発そのものを全て斬り裂き、自分への攻撃を無効化したのだ。
「……まだまだ!! 俺の新技を喰らえ!!」
一瞬怯みかけたカルロスだったが、すぐに次の技へと切り替える。
「クラウンマジック・キリングサーカス!!!」
次の瞬間、輪路の見ている景色が変わった。そこは、観客が一人もいないサーカスのテントの中だった。輪路はすぐに、これはカルロスが作った結界の中であると察する。
察した直後に、舞台袖からライオンやトラ、ゾウやゴリラなどのサーカスでよく使われる動物が飛び出し、輪路に襲い掛かってきた。それらを素早く斬り捨てると、今度は上からナイフが飛んでくる。輪路がそれを弾いて上を見てみると、そこには女性の踊り子がいて、ナイフを投げながらロープを使い、ターザンの要領で降りてきた。輪路はすれ違う寸前でシルバーレオを振るい、踊り子の胴を一撃で両断する。と、今度は燃える輪がいくつも飛んできて、輪路はそれを斬る。その後はまた舞台袖から、いや、客席からも大量の巨大なボールが転がってきて、輪路をを覆い隠す。
「フィニッシュだ!!」
息つく暇もない殺人曲芸の数々を締めたのは、ようやく出てきたカルロスだ。ありったけの霊力を込めたナイフを、ボール目掛けて投げつける。瞬間、テントを満たす爆発、爆炎。
「ヒャッハハハハハハハーーッ!!! どうだ俺様主催のサーカスはよォッ!!!」
さすがの輪路も、これなら助からない。カルロスはそう思っていた。
その直後、炎の中から真上に向かって光が伸び、それは光の刃となってテントを貫通。降り下ろして斬り裂いた。
「はっ!?」
やったのは輪路。やはりダメージは受けておらず、結界は一撃で破られてしまった。
「猿芝居は終わりだ」
言うが早いか、輪路はカルロスが反応できないほどの速度で接近し、腹を刺した。
「ほぐぅっ!?」
輪路はシルバーレオを引き抜く。カルロスが地獄で暴れた時に食った魂が、その傷から飛び出していった。
「こんなもんじゃねぇだろ?」
輪路はカルロスの頭を掴んで下を向かせ、シルバーレオの柄の底で何度もカルロスの背中を殴る。
「ほら吐けよ!! てめぇが食った魂全部吐け!! てめぇの食糧じゃねぇんだ!!」
「がっ!! ぐはっ!! おああっ!!」
輪路が殴る度に、カルロスの口から、傷から、先ほどの暴走で食った罪人や獄卒の魂が吐き出される。
「これで全部か? じゃあ……」
やがて全ての魂を解放した後、
「こいつはおまけだ!!」
シルバーレオに霊力を込めて、脳天から斬りつけた。
「がああああああああ!!!」
輪路の猛攻を受けて、とうとう倒れるカルロス。
「終わったか……ったく、面倒かけさせやがって……」
もう何回戦ったかわからないが、今回も勝利を収めた輪路。
「れ、レイジンを、使わずに……!!」
「毎日光弘と由姫さんに鍛えてもらってるからな。もうお前なんか、レイジン使う必要もねぇよ」
輪路はこの二年間、光弘と由姫の二人を相手に修行を重ねた。元々成長速度が速かったおかげで、みっちり鍛えたことにより上級リビドンを変身なしで倒せるという、次元を超えたような実力を身に付けた。カルロスはかつて苦戦した相手だが、今の輪路にとっては雑魚も同然だった。
「力の差がわかったなら、もうこんなことするなよ? 痛い目見るだけだし、俺も面倒だからな」
輪路は叩きのめしたカルロスにそう言うと、地獄を去った。
「おかえりなさい」
戻ってきた輪路を、由姫と光弘が迎える。
「……せっかくだし、このまま稽古付けてくんねーか?」
せっかく身体を動かしたのだから、もっと徹底的にやりたい。なので、光弘達に稽古を頼む。
「わかった。いいぜ」
光弘は了承し、輪路は二人と稽古を始める。
*
「えっ!? 本当ですか!?」
美由紀は翔に送ってもらって帰還し、賢太郎は翔から輪路を呼び戻すと聞いて喜んでいた。
「そこで、君達に儀式の護衛を頼みたい」
しかし、儀式を行うためには大量の霊力が必要だ。それには、何人もの討魔術士がいる。襲撃者は、必ずここを狙ってくるはずだ。当然討魔士の護衛は大勢付けるが、それだけでは心もとない。なので翔は、二年前共に戦った賢太郎達に、協力を頼んだ。
「もちろんです!」
「私も!」
「廻藤さんに会うためだったら、何でもしますよ」
「あたいも、あの人に言ってやりたいことが山ほどあるんだ」
「わたしもわたしもー!」
賢太郎達学生組は快く引き受けた。
「わたしもわたしもー!」
「当然じゃな」
「私も! 輪路兄様に会いたいです!」
「私も行きます!」
七瀬や麗奈達妖怪組もだ。
「じゃあ明日はお休みして、みんなで行こうかしらね」
佐久真も行く気だ。
夜。美由紀は自分の部屋に三郎を招き、明日の話をした。
「そうか。明日輪路が帰ってくるのか」
「やっぱり三郎ちゃんも嬉しい?」
「嬉しいに決まってんだろ。あいつとは長い付き合いだしな」
三郎も嬉しそうだ。輪路のことを散々馬鹿だのアホだのと言っていたが、いざ再び会えるとなるとやはり嬉しい。
「それじゃ、明日は俺も一緒に行って、あいつのアホ面拝んでやるか!」
これで三郎も一緒に行くことになった。輪路を呼び戻す理由は、決して遊びではない。だが、輪路に会える。それだけで、美由紀はとにかく嬉しくて、明日が待ち遠しかった。
*
「……」
また一つ、討魔士達の拠点を壊滅させた男、ギリュウは後ろを向いた。
「……たくさんの気配が集まっている」
この気配は、討魔士や討魔術士のものだ。しかも、どんどん増えている。
「これは、一気に大勢潰せそうだな」
ギリュウは気配が集まっている場所、廻藤輪路帰還の儀式を準備している場所に向かった。
(だが、すぐには壊滅させない。もっともっと集まってから、それから潰してやる)
ギリュウはニヤニヤと笑っていた。