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2 アデルの新たな力

前回までのあらすじ


ゲイル達の事務所に遊びに来た空子を、ヴィリザと名乗る謎の女性から襲撃した。ヴィリザはミライを狂わせた何者かの仲間であるらしい。助けに入るゲイルだったが、ヴィリザの強さを体感し、さらなる力が必要であることを痛感するのだった。

 エリックに協力してもらい、一同はとりあえず事務所の中へと入った。アンジェはソファーに寝かされ、空子もネリーに回復魔術を使ってもらって、傷付いた身体と装備を癒す。


「さっきの怪物は何者ですか?」


 途中から来たので、エリックは詳細を知らない。ゲイル達を襲っていたから撃っただけだ。


「ネリーやミライさんを狂わせた何者かの、仲間らしい」


「……なるほど」


 それならゲイルが追い詰められていたことにも納得できる。


「今回は引き上げたが、また襲ってくるだろう。だが……」


 ゲイルには自信がなかった。ヴィリザが再び襲ってきた時、打ち勝つことができるかどうか。さっきはアンジェを倒されてしまったせいでアインソフオウルモードが使えなかったが、使えたとしても勝てなかったかもしれない。それにヴィリザだけでなく、ゼノアも倒さなければならない。ヴィリザは自分のことを、ゼノアの力から生まれた使い魔だと言っていた。主人が使い魔より弱いということはないだろう。きっとヴィリザより遥かに強いはずだ。


「今のままでは勝てそうにありませんね……」


 不意討ちを決めたエリックだが、ヴィリザがどれくらい強いかは彼も一目でわかった。エリックは強い。ゲイルや他の者が敵わないような強敵を、あっさり仕留めるほどに。そんな彼が、はっきりと勝てそうにないと言った。ヴィリザがどれほど強大な存在かわかる。


「ゲイル。勝算はあるの? 何か作戦とかは……」


 空子は尋ねる。第三次世界大戦を経て、彼らはさらに強くなっている。そんな彼らを超える相手を倒すのだから、簡単にはいかないと思うが……。


「……一つだけ、可能性がある」


 しかし、ヴィリザとゼノアを打ち倒す術を、ゲイルは一つだけ持ち合わせていた。


「理事長から再改造の話が来ているんだ」


 ゲイルをアデルに改造した男、エドガー・サカウチ。世界一の科学者であり、ヘブンズエデンの理事長だ。エドガーの技術も八年前に比べればかなり進歩しており、アデルを強化改造する目処が立ったらしい。


「どう強化されるのかはまだわからないが、ヴィリザのことを話せば、対抗できるようにしてくれるはずだ」


 エドガーは期待を裏切らない男である。偏屈な狂人ではあるが、彼の頭脳と発明に幾度となく窮地を救われた。


「それなら大丈夫ね」


「いえ、安心するのはまだ早いです」


 空子は安堵したが、エリックの言う通り気は抜けない。ヴィリザは絶対に、それほど間を置かずにまた襲ってくるはずだ。ゲイルが再改造を終わらせるまで、時間稼ぎが必要になる。


「その役目は私が引き受けましょう。私の力は、長期戦に向いています」


「あたしもやるわ! 狩谷にも連絡して、来てもらいましょう!」


「私もやる」


 まずエリックが囮役を買って出て、空子、ネリーが名乗り出る。


「……私も……」


 と、アンジェが目を覚ました。


「アンジェ!! 大丈夫か!?」


「うん」


 ゲイルがアンジェの手を握ると、アンジェは微笑みながら握り返した。

 アデルの最大の切り札は、ゲイルが心から信頼している相手と融合することで、能力を無限に強化するエルピスシステムだ。ゲイルがアンジェと融合することで、アンジェの能力を備え、全能力を超強化したアインソフオウルモードへと変身することができる。だが、これにはまだ上がある。アインソフオウルモードにネリーを融合させることで、さらに強力なセイヴァーモードに変身できるのだ。その力は宇宙を無数に破壊し創り直すほど強大で、ミライとの最終決戦で勝利の決め手となった。

 しかし、ゲイル達プライド一家は、ある理由からセイヴァーモードを使うことができない。使うこと自体はできるのだが、かなり大きなリスクを伴う。理由は明快。単純な出力の問題である。戦った場所が亜空間だったからよかったが、もし地球上で使えば変身した瞬間に発生したエネルギーで地球が消滅するのだ。いくら新しく創り直すことができるとはいえ、できあがった地球はもう彼らの知っている地球ではない。因果律操作で地球や宇宙を破壊しないようにするという手もあるが、変身前に使わねばならず出力負けするので結局同じだ。

 それに、もう一つ問題がある。アンジェと融合しても問題はない。ネリーと融合することが問題なのだ。ネリーは第三次大戦をきっかけとして、本来の旧神に戻った。だがネリーはオリジナルのアザトースであり、ゲイルはエドガーの手で造られた偽りのアザトース。その二つを融合させた結果、ゲイルの身体に異変が生じた。ゲイル本来の力が融合前より強化され、しかも生命の維持に必要な栄養素の摂取がほとんど必要なくなったのである。

 ネリーの分析によれば、これは不完全な神であるゲイルが完全な神である自分と融合することで、完全に近付こうとして起きているらしい。ゲイルの身体の一部が本物の神になっており、その部分は時とともにゆっくりと広がっている。

 そして同じ現象は、アンジェにも起こっていた。ネリーが融合した際、一緒に融合していたからだ。今は緩やかな神化だが、もし再びセイヴァーモードを使えば神化は一気に加速し、二人はそのまま旧神になってしまうだろう。そうなれば二人は、世界の法則から完全に切り離された存在となり、永遠に旧神として宇宙の秩序を守るために戦い続けなくてはならない。ネリーのことを考えれば、別に怖くはないのだが、まだそうなるわけにはいかなかった。ゼノアを倒すまでは。だから、セイヴァーモードを使わずに済むならそれが一番いい。


「だが、もし再改造しても敵わなかったら、俺は……」


「……大丈夫だよ。きっと大丈夫」


 ちなみに、八年前エリックもナイアと融合しており、彼も旧神化が始まっている。もっとも今彼の中にいるナイアは休眠状態なので、旧神化の速度は同じく緩やかだが。


「……よし。早速理事長に連絡して、明日再改造してもらおう」


 こうして、ゲイルはエドガーに依頼することにした。











 翌日、ゲイルは妻と娘、仲間達を伴って、ヘブンズエデンを訪れた。


「へへっ。このメンバーで集まるのも久しぶりだな」


 ゲイルに笑いかけたのは、かつて共に戦った英雄の一人、狩谷信介だ。ゲイルにとって一番の仲間と言える存在で、今回の要請を快く引き受けてくれた。ちなみに彼は今孤児院を開いており、現在は孤児達をシュリュズベリィ教授に任せている。


「すまないな狩谷。孤児達のこともあるのに、こんなことに付き合わせてしまって」


「いいってことよ。友達の危機だしな」


「あの子達のためにも、絶対に勝って帰らなきゃね」


 空子もよく行って手伝っている。孤児院は狩谷にとって、学生時代からの夢だったのだ。ようやく実現したその夢を、壊させるわけにはいかない。


「じゃあ行ってくる」


 ゲイルは校舎に入り、理事長室に向かった。




「やあ。待っていたよ」


 理事長室にいたのは、眼鏡を掛けて白衣を着た太めの男。彼がエドガーだ。しかし、本人ではない。エドガー本人は第三次大戦が始まる直前、宣戦布告に来たミライの手で殺害されている。今いるのはエドガーがその事態を想定して造ったアンドロイドだ。しかし挙動や思考、記憶には一切の違いがなく、ゲイル達はオリジナルのエドガーと変わらない接し方をしている。


「すまないが、あまり時間を掛けたくない。早速始めて欲しい」


「いいだろう。では、こちらへ」


 エドガーは理事長室の隠し扉を開け、二人はそこからエレベーターに乗り、地下へと向かった。


「待っていたよ。久しぶりだね」


「はい。アーサーさん」


 地下にあるエドガーの研究室。そこにいたのはエドガーの秘書、アーサー。彼は元々デザイアの幹部だったが、デザイアを裏切り、エドガーの秘書兼助手になったのである。


「さて、前もって話した通りだ。再改造といっても、さほど時間はかからない。この新型ゴッドエンジンを二つ、君の体内に移植するだけだ。あとは君の身体が勝手に最適化してくれる」


 アデルの肉体は装甲であり、エネルギー源でもある金属、アザトスキンによって構成されている。だが、それを循環させるためにはエンジンが必要だ。それがゴッドエンジンであり、ゲイルは心臓をこれに改造されている。

 エドガーの再改造構想はこうだ。新型のゴッドエンジンをゲイルの両肺に移植し、三つのゴッドエンジンを同調させる。これにより、アデルは従来の百倍以上に向上する、らしい。ちなみに何かを移植するなどの再改造を行うと、肉体がそれを完璧に使えるよう最適化するシステムをプログラムしてあるので、エドガーの手間も時間もほとんど必要ない。元々ゲイルの中にあったゴッドエンジンも、新型に作り替えられる。


「わかった。では、頼む」


「よし。ではアーサー。サポートお願いするよ」


「は」


 ゲイルを手術台に寝かせ、エドガーとアーサーは再改造手術を始めた。











 ゲイルが再改造を終えて出てくるのを待つアンジェ達。

 すると、


「あーらこんな所にいたのねー」


 ヴィリザが現れた。エリックの予想通りだ。


「お前がヴィリザか。なるほど、いけすかねぇ顔してやがる」


 狩谷はヴィリザを見て言った。


「初めてみる人もいるけど、あなた達に用はないわ。ゲイル・プライドはどこ?」


「さて、どこでしょうね?」


「力ずくで聞き出してみろよ」


 エリックと狩谷は教えない。教えるはずがない。ゲイルを殺しに来ている相手に居場所を教える。そんな馬鹿はいない。それに、ゲイルがいるこの場所を、ピンポイントで探り当てたのだ。詳細な居場所だってどうせわかっているに違いない。


「……ま、あなた達をいたぶってやれば、そのうち出てくるでしょ」


 聞き出すのを早々に諦めたヴィリザは、アンジェ達をいたぶって自分から出てこさせる作戦にシフトした。リムサスを抜いて、銃口をアンジェ達に向ける。

 その瞬間、ヴィリザの全身に強烈な重力がかかり、地面に押さえつけた。


「がっ!! こ、これは……」


「貴様がヴィリザだな?」


 ヴィリザに向けて言い放ったのは、この学園の教師、室岡だった。室岡は重力操作能力者であり、ヴィリザにかかる重力を一気に増幅して、地面に叩きつけたのだ。室岡の隣には、メイリンもいる。


「理事長先生から話は聞いているわ。ゲイルの再改造が終わるまで、全力で足止めするようにね」


 倒せとは言われていない。それは、最初から撃破などできないとわかっているからだ。再改造を終えたゲイル以外には。

 気が付くと、室岡とメイリン以外にも教師と生徒達が現れていて、全員が武器を向けてヴィリザを包囲している。


「……雑魚どもが、舐めるなァァァァ!!!」

 ヴィリザは突然激怒し、全身から力を解き放った。重力による負荷が消える。


「撃てーーっ!!」


 教師の指示で、生徒達が一斉に攻撃を開始する。銃で、能力で、とにかくがむしゃらに攻撃を仕掛けた。アンジェ達も攻撃に参加する。ヴィリザはここにいる全員が束になって挑んでいっても、恐らく敵わない。だから、反撃させてはいけない。させたら、終わりだ。


「こんなもので、私を倒せると思うんじゃない!!」


 怒りのヴィリザは超高速で回転しながらリムサスを乱射する。大量に飛んでくる、大型ミサイル五十発分の破壊力の銃弾。訓練生達は一瞬で全滅した。


「やはり役者が違ったようですね。ならば、ビャクオウ、始動!!」


 小手先の戦術など通用しないと悟ったエリックは、メタルデビルズの二号機、ビャクオウへと変身する。


「そういえばあなたもメタルデビルズだったわね。それじゃあゲイル・プライドが出てくるまで、あなたで楽しませてもらうとするわ」


 エリックが変身したのを見たヴィリザも、怪人形態へと変身する。ビャクオウは自動拳銃型ガンブレード、ホワイトスイーパーを抜き、ヴィリザに向けてエネルギー弾を六発撃った。ヴィリザは即座にエネルギー弾を相殺し、


「ダークレインボーショット」


 リムサスにエネルギーを込めて放った。銃口から虹を思わせる、しかし普通の虹よりも暗めな七色の光線が発射され、ビャクオウを消滅させる。


「ぐっ!?」


 だが、背後に消滅させたはずのビャクオウがおり、ヴィリザは背中に榴弾を喰らった。すぐさま巨大なエネルギー弾を放ち、再びビャクオウを消滅させたが、またビャクオウがヴィリザの背後に、しかも二人現れて攻撃してくる。


「デビルズエイリアスとイリュージョンナイトメアか。厄介ね」


 ビャクオウには身体を自在に変化させるパーフェクトチェンジと、分身を作り出すデビルズエイリアス。そして、幻覚を見せるイリュージョンナイトメアの三つの能力を持っている。ビャクオウは後者二つの能力を使い、倒されたと見せかけて背後に回り込み、ヴィリザを攻撃したのだ。イリュージョンナイトメアは簡単には破れない。何せ、神の目すらも欺く能力なのだ。


「俺達を無視してんじゃねぇ!!」


 狩谷は黄の印を巨大な鎌、エルダーキングに変化させ、アークスを剣に変化させたアンジェとともにヴィリザに斬り掛かった。


「ちっ。鬱陶しい……」


 ヴィリザは二人の攻撃をかわしながら、防ぎながら舌打ちする。


「ライフイーター!!」


 空子が取り出したのは四連装対物チェーンガンライフイーター。ハイパーギガトラッシュと併用して、ヴィリザを攻撃する。ネリーも攻撃に参加する……前に、ヴィリザの攻撃で致命傷を負った訓練生達に回復魔術をかけていた。


「メイリン先生!!」


「はい!!」


 室岡とメイリンも、重力弾と銃弾と炎を使い、応戦する。


「……鬱陶しいって、言ってるんだよぉぉぉぉぉぉ!!!」


 ダメージなど受けない。受けても微々たるもの。しかしそれがいくつも重なり、全身に襲い来るとなれば、まるでくすぐられているかのように非常に鬱陶しい。さらに力を高めたヴィリザは咆哮とともにその力を一気に解放し、全ての攻撃を吹き飛ばした。ヴィリザの左手に、もう一丁リムサスが出現する。もうわかっていることだが、このリムサスはヴィリザが自分の力から生み出す固有武装。その気になればいくらでも生産できるし、実弾もエネルギー弾も撃てる。狙撃も連射もお手の物だ。


「死ねこの虫けらどもが!!」


 狙撃で空子、室岡、メイリンを吹き飛ばし、止めに入ってきたアンジェと狩谷を回し蹴りで蹴り飛ばす。それだけの動作で、ヴィリザの反撃を受けた者全員が戦闘不能になった。


「残るは白のメタルデビルズと、元神のおチビちゃんだけね」


 ネリーは治療を続けていたが、ターゲットにロックオンされてしまった。これ以上時間は掛けられそうにない。


(まだですか……)


 ゲイルが消えてから結構な時間が経つが、まだ出てくる様子はない。エドガーは一時間も掛からないと言っていたが、それでも相応の時間が必要になるだろう。


「……ならば、使うのみ」


 そう言ってビャクオウが取り出したのは、黒いガンブレード、ブラックインフィニティー。この武器に搭載されているシステムを使う。


「シルバーキーシステム、始動!! コード・ケイオス!!」


 ビャクオウはナイアを元に造られたメタルデビルズ。体内に埋め込まれた輝くトラペゾヘドロンと、ブラックインフィニティーに搭載されたシルバーキーシステムが同調し、ビャクオウを黒いメタルデビルズ、ケイオスモードへとパワーアップさせる。


「それがケイオスモード……」


「こうなってしまえばもう加減が利きません。覚悟して頂きますよ」


「面白いわ。あなたの全力、私に見せてちょうだい」


 ナイアが休眠状態であるため、今はここまでしか使えない。今使える全力を、ビャクオウは使う。まず、百人に分身してからの一斉射撃。


「……」


 ヴィリザはその馬鹿げた耐久力を利用して耐えている。だが、


「……雑魚が!!」


 一斉射撃を無視して高速回転。二丁のリムサスを乱れ撃ち、瞬く間にビャクオウの軍団を全滅させた。


「はっ!!」


 しかし、ビャクオウが時間を稼いでいる間に作り出した特大の魔力弾で、ネリーが攻撃する。


「ギャラクティックエンドブレイカー!!!」


 魔力弾が炸裂した瞬間に、ビャクオウはホワイトスイーパーから巨大な光線を放つ。が、まだ終わらない。


「ギャラクティックエンドジェノサイダー!!!」


 ホワイトスイーパーとブラックインフィニティーを合体させ、より巨大な光線をぶつける。大技を連続で命中させ、その上魔術で因果律を操作し、周囲に影響を与えるエネルギーを全てヴィリザに向くようにしている。普通に技を当てるよりダメージを与える方法なため、さすがのヴィリザも疲弊したはずだ。


「エンドオブファントム!!!」


 合体銃から巨大なエネルギーの刃を伸ばし、ビャクオウは斬りつける。

 しかし、


「この程度?」


 ヴィリザはこれだけの攻撃を受けたにも関わらず、全く疲弊していなかった。エネルギー刃を片手で受け止め、容易く握り潰す。


「馬鹿な!?」


「ガッカリね。相方がいないとこんなものかしら」


 そのままビャクオウに接近し、顔面を殴り飛ばしてからエネルギー弾で吹き飛ばす。


「どいつもこいつも雑魚ばかり。それにしてもあなたのお父さんは、大事な家族やお友達がこんな大変なことになってるのに、どうして出てこないのかしらね?」


 一人残ったネリーに、ヴィリザは問いかける。だがそれに答えるより早く、ネリーがヴィリザの頭に踵落としを叩き込んだ。それを片手で防ぐヴィリザ。


「パパのことを悪く言わないで」


「……へぇ」


 ヴィリザの腕から、ミシリと骨の軋む音がする。ネリーはその体勢からもう片方の足で蹴りを放ち、ヴィリザがよけたところで拳を連続で素早く繰り出し、そこから魔力弾を当てて下がる。


「すごいすごい。さすが元アザトースね。そこらに転がってるゴミクズよりずっと楽しめるわ」


 ビャクオウ達を平然とゴミクズ呼ばわりするヴィリザ。さらなる追撃を仕掛けようとするネリーを、


「待て!! ネリー!!」


 止めたのは、校舎から出てきたゲイルだった。


「げ、ゲイル……」


「パパ!!」


 目覚めたアンジェとネリーは、ゲイルを見る。


「ずいぶんと好き勝手やってくれたな。だが、これ以上はさせない。アデル、起動!!」


 家族を、仲間達を傷付けたヴィリザに、怒りをあらわにしながら、ゲイルはアデルに変身した。


「やっと出てきたわね。でも、遊ぶのはもうやめたわ。飽きちゃったもの。だから……」


 ヴィリザの周囲に大量のリムサスが出現し、その銃口が一斉にアデルに向けられる。


「これで消し飛ばしてあげる。ガンズデストロイヤー!!!」


 周囲のリムサスと両手のリムサスから、大量の光弾が放たれる。

 だが、それらは全てアデルに当たる直前に出現した、無数の黒い穴に吸い込まれた。吸い込んだ後、穴は消滅する。


「……えっ?」


 何が起きた? ヴィリザには理解できなかった。


「返す」


 しかしそれを考える暇もなく、再び穴が出現し、そこから今撃ったエネルギー弾が飛んできて、リムサスを全て破壊してからヴィリザに命中した。


「うぎゃああああ!!!」


「お前のことを理事長に話したら、面白い能力を追加してくれたんだ」


 昨日連絡した時、ゲイルはエドガーにヴィリザのことを話した。すると、エドガーはヴィリザの能力や、どんな戦い方をするかについて、事細かく聞いてきたのだ。もちろんヴィリザについては見たまま全てを答えた。その結果、新型ゴッドエンジンに細工をしてくれたのだ。再改造後、新しい能力を追加するようにと。

 能力の名前は、アブゾーブコスモ。アデルの周辺に、知覚、接触、共に不可能な空間を作り出す。空間の中は宇宙と同じくらい広く、その中にあらゆるものを吸収し、必要に応じて放出する。今アデルはこのアブゾーブコスモを使い、ヴィリザのエネルギー弾を吸収して無効化。放出してカウンターを喰らわせたのである。また空間の内部は、アデルのエネルギーを消費することで拡張が可能であり、エネルギーが続く限りいくらでも広がる。


「どうだ。飛び道具を主体に戦うお前に有効な能力だろう?」


 これでリムサスによる攻撃を封じることができた。


「まだよ!!」


 遠距離攻撃が駄目なら肉弾戦を仕掛ければいい。ヴィリザねは身体能力は、ケイオスモードのビャクオウを凌駕するほどだ。全力の拳を喰らわせてやれば、例え炎化しようが炎もろとも吹き飛ばせる。


「はぁぁぁぁぁっ!!!」


 殴りかかるヴィリザ。しかしアデルは、それを片手で止めた。


「なっ!?」


 理由は、先ほどの攻撃だ。アブゾーブコスモは、吸収したものがエネルギー体なら、アデルの体内に吸収して力に変える。


「気付かなかったのか? さっきの放出、俺は全ての弾を返してはいないぞ」


 アデルはヴィリザの弾幕のうち、三分の一を体内に吸収した。ヴィリザがすぐに格闘攻撃に切り替えてくるとわかっていたからだ。


「安心していていいのか?」


「えっ?」


「マドネスドレイン!!!」


 アデルが追加してもらった能力は一つではない。移植されたゴッドエンジンは二基。一つのゴッドエンジンにつき、一つの能力を追加されている。今発動したのは二つ目の能力、マドネスドレイン。接触した相手の力を吸い取る能力だ。


「ぎっ、がぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 その際相手に、常人なら発狂するほどの激痛を与えることから、この名前が付いている。とはいえ、こちらもアデルのさじ加減で痛みの強さを変えられるようになっているが。

 アデルの言葉の意味にようやく気付いたヴィリザは、慌てて離れた。


「はぁ、はぁ、こ、こんな……」


 だがほんのわずかな接触でも、かなりの力を吸い取られている。エドガーの見解では、ヴィリザは宇宙破壊すら可能な強敵。アデル単独でこれに拮抗できるだけの力を出すのは不可能だ。しかし、アデル一人で無理なら、敵の力を利用すればいい。エドガーの改造は、本当に期待を裏切らない。


「お前は遊びすぎた」


 さらにパワーアップするため、アデルはイグニスドライブを使う。


「最初に出会った時点で、もう俺を倒しておけばよかったんだ。むざむざ俺に手の内を明かし、対策を立てる時間を与えてしまった。お前は三流の殺し屋だ」


 プライドソウルを出し、エネルギーを込めながら、ヴィリザの敗因を言う。もっと早く、本気になってアデルを殺しにかかっていれば、ヴィリザは勝っていた。しかし、弱いから、命令だからと手を抜いて戦い、自分の力を教えてしまったせいで、とっくに得ていたはずの勝利を逃してしまったのだ。

 そしてその勝利は、もう二度と手に入らない。今ここで、アデルがヴィリザを倒すから。


「最後の通告だ。ゼノアはどこにいる!?」


「……教えるものか……私がお前なんかに……お前みたいな劣等生物なんかにぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!ツインエッジスライサー!!!!」


 ヴィリザは両手にリムサスを出現させ、銃口に刃を追加し、エネルギーを込めて斬りかかってきた。直接触れなければ、吸収されないと思ったのだろう。その判断は正しい。

 だが、アデルはアブゾーブコスモも、マドネスドレインも使わない。使う必要がないのだ。もうヴィリザを倒せるだけのエネルギーは、充分吸収した。


「エンドオブソウル!!!」


 ヴィリザの攻撃に合わせてエンドオブソウルを放ち、ツインエッジスライサーをかわしながら胴を斬りつけた。


「あっ、あああああああああああああ!!!」


 爆発四散するヴィリザ。アデルの勝利だ。本当はゼノアの居どころを突き止めたかったが、ぐずぐずしているとまた逆転される可能性があったので、そんな余裕はなかった。


「アンジェ!!」


 アデルは戦いが終わってすぐ、変身を解いてアンジェのそばに駆けつける。


「やったね、ゲイル……」


「ああ」


「待ってて。今治すから」


 ネリーも駆け寄り、回復魔術を使おうとする。


「「!?」」


 その時、ゲイルとネリーは驚いて振り向いた。遠い遠いずっと遠く。ここからは見えないほど遠い場所から、とてつもなく強い力を感じる。ヴィリザにとてもよく似た力の波動だ。


「……どうやら、ゼノアが現れたらしいな……」


 使い魔が倒されたからか、主であるゼノアが直々に動き出したらしい。


「ネリー。みんなを頼む」


 ゲイルは一人、先行してゼノアと戦うことにした。


「平気? みんなで行った方が……」


 ネリーは問いかける。すぐに行くより、仲間達の回復を待ってから仕掛けた方がよくないかと。確かに、その方が勝率は上がるだろう。


「……悪い。もう俺は、自分を抑えられそうにないんだ」


 だが、この力を感じているだけで、ゲイルの心の奥底からは、絶え間なく怒りが沸き上がり続けていた。八年もの長い間、ずっと我慢してきたのだ。もうこれ以上、おあずけをくらうつもりはない。


「先に行く。ネリー、アンジェ。二人は傷を癒してから、ゆっくり来てくれ」


 ゲイルはネリーとアンジェにゆっくり微笑みかけ、


「アデル、起動!!」


 再びアデルに変身すると、イタカウイングを展開して、ゼノアの下に向かった。

今回でメタルデビルズ編は終了です。次回からは、聖神帝レイジン編となります。



アブゾーブコスモ


再改造によって身に付けた、アデルの新しい能力。周囲に知覚も接触も不可能な空間を生成し、その中にあらゆるものを吸収し、必要に応じて放出する。エネルギー攻撃を吸収した場合、空間を通じて体内に吸収し、己の力に変えることができる。また空間の内部は宇宙と同規模の広さだが、アデルがエネルギーを込めればさらに拡張できる。



マドネスドレイン


再改造で追加された二つ目の新能力。アデルに接触した相手のエネルギーを吸い取る。その際常人なら発狂するほどの激痛を敵に与え、エネルギー吸収とダメージで二重の弱体化を狙う。ちなみにダメージの度合いは、アデルのさじ加減で調節を行える。

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