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可視コミュニケーション

作者: 動物性野菜

現代社会とは少しズレた世界です。日の出、日の入り、名称などが少しズレています。その少しのズレも楽しんで頂けたら何よりです。



午後2時のジュニア


目を覚ますと昨夜の飲み残した水を口に含み口内を濯ぐ

シンクに吐き出すとカーテンを開けた、夕日が落ちてきて無数のコンクリートの塊が赤くなっていた。「少し早く起きたな」と思いながらマッチを擦りタバコに火をつけた。

椅子に腰掛けぼんやり街を眺めていると一本のメッセージが無数のコンクリートの中から可視電波として「ジュニア」の家に入ってきた、家のアンテナを介して15インチモニターに文字情報として映し出された。


「シゴト、イツモノトコロデマツ バーイ カトウ」

「ニュース ツウシンセンターフキンデゴウトウジケンタハツ キヲツケョ バーイ ホウソウキョク」


一つはニュースで一つはカトウからであった。

ジュニアは可視電波の状態から内容は何となく把握できていた。これは特別なことではなく可視電波から感じとれるのだ。生まれた時に体内に通信機を埋め込まれるようになってもう三十年もたつらしい。しかし市販のモニターやアンテナが高性能になり体内の受信機を使う必要もなくなった、そのため体の中の通信機の性能は悪くなっている。ポータブル式が発売されてからそれが顕著に表れ出した。


ジュニアもポータブル式の通信機を持っていた、最も、今話題の映像転送などはついていない旧式の物だ。据え置きタイプのモニターをジュニアのように使う奴は珍しい。だが映像データは家のモニターじゃないと確認できないので二つを使い分けるしかなかった。映像データも初めから埋め込まれている通信機で確認できるらしいが、いまどきそんな物に頼る奴は少ない、なぜなら集中力を使うし、この情報は直感でしかないような不安感に襲われ、全く信頼のおけるものではないということだ。人間、形に残らないと不安でかなわない、例え通信でさえも。



ジュニアはモニターを見ると首を回し、黒のジーンズと黒のシャツを着て、真っ赤に焼けるコンクリートの中に向かっていった







午後4時のジュニア


「そうか、でササキは?」

「直にくる。」

「重車は?」

「ササキがのってくる。」

窓のない高層ビルのすきまでジュニアとカトウはビールケースに腰掛けて今日の仕事の打ち合わせをしている。


テ-レーテテテー♪テテテテ♪ジュニアのポータブル通信機がなった。

「マーケットチュウシャジョウデ、マツ バーイササキ」


話に集中していたため可視電波に気づかなかった。通信機の小さい緑と黒のモニターをカトウに見せるとカトウはマッチを擦ってタバコに火をつけた。


マーケットへと向かった。

「通信機の曲…」とカトウが珍しく仕事以外のことで話をしてきた

「あぁ、何かわからない。ブル―ズっていうらしいけど」

「へー。はっきりいって楽しい曲ではないな、変えろ」

「いやだね。」


ジュニアはこの曲を気に入っていた。実は通信機にいきなり可視電波もなしに受信されていたデータだった。歌詞がなくメロディしかなく、ほぼ単音の安いつくりだ。はじめは気味が悪く聞きもしなかったが聞いてみると涙が出そうになったくらい衝撃的だった。なぜかはわからない。












午後4時半のジュニア


すっかり日が落ちたマーケットには何台かの軽車と一台の重車が止まっていた。もちろん重車の中にはササキが乗っている。


「今日はしっかり頼むぞ、残りは仕事の後だ。じゃあな。あっあの辺で強盗グループが潜伏してるみたいだから気を付けてな。」

カトウは金をササキに渡すとすぐに立ち去った。

「俺らも似たような事をしているのによくいうぜ」とジュニアは気の抜けた笑い顔をうかべた。


俺は重車の助手席に乗り込むと


「どーも、おつかれっす!」


後輩のヒグチが後部座席から顔を出した。


「よう!お前もくるのか?」

と笑顔で答えたものの、ジュニアは心で「儲けが少なくなるのにくるなよ、クソっ」と毒ずいていた。


「ええ、最近金が足りなくて!ササキさんにお願いしたんす!」


ヒグチは笑顔で答えた。ササキは金と地図を確認すると


「よし…いくか」


と重車のキーを回した。











午後3時のファミリー


薄暗くなってきた。そろそろおやつの支度でも始めようかとママは考えていた、そのとなりでパパは新聞を読んでいた。ジュニアがいなくなってもう2年もたつ。


「ねぇパパ、今日は何がたべたい?」

「久しぶりに「やぶのし」がいいな。ジュニアがすきだったろう」

「ようし!わかったわ!今日は腕に寄りをかけて作るわ!」

シスターは絵本に夢中だ。


ママがエプロンに手をかけた時だった。


ウワ―――――ンンッ!!!!!!火災報知機が鳴りだした。


パパはシスターを突発的に抱きしめた。ママは通信機をポケットにしまうとパパにかけよった。

コンクリートのドアが揺れ始めた。あっというまにドアが崩れると3人の大男が現れ、ゴリラの面をかぶっていた。


「カネを出せ!」

壁をぶちやぶってそのままドリルをパパに向けた。


「金は少ししかない。」パパは財布をゴリラに投げ渡した。一見落ち着いたように見えるがパパは人生で一番の恐怖を覚えていた。


投げ渡された財布を見てゴリラは中身を抜いて財布だけ床にたたきつけた。


「さがせ」


ゴリラ3人は家を物色し始めた。



ママは通信機を握りしめていた。









午後6時のジュニア


深い黒を裂くように重車の三本のライトが道を照らしている。


「あと少しだな。っていうかここら辺ってジュニアの実家じゃねーの?」

「そうなんすか??へーこの辺がねぇ…」


明らかに馬鹿にした目つきだ。確かに真っ暗の街で、あるのは可視電波通信センターの明かりしか見えない。


「わりーかよ!!」


「いや誰も言ってないじゃないですかぁ!!」


最近軽く太ってきたヒグチは憎たらしい顔になっている。


ササキが助手席側の窓を指さして


「おい!あの通信局のでかい鉄塔があるだろ?あそこから可視電波が発信されてるんだぜ?」


「えっ?」

俺と樋口は声を合わせて返事すると佐々木は笑いながら


「あれをじっ…とみてみな?もしかしたら人の電波が見えるかも。」


「そんなことはないじゃないですか!!可視電波は受信する本人にしか見えないんですよ!」



「それはそうだ!センターに登録されてある遺伝子情報を基にしたアドレスにしか送信されない。しかもなぜか可視電波は本人にしかみえない。」



通信機を埋め込まれる時に遺伝子をセンターに登録し、完全に国が通信を管理できるようになっていた。ちなみに30歳以上の人間は自主的に登録となっている。ポータブル型や市販の通信機は簡単な書類を1枚描くだけで使用できるようになっている。



「けどよ…死人宛てに送ったデータが行き場もなくさまよって、偶然見えたり受信してしまうことがあるらしいぜ。」


ササキはニヤリとわらった


ジュニアはブルーズの事を思い出し、じっと鉄塔を見つめた。


すると一本の可視電波が鉄塔からジュニアのポケットに入ってきた。あまりにタイミングがよすぎたせいでジュニアは驚いた。



テ-レーテテテー♪テテテテ♪


「ビックリシマシタ?? バーイヒグチ」


「おい!ヒグチ!びびる事すんな!!」


「いやージュニアさんの顔すごかったっすよ!」


3人の間で大きな笑いが起きた。












午後4時のファミリー


家の中はメチャメチャになっていた。パパは頭から出血して倒れている。ママとシスターはいなくなっていた。結局ゴリラたちが盗んでいったのは金と大型洗濯機とパパがジュニアからもらった帽子だ。


ゴリラたちは部屋を荒らしまわっていた。ママとパパとシスターは怯えて何もできなかった


ただ「この帽子はいいな。」とゴリラが帽子を手にした時を除いては…


帽子はジュニアがパパに唯一送ったものだ。実際はジュニアがスクールで盗んできた帽子だったのだが、パパにすれば価値があったのかもしれない。



「それだけは」


とパパはゴリラにしがみ付くとゴリラはドリルの先端でパパの頭を殴った。ママはきゃぁと叫び声をあげて、シスターを抱えて走って玄関へ向かった。しかし子供を抱えたママが逃げられるわけもなくゴリラはママとシスターを捕まえて縄で縛った。


ママは通信機をポケットのずっと奥に隠した。








午後7時のジュニア

今日の仕事は資材置き場からケーブルを頂くという比較的楽な仕事だ。見張りもいなけりゃ、あたりは真っ暗、後はケーブルをカトウの元に届ければいい。おそらくカトウは裏通信でもする気だろう。裏通信なら国に管理されず仕事ができるからだろう。


「よし、ちゃちゃっ、と済ませようぜ」

ササキは手袋をつけて言った。


「いきましょう!!」

ヒグチは車を降りてそそくさと資材置き場に向かっていった。


ジュニアは重車のトランクを開けて最後に資材置き場へと向かった。


「一人3往復ってとこだな、急げ」


ササキは小声でそう言うと抱えられるだけのケーブルを持って重車の方へ走っていった。

重車と資材置き場まで200メートルはある。意外と重労働である。


ケーブルをすべて重車に積み込むとササキは毛布をケーブルにかけて

「後は運ぶだけだ」

といって運転席に飛び乗った。


資材置き場を後にするといつものように3人のテンションが上がっていった。

楽な仕事とはいえ、捕まるリスクはある。それから解放されたような気になって声が大きくなってしまう。


実際はカトウのところまで運ぶまでは安心できないのだが…


一本の可視電波がジュニアのポケットに向かってきた。何か懐かしい感じがする、けど何か哀しい知らせのような感じもした。










午後6時のママ、シスター


ママとシスターは狭く暑苦しいプレハブ小屋に入れられていた。しかも縄で縛られている。外はゴリラがマスクをはずして二人の処遇について話していた。


「ババァは分からないがガキは売れるんじゃないか?そういう趣味の奴もいるだろうから…」

「ババァ趣味の奴だっているぜ?」

「ぎゃーはっはっ!!!!!」


下品な笑い声に乗せて聞こえてくる言葉は絶望的だった。一つ一つの単語があまりにも卑猥だった。唯一の救いはママは通信機を隠し持っているということだけだった。








午後7時半のジュニア

テ-レーテテテー♪テテテテ♪


「アナタノウチガタイヘン バーイ ダーリン」


「ダーリンからか、もう2年も会ってないな。家が大変??どういうことだ?」

ダーリンは実家に住んでいたときのガールフレンドで久しぶりの通信だというのに

どういう事だ??


「何か通信が入ったんだけど」

「どうしたんすか?」

「家が大変って、多分実家かも」

「気になるな、行ってみようぜ」

ササキはそう言うと重車をUターンさせた。








午後7時のママ、シスター


プレハブに小さい男が入ってきた。

サングラスをかけていたがその奥からでもわかるくらい恐ろしい目つきをしていた。ママは人間と対面してこんなに本能的に恐ろしい男とであったことがなかった。


「ババァは色町に売り払え、いくらでも買い手はいる。ガキは…俺が連れていく。」


ママは口も縄で縛られていたが「アーアー!アー!!!」と叫んだ

それは「娘だけは」といっていたのかもしれない。







午後8時のジュニア


実家近くに差し掛かったところで

「ここで降ろしてくれ…お前らはケーブルをカトウのところに届けろ!」

「いや…でも…」

「仕事はキッチリやろうぜ!!なっ!とめてくれ」

「わかったよ。」

重車が止まるとジュニアは飛び降りた。

「何かあったらすぐ連絡してこい」

そういうとササキは車を出した。

ジュニアは走って実家に行くとドアが破られていた。

中に入るとパパが倒れている、その横でダーリンがパパを介抱していた。


「ジュニアか…すまんな…突然ゴリラの面を被った奴らが押し入ってきて…ママとシスターがいないんだ。」


ジュニアは頭が真っ白になったがそれは一時的な事ですぐ冷静になった

「ゴリラ…「ゴリアテ」の奴らだな」

「ゴリアテ??」ダーリンがジュニアの独り言を拾った。

「有名だよ。強盗集団だ。ダーリン、悪いが、パパを頼む!!」

ジュニアはそう言うと家を出てガレージからパパの折り畳み式のゴルフクラブをジャンバーのポケットに入れて通信機を取り出した。


アドレス帳の中から「ハシバ」を探し出し通信を送った。


「ハナシガアル、シキュウ、スクールマデキテクレ バーイ  ジュニア」














午後8時のシスター


シスターは小さな男に連れられプレハブの隣のぼろ小屋に入った。

「このガキどうです??」

小さな男はスーツを着た男に向かってシスターを見せた。

スーツを着た男はシスターを人間を見る目ではなく性欲の捌け口としてシスターをジロジロみていた。シスターはそういう類の感覚を初めて味わい魂の抜けたように茫然と立っていることしかできなかった。








午後8時半のジュニア

「ヒサシブリダナ、スグニイク バーイ ハシバ」

ジュニアはスクールの校門で待っていると、ハシバがやってきた。ジュニアはスクール時代ハシバから泥棒を教えてもらった。


ササキやカトウを紹介してくれたのもハシバだ。


「どうした?いきなり?」

「ゴリアテの隠れ家を教えてほしい」

「久しぶりに会ったと思えば…トラブルなら俺に任せとけよ。」

「教えてくれ」

「ダメだ」

「何でだよ…」

「これは商売だ、ジュニアとゴリアテ、どっちが俺に対して価値があると思う?ゴリアテだろ?だから隠れ家を教えるわけにはいかん、話があるなら俺を通してからすればいいじゃないか。」


「そんなんじゃおそい…教えろ」

「だめだ」

ハシバがそう言うか言わないかぐらいの時にジュニアはゴルフクラブを伸ばしてハシバの肩に振りおろした。


「言え、じゃないとコロス」

「お、お前、恩知らずなことはするな…今なら許してやる。」

「おまえは今そんな立場にはない」

そういうとジュニアはゴルフクラブを振り上げた。

「わかった、教える、教えるから、許してくれ…」」










午後9時のジュニア

ジュニアはハシバに聞いた通りの場所についた。ハシバには悪いと思いつつハシバの通信機を壊してきた。じゃないと連絡されかねない。

忍び足でプレハブに近づきジュニアは裏からプレハブを覗いた。誰もいない。隣のボロ小屋だろうか?

ジュニアはゆっくりと小屋の裏に回り光が漏れているところから中を覗いた。


「あああああああああああああああああ!!」


なんて事だ、ママが倒れていた。必死に抵抗したのだろう。かなり暴行を受けたのかもしれない、ママはたまにゴリラの奴らに蹴られてその度にケイレンしていた。ゴリラはそれを見て大笑いしている。ジュニアは顔を手で覆い座り込んだ。すると裏からシスターとスーツを着た男と小さな男が出てきた。シスターは顔から生気が失われていたシスターは明るい子だったはずだ。スーツの男は「じゃぁこの子、連れて帰ろうかな…」と言ってシスターの手を引いた。



ジュニアは「あああああああああああ」

と再び声を出してしまった。もう飛び込んでいくしかない。その時小さな男が

「今、裏で何か声がしなかったか??見て来い」とゴリラに指示した。

ジュニアは小さな男を顔をまともに見てしまった。震えているのが解る、人間からは出ないような、例えたら空腹の猛獣のような恐ろしい空気が出ている。


ジュニアは恐ろしくなってゴルフクラブを捨ててその場から逃げ去った














午後10時のジュニア


うっすら、空が明るくなってきた。ジュニアはできるだけ走り、路地裏に座り込んだ。家族を置いて逃げてしまった罪悪感と家族の心配で体が重くなった。ジュニアはマッチに火を付けてタバコをくわえた、煙を空に向かって吐き出すとすぐにかき消された、と同時に三本の可視電波がジュニアに向かってきた。3本ともとっても暖かかった。





テ-レーテテテー♪テテテテ♪

テ-レーテテテー♪テテテテ♪

テ-レーテテテー♪テテテテ♪



ジュニアはそのブルースを聞いた瞬間涙が止まらなくなった。


















「イエハダイジョウブダッタカ?カトウカラカネヲモラッタ。レンラクシテクレ、カエッタラサケデモノモウゼ バーイ ササキ」


「パパハ、ダイジョウブミタイ、ケイサツニレンラクシタカラ、ゴウトウハ、スグニツカマルトオモウワ、ダカラゼッタイムリシチャダメ、レンラククダサイ  バーイ ダーリン」




「タスケテ、ゴリラノゴウトウ、     バーイ ママ」






















初めて小説を書きました。誤字脱字、表現の間違いなどございましたら連絡いただけると幸いです。賛否、感想など頂けたら嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[一言] よく分からない。ってのが正直な所です。 短編では無理があったのか、一つの作品として纏まっていない印象を受けました。 題名でもある『可視コミュニケーション』とはあまり関係無い物語でしたし、ラス…
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