表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/31

黒き森

 ネルガル化した生物は、我々人類の想像から完全に逸脱した形態と習性を持つ。地球固有の生態系では、個体の生物が多いが、ネルガル化した生物は群体や共生体、寄生体などの方が多い。また、地球産の知能を持たぬ植物などはネルガル化しないが、別宇宙の知性を持った植物などは無差別にネルガル化してくるし、それぞれが交配しあって訳の分らない生き物に変異し続けている。そして、そのほぼ全てが有害である。


 エアリーは1分間だけなら飛行する事が出来るので、フクシマとヤマガタの間にある山間部は一気に飛び越えるつもりで居た。勿論、ワンとトアを抱きかかえてである。


 だが、飛び越えられる地点までは歩いて行くしかない。

 彼女達が分け入った森は、凄く嫌な感じの森だった。奥のほうから「シューシュー」「グアッグアッ」といった異音が常に聞こえてくる。


「マスター、頭上と足元には気をつけてください」

 ワンは後ろに続くエアリーに声を掛けた。


「大丈夫よ、ネルガル産の毒や細菌は私の体内には進入して来れないわ」

 エアリーは一人と二匹分の食料と水を背負って歩きながら言った。


「すいませんねー、エアリー様に食料背負わしちゃって」

 エアリーの隣を歩くトアが言った。二匹とも戦闘モードに移行している為、エアリーにはどちらがどちらだか見分けが付かない。


 森の中に分け入ってから30分も経つと、頭上は木の葉に覆われ森の中はまるで夕暮れのような明るさになっていた。


エアリーは背負ったナップザックからサバイバル・ナイフを取り出した。刃渡りは20センチ前後、片刃で超硬質鋼で出来ている。

 エネルギー系の攻撃が出来ない現在、唯一の武器である。

 彼女は右手でナイフを回したり振ったりして重さとバランスを確認した。


「サカタってとこまで何キロぐらいあるんだい?」

 エアリーのすぐ横を歩くトアが聞いた。


「直線で140キロぐらいよ。彼方達犬族なら一日で駆け抜けられるんじゃないの?」


「平地ならそうだけどね。森の中では私達でも無理さ」

 トアはクシャミと共に答えた。


「まったく、忌々しい。孔雀草のおかげで鼻が利きやしないよ、まったく」

 トアは憂鬱な顔であちこちに生える扇状の葉を持つ植物を見回した。その植物は高さが2メーターほどで、葉の付け根から時々赤や青の花粉を噴出していた。


「マスター、木の陰に隠れて!」

 その時、ワンの押し殺した声が聞こえた。


 エアリーは慌てて木の幹の影にうずくまった。その背後には寄り添うようにトアがいる。


「なんなの?トア」

 エアリーは押し殺した低い声で聞いた。


「分らない、先行したワンが何かを発見したのさ」

 トアも前方を覗いながら言った。


 やがて、ワンが注意を呼びかけた元凶が姿を現した。


 それは中型の戦車のような平べったい身体に丸い球体のような四肢を持った生き物、背中では平たい円盤のような物が高速回転している。それは背中から生えた触手で支えられているようだった。

 重そうな丸い四肢を交互に持ち上げてノシノシと進んできた。

 少なくともウラジオストック周辺にはいないネルガルである。


「緑ガメね」

 トアが呟いた。

 全体的に赤緑色なので亀に見えないことも無い。


「あの身体の上部の円盤を操って、獲物を狩るのよ」


 その時、緑ガメの身体がいきなり十数メーターも空中に突き上げられた。緑ガメの真下の地面から海栗の棘のようなものが無数に生えている。それが緑ガメの身体を中空に突き上げた原因らしい。普通の生物なら貫通するところなのだろうが、緑ガメの分厚い装甲は貫けなかったようだ。


「海栗サソリが隠れていたのね」

 トアはそれを見て言った。


 その時、緑ガメの背中のリングがフッと動いたかのように見えた。次の瞬間、地面から突き出した海栗サソリの棘が十数本まとめて吹き飛んだ。

 緑ガメは身体を支えていた棘がごっそりと無くなってしまったため、皿がドロに突き刺さるように地面に落下した。


 その煽りを受けて、緑ガメの傍らの巨木がバリバリッと大きな音を立ててエアリー達の方に倒れてきた。エアリーとトアはそれを素早く避ける。


「マスター、まずいことになった。森中のネルガルが集まってきてしまう」

 いつの間にかワンが近くに居て声を掛けてきた。


「右側から回り込んで向こうに抜けよう。トア、後ろを守ってくれ」

 ワンの指示で一人と二匹は駆け出した。


 今の情けない状態でもエアリーの身体能力は常人を遥かに凌駕していた。平地ならば100メートル4秒フラットで走れるだろう。


 全力で走る彼らの前方に、地中の海栗サソリの本体が姿を現そうとしていた。その毒々しい赤色の身体は、緑ガメの2倍近くはあるに違いない。

 エアリーは地中から突き出してきた海栗サソリの鋏みを、寸でのところでかわして向こう側に走り抜けた。


 緑ガメと海栗サソリの戦いを後ろに見て走り出すとすぐに、前方から高速で近づく奴が目に入る。

 黄色と黒の見慣れた警戒色がスズメバチを連想させたが、それは更に凶悪な生き物だった。空を飛ぶ虎である。


「まずい、タイガービーだ!」

 タイガービーはエアリーも知っている。


 体長は2メーター、外骨格の獰猛な空飛ぶ虎だ。そいつの武器は、サーベルタイガーのような大きな顎、尻尾のように見える腹の猛毒の針、そして高速で飛び回る羽である。勿論肉食で集団で狩をする。

 まさしく前門の虎である。


「ちっ、隠れる場所がない」

 ワンの苦しげな声が言った。


「それじゃあ、やっつけるしかないね」

 トアがそれに答える。


 二匹は申し合わせたように息を合わせてエアリーの前方に躍り出た。二匹の口から数千度に昇る巨大な火球が射出された。それは地面を焼き焦がしながら30匹は居るタイガービーの半数を消し炭に変えた。


「半分残っちまったね」


「気をつけろよ、トア」

 二匹はエアリーを真ん中にして左右に散った。足を止めた一人と二匹をタイガービーが包囲する。


 ぶっぶぶっという羽音と、ぎーっぎぎーっというタイガービーの警戒音が不気味に木霊する。


 エアリーは身体の芯に圧倒的な力が存在しないのを痛感していた。その分伝統的な体術に頼らなければならない。彼女は唇を引き結ぶと長年修練してきた体術の感覚に身をゆだねた。


 そしてタイガービーの攻撃が始まった。

 弾丸のような速さで四方八方からタイガービーが接近する。凶暴な顎が左右からエアリーの首を狙って肉薄した。


 エアリーは予備動作もなく前方に跳躍すると巨木の幹を足場にして中空にとんぼ返りをうつ。そして左から迫っていたタイガービーの頭部に左手をつくと、そいつの背中羽の付け根の辺りに超硬質鋼のナイフを深々と根元まで突き立てた。タイガービーの体内で何かがブチブチッと切断される音がする。彼女はそのままそいつを踏み台にして右上の更に上方の個体に踊りかかった。


 エアリーの一連の動作はムダがなく美しかった。伸びやかな肢体がひらひらと中を舞う様は、プロのバレエダンサーのようで見ている者を魅了せずにはおかなかった。


 エアリーの姿を追うワンとトアもその美しさに心を奪われていた。

「綺麗だねえ、クリエーターって」


「ああ、美しくてそして強い」

 二匹は会話を交わしながらもタイガービーをその爪と尾で次々と葬っていく。


 エアリーは二匹目のタイガービーの頭部を胴体から切断してフワリと地上に降り立った。タイガービーとの戦闘が開始されてからワンとトアが倒した個体も入れると、わずか数秒間で半数の敵を葬ったことになる。


 しかしエアリーにとっては、歯がゆくなるほどスローな戦いだった。ジェットエンジンの戦闘機からグライダーに乗り換えたような落差がある。


 彼女を目掛けて左上から襲い掛かるタイガービーの脳天にナイフを突き立てて、その反動で空中に飛び上がると、独楽のように横様に回転しながら上方のタイガービーの胸を切り裂く。ワンとトアも牙と爪と尾で次々とタイガービーを倒してゆく。


 もうそれは襲う側と襲われる側が逆転した修羅場になっていた。ふと気が付くと全てのタイガービーが躯となって地面に散乱していた。


「まったく、こんな雑魚にこんな時間が掛るなんて」

 エアリーはむっつりと言った。


「マスター、まだ森に入ったばかりです。油断しないで下さい」

 ワンが戦闘装甲を解きながら言う。


「わかってるわよ、フン!」

 エアリーがぷりぷりしながら答える。


「おお、こわ」

 トアがエアリーに聞こえないように囁いた。




私は全体の構成をまったく考えずにペンの赴くままに書いているものですから読みにくいところもあると思いますがご容赦ください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ