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王と王孫の帰還


白い象牙でできたかのような細い腕が、ロバートの逞しい胸板から生えていた。


 その手には、赤黒く脈動する心臓とそっくりなモノが握られている。


「我は許さぬ。7層から這い出てきたナメクジもどき……」

 ユニクの低く抑えた声は、激しい怒りに少し震えていた。


ロバートの体はピクリとも動かない。まるで、糸の切れた操り人形のように、自分の胸を貫いたユニクの細腕に支えられている。


「…………な、何故、ババアが……ここに……?」

 切れ切れの呟きが、ユニクの掌の上に捕まえられた肉塊から聞こえた。


「フン! 裏切者に答える謂れは無いね! それに、今は忙しいんだ! 本来ならば、生まれてきた事を後悔するような目に合わせてやるんだが、お前はさっさと時空の彼方に消えちまいな!!」

 ユニクはそう言うと、愁眉にしわを寄せて掌に掴んだモノを事象の境界で包み込んだ。


 圧縮されていない(ブラックホールの中身程)肉塊の周りに作り出された事象の境界は、中身を一瞬にして外に吸出し境界を通過する物質全てを純粋なエネルギーに変換した。


 客観的に見れば、肉塊が黒い球体に覆われた瞬間、『ピチッ』という微かな音と共に高さ3メートル程の虹色をした火柱になり、熱気を残して消滅したのである。


 この能力は、彼女を『スカーレット・ダムド(炎の糞野郎)』と呼ばしめるものだった。


 ユニクは空手になった腕をロバートの残骸から引き抜くと、紋章とジュリアスに視線を向けた。


 ロバートであった肉塊がどさりと倒れる音も全く気にした様子もない。


「……やめるんだ……ユ……ニク」

 右の頬をチューブに同化されたジュリアスが、ユニクを懇願するような目でじっと見詰めながら言った。

「……ジュリアス、ああ、かつての私の半身。150年は、長かった。本来、私が紋章を守るはずだった。新たなあなたの血筋を身籠ってさえいなければ……」


 ユニクは柔らかな微笑みを湛え乍ら、ゆっくりとジュリアスに歩み寄っていった。


 150年を経たユニクは少女から成熟した大人へと変貌していたが、その瞳には若かりし頃の光が宿っていた。


ユニクはジュリアスが最初に復元した第1世代のホモ・マーシャントだった。火星大戦を経て、木星圏に反抗の拠点を作り、クルースン侵攻、地球攻略戦とずっと彼の隣で戦い続けてきた。そして、人類制圧後の地球支配の秩序作り……200年に及ぶ人生が走馬灯のように去来する。


 正直言って、地球攻略戦でジュリアスの存在の大部分を失ってからは、辛い事の方が多かった。


『……わたし、我ながらよくやってきたわよね?』

 ユニクは改めて自身の心に問いかけ、そして、その顔に柔らかな微笑みを浮かべた。


 今、ユニクの200年の人生をかけた世界が、崩壊の危機に瀕している。不安定に脈動する要の紋章……その紋章に飲み込まれようとしている愛しい人……そして最後の関門を抜けようとしてもがいている大事な大事な孫娘。


 正直言ってユニクの力はジュリアスに及ばない。ジュリアスの代わりに紋章を制御したら、ユニクの存在はこの12番目の宇宙存在面から消え去るだろう。


 ユニクはおもむろにジュリアスの乱れた髪を優しく撫でると、背筋をピンと伸ばし腕を緩やかに胸の前に組むと、静かに目を瞑った。


「やめろー!! やめるんだ、ユニク!? 頼む、逝かないでくれ、エグッ、グフッ、エグゥ……僕を一人にしないでぇ……」

 ジュリアスは、チューブに癒着した体をメチャクチャに暴れさせながら、血の涙を流して彼女に懇願した。


 それに対してユニクは最後の瞬間に微かに笑ったように見えた。


 次の瞬間、ユニクの胸から色とりどりの10本の光輝く極太の触手が飛び出し、紋章の部屋をウネウネと満たしていく。もはやユニクの肉体はその奔流の中に埋没し、見えない。


 触手はジュリアスを覆い、紋章のチューブに絡みつき、その部屋の全てを充たした。最後に強烈なフラッシュが外側から部屋の中心に走った後には、紋章の部屋の中心に2つの人影が立っていた。


 1人は身長180センチ程の精悍な顔つきの30がらみの青年。


 もう1人は、紋章の旅を終えた『小皇帝』レナであった。


 二人はお互いの体に手を廻し、しっかりと抱き合って立っている。


 レナは男性の胸でさめざめと泣き臥せっていた。


「……おじいざばぁ……おばぁざばぐぁ……おばぁざばぐぁ……えっぐぇ、ヴぇぇん!」

 レナは男の胸に顔をこすりつける様にして言った。


「……レナ、お前のせいではないよ。元はと言えば、不完全な私があの『毒婦=クレハ』をあんなチャチな封印に閉じ込めて満足していたのが原因だ。しかも、ナイガン家などの陰謀も侮って放置していた……すまん」

 御爺様と呼ばれた男は、砂を噛んだような顔でレナに言った。


「このジュリアス・スチュアートが戻ってきた上は、諸侯の謀反も、ナノ・ウィッチなどという輩の反乱も絶対に許さん!」

 彼はそう言って唇を噛み締めた。


 ネルガルの王とその孫娘の帰還は、女王ユニクの消滅という犠牲の下になされたのだった。




この辺が第1部的なものでしょうか。

何も考えずに書き始め、エタる事数度……

ようやく物語の3割が終わった感じです。

2年半かけてこれですから先はまだ長そうですね@@

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