最後の希望の女神
この部分2重投稿になってしまいました;;
近日中に差し替えます(。・人・`。))ゴメンネ
6/23差し替えました。
やればできる子だったのが ビックリです。
クリスは知性化犬シュニに導かれて、センダイの大学廃墟に潜入していた。
廃墟内部は照明も無く、日中でも漆黒の闇に包まれているが、強襲偵察人型筐体であるクリスにはまったく苦にならない。彼女の外部情報収集オプションには、全くの闇の中でも鮮明に辺りを見通す物が多数用意されている。
現在も音響可視化システムを用いて、シュニの肉球がたてる『シュプシュプ』というかすかな音がクリスを地下構内へと導いてゆく。
シュニの足音以外にも、シュニ自身がクリスに時々声を掛けながらクリスを導いてくれているのだが。
そうこうする内に、地下2階のコンテナが設置されている部屋に到着した。
そこは地下2階なのに天井から日の光が差している。シュニの説明では、ここで火星からの侵略者とナノ・ウィッチのエアリーが戦闘を繰り広げたとの話だ。
クリスはそれで納得した。普通地下2階からマイクロ波ビームは月まで届かないからだ。
「クリス様、私は外の警備に戻りますね」
シュニは恐る恐るそう告げてさっさと地上へと行ってしまった。どうもコンテナの主『クレハ』の事を恐れているようだ。
確かに、破れた天井から差し込む光がスポットライトの様にコンテナを照らし、神秘的な雰囲気をかもし出している。シュニが『聖なるコンテナ』と言い表すのも解る気がした。
クリスは半壊した地下室に足を踏み入れた。
「あら、いらっしゃい。案外速かったのね」
地下室に踏み込んだクリスに誰かが声を掛けた。
「誰だ!?」
クリスはコンテナの前に忽然と現れた女に向かって言った。
その女は黒髪、黒い瞳で、紫色のゆったりとしたツーピースの制服の様なものを着込み、嫣然とした笑顔を浮かべてクリスを興味深そうに見詰めている。
「私の名はクレハ。人類最初の量子化された人間よ。月の世界から来た兵士さん?」
彼女はそう言ってクリスに手招きをした。
「私はUEEDF(アンノウン・エンカウント・エネミィ・デフェンス・フォース)が地球に派遣した強襲偵察人型筐体クリス・ネヴィルだ……」
クリスは、そう説明した途中である事実に気が付き愕然とした。
『音声で会話している!? え? 今見えているアレは筐体なのか?』
『違うわよ。もっと遙に進んだ技術……量子ボディよ』
クレハは直接クリスの思考バンドに割り込みながら言った。
『な!?』
クリスは驚愕を超えて慄然とした。
「まあ、とにかく此方にいらっしゃい。折角量子ボディを作ったのだから、あなたの電子海馬システムに直接思考を送信するのは2度手間なのよ」
クレハは音声でクリスにそう伝えた。
『恐ろしい……』
クリスが最初にこの女に抱いた感情だ。
「『量子ボディ』!? 『直接思考送信』!? そんな馬鹿な!」
クリスは思わず疑問が口を突いて出ていた。
「まあ、色々とね、ルナリアンには出来ない事を私が出来るのは確かね……でも、こんな離れた距離で怒鳴り合う様に会話する趣味は私には無いわ。傍に来てくれると助かるんだけど?」
クレハはそう言って再びニッコリと笑った。
『仕方が無い。私の任務は地上から可能な限り情報を持ち帰る事……』
クリスはクレハが発する威圧感に屈服して中央のコンテナにおずおずと歩み寄った。
「初めまして、私は地球最後のナノ・マイト、フジワラ・クレハよ。エアリーがルナシティに到達できるようダメ元で月面に救難信号送ったけど、まだルナリアンは存在してるようね?」
クレハはコンテナの中にある形容しがたいイスにクリスを座らせると言った。
「ああ、だが生身で生き残った者は居ない」
クリスはクレハの言葉を肯定した。
「彼方のそのボディを見ると、まだ量子ボディの開発に成功していないようだけど……
」
「ええ、仰る通り私達はその技術を持っていない。出来ればご教授願えるかな?」
クリスは強がった作り笑いを浮かべながらクレハに言った。『そう簡単に教えてくれないだろうが』と内心思いながら。
「あら、いいわよ? でもね、只では教えられないのよね」
クレハの返事にクリスは驚いた。量子ボディの技術があればルナリアン悲願の『肉体を取り戻す』事が出来るようになる。
「どのような条件があるんだ?」
クリスはごくりと唾を飲み込む(実際に戦闘用筐体では出来ないが、ニュアンス的に)様に尋ねる。
「彼方の身体を改造させてちょうだい」
クレハはサラッと言った。
「か、改造だと?」
クリスは忙しなく頭の中で考えていた。
『どの様な改造がなされるのだろう? 個人的には所詮筐体なので量子脳さえ弄られなければムカデ形の筐体に改造されても別にいいのだが……この後の地球上でのミッションに影響が出るような改造は願い下げたい……』
「あ~ら、そんな面白い改造しないわよ? 彼方の今のボディ、結構性能良さそうだし」
クレハはクリスの考えを読んで驚いたように言った。
「単に彼方の体内に小型の量子脳を作って、私自身を圧縮収納するだけだから……」
「え? それだけ?」
クリスは拍子抜けした様子で言った。
『願っても無い事だ……正直聞き取り調査だけでは、本部に現状を全て報告するのは不可能だ』とクリスは判断した。
「私もね、安全保障の観点から、月面に避難したいし、ここで長々とナノマシンやナノ・ウィッチ、ネルガル何かに付いて時間を取りたく無いしね」
クレハは柔和な笑顔を湛えて言った。
「解った、改造してもいい。いや、是非改造してくれ」
クリスもニヤニヤと笑いながら答える。
「では、彼方のボディに工作用のナノマシンを送り込むわよ?」
クレハはそう言って粛々とクリスの筐体の改造を始めた。




