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5次元の傀儡・その5

ちょっと長く休止しすぎました。

すいません


『ヴァ!! バリバリバリバリ!』

 百雷の轟音と共に、白熱した熱線が目の前に槍衾を作った。2条の滅死の漏斗が交差する処では、灼熱の弾体が作る高熱で空気が爆発的に膨張し、レールガンのビーム同士が陽炎によりアトランダムな曲線を描きながら更なる回避不能な拡散をする。


 エアリー達の前方20メーターに存在した全ての物は、ぼろ雑巾のようになって飛散した。


「凄いな、これは……」

 レールショットガンを放った当の本人がその威力に感心していた。


「エアリー様、液体燃料の補充が終わりました」

 トアがエアリーに報告する。


「よし、窒素砲以外の火力を全開で、このまま中心に突入するわよ」

 エアリーは2匹に声を掛け、中心部に向かって敵に切り込みを開始する。


 今までは広場の外周部を回りながらの迎撃戦であったが、今は多少無理を押しての突撃である。


 コンドリアもエアリー達の意図に気付き、更に新手を召還して迎撃をしてきた。


 イオン流の旋風が地を叩き、双頭の魔犬の顎門は火炎を振り撒き、レールショットガンがアザミの花の様に咲き狂う。


 乙女達の電撃も立て続けにエアリー達異形のケンタウルスに電弧を飛ばし、音波機雷の衝撃波が周囲の空間をミキサーの様に乱暴に掻き回す。


 エアリー達は相当なダメージを受けながらも、乙女達の防柵を切り裂きながら急速にコンドリアの陣取るひな壇へと迫った。


「ワン! 今だ、撃て!!」

 ひな壇の手前50メーター程でエアリーがワンに射撃命令を下した。2匹の胸の真ん中に挟みこむように保持された窒素砲から、巨大な火花のアイスクリーム・コーンが飛び出しコンドリアを直撃した。


「ナンデスカー! コレハ!!」

 コンドリアは迫り来る火花の津波に思わず小さな悲鳴を上げて両手で頭を庇った。


 エアリーは目を見開いて『ヤバッ!!』と小さな声で呟くと、コンドリアに背を向けて一目散に離脱を始める。


 窒素砲の弾体は、ひな壇の2段目に命中した。


 まず、強烈な閃光と共に、直径30メートルの白熱の真球が突然現れた。エアリー達は大急ぎで離脱中だったが、中心から100メートルも離れない場所で、背後から白熱の熱線に焼かれる。炭素繊維で出来た体表が、炭に火がついたように真っ赤になり、もわっと白い灰が背中から舞い上がった。勿論コンドリアを囲んでいた白銀の乙女達も、その熱線を浴びて、『ジュワッ』という音を立てて皮膚を爆ぜさせ、飛び散った体液は即座に沸騰する。


 間髪を置かず、コンクリートも粉々に砕く衝撃波がそれを中心にして音速で拡散した。


 1平方センチ辺り10トン超の衝撃波は、エアリー達を広場の外周に向かって更なる速度で吹き飛ばす。


 それに数瞬遅れ、赤黒い火の玉がグングンと成長し、その下部から猛烈に空気を吸い込んで上空で広場を覆うほどの巨大なきのこ雲に成長した。


 エアリー達は時速数百キロという速度で外側に投げ出された。しかし、外周がうっそうとした竹藪であったため、それがクッションとなり最小のダメージでミニ核爆発をやり過ごした。


「……ワン……トア……大丈夫?」

 エアリーは竹の葉っぱを4~5枚髪飾りにしながら起き上がって言った。


「……何とか大丈夫です。マスター」

 ワンがそう返事する。


「あいたたっ! 何なのあれ? お尻に火傷負うところだったわ!」

 文句を言いながらもトアが答える。


 彼女等の周りは広範囲になぎ倒された竹が爆心地から放射状に外側に折り重なって倒れている。竹の節は潰れすだれの様だ。


「兎に角、完全にやっつけたかどうか、確認に行きましょう」


「マスター、流石にあの攻撃を受けて死なない生物は居ないと思いますが……」


「そうよ! 無理でしょ?」

 二匹はエアリーの言葉に、『どんだけだよ?』という気持ちで反論する。


 だが、エアリーはナノ・ウィッチとしての実践を通じて敵の敗北を確認するという習慣から決して気を抜かなかった。

 エアリー達はムクムクと起き上がると、爆心地の確認に向かった。


 広場を埋め尽くしていた丈の高い芝生は、熱線で焼き尽くされており、エアリー達がその上を歩くとサクサクと軽い音を立てて白い灰となる。


「片手が繋がってると、何か歩きにくいねぇ……」

 トアがブツブツと文句を言う。


 彼女らは戦闘状態を維持したまま、広場中央に穿たれた直径50メートル程のクレーターの淵まで歩いて行った。クレーターの淵は元の地面から5メーターほど盛り上がり、グルッと円形に爆心地を取り巻いている。中心部分を確認する為にはその上に上らなければならなかった。


「うわっ! 見たこと無い景色!」

 クレーターを取り巻くマウンドに飛び乗った3人の内、一番警戒心の薄いトアが軽薄な声で呟く。


 そこは深さ15メーター程の浅い洋皿状に地面が抉れていた。コンドリアが鎮座していた場所には、青緑色の高熱で融けた様な乗用車程の塊が有り、そこから直径2メートル位の水道管の様な物がウネウネと四方八方に伸びていた。それら全てが心臓が脈動するかの様に規則的に緑色の燐光を発していた。


「これは…………」

 エアリーは眉を顰めてそれを見詰めた。


「この広場全体の地下に、この配管(?)が通っているのか? しかも窒素爆弾に耐えて残っただと?」

 エアリーはそれに非常に嫌な予感を覚えた。


「マスター、綺麗サッパリやっつけましたね?」

 ワンがドヤ顔でエアリーを振り返る。


「ワン、ホンとにそう思ってる?」

 エアリーは怪しく発光する緑色の配管(?)いや、パターンに意識を集中しながら言った。


 彼女が観察するうちにそのパターンの拍動がどんどん速くなってくる。そして、中心の残骸状の物体の上部が餅が焼けるようにプクゥ~と膨れていき、それが裂けて白いドロドロした物が溢れ出して来た。背後では『パリパリ、カサカサ』という音が響き、慌てて振り向いて見ると2~3センチ程の芝の新芽があたり一面の灰の中から立ち上がってくるのを目撃する。


 エアリーはその様子を見て戦慄した。


「ワワワ、ワン?! ワオォォォーーン!」

 ワンとトアはビックリしすぎて、犬並みのリアクションで吼え始めている。


「こら! 何を呆けて犬みたいに吼えてるの、二人とも!」

 『いや、犬にそんなこと言っても……仕方ないか……』エアリーは内心そう思ったが、咄嗟に復活し始めているどろどろとしたコンドリアの素(?)に向かってレールガンを連射した。


 レールガンの灼熱の光条はどろどろとした物体の一部を蒸発させるが、とてもその再生を停止させる事は出来なかった。

 ワンとトアは本能的な恐怖を感じたのか、カーボン繊維の毛を逆立てて唸っているだけだった。


 エアリーは中心に出来つつある本体への攻撃をやめ、クレーターの底に張り付く脈動するパターンにレールガンの照準を向けた。


『……コンドリアの本体は、あのパターンなんだわ……』

 エアリーはそう確信したが、レールガンの火力ではそのパターンにダメージを与える事は出来ないようだった。レールガンの弾が無常にも弾かれて逸らされている。多分、窒素爆弾の弾等も通用しないだろう。先ほどのあれ程の爆発でもパターンはビクともしなかったのだ。


 『このままでは数分も掛からずにコンドリアは復活してしまうだろう』そう考えるとエアリーはウンザリした。彼女は覚悟を決めるとワンとトアに声を掛けた。


「あんた達、今から私の取って置きの武器で攻撃するけど、ちょっと辛い目にあうかもしれないわよ?」

 二匹は同時に彼女を振り向く。


「マスター、アレを撃つんですね?」

「え? あ、アレって何よ?」

 訳知り顔でそう言うワンにトアが突っ込む。


「ワンは前に見ているから知ってるけど、これから『全放射線砲』っていうのを撃つのよ、トア。

 だけど、センダイの遺跡で私はエネルギー発電炉を失ったから、彼方達のエネルギーを使わないと発射できないわ」

 エアリーはトアに手早く説明した。


「え? ええ?」

 わたわたとしているトアを無視してエアリーは言葉を続ける。


「これは、私の切り札だからとってもエネルギーを使うのよ。もしかしたら、彼方達二人の全エネルギーを吸い上げちゃうかもしれないから、気合を入れて発電をしてね?」

 エアリーはそう言ってニッコリと笑い、ワンとトアとの接続部分のプラグから、二人の体内にフォノニック素子を構成する第五世代のナノマシンを侵食させていった。


 ものの数秒でフォノニック素子ナノマシンは、ワンとトアの体内に深く張り巡らされ、鉛薄膜核融合素子と直接接続される。


「ハウーン、変な感じです、マスター」

「ちょっ、何これ!? すっごい気持ち悪い……」

 二匹のそれぞれ違う反応を耳で受け流しながら、エアリーは『全放射線砲』のスタンバイを進めていた。『全放射線砲』とは人為的に超新星爆発の際に放出される『ガンマ線バースト』を作り出すことだ。これにはあらゆる波長及び高エネルギー粒子が含まれている。その威力は押して知るべし、赤外線ビーム+レンズで収束された自然光+収束された紫外線光+レントゲンビーム+ベータ線ビーム+ガンマ線ビーム+ニュートリノビーム+その他粒子ビームである。


 エアリーの全身にフォノニック回路の刺青が輝き出し、右手の内部の超磁力レンズに伝達経路が次々と接続され始める。ワンとトアの体内にある無数の微小鉛薄膜核融合全てと回路が接続された。


「いくわよ!」

 エアリーの掛け声と同時に、ワンとトアの体内から全てのエネルギーが吸い上げられ、彼女の右手から正視に耐えない白熱の光線がパターンに向かって照射された。


「グギャゥン!!」

 同時にワンとトアの口から苦痛の唸りが吐き出される。


 ワンは自分の身体から奪い取られるエネルギーの喪失感に悲鳴を上げた。体内の鉛薄膜核融合炉は一瞬200%の過負荷になり、体温が一気に10度近くも跳ね上がる。視界が暗転し、意識が遠くなる。なのに、更にエネルギーが吸い上げられ続けた。


「……あっ、もう駄目!!!!!」


 そして、ワンは意識を失った。




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