表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/41

第八章。夏の夜風を楽しむ露天風呂。湯気にたなびく鼻歌。

 広島駅に到着したのは午後9時30分過ぎだった。さすがにこの時間ともなると少々肌寒く感じる。半袖で身震いしている優佳に上着を掛けてやり、古泉の持つ地図を確認しながら路面電車の停留所を探した。

 旅館近くまで行く路面電車に乗り込み、3人並んで座る。

「上着、ありがとうございました」

そう言って優佳が上着を渡してきた。たしかに車内じゃいらないな。

「いいってことよ。体冷やさないようにしないとな」

夜の帳を路面電車は駆け抜けていくのであった。


 路面電車に揺られること十数分。お目当ての駅に到着した。古泉の案内に従い旅館を目指す。しばらく歩き、街の灯も少なくなってきた辺りに旅館は佇んでいた。ぼんやりとした温かみのある白熱灯に照らされた古風な旅館は、時の流れが止まってるようにさえ見える。

「なかなか良い旅館に見えるな」

最近はビジネスホテルばかりで旅館に泊まる機会がなかった。これは期待できそうな感じがする。畳の匂いを肌に感じつつ夏の広島の夜風に包まれる。パリッとした浴衣なんか着込んで散歩でもしたいもんだ。

 チェックインを済ませ、部屋へと向かう。俺と古泉が松の間。優佳が隣の梅の間だ。部屋の隅に荷物をドサリと置き、畳の上にゴロンと横になるとどっと疲れがこみあげてきた。今日一日大変だった。

「大浴場があるみたいですね。行ってみませんか?」

古泉が案内板を見ながら言う。

「温泉か。今日は熱海で入れなかったし行くか」

ちゃっちゃと浴衣に着替え、部屋を出る。温泉はたしかロビーの隣の廊下をまっすぐだったな。一応優佳に声をかけていこうか。

 そう思い梅の間のふすまをノックする。しかし全く返事は帰って来なかった。どうせ疲れて寝てしまっているのだろう。風呂上がりにでもまた来てみるか。

「古泉、行こうか」

古泉に声をかけ俺たちは温泉へ向かった。


「あぁ~。風呂は命の洗濯だなぁ!」

 湯船に浸かりながら俺はそう言い、二人以外誰もいない露天風呂で景気よく歌を歌い出す。

「汽笛一声新橋を はや我汽車は離れたりっと」

古泉も気持ちよさそうに湯船に浸かっている。やっぱ風呂はいい。一日の疲れが嘘のように感じる。

「愛宕の山に入り残る 月を旅路の友として~」

俺の歌声は夏の広島の夜にこだました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ