第三十五章。類は友を呼び似たもの同士の二人は微笑む。
盛岡駅から列車に乗り、宮古駅を目指す。宮古駅で一日乗車券を購入し、久慈行きへのリアス線に乗り込んだ。
「いつになったら到着するんだ?」
発車から三十分ほど経ち、古泉に尋ねた。
「宮古駅からおよそ二時間半ほどで到着する予定です」
しれっと答える古泉はすまし顔で車窓の景色を楽しんでいた。後二時間もこのままなのか。涙が出てきそうだった。
「千春さん、なにかして遊びませんか?」
落胆する俺に気を使ったのか、優佳が話しかけてきた。
「何するんだ?」
こんな電車の中である。出来る遊びも少ないだろう。
「えーっと、じゃあ、しりとりとか!」
なぜお前らはそうしりとりばっかりしたがるんだ。
「却下」
首を横に振り否定する。優佳はそれを見て落ち込んでいた。
「いいじゃないですか、しりとりくらい」
元凶のお前が何を言う。もっと他に遊びはないものだろうか。
「あ、じゃあ暇ついでに報告しますね、私、千春さんの彼女になりました」
一瞬何を言ったかわからなかった。さらっと爆弾発言をした優佳は嬉しそうにニコニコしている。いや、いきなり言うのもあれだが、暇ついでってなんだよ。
「おお、それはそれは。おめでとうございます」
古泉はもちろん知っており、平然と上っ面だけの祝辞を述べていた。
「まったく」
こいつらは突拍子の無いところでは似たもの同士かもしれないな。そう思いつつ窓の外に目を向けた。
久慈駅に到着したのは、すでに夕方に差し掛かる頃だった。夏なので日は沈んでいないが、あたりは日中よりも幾分か涼しくなっており、過ごしやすくありがたかった。
「では、ちょっと行ってきます」
改札を出た後古泉は俺達にそう告げて、窓口付近のスタンプ台の写真を撮り始める。そして近くにイラストの入った直筆サインの色紙を見つけると、感極まって涙を流していた。
「こんな辺境でここまで喜んでくれるなら、書いた人も本望だろうよ」
小さな声で呟いたが、優佳には聞こえたらしく、笑われてしまった。やれやれだ。
「おまたせしました。行きましょうか」
しばらく駅の出入口でぼーっとしていると、満足顔の古泉が話しかけてきた。
「この近くに琥珀博物館というものがあるらしいです。行ってみませんか?」
観光案内マップを読みながら提案してきた。どうやらこのへんにはその博物館くらいしか観光施設はないらしい。
「バスが出ているみたいですが、次のバスまで三十分後みたいですね。待つのも大変ですし、行けない距離じゃなさそうなので歩いてみませんか?」
俺の考え方だと歩くほうが大変だとおもうんだがな。だが、こうやって綺麗な空気を楽しみつつ遠足も悪くはないだろう。
「歩いてみるか。優佳はそれでもいいか?」
俺の問いに優佳は嬉しそうに頷き、俺の腕にしがみついた。
「千春さんと一緒なら何でもいいです」
そう笑顔で言う彼女に魅了されつつ、俺達は歩き出した。しかし、これが重大なミスであった事を俺たちはまだ知らなかった。