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第二十六章。揺れる車内にトラジマのミーは何を想うか。

 夕暮れの東北自動車道をトラックは走る。

「お前さんたちすごいんだな。広島と盛岡なんて普通は同時に行こうと思わんよ」

俺だって普通は行こうと思わないさ。古泉の付き添いじゃなければな。

「ええまあ、色々と事情があるんですよ」

古泉はなんとなく慣れない雰囲気で優作と会話している。例の人見知りだろうか。

「なーお」

猫は俺の膝の上に座り、くつろいでいた。俺の服を台無しにした張本人をみつめ、悪態をつく。

「トラジマのミーめ」

そう呟く俺を優作はびっくりしたように見つめる。

「お前、なんでそのネコがミーってなまえかわかるかよい」

わかるさ。某SF漫画家の作品だろうに。それよりもしっかりと前を向いて運転してくれ。

「こりゃたまげたよい。その歳で知ってるとは」

あんただって人のこと言えないだろう。俺達は大声で笑い合った。


 目が覚めると、もう夜になっていた。古泉もすやすやと眠っている。昨晩はほとんど寝られなかったからな。疲れていたんだろう。

「起きたか。あと1時間半ほどで着くよい」

優作は俺達が寝たあともずっと運転を続けていたらしい。タバコに火をつけながらこちらを見た。

「タバコ、平気か?」

俺を気遣って訪ねてくる。もともとタバコ吸いの親戚が多かったため気にしたことはなかった。

「大丈夫ですよ。タバコくらいどうってことは」

膝で寝ているミーを起こさないように体勢を立て直す。古泉を起こそうかと思ったが、やめておいた。

「たしか千春って言ったな。悩みを抱えているんじゃないか?。多分、恋かな」

優作が尋ねる。あまりにも自然に聞くので、何も考えずに返事してしまった。

「なんでそう思ったんですか?」

慌てて聞き返すと、優作は笑いながら答えた。

「勘ってやつかな。いや、嘘だ。オヤジがいつもこうやって仲間の心を読むから、ワイも真似してみたんだよい」

しかし、少しでも確信が持てなければそういうことは言うはずない。優作は見かけのよらずすごい人物のようだ。

「オヤジってのは、父親?」

俺の問いに、優作は嬉しそうに首を横にふる。

「いいや、違うよ。オヤジってのはワイたちの会社のボスだよい。でかい器の持ち主さ。だからワイたち社員は尊敬の念を込めてオヤジって読んでいるんだよい」

優作はそう言ってサンバイザーに挟んであった写真を俺に手渡した。

「それがオヤジだ。行く宛のないヤンキーだったワイを拾ってくれた。こうやって職まで見つけてくれた大恩人だよ」

写真には大柄な爺さんが写っていた。人がよさそうな雰囲気を醸し出し笑っているが、その鍛えられた筋肉と鋭い眼光には、数々の修羅場をくぐり抜けてきたであろう貫禄が見て取れた。

「すごい人なんだね、オヤジさん」

しげしげと写真を眺めていると、優作が写真を取り上げた。

「それよりも、恋の悩みはなんだい。ワイが話を聞いてやるぞい」

やれやれ。おせっかいが好きな男みたいだ。だが悪い気はしない。優作の笑顔を見ているとなんでも話せそうな気がした。

「実は…」

俺はすべてを話した。優佳の事、自分の気持ち、これからのことも。そして俺は気づいていたが、考えないようにしていたことを口にした。

「俺はこの旅が終われば地元に帰らなくてはいけない。だからアイツとは一緒に居られないんだ」

わかっていたはずだった。だがこうして自分で口にすると、すごく不安になる。悲しくなってくる。

「なるほど。そういうことだったのか。お前さんは見たところかなり賢い人間だよい。悩みすぎずとも、道を切り開けるはずだ。結論をすぐに出さなくてもいいんだよい。旅はまだ終わっていないんだから。逃げ出さずに最後までやりきればなんとかなる。show must go onだよい」

旅はまだ終わっていない、か。たしかにそうだ。これからどうなるかはわからない。

「ありがとう。なんか、すっとしたよ」

優作には感謝してもしきれない。トラックの事も、この事も。だが、こんな話をペラペラとしゃべってしまった自分がなんとなく恥ずかしかった。結果はよかったが、人に言うようなことじゃない。

「トラジマのミーめ」

照れ隠しに目を覚ましたミーを抱きかかえて呟いた。

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