第二十二章。巡り合いを信じ暫しの別れを惜しむ。
「しばらく、お別れですね」
宇都宮の駅で優佳が言う。改札口越しに見つめ合った。
「ああ、もうそろそろ電車の時間だから俺たちは行くよ」
次の電車まであと5分弱しかない。優佳とは別れたくないが早く行かなくては。
「では、また後ほど。急いで追いかけますので盛岡で待っててください。」
お互いに手を振り、別れる。人ごみにのまれながらも後ろを振り返ると、ニッコリと微笑む優佳はいつまでもこちらを見つめていた。
「待たせたな」
駅のホームに戻ると古泉が缶コーヒーをもって待っていた。
「あなたの分ですよ。どうぞ」
俺は礼をいい、古泉から受け取ったコーヒーを飲んだ。
「しばらくは二人きりですね。楽しく行きましょう」
俺は二人、という言葉を少しさみしく感じながらも頷いた。
東北本線に乗って黒磯を目指す。優佳の見送りに時間を割いたため、お昼ごはんを買っていなかった。
「腹減ったな。昼飯の事すっかり忘れてた」
古泉はしれっとした顔をしてカバンからおにぎりを取り出した。
「僕は抜かりないですよ。ちゃんと買って来ましたから」
やれやれだ。美味しそうにおにぎりを頬張る古泉の横で不貞腐れながら、車窓の景色を眺めていた。
「早く逢いたいな」
先程別れたばかりだというのに、俺の頭の中は優佳の事でいっぱいだった。
黒磯駅でようやく弁当を買うことができた。幕の内弁当を堪能していると古泉が話しかけてきた。
「八神さんが居て賑やかなのもいいですが、こうして二人きりのんびり旅するのも良いですね」
確かにな。優佳の印象が強くてこうやって静かに旅するのが不思議な感じがする。せっかくだから広島の話でもしながら行くとしようか。