第十四章。オレンジ色に染まりゆく街に佇む影は。
夕暮れに沈む宮島を背に、俺達はフェリーに乗っていた。みやげ屋で偶然売っていた酔い止めを飲んで優佳は大分マシになっている感じだった。酔うとわかっていたのに酔い止め飲んでなかったのか、こいつは。
「夕方、か…」
窓の外を見つめオレンジ色に輝く水面に目を向ける。時間は近づいていた。
フェリーが港につくと優佳はトイレに行くと言って俺達の前を去った。話すなら今しかないだろう。古泉にある程度は話しておかないとな。
「なぁ、古泉。話がある。実はだな…」
俺がそう話しかけると古泉は苦笑し、俺の言葉を遮って話はじめた。
「みなまで言わなくてもわかりますよ。八神さんはまだ隠し事をしている。そしてあなたはそれが何かを知っているんですよね。それだけわかれば十分です。彼女のフォローはあなたに任せますので、よろしくお願いします」
さすが、と言ったところだろうか。その鋭い観察眼にはいつも驚かされる。そして自分が何をするべきかも古泉にはわかってるみたいだな。
「お前にはかなわんよ」
俺はそう言って自動販売機まで飲み物を買いに行った。
優佳と合流し、またもや路面電車に乗り込む。行き先は彼女のみぞ知るところだ。しばらく車窓から夕陽に染まる街を眺めていると、お目当ての駅に到着した。
「ここからもう少し歩きます。あの、その、親戚の家まで」
古泉にはまだ知られていないと思っている優佳はしどろもどろになりつつもそういった。
「大丈夫だ。なぁ、古泉」
はい。と古泉も答え、俺達は優佳の後に続いた。
「ここです」
優佳がそう言って立ち止まった場所は墓地の近くだった。ここに彼女の父は眠っているのか。
「じゃあちょっと行ってくるので、少し待っててもらえますか?すぐ戻るので」
優佳は落ち着かない様子だ。行ってきな、と二人でにこやかな顔をすると安心したのか、墓地の方へと歩いていった。もう日も落ちる。俺達は二人きりだった。
「ついていかなくていいんですか?」
古泉がいじわるそうに尋ねる。
「言うまでもないだろ」
俺がそうぶっきらぼうに返すと、ええ。と古泉も頷いた。
「今の彼女に、俺らはいらないんだよ」
夜の闇が広島を包み込もうとしていた。