【短編小説】並べてくれ
強烈な印象を残す光景だった。
工事現場に立てられた仮囲いのフェンスは、過去に不良たちの手でラクガキがされていたようだった。
しかし現場労働者たちはそんなグラフィティーなんてまるで関係が無いと言わんばかりに、解体して再構築したフェンスがそこにあったのだ。
まるでアナグラムのように美しい光景。
ラクガキがランダム配置されたフェンスは不良たちの反骨精神と労働者たちの無骨な社会性で産まれた。
そしてその光景は学生だったおれの精神に深く刻まれた。
帰宅したおれは服をバラバラに切り離してくっ付けてみたり、椅子やテーブルの天板とか手足を取り替えてみたりした。
しかし足りない。
どうしようもなくありきたりだ。
昆虫を捕まえては羽や手足を入れ替えてみても同じだった。
小学生の描くキメラ昆虫みたいだった。むしろ機能を殺してしまって動かないのだから、より始末が悪いと言える。
おれば悩みながらカップ麺を3つ開けて、それぞれのスープや麺、かやくを入れ替えた。
不揃いの箸で蓋を抑えると、俄かに怒りのようなものが込み上げてきた。
「こんなものは違う!だらしない大学生の遊びじゃないか!」
おれは絶叫してカップ麺をひとつの寸胴鍋にまとめると一息に飲み込み、出てきた吐瀉物をもって再構築を完成させようとしたが納得がいかない。
知識だけで膨れ上がったイメージに押しつぶされそうになったおれは家に火を放った。
「そうだ!足りないのは背に水!」
家なんてあるのがいけない。
そこから出なきゃ始まらないのだ!
そのままおれはスーパーに向かい段ボールを回収すると公園の片隅に部屋を構築した。
ここから始めるぞ。
おれはおれを再構築するのだ。
理想のおれを。そして理想のおれを再構築できた暁には、理想の女を再構築するのだ。
小学生の頃からいまに至るまで、好きだった女の子や芸能人たちを分解して再構築するのだ。
やるぞ。やってやる。
しかしそのためには少しばかりの金がいる。
翌朝、おれは近所の工事現場に向かい日雇い労働者として仕事を始めることにした。
「今日は何をすればいいですか?」
「じゃあ、ここに積んであるフェンス板を並べてくれ」




