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サマー・ロスト 剣を捨てた無気力少年、負けたら「存在消滅」のデスゲームで覚醒する。  作者: うにまる
一章

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第8話 消えた学校

 ぐるぐると、状況を頭の中で整理しようとしていた。

 現実感のない非日常。思考は空回りして、一向にまとまらない。


 そんな時──。


「はい、あんまり良いのなかったけど」


 ダイゴが買い物かごを抱えて体育館に戻ってきた。中には食品がぎっしり詰まっている。 少し苦笑しながら、彼はかごを差し出した。


長谷川はせがわ班だったからねぇ~」


 あとから入ってきたカエデ先輩が、呆れたように肩をすくめる。

 俺はかごの中からおにぎりを手に取った。具は『梅』だった。


「……おにぎり、梅しか残ってなくて。ごめんね」


「いや、好きだよ。梅干し」


 正直、それほどでもない。

 けれど──わざわざ持ってきてくれたのに、水を差すのも悪い気がした。


 包装を剥がしてかじろうとした、そのとき。

 俺の足元の影がふっと揺れた。そこから、ぬるりとベンケイが現れる。


『……何ソレ』


「おにぎりだけど……食べるか?」


 そう問いかけると、ベンケイは視線を落とし、こくんと静かにうなずいた。

 半分に割って差し出すと、ベンケイは梅干しだけを器用につまみ、口に運ぶ。


 もぐ……ごくん。


『……スっぱい』


「これはお米と一緒に食べるんだよ」


 苦笑しながら言うと、ベンケイはおにぎりの白い部分の匂いを嗅ぎ、顔をしかめた。


『……白い部分、味がない。いらなイ』


「いらないって……お前……」


 思わず脱力する。

 そのやり取りを見ていた冴木が、楽しそうに笑った。


「ふふっ、ベンケイちゃんって、かわいいね〜」


 ベンケイは何も反応せず、かごの中から新しい梅おにぎりを俺に差し出す。

 結局、俺は具なしおにぎりを三つ食べ、ベンケイは梅干しを三粒食べた。


 不思議と、体育館の空気が和んでいた。ベンケイの存在が、ほんの少しだけ現実を優しくしてくれる。


(……今なら、いろいろ聞けるかもしれないな)


「そういえば、冴木先輩の能力って何なんですか?」


「カエデちゃんって呼んで~」


 この人、他人には勝手にあだ名をつけるくせに、自分の呼ばれ方にはこだわりがあるらしい。


「え、えっと……カエデ先輩の能力って……?」


「発動中~」


 先輩呼ばわりが不本意だったのか、ぷーっと頬をふくらませ、ちょっと不満げに答える。


「えっ、今もう使ってるんですか?」


「今は目に見えないくらい弱めに出してるだけ~。……本気、見せよっか?」


「あっ、ちょ、待っ──!」


 ダイゴの制止も間に合わなかった。

 次の瞬間、視界が真っ白に染まる。


 光じゃない。……霧だ。


「これが私の能力~」


 声だけが響く。視界ゼロ。手元すら見えない。  

……けれど、不思議と悪い感じはしない。


「目眩ましの能力……ですか?」


「う~ん、それもできるけどね? この霧の中にいると、体も心もふわ~っと軽くなるの。ほら、ちょっと元気になってきたでしょ?」


 たしかに、体の疲れがスッと抜けていくのを感じた。


「……あの、それで。この霧を元に戻す方法って──?」


「ないよ~。勝手に霧散するまで、我慢ね~」


 カエデ先輩の声が霧の中で響く。顔は見えないが、絶対にニコニコ笑っている。


──パリン。パリンッ。


 窓の割れる音がした。


 風が流れ込み、霧が少しずつ晴れていく。見ると、霧の向こうでマネキンたちがうちわを持って扇いでいた。

 ダイゴが申し訳なさそうに肩をすくめる。


「僕の能力、複雑な動作は苦手でね。窓を開けたりとか、扇風機とかも描けないから、こういう乱暴な方法で……ごめん」


 カエデとダイゴ。このコンビはよくよく考えられたもののようだ。

 体が軽くなっただけじゃない。不思議と、頭の中もクリアになっている。

 あれ? 体も心も回復……もしかして。


「……あの、さっきからふとした瞬間に、冷静に考え直せてる自分がいるんですが……これも先輩の能力の影響ですか?」


 ジュース片手に、ストローをくわえたままVサインを送ってくるカエデ先輩。   

 このふざけた非日常を、なんだか受け入れられているのは、たぶんこの人のおかげということか。


「ところで、いくつか質問があるんですが」


「うん、いいけど──時間もあるから、あんまり詳しくは話せないかな〜」


「またゆっくり話せる機会はあるし。何なら、現実世界でも話せるからね」


 ダイゴが申し訳なさそうに頭をかく。


「私たちサポート系も、意外とやること多いのよ~」


 カエデ先輩がポテトをつまみながら、のんびり言う。


「強力な能力や戦略と同じくらい、後方支援も大事……って、先輩の受け売りだけど~」


(カエデ先輩に〝先輩〟がいたってことは……この戦い、少なくとも一年以上続いてるということか)


「能力が分からないと配置も決められない。だから、能力の把握は最優先」


「……なるほど」


 なるほど、と言ったが、正直理解しているわけではない。

 実際問題、今の俺には、何をしていいか判断する余裕も知識もない。


「倉田くんは──戦闘担当だね」


 ダイゴが迷いなく断言する。


「僕らはサポート系の能力だから、大抵学校にいるんだけど」


 ……いや、サポートに戦闘で負けた戦闘員とは?


「多分、今だったら長谷川はせがわ班ですかねぇ……」


「そうねぇ~」


 カエデ先輩が遠くを見つめながらうなずく。


「……な、何か問題でも?」


「長谷川くんは、二年トップの成績で、生徒会の書記ね~」


「……ああ、さっき九条先輩の所にいた人ですね。確かに、頭良さそうな感じでした」


「彼はね、一言で言うと……馬鹿なのよ~」


 さらっとひどい。  ダイゴも目を伏せてるけど、多分同意してる。目が泳いでる。


「うーん……なるほど?」


 どう返していいかわからず、微妙な相槌を打つ。


「あとでちゃんと紹介するから、安心してね~」


……不安すぎる。

 俺は話題を変えることにした。一番気になる、この世界のルールのことだ。


「えっと、それじゃ。どれくらいの頻度でこっちに呼ばれるんですか?」


「月に二回くらいかな~。王様の気分次第だけど」


 オウサマ。能力をくれたあの塔のことか。


「三日連続で呼ばれたこともあるし、二週間以上こっちに閉じ込められたこともあるの~」


「……えっ?」


「安心して〜」


 カエデ先輩がニコッと笑う。


「時間はちゃんと巻き戻るから、こっちに連れてこられた〝その瞬間〟に戻れるの〜」


 ということは──学校をサボって帰宅途中に呼ばれた俺は、またあのバスの中に戻されるってことか。


 なんというか、律儀というか、理不尽というか……。


「じゃあ、このゲーム……というか、この異世界に呼ばれる目的って何なんですか? オウサマは俺たちに何をさせたいんですか?」


「うーん……最後の一校になるまで続くんじゃないかな~」


……最後?


「他の学校の王様を破壊するとね、学校ごと……消えちゃうの。通ってる生徒もぜーんぶ~」


「えっ!?」


 軽い口調だったけど、内容はとんでもなかった。


「体育祭で棒倒しってあったでしょ? あんな感じ~。相手の陣地に乗り込んで塔──つまり王様を倒す、ってわけ」


「ってことは……他の学校に攻め込んで、そこのオウサマを倒すのが目標で……」


 つまり、それは学校そのもの、生徒数百人を消すということだ。


「僕らは兵隊。チェスでいうポーンだね。とりあえず卒業まで生き残れば、消えないから、それを目指すのもありだと思うよ。むしろ僕はそっちを目指してる」


 ダイゴがフォローするが、フォローになっていない。

 そんなデスゲームみたいな話を、どうして彼らはこんなに淡々と話せるんだ?


「ねぇ、ヨシツネくん。うちの市って、ちょっと高校少ないと思わない?」


 カエデ先輩に言われて、改めて思い返す。


(確か……綾香女学院に、鴉羽高校、聖グラディスに、修武館第二──)


「──あれ? そういえば修武館って第二……?」


「ああ、そこね。第一は王様が倒されて、消えちゃったの~。生徒ごと、ぜんぶ」


 言われて、思い出した。


 俺も中一の頃、修武館に進学したいとか考えてたっけ。スカウトも来てたし。


 夢見市は〝健幸〟のスローガンのもと、スポーツや武道に力を入れる町。市全体でアスリート育成に全力で、その中心が修武館だった。


 武道の第一、球技の第二と言われていたはずだ。


 それが──もう、存在しない?


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