表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サマー・ロスト 剣を捨てた無気力少年、負けたら「存在消滅」のデスゲームで覚醒する。  作者: 謝命雲丹丸
二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

77/77

第76話 ただいま、おかえり

「ヨシツネ……お前がやったのか?」


 瓦礫の山を乗り越えて真田が駆け寄ってくる。

 その表情には、驚愕と、それ以上の安堵が混じっていた。


「はい、やりました。……終わらせました」


「そうか。……よくやったな」


 真田は短く労うと、周囲を見渡して息を吐いた。


「少しここで待ってろ。状況が落ち着いたら、学校へ帰ろう」


 彼の視線の先では、先ほどまで聳え立っていた黎明工科の校舎、そして要塞化した校庭。能力で作られたものたち。


 その全てが光の粒子となって空へ溶け、後には広大な更地だけが残されていた。

 数百人が学び、生活していた痕跡が、文字通り「無」に帰したのだ。


(ナツキ……)


 一刻も早く東陵へ戻り、彼女が復活しているか確かめたい。

 心臓が早鐘を打つが、俺はそれを理性で抑え込んだ。


 まだ他校の連中が残っている。今は先輩の指示に従うべきだろう。


 事態が決したことを悟ったのか、他校の動きも早かった。


 利益なしと判断した鴉羽高校の連中は、蜘蛛の子を散らすように撤退を開始。それを逃がすまいと、綾香女学院の部隊が追撃に移る。


 修武館の生徒たちは、数名が代表として真田の元へ歩み寄り、短い言葉を交わした後、大人しく去っていった。


 これ以上の無益な争いは起きなかった。

 喧騒が遠ざかり、風の音だけが残る。


 俺は足元に転がっていた機械の残骸──かつて『キング』の一部だった鉄屑に腰を下ろした。


(……俺が、消したんだ)


 更地になった広大な土地を見つめる。

 あそこには確かに生活があった。数百の命があった。


 それを俺のエゴで、丸ごと消滅させたのだ。

 手のひらをじっと見つめる。血などついていないが、一生消えない重みがそこにある気がした。

 ふと、隣に気配を感じる。


「…………」


 小春だった。

 彼女は何も言わない。「大丈夫?」とも「凄かったね」とも言わない。


 ただ、俺の隣に座り、同じ更地を眺めている。

 共犯者として、あるいは理解者として。 


 その静寂だけが、今の俺には救いだった。


 しばらくすると、静寂を破って一台の車が滑り込んできた。窓が開き、運転席から真田さんが顔を出す。


「おし、戻るぞ」


 短い言葉だったが、そこには優しい響きがあった。

 助手席に小春が乗り込み、俺は後部座席へと身を沈めた。


 車が走り出す。

 シートの柔らかさとエンジンの振動が、極限まで張り詰めていた神経をゆっくりと解いていく。

 車窓の外を流れる景色は、まだ夜の闇に包まれていた。


 東陵高校に戻ってきたのは、空が白み始めた頃だった。

 時刻は午前四時すぎ。


 丑三つ時を過ぎ、夜明け前の最も深い静寂が校内を支配している。大多数の生徒はまだ夢の中だろう。

 校門をくぐり、駐車場に車を止める。


 俺たちは車を降りると、校庭の『キング』の方へと足を向けた。


「……あ」


 キングの周囲に、数人の人影があった。

 九条と冴木。

 そして、──見慣れた二人の姿があった。


 一人は、親友のユウト。

 もう一人は、幼馴染の少女。

 ユウトは顔をくしゃくしゃにして泣いていた。

 そして彼女──ナツキもまた、瞳から大粒の涙を溢れさせていた。


 幻覚ではない。そこに「いる」。俺が数百人の未来と引き換えに手に入れた、確かな存在が。


 俺は一歩ずつ、重い足取りで彼らに近づいた。

 何を言うべきか、ずっと考えていた言葉はたくさんあったはずなのに、喉元まで出かかったのは、ありふれた挨拶だけだった。


「……おかえり」


 俺の声に、彼女が顔を上げる。

 涙で濡れた顔に、あの夏の日と変わらない、太陽のような笑顔が咲いた。


「うん……ただいま」


 世界は理不尽で、俺たちは罪人だ。

 けれど、この笑顔を取り戻せたのなら、俺は何度だってその罪を背負おう。

 東の空から、新しい朝の光が差し始めていた。

ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。

本作は、いったんここで区切りとします。

物語として、まだ描くべき先が残っているのは確かなので、後日続きを書こうと思います。


今は、別の作品に挑戦しています。

そちらで力をつけて、また続きを書き始めようと思います。

ここまで読んでくださったこと、心より感謝します。


ここまで読んでくれた人がいたらうれしいなぁ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ