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サマー・ロスト 剣を捨てた無気力少年、負けたら「存在消滅」のデスゲームで覚醒する。  作者: 謝命雲丹丸
二章

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第72話 混迷の戦場


 多脚戦車がやられた光景を見て戦意を喪失したのか、後方でスクラップゴーレムを遠隔操作していたであろう生徒が、背を向けて走り出した。


 だが、俺の視界に入っている時点で、逃走は不可能だ。


──『位置交換スイッチ』。


 ヒュンッ。

 俺は足元に転がっていた鉄屑と、逃げる背中を入れ替える。


 唐突に目の前に引き戻された敵生徒は、何が起きたのか理解する間もなく、俺の剣によって両断された。


 残されたゴーレムたちが糸の切れた人形のように崩れ落ちる。

 あまりにあっけない幕切れだった。


「不思議ですね……」


 俺は刀の血振るいをしながら、静まり返った広場を見渡した。


「防衛の人数が少なすぎます。三十人もいるはずなのに、出てきたのは二人だけですか」


 まるで、主力が別の場所に割かれているようだ。


「もしかすると、裏手で修武館しゅうぶかんも攻めているのかもしれないわね」 


 小春が南側の山麓の方角を見やり、面白そうに目を細めた。

 彼らが暴れているなら、この手薄さも説明がつく。


「なるほど、乱戦というわけですか」


 だとしたら好都合だ。


「それにそろそろ、また飛ばされるかも知れないし」


 小春が憂鬱そうに首を振る。

 例の原理不明の防御。それは確かに見えない地雷原のようなものだ。 


 どこに境界線があり、何がトリガーなのか。その謎が解けていない以上、いつ強制排除されてもおかしくはない。


 ここからなら、黎明までは一キロ程度だろうか。既に、闇夜に浮かぶ校舎のシルエットも見えている。


 慎重に進むのも、ここまでで良いだろう。

 俺は刀を抜き放ち、切っ先で黎明の方角を指し示した。


「──総員、突撃!!」


 俺は手持ちの全ての駒を、盤上に投げ打った。

 号令と共に、二百体近いヒーローたちが一斉に地面を蹴る。


 赤、青、黄、緑、桃、白、黒。

 極彩色の津波が、無機質な灰色の工場地帯へと雪崩れ込んでいく。

 その光景は、正義の行進というよりは、制御不能の暴動か災害に近かった。 


「罠があるかもしれないわよ?」


「ええ。だからこそ、全部踏み潰すんです」


 もしどこかに飛ばされるとしても、二百の標的を同時に処理できるとは思えない。


 数の暴力で押し流す。


 ドドドドドドッ!!

 重厚な足音が響く。


 彼らは叫ばない。恐怖もしない。ただ命令された通り、黎明の校舎へ向かって一直線に突き進んでいく。


 俺はその背中を見送り──次の瞬間、小春の肩を掴んだ。


「先輩、飛ばします」


「え?」


──『位置交換スイッチ』。


 俺は先行して走っていた『マグネットイエロー』と小春の座標を入れ替える。


 同時に、俺自身も『ダイナソーブルー』と位置を交換した。


 ヒュンッ。

 景色が一瞬で切り替わる。


 俺たちは一歩も走ることなく、進軍する軍勢のただ中へと移動していた。


 これなら体力も消耗しないし、流れ弾に当たるリスクも減る。


「……相変わらず、強引なのね」


 唐突な移動に髪を乱しながら、小春が「仕方ないわね」という顔で苦笑した。


 おそらく敵の迎撃部隊だろう。慌てて攻撃してくるが、この圧倒的な質量差はどうにもならない。

 一体が撃ち抜かれて倒れても、後ろから来た三体がその屍を乗り越えて進む。


 痛みを感じない軍勢は、止まることを知らない。

 校門が見え始めると、そこは既に地獄のような戦場と化していた。


 小春先輩の推測通りだ。

 鍛え上げた肉体を武器にする修武館しゅうぶかんの生徒たち。

 舞うように戦っている綾香あやか女学院の生徒。

 そして、黒い制服に身を包み、隙を伺う鴉羽からすばの生徒たち。


 入り乱れる四つ巴の乱戦に、二百体のカラフルなヒーロー集団が雪崩れ込む。

 カオスだ。これ以上ないほどの混戦である。


「あれが本丸か」


 校庭の中心部には、コンビニを一軒まるごと鉄板で覆ったような、無骨な機械要塞が鎮座していた。


 溶接された鉄骨と装甲板の塊。おそらく、あの中に黎明の『キング』が隠されているのだろう。


「あら? 真田さんがいるわ」


 小春が指差す先、火花散る戦場の一角で、見知った背中が躍動していた。


 東陵の三年生、真田剛さなだつよし

 彼は片腕を巨大なショベルカーのアームに改造した大男と、真正面から殴り合っていた。


「オラァッ!!」


 生身の拳と、油圧駆動の鉄塊が激突し、衝撃波が周囲の硝子を震わせる。

 相変わらずのデタラメな強さだ。


「……いや、感心している場合じゃないな」


 ここまで派手に乱戦になっているということは、小春が最も警戒していた強制転移は、何かしらの理由で機能していないのだろう。


 俺は冷静に思考を切り替える。

 今、一番に考えなければいけないのは、敵を倒すことではない。『キング』が他の人間に破壊されないようにすることだ。


 綾香や修武館の連中はもちろん、味方であるはずの東陵の先輩ですら、この局面ではライバルになりえる。


(ナツキを生き返らせるためには、俺がこの手で破壊しなければならない)


 ふと、先を行くカラフルな軍勢に目を向ける。

 もし、あのヒーローたちが勢い余ってキングを破壊してしまったら?


 この能力の持ち主は聖グラディスの白羽しらはだ。破壊の功績が彼女に加算されてしまう可能性も考えねばならない。


 結局、変な駆け引きをするより味方の意思を確認しておくべきか。


「桐谷先輩も、キングを倒したい理由ってあるんですか?」


「いえ? 別にないわよ?」


 即答だった。

 拍子抜けするほど興味がなさそうだ。わざわざこんな最前線まで来ているのだから、叶えたい願いの一つでもあるのかと思っていたが。


「えっ? じゃあ、俺が破壊しても良いですか?」


「ええ、ヨシツネくんがやりたいなら、もちろんどうぞ?」


「ありがとうございます」


 言質は取った。ならば、遠慮なく報酬を頂くとしよう。


 まずは手始めに、要塞の周囲に張り付いていた黎明の守備隊を始末する。

 視界に映る敵と、遠くのヒーローを『位置交換』。

 ヒュン、ヒュン、と連続して発動し、邪魔者を強制的に戦場の外へと弾き飛ばしていく。


 露払いはおしまいだ。俺は意識を集中し、二百体の兵隊へ新たな命令を下す。


「全員、あの建物を包囲しろ。──そして、近づく者を排除しろ」


 ザッ! と足音が揃う。

 要塞へ向かって走っていたヒーローたちは、一斉にクルリと踵を返した。


 彼らは要塞を背にして円陣を組み、外側に向かって武器を構える。


 黎明、修武館、綾香、鴉羽。

 全てを等しく『敵』と見なし、ヒーローたちは要塞を守る親衛隊のように立ちはだかった。

 誰も通さない、強固な『肉の壁』の完成だ。

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