表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サマー・ロスト 剣を捨てた無気力少年、負けたら「存在消滅」のデスゲームで覚醒する。  作者: 謝命雲丹丸
二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

72/77

第71話 鉄人六号

「とはいえ、これでこちらの手の内はバレてしまったわけですね」


 今倒した彼らは、光の粒子となって黎明れいめいの校舎へと還っていった。


 復活した彼らは、すぐに仲間へ情報を共有するだろう。俺が「敵と味方の位置を入れ替える」能力を持っていること、そして大量の兵隊を引き連れていることを。


 初見殺しの奇襲は、もう通じない。


「ええ。今頃、向こうの本拠地で大騒ぎしているでしょうね」


 小春は気にした様子もなく、クスクスと楽しげに笑っている。

 ここから黎明までは、徒歩で二十分ほどの距離だ。


 いきなり全力疾走するにはまだ遠いし、兵隊たちの陣形も崩れる。俺たちは警戒を強めながら、夜の道を早足で進んだ。


 十分ほど進むと、黎明工科のお膝元である工業地区へ差し掛かかる。


 無機質な工場の屋根や、構築されたバリケードの陰から、無数の赤い光点がこちらを捉えた。


「──来るわよ」


 小春が警告を発した直後、乾いた銃声が夜気を切り裂いた。


 バババババババッ!!


 硝煙の匂いと共に、鉛の暴風雨が降り注ぐ。

 人間など配置していない。すべて自動制御の銃座だ。


 こちらの『位置交換』を警戒し、生身の人間を前に出さない作戦だろう。賢明な判断だ。


「前衛、密集! 壁を作れ!」


 俺の命令に、先行していた数十体のヒーローが即座に反応した。


 同時に、小春が手をかざす。


 パキパキパキッ!


 大気中の水分が凍結し、機動隊が使うような『氷のライオットシールド』が次々と生成される。ヒーローたちはそれを手に取り、隙間なく並んでスクラムを組んだ。


 ガガガガガッ!


 銃弾が氷の盾にぶつかり、激しく火花と氷片を散らす。

 だが、分厚い氷の装甲は、自動銃座の口径程度では抜けない。


「この程度の攻撃ならびくともしないわ」


 小春が背後で笑う。


「とは言え、うるさいことには変わりはないゾ」


 ベンケイが不機嫌そうな幼い声と共に、影を伝い銃座の後方に飛ぶ。


「ハッ!」


 銀閃。

 振るわれた刃が、鋼鉄の銃座をバターのように両断する。

 ベンケイは影から影へと跳び回り、次々と砲台を斬り伏せていった。


「なら、俺も手伝うか」


 俺も視線を巡らせ、射線を結ぶ。

 右手の建物の屋上の銃座と左手の地面に設置された固定砲台。


──『位置交換スイッチ』。


 ヒュンッ!


 俺が指を鳴らすと同時、二つの銃座の座標が入れ替わる。

 突然目の前に現れた「味方」に対し、制御の遅れた銃座が火を吹いた。


 ガガガガッ! ドカンッ!


 同士討ち。互いに至近距離で撃ち合い、二つの銃座が爆発四散する。


「ふふ、性格が悪いわね」


 小春が口元に手を当て、楽しそうにその光景を眺めていた。


「効率的と言ってください」


 ベンケイの斬撃と、俺の空間撹乱。

 二つの力が合わさり、降り注いでいた弾幕は急速に薄くなる。


 俺たちが銃弾の飛び交うエリアを無傷で通過した時だ。

 ズズズン、と重い地響きと共に『それ』は現れた。


 巨大な多脚戦車。

 建設重機と軍事兵器を無理やり融合させたような、無骨な鉄の塊である。


 背中には巨大なコンテナを背負い、下半身は六本の鋼鉄の脚がアスファルトを砕いている。駆動音が唸りを上げ、主砲とおぼしき巨大なアームがこちらを向いた。


 ズドンッ!!


 腹に響く発射音と共に、アームから衝撃波が放たれる。


「──ッ!?」


 最前列で盾を構えていたヒーローたちが、紙屑のように宙を舞った。

 一撃で十体以上が吹き飛ばされる。

 単純な質量と破壊力。小細工なしの暴力だ。


「あらあら……流石にあれは、氷の盾では防げないわね」


 小春が落ち着いた口調で失敗を口にする。

 俺がその異形の兵器を見上げると、コックピットの上部に設置されたスピーカーから、勝ち誇った声が響いてくる。


「よくここまで来たな、侵入者! だが、この、『鉄人六号』の前には無力だ!」


 周囲からはさらに、スクラップを寄せ集めて作られたようなゴーレムも数体、ゆらりと姿を現した。


「ヨシツネくん、どうする?」


 小春が涼しい顔で、手元に氷の剣を生成しながら問うてくる。


「どうするもこうするも、やるしかないでしょう」


 俺は刀を握り直し、不敵に笑った。

 相手がデカいなら、的もデカいということだ。


「ベンケイ、出番だ。あのデカブツの足を斬れ」


「わかっタ! 任せロ!」


 俺の影から飛び出した小さな美少女が、風のように駆ける。

 同時に俺も、スクラップゴーレムの懐へと飛び込んだ。


──戦闘開始だ。


 俺は向かってくるゴーレムの鈍重な拳を紙一重でかわす。

 視界の端では、ベンケイが多脚戦車の鋼鉄の脚へと斬りかかっていた。


 ガギィン!


 硬質な音が響く。流石に硬いか。だが、斬れないほどではない。


「……鬱陶しいハエどもめ!」


 戦車に乗った男が叫び、再びアームを振り上げる。

 だが、その攻撃はあまりに大振りだ。


「遅いな」


 俺は呟き、能力を発動する。

 『位置交換スイッチ』。

 俺の目の前にいたゴーレムと、多脚戦車の攻撃地点にいたヒーロー人形の位置を入れ替える。


 ドガァン!!


 味方のゴーレムを、自慢のアームで粉砕してしまった戦車がよろめく。


「くっ!?」


 混乱する敵陣。その隙を見逃すほど、俺たちは甘くない。


「動きが止まったわよ?」


 小春が艶然と囁き、氷の剣を振るう。

 パキパキパキッ!!


 凄まじい冷気が地面を伝い、多脚戦車の六本の脚を一瞬にして凍結させた。駆動系を氷漬けにされ、鉄の巨人はその場に縫い止められる。


「ト止めだァ!」


 好機と見たベンケイが高く跳躍した。

 上段に構えられた剣に、力が収束する。


「ハッ!!」


 一閃。

 真上から振り下ろされた刃は、コックピットの装甲を豆腐のように両断した。


「ぐわああああっ!?」


 断末魔と共に、多脚戦車が爆発四散する。

 搭乗していた生徒は光の粒子となって消滅し、俺たちの勝利があっけなく確定した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ