第71話 鉄人六号
「とはいえ、これでこちらの手の内はバレてしまったわけですね」
今倒した彼らは、光の粒子となって黎明の校舎へと還っていった。
復活した彼らは、すぐに仲間へ情報を共有するだろう。俺が「敵と味方の位置を入れ替える」能力を持っていること、そして大量の兵隊を引き連れていることを。
初見殺しの奇襲は、もう通じない。
「ええ。今頃、向こうの本拠地で大騒ぎしているでしょうね」
小春は気にした様子もなく、クスクスと楽しげに笑っている。
ここから黎明までは、徒歩で二十分ほどの距離だ。
いきなり全力疾走するにはまだ遠いし、兵隊たちの陣形も崩れる。俺たちは警戒を強めながら、夜の道を早足で進んだ。
十分ほど進むと、黎明工科のお膝元である工業地区へ差し掛かかる。
無機質な工場の屋根や、構築されたバリケードの陰から、無数の赤い光点がこちらを捉えた。
「──来るわよ」
小春が警告を発した直後、乾いた銃声が夜気を切り裂いた。
バババババババッ!!
硝煙の匂いと共に、鉛の暴風雨が降り注ぐ。
人間など配置していない。すべて自動制御の銃座だ。
こちらの『位置交換』を警戒し、生身の人間を前に出さない作戦だろう。賢明な判断だ。
「前衛、密集! 壁を作れ!」
俺の命令に、先行していた数十体のヒーローが即座に反応した。
同時に、小春が手をかざす。
パキパキパキッ!
大気中の水分が凍結し、機動隊が使うような『氷のライオットシールド』が次々と生成される。ヒーローたちはそれを手に取り、隙間なく並んでスクラムを組んだ。
ガガガガガッ!
銃弾が氷の盾にぶつかり、激しく火花と氷片を散らす。
だが、分厚い氷の装甲は、自動銃座の口径程度では抜けない。
「この程度の攻撃ならびくともしないわ」
小春が背後で笑う。
「とは言え、うるさいことには変わりはないゾ」
ベンケイが不機嫌そうな幼い声と共に、影を伝い銃座の後方に飛ぶ。
「ハッ!」
銀閃。
振るわれた刃が、鋼鉄の銃座をバターのように両断する。
ベンケイは影から影へと跳び回り、次々と砲台を斬り伏せていった。
「なら、俺も手伝うか」
俺も視線を巡らせ、射線を結ぶ。
右手の建物の屋上の銃座と左手の地面に設置された固定砲台。
──『位置交換』。
ヒュンッ!
俺が指を鳴らすと同時、二つの銃座の座標が入れ替わる。
突然目の前に現れた「味方」に対し、制御の遅れた銃座が火を吹いた。
ガガガガッ! ドカンッ!
同士討ち。互いに至近距離で撃ち合い、二つの銃座が爆発四散する。
「ふふ、性格が悪いわね」
小春が口元に手を当て、楽しそうにその光景を眺めていた。
「効率的と言ってください」
ベンケイの斬撃と、俺の空間撹乱。
二つの力が合わさり、降り注いでいた弾幕は急速に薄くなる。
俺たちが銃弾の飛び交うエリアを無傷で通過した時だ。
ズズズン、と重い地響きと共に『それ』は現れた。
巨大な多脚戦車。
建設重機と軍事兵器を無理やり融合させたような、無骨な鉄の塊である。
背中には巨大なコンテナを背負い、下半身は六本の鋼鉄の脚がアスファルトを砕いている。駆動音が唸りを上げ、主砲とおぼしき巨大なアームがこちらを向いた。
ズドンッ!!
腹に響く発射音と共に、アームから衝撃波が放たれる。
「──ッ!?」
最前列で盾を構えていたヒーローたちが、紙屑のように宙を舞った。
一撃で十体以上が吹き飛ばされる。
単純な質量と破壊力。小細工なしの暴力だ。
「あらあら……流石にあれは、氷の盾では防げないわね」
小春が落ち着いた口調で失敗を口にする。
俺がその異形の兵器を見上げると、コックピットの上部に設置されたスピーカーから、勝ち誇った声が響いてくる。
「よくここまで来たな、侵入者! だが、この、『鉄人六号』の前には無力だ!」
周囲からはさらに、スクラップを寄せ集めて作られたようなゴーレムも数体、ゆらりと姿を現した。
「ヨシツネくん、どうする?」
小春が涼しい顔で、手元に氷の剣を生成しながら問うてくる。
「どうするもこうするも、やるしかないでしょう」
俺は刀を握り直し、不敵に笑った。
相手がデカいなら、的もデカいということだ。
「ベンケイ、出番だ。あのデカブツの足を斬れ」
「わかっタ! 任せロ!」
俺の影から飛び出した小さな美少女が、風のように駆ける。
同時に俺も、スクラップゴーレムの懐へと飛び込んだ。
──戦闘開始だ。
俺は向かってくるゴーレムの鈍重な拳を紙一重でかわす。
視界の端では、ベンケイが多脚戦車の鋼鉄の脚へと斬りかかっていた。
ガギィン!
硬質な音が響く。流石に硬いか。だが、斬れないほどではない。
「……鬱陶しいハエどもめ!」
戦車に乗った男が叫び、再びアームを振り上げる。
だが、その攻撃はあまりに大振りだ。
「遅いな」
俺は呟き、能力を発動する。
『位置交換』。
俺の目の前にいたゴーレムと、多脚戦車の攻撃地点にいたヒーロー人形の位置を入れ替える。
ドガァン!!
味方のゴーレムを、自慢のアームで粉砕してしまった戦車がよろめく。
「くっ!?」
混乱する敵陣。その隙を見逃すほど、俺たちは甘くない。
「動きが止まったわよ?」
小春が艶然と囁き、氷の剣を振るう。
パキパキパキッ!!
凄まじい冷気が地面を伝い、多脚戦車の六本の脚を一瞬にして凍結させた。駆動系を氷漬けにされ、鉄の巨人はその場に縫い止められる。
「ト止めだァ!」
好機と見たベンケイが高く跳躍した。
上段に構えられた剣に、力が収束する。
「ハッ!!」
一閃。
真上から振り下ろされた刃は、コックピットの装甲を豆腐のように両断した。
「ぐわああああっ!?」
断末魔と共に、多脚戦車が爆発四散する。
搭乗していた生徒は光の粒子となって消滅し、俺たちの勝利があっけなく確定した。




