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サマー・ロスト 剣を捨てた無気力少年、負けたら「存在消滅」のデスゲームで覚醒する。  作者: 謝命雲丹丸
二章

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第69話 極彩色の進軍

 俺が突きつけたのは、ただのオモチャではない。


 『特撮戦隊ヒーロー・五十周年メモリアルBOX』。


 定価、一六万八千円。

 ショーケースのぬしとして鎮座していた、究極のコレクターズアイテムだ。


 特撮戦隊ヒーロー。


 数年前に五十周年という節目を迎え、世界中に惜しまれつつも終了した伝説の番組である。


 一年に一度、新たなヒーローへとバトンが渡されるが、その基本構成は変わらない。


 リーダーの赤、そして青、黄、黒、白。

 色とりどりの五人がチームを組み、悪の秘密結社と戦う王道ストーリー。


 さて、俺が持ってきたこの箱は、その名の通り『五十周年特別限定版』だ。


 中には、初代『ライオンレッド』率いるチームから、最終作『コスモレッド』率いるチームまで、歴代全てのヒーローのフィギュアが封入されている。


 五人一組の戦隊が、五十年分。


 つまり──総勢、二百五十体。


 戦車一台どころではない。

 俺はここに、『軍隊』を持ってきたのだ。


「おもちゃ……一個……これで、一つ」


 俺はゼェゼェと荒い息を吐きながら、必死の形相で白羽しらはに詰め寄った。


 箱は一つ。JANコードも一つ。ならば、中身が何体だろうと、これは概念として「一つのおもちゃ」のはずだ。


 その理屈を、目力だけで押し通そうとする。


「いやー、それはちょっと卑怯なんじゃ……」


 白羽がドン引きしながら呟く。

 だが、俺は力強く首を横に振った。


「違う。これは『仲間』だ。仲間との勝利こそが正義なんだ」


 俺は真顔で、もっともらしい屁理屈を並べ立てる。


「ヒーローはいつだって悪の怪人を五人で囲んで……いや、力を合わせる。数的有利こそが、ヒーローの証なんだ!」


 とりあえず、勢いだけで捲し立てた。

 少しズレている気もするが、言っていることは(物理的には)間違っていないはずだ。


「よくわからないけれど……約束は守るものよ? ねえ、白羽さん」


 小春が、艶然と微笑みながら援護射撃をする。

 その笑顔には「やりなさい」という無言の圧力が含まれていた。


 ミツルも、これはもう仕方ないですよ、という諦めの顔でこちらを見ている。


「……ああもう! わかったわよ、やるわよ!」


 逃げ場を失った白羽が、やけくそ気味に叫んだ。


「ただし、これだけ大勢だと能力が分散するから、動きは単純なことしかできないわよ? テレビのヒーローみたいに派手なアクションとか、必殺光線とかは無理。せいぜいできて、走って、殴って、蹴るくらい。それが限界よ」


「充分だ。それで頼む」


 俺は力強く頷いた。

 二百五十人の暴力があれば、小細工など必要ない。戦いは数だ。


「じゃ、ちょっと離れててね。……というかこれ、何体いるのよ?」


「……にひゃくごじゅう」


流石に申し訳なくなり小声で答える。


「にひゃ……っ!? ちょっと、ここに出すのは無理よ。全部実物大になるんだから」


 白羽が狭い路地を見渡し、呆れた声を上げる。


 だが、それは想定内だ。さっき、鰐淵わにぶちのカジノで見たおもちゃのパトカー。あれが実車サイズになっていたのを見て、こうなることは確信していた。


 そして、それこそが狙いでもある。

 新しく手に入れた『位置交換スイッチ』の弱点。だが、人間大の対象が大量にあれば、移動先は選び放題になる。


 ベンケイも同様だ。これだけの数が密集していれば、足元の影は無限に繋がり、移動ルートは読みきれない。


 『木を隠すなら森の中』。


 この派手な軍勢を隠れ蓑にし、俺たちは神出鬼没の戦いができる。

 俺たちは広い場所を求め、大通りにかかる歩道橋の上へと移動した。


 眼下には、無人の車道が広がっている。ここなら展開できる。


「……はぁ。いくわよ」


 白羽が瞳を閉じ、眼下の道路に向けて手をかざす。刹那、蒼い光が夜の街に煌めいた。

 光の粒子の中から、次々と『彼ら』が溢れ出す。


 初代リーダー・ライオンレッド、水中戦のドルフィンブルー、怪力のブラックベアー。


 往年のヒーローたちが次々と実体化し、アスファルトの上に整然と列を成していく。


 五分ほどかけて、全てのヒーローが実体化を終えた。


 歩道橋の上から見下ろすと、夜の大通りを埋め尽くす二百五十人のカラフルな軍勢は壮観の一言に尽きる。


 まるで、大軍を閲兵する将軍か王にでもなった気分だ。


「さすがに、クラクラするわね……」


 白羽がこめかみを押さえ、ふらりとよろめく。

 これだけの質量を具現化したのだ、相当な負担なのだろう。


「悪い、助かったよ」


 俺は短く礼を言い、眼下の兵隊たちを見据えた。

 さて、どう攻めるべきか。


「こいつらは、俺たちから離れても命令を実行できるか? 例えば二手に分けるとか、四方から囲むように攻めるとか」


「もちろん。命令さえ与えれば、どれだけ離れても実行するわ。ただ、さっきも言ったけど単純な動きしかできないから、個々の戦闘力は低いわよ? 例えばミツルくんが相手なら、時間はかかっても全滅させられると思う」


「なるほど……」


 以前戦った、ダイゴのマネキン人形に近い性質か。

 ならば、中途半端な小細工や戦力の分散は愚策だ。各個撃破されて終わるのが落ちだろう。

 数の暴力メリットを最大限に活かすなら、答えは一つだ。


「よし、わかった。全員で突撃させよう」


「ず、随分思い切りが良いのね」


白羽が困惑しながら答える。


「じゃあ、ミツルたちもまたな」


「ええ、お気をつけて。ご武運を」


 聖グラディスの連中に短く別れを告げる。

 俺たちは俺たちの戦場へ。

 俺は隣に立つ少女に向き直った。


「先輩、俺はこれからこのまま黎明れいめいに向かいます」


「ええ、もちろん私もいくわ」


 小春は迷うことなく、妖艶な笑みで頷いた。

 覚悟は決まった。


 俺は腰の剣を引き抜き、切っ先を夜の闇──黎明工科の方角へと突きつけた。


「全軍、前進!!」


 俺の号令と共に、二百五十体のヒーローが一斉に黎明へ向かって進軍を始めた。

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