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サマー・ロスト 剣を捨てた無気力少年、負けたら「存在消滅」のデスゲームで覚醒する。  作者: 謝命雲丹丸
二章

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第60話 ギャンブルの神様

「おいおい。ゲームの途中で降りることはできないぜ」


 帰り支度を始めようとした俺たちに、鰐淵わにぶち愉悦ゆえつに満ちた声をかける。

 だが、ミツルは冷ややかな視線を返すだけだ。


「くだらない。貴方の茶番に付き合う必要なんてありませんね」


 確かにそうだ。俺は刀の柄に手をかける。

 こいつの首を物理的に刎ねれば、このふざけた空間も消滅するはずだ。


「もう壊していいのカ?」


 俺の考えが伝わったのか、ベンケイが問いかけてくる。

 小さく頷くと、ベンケイがニィと笑った。


 問答は無用。物理的に全て叩き潰す。


 ベンケイの太刀が唸りを上げ、最も近くにいたバニーガールの首を薙ぎ払う──はずだった。


 ガィィィンッ!


 硬質な音が響き、鋭利な刃がマネキンの首筋でピタリと静止する。

 防がれたのではない。まるで『攻撃判定』そのものが消失したかのように、刃が通らないのだ。


「暴れるのはマナー違反だな」


 鰐淵が指を鳴らす。


 その乾いた音を合図に、フロア中のバニーガールたちが一斉に首を回した。


 ギギギギギギッ──。


 プラスチックが擦れる不快な音と共に、数十の『のっぺらぼう』がベンケイを凝視する。


「オ? なんダ、こいつラ……ッ!?」


 数体のバニーガールがベンケイに飛びかかり、羽交い締めにした。


「させるかッ!」


 俺も加勢しようと刀に手をかけるが、それをミツルが制した。


「無駄です、状況が悪くなるだけかと」


「このカジノでは暴力は禁止されている。……お前は出入禁止バンだ、野蛮人」


 鰐淵が冷たく言い放つ。

 抵抗する間もなく、ベンケイの体は空間から弾き出されるようにズルズルと引きずられ──。


 ドサッ!


 無様に店の外へと放り出され、重厚な扉が固く閉ざされた。


「さあ、続きをしようぜ。聖女さま」


 邪魔者は消えたとばかりに、鰐淵がカードを指差した。

 対面に座る白羽は、完全に場の空気に呑まれていた。

 震える指先が、テーブルの上のカードへと伸びる。めくられたのは、無慈悲な絵札。


 合計数値は二十二。


「あ……」


「バーストだ。残念だったな」


 鰐淵が指を鳴らす。

 その乾いた音と共に、空間から黄金色の鎖が出現した。


 ジャララッ! と硬質な音が響き、悲鳴を上げる彼女の身体を幾重にも拘束する。


「いや、いやぁああッ!」


「往生際が悪いぞ。敗者には相応の席が必要だ」


 抵抗も虚しく、彼女はズルズルと背後の巨大なガラスケースの中へと引きずり込まれていく。


 ガコン、と重厚なロック音が響き、聖グラディスの聖女は「箱入り」になってしまった。


「ククッ……、女王クイーンは頂いた」


 鰐淵はガラス越しの少女を満足げに眺めてから、くるりと椅子を回してこちらを見た。


 圧倒的な勝者の余裕。

 このカジノという領域テリトリーにおいて、彼は絶対的な支配者だ。


「俺はこのまま、終わりでもいいんだが……どうだ? お前らも勝負するか?」


 挑発的な視線が俺たちを射抜く。

 ここで引けば、白羽を見捨てることになる。そんな選択肢はない。


 ミツルが一歩前に出た。


「当然ですが、やります。彼女を返していただきましょう」


 鰐淵は嗜虐的な光を目に宿し、ガラスケースを親指で指し示した。


「本来なら一人ずつ勝負するところだが……こっちが賭けるのは『女王クイーン』だ。それ相応の対価チップが必要になる」


「……何を賭ければ良いんですか?」


「賭け金は、お前ら全員だ」


 全員の身柄。

 負ければ、俺たちもガラスケース行きになるということだ。


 あまりに分が悪い賭けだ。

 だが、断ればその時点で白羽は必ず死ぬだろう。ミツルが脂汗を流し、他に方法は無いかと計算を巡らせて沈黙する。


 その時だった。


『──ヨシツネ。お前が相手をしロ』


 頭の中に、聞き慣れた声が響いた。

 足元の影が、微かに揺らぐのを感じる。


『……ベンケイか?』


『アア、放り出されたが、建物の影を伝って戻ってきたゾ』


 俺は表情を変えずに内心で安堵した。

 先ほど店外へ排除されたはずの小さな相棒は、どうやら無事に潜入を果たしたらしい。


 すると、影の中から、にゅっと何かのつかが押し出され、俺の手に握らされた。 テーブルの死角を使った、見事な受け渡しだ。


『……なんだこれ。初めて見る刀だな?』


 手渡されたのは、奇妙な形状の武器だった。

 直剣の途中に、半月状の突起がついている。刀というよりは、草を刈る『鎌』に近い。


『新しい刀を貸してやる。それを使エ』


『これがあれば、勝てるのか?』


『ああ。昔、ギャンブルの神様が愛用していたという代物だ』


 ベンケイの声には、絶対の自信が滲んでいる。 


『見たものを石に変える蛇頭の女妖怪。そいつの首を切り落とした由緒ある聖剣だゾ』


『おお、なんか凄そうだな』


 俺は「鎌のような剣」を隠し持ち、ミツルの肩に手を置いた。


「ミツル、大丈夫だ。俺に任せてくれ」


「……ヨシツネさん?」


 ミツルが驚いたように振り返る。

 俺は彼にだけ分かるように小さくウィンクし、鰐淵の正面へと進み出た。


「知らん顔だな、お前が相手か」


「ああ。俺たちの命、まとめて賭けてやるよ」


 俺は席に座り、不敵に笑う支配者を見据えた。  

 

 さあ、大博打の始まりだ。


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