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サマー・ロスト 剣を捨てた無気力少年、負けたら「存在消滅」のデスゲームで覚醒する。  作者: うにまる
一章

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第5話 才能の開花、目覚める力

「じゃあ、戦う……うーん? 人を殺す覚悟ができたら──王様の前にきてね~」


 冴木は、まるで昼休みの雑談みたいな調子で言うと、ぴょんと軽やかに立ち去っていった。 気づけば俺は、木の根元に腰を下ろしていた。


……"人を殺す覚悟"。


 その言葉だけが、頭の中をぐるぐる回っていた。


──他人を傷つけなければ、生き残れない。

──誰かを殺すか、自分が消えるか。


 冴木の声色は軽かったのに、胸の奥にその言葉は鉛のように重く沈んでいる。 他人を傷つける。それは俺が、いちばん遠ざけてきた言葉だった。


 風が止まる。まるで時間だけが、俺を取り残したみたいだった。

 

 あの時の記憶が鮮明に蘇る。 竹刀がぶつかる感触。 手のひらを伝って走った鈍い衝撃。 相手の肩を打った瞬間、骨が鳴るような音がした。


 倒れる音。歓声が止まる音。審判の「止め!」も、何も聞こえなかった。


「……壊したんだ、彼を。俺が」


 ぽつりと呟いた声が、乾いた風に溶けた。

 あの日、俺の中で何かが音を立てて折れた。 竹刀を握る手が震えて、もう一度構えることもできなかった。


 周りは言った。「事故だ」「仕方ない」「気にするな」


── でもあの時、勝ちたい気持ちを通り越して、もっと汚れた「ぶっ壊してやる」って衝動もあった。自分の中に、そんなものがあるのが"怖かった"。


 それ以来、誰かと関わるのが怖くなった。他人を傷つけないために、自分が傷つかないために。


 ユウトとも、アイツとも、距離を置いた。 全部、自分で壊したくせに、その状況に苛立ってた。


……そんな俺が、他人を傷つけてまで、生き残る資格なんてあるのか? いや、そもそも──生き残る理由なんて、あるのか?


そのときだった。


 胸の奥に、ふっと温かい光が灯った気がした。 塔の方から、柔らかな光が届く。まるで誰かが、遠くから手を伸ばしてくれたみたいに。


──ヨシツネは、弱くても強くて、怖がりだけど勇気があって、優しい人だよ。


──大丈夫。怖くても、ちゃんと前に進める人だから。


 校庭の風が一瞬止まり、胸の奥をくすぐるような声が響いた。


(……この声……誰だ?)


 思い出せない。 けれど、不思議と心の奥が温まっていく。


──怖くてもいいよ。それでも、あなたは進めるから。


 やわらかい声が、封じていた記憶に触れた。


「……俺は」


 自然と声が漏れる。 諦めていた俺が、その言葉を受け取って、ようやく自分の中に答えを見つけた。


(そうか……怖いのは、悪いことじゃなかったんだ)


 この声との繋がりを、消したくなかった。消してはいけないと思った。


「戦わなきゃだ」


 理由はわからない。でも、強くそう思えた。小さく、けれど確かに言葉が出た。


 怖くても、この声をもう一度聞かなきゃいけない。 涙の跡を手で拭って、立ち上がる。


 塔の前では、九条と数人の生徒が話し合っていた。


「……覚悟は、できた?」


 九条がこちらに視線を向ける。その瞳は鋭くも優しく、俺を試しているようだった。


「君はコレからポーン、つまり兵隊となる。殺す覚悟と殺される覚悟が必要になるぜ」


「……はい」


 まだ不安はある。迷いだって拭い切れてない。 けれど、それでも前に進もうと思える。 あの声が、背中を押してくれたからだ。 懐かしくて、温かくて、大切な"何か"を思い出させてくれる。


──あの声が。


 だから、もう立ち止まってはいけない。

 俺は静かに塔の前に立ち、深呼吸をひとつ。


「王様に触れて~、あとはなりゆき~」

 

 冴木の軽いノリに、思わず小さく笑った。

 手を伸ばす。次の瞬間、視界が爆発したように光で満たされる。


(な……なんだ、これ……!?)


 体が浮かぶ。いや、沈んでいくのか……?

 重力が消え、意識が白に溶けていく──。


 上下の感覚もない。音もない。ただ、遠くで誰かの声が聞こえる。


『……だれダ?』


 くぐもった声。だが不思議と耳に残る、低く擦れたハスキーな響きだった。 目を凝らすと、靄の向こうに"それ"がいた。


 猫ほどの大きさのトカゲ。 いや、トカゲというには、どこか人間くさい。その目は理知的で、尻尾をゆったりと揺らしながら、じっと俺を見上げている。


『君は?』


『……お前が決めるんだゾ』


 その声を聞いた瞬間、胸の奥に懐かしい記憶が蘇る。


──あの夏の日、庭にいつも来ていた黒猫。 鋭い目つきのくせに、妙に人懐っこかった。


 ナツキが「ヨシツネのところによく来るからベンケイ!」って勝手に名付けたんだ。 猫がふっといなくなった日、ナツキは泣きながら俺を責めたっけ。


「ヨシツネが追い払ったからだ」って。

……違う。俺だってお前がいなくなって寂しかったんだ。


『……お前の名前は、ベンケイだ』


『……ベンケイ。悪くない名だナ』


 満足げに頷いたあと、そいつはすっと俺の足元に寄ってくる。その時だ。

 ドクン、と心臓が跳ねた。


 小さなトカゲの足元から伸びる「影」だけが、異常だった。 夕日に照らされたその影の手には無数の武器が握られているように見えたからだ。


 ベンケイ──いや、影の中に潜む怪物が、ニィと口元を歪めた気がした。


──同時に視界が揺らぎ、靄が弾けるように散った。


 気づけば、校庭の元の場所に戻っていた。 塔の前では、冴木と九条、それに数人の上級生がこちらを見ている。


「か、かわいいぃぃ!!」


 九条が声を上げた。


「ね、ね。この子の名前は?」


「……ベンケイです」


 九条が近づくと"ベンケイ"はサッと影の中へと姿を溶かしていった。


「……ええーっと」


「ベンケイちゃん、恥ずかしがり屋なの?」


 九条が寂しそうな眼をする。


 いや、そうじゃない。"ナツキ"だ。 さっき俺の背中を押してくれた声は。


「……ナツキ、そうだ。ナツキ」


 どうして、忘れていたんだろう。 子どものころから、ユウトと、ナツキと、三人でずっと一緒だったのに。


 俺が小さくつぶやいた声に、九条は少し悲しそうな顔をして、ごまかすように隣の生徒に話しかけた。


「長谷川くん、じゃあ真田くんが帰ってきたら交代で出発して。ああ、それと藤守くんを呼んでおいておくれよ」


「はっ!」


 声をかけられた男子生徒は、まるで任務を授かった兵士のように返事をした。


 そうだ。


 ライフが0になると"消失"して、みんなの記憶からも消える──そう言っていた。 つまり、ナツキはこの世界に来て。


──冴木が何かを言いかけたが、それを九条が制した。


「ボクが話すよ」


 その目を見ただけで、俺の仮説は確信に変わる。


「ナツキちゃんはね……夏休みに入る、少し前かな」


 九条の声は静かで、どこか遠くを見ているようだった。


「ボクたちも、ユウトくんも、最善は尽くしたんだぜ?」


 その一言で、胸の奥にひびが走る。


「……どこのどいつですか」


 声が、地を這うように低くなった。どす黒い感情が渦を巻く。俺の大事な日常を、ナツキという存在を奪った理不尽への、煮えたぎるような殺意だけがあった。


 ナツキの仇を討ちたい──それしか考えられなかった。


「今は言えないな。行ったって、殺されるだけだから」


 正論だ。 けれど、胸の奥が煮え立つのを抑えきれなかった。

 無言のまま、九条の目を見返す。


「今は、自分の能力と向き合う時間だよ」


 返ってきた視線は、じっと俺を射抜くように真っ直ぐだった。不思議と冷静になる。


「勝てると判断したら、そのとき教えてあげる。いいかい?」


「……はい」


「望むものがあるなら、そのための力を得るしかないんだぜ」


 返せる言葉はなかった。

 ただ、強く拳を握りしめることしか、今の俺にはできなかった。


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