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サマー・ロスト 剣を捨てた無気力少年、負けたら「存在消滅」のデスゲームで覚醒する。  作者: 謝命雲丹丸
二章

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第57話 光壁と影縫い

「それで……ヨシツネさんは、お一人で夜戦に参加して、一体何をするつもりだったのですか?」


 ミツルが不思議そうに尋ねてくる。

 たしかに、召喚されたてホヤホヤの一年生が、単独で戦場をウロウロしているのは不自然極まりない。


「いやいや、本当は先輩たちと黎明工科れいめいこうかに強襲をかけるつもりだったんだよ。でも、敵の空間転移ワープみたいな能力で、俺だけこの近くに飛ばされちまってさ」


「なるほど、はぐれてしまったと」


「ああ。で、近くで戦闘音がしたから、うちの先輩たちが戦ってるのかなと思って覗きに来たんだ」


 俺は肩をすくめて苦笑する。


「そうしたら、君がピンチだったわけだ。……正直、加勢した時点では相手が暁天高専だってのも、わからなかったけどな」


「確かに。人形とペストマスク、それにパワードスーツですからね……。初見では所属が分からなくて当然です」


 ミツルは納得したように頷いた。


「では、ヨシツネさんは今からはぐれたお仲間を探す、ということですね?」


「ああ、そのつもりだ。ミツルはどうするんだ? 一旦退くのか?」


 俺が尋ねると、ミツルの顔が曇った。

 彼は困り果てたように眉を下げ、視線を彷徨わせる。


「いえ、戻るわけにはいきません。僕は……白羽しらは先輩を探さなければならないのです」


「さっき言ってた御三家ビッグスリーの一人か」


「はい。彼女は、我が聖グラディス学園の総大将──女王クイーンなのですが、目を離した隙にいなくなってしまって……」


 俺は耳を疑った。


「えーと、ルールには詳しくないんだが……総大将である『女王』が校内から出るのって、ルール的にアリなのか?」


 普通、将棋でも王将といえば本陣の奥深くでドッシリ構えているものではないだろうか。


 俺の素朴な疑問に対し、ミツルはこの世の終わりのような、深く、重い溜息をついた。


「……ルール上は『アリ』でも、普通は誰もやりませんよ」


 ミツルのついた深いため息が、俺の中でインテリヤク……もとい、望月先輩のそれと完全に重なった。


 そうか、この子も苦労人枠なんだな……。

 俺は心の中で、強く同情した。どこの組織も、言うことを聞かないやつがいるのは世の常らしい。


「それで、行き先に当てはあるのか?」


「えー、今日のお昼に、飛行船で遊んだのが楽しかったらしくて」


 ミツルが遠い目をして答える。


「ああ、そういえば昼間に飛行船が飛んでるのを見たな」


「ええ、アホなんです」


 清廉潔白そうな顔で、ミツルは自校のトップをバッサリと切り捨てた。


「そうやって遊んでたところ火事を見つけたらしく、消防車に乗り込んで火事を消し止めたとか。その消防士ごっこが大層気に入ったそうで」


「…………」


「その流れで、次はパトカーに乗って悪党を逮捕したいと申しておりまして」


「……馬鹿なのかな?」


 俺は思わず真顔で問い返した。

 ここは各校がしのぎを削る戦場のど真ん中だ。


 しかも、総大将である『女王クイーン』は、ルール上、一度でも死亡すれば存在が消えてしまう。


「クイーンは一度死んだら終わりだというのに、何を考えてるんだ……?」


「おっしゃる通りです。ですが、あの方に常識は通用しません」


 ミツルは疲れ切った顔で首を横に振った。


「そうなると、行き先は鴉羽高校からすばこうこうの近くにある警察署か?」


「あー、場所はそうかもしれませんが……車両の調達が目的ではないと思います」


 ミツルは眉を下げて否定した。


「彼女の能力を使えば、パトカーは用意できますから」


「……なら、なんでわざわざ移動するんだ?」


「あの人は変なところで『本物志向』なんです。たぶん、『警察署から緊急出動する』というシチュエーションがやりたいだけかと」


(めんどくせぇ……)


 俺は天を仰いだ。雰囲気ノリで戦場を移動しているのか、その女王様は。


「まあ、どちらにせよ方角は南、か」


「そうなりますね。……暁天きょうてんの部隊は、おそらくあの三人で全てか……いたとしても、もうひとグループくらいでしょう。他に遭遇する懸念があるとしたら……」


 ミツルは南の方角を睨み、不安げに呟く。

 緩やかな同盟関係にある東陵うち修武館しゅうぶかんとはぶつからないだろう。となると、黎明か鴉羽か綾香か……。


「白羽先輩の言う『悪党』が、具体的に誰を指しているのか。そこが一番の問題です」


「鴉羽の連中なら適役かも知れんがな」


 鴉羽は『悪徳商人』や『湾岸マフィア』といったキーワードが似合う学校だ。 『悪党を逮捕したい』という彼女のニーズには合致している。


 俺は苦笑しつつ、耳を澄ませた。今のところ、静寂が支配する夜の街だ。


「それにしても……こんな物音ひとつない世界で、パトランプ回してサイレン鳴らす気か?」


「やるでしょうね、彼女なら」


「マジか……」


 隠密行動が基本の夜戦において、それは挑発以外の何物でもないだろう。


「……まあ、文句を言っても始まりませんね」


 ミツルは気を取り直すように、パンと一度手を叩いた。


「ヨシツネさん。もしよろしければ、僕たちと同行しませんか? お互い目的地は南ですし、はぐれたお仲間を探すなら、数が多い方が効率も良いでしょう」


「ああ、それは助かる。正直、土地勘がなくて困ってたところだ」


「それは良かった。──まさに『渡りに船』ですね」


 俺は二つ返事で快諾した。

 右も左もわからない敵地で、案内役ナビゲーターが手に入るのは願ってもない好機だ。


「じゃあ、改めて紹介させてくれ。……相棒のベンケイだ」


「ふぅむ……。あの凄まじい剣士の正体が、まさかこれほど小柄な少女だったとは」


 ミツルは驚いたように目を丸くした。

 先ほどの戦闘で、彼女が神業のような剣技を振るっていたことは知っている。だが、こうして殺気のない状態で見ると、その外見は小学生くらいの幼子そのものだ。


 お尻から揺れるトカゲの尻尾や、身の丈に合わない重厚な剣とのアンバランスさが、彼女の異質さを際立たせている。


「ベンケイだゾ、よろしくナ!」


 ベンケイは笑いながら、ニカッと親指を立てる。


「ええ、あの吉澤を一撃で葬った実力……頼りにさせていただきます」


 ミツルはベンケイの馴れ馴れしさに驚きながらも、敬意を込めて深く頷いた。


「では、こちらも紹介しますね」


 ミツルが手招きすると、後ろに控えていた二人の女子生徒が一歩前に出た。

 肩口で切りそろえた亜麻色の髪に、聖職者クレリックを思わせる白い制服。  顔立ちは瓜二つ。どうやら双子のようだ。


「右が姉の奏音カノン、左が妹の亜里亜アリアです。二人とも我が校が誇る優秀な能力者ですよ」


「……聖グラディス一年、カノンです」


「……同じく一年、アリアです」


 二人はペコリと同時に頭を下げた。

 感情の読めない人形のような静けさだが、その瞳には強い意志が宿っている。


「カノンの能力は、先ほどもお見せしたあらゆる物理攻撃を遮断する鉄壁の守りです」


「……守るのは、得意」


 姉のカノンが、淡々とした口調で補足する。

 あのパワードスーツを閉じ込めた『檻』を作ったのは彼女か。防御だけでなく、使い方次第で凶悪な牢獄にもなるわけだ。


「そして妹のアリアは、光の矢で影を打ち付ける遠距離拘束を得意としています」


「……こんな感じ」


 アリアが短く呟き、指先を軽く振るった。

 ヒュッ、と風切音がしたかと思うと、俺の足元──アスファルトに伸びた影に、小さな光の矢が突き立っていた。

 影が縫い留められただけ。本体には掠りもしていない。


 だが。


「……っと。おお、本当だ。動けない」


 足を上げようとするが、まるで鉛のブーツを履かされたように重い。いや、空間そのものに固定されたような感覚だ。


 影という不可視の部位を狙われる以上、鎧を着ていようが関係ないということか。


「影を縫われると、本体も縛られる。……裏切ったら、全身縫いつける」


「い、いや……味方だからな? お手柔らかに頼むよ」


 無表情で物騒なことを言う妹に、俺は苦笑いで降参のポーズを取った。

 アリアが指を鳴らすと、矢は光の粒子となって消え、身体の自由が戻る。


 なるほど。光の壁で空間を断絶する姉に、影を縫い留める妹。


 前衛特化の俺とベンケイ、中距離のミツル、そして鉄壁と搦め手の双子。

 即席にしては、なかなかバランスの取れたパーティだろう。


「よろしく頼むよ、二人とも」


「「……ん(コクッ)」」


 双子は同時に頷いた。


 こうして俺たちは、姿を消した自由奔放な女王陛下を探すため、夜の街を南へと下ることになった。


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