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サマー・ロスト 剣を捨てた無気力少年、負けたら「存在消滅」のデスゲームで覚醒する。  作者: 謝命雲丹丸
二章

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第53話 蛇と蝙蝠

 ピピピ、ピピピ……。


 午前零時。

 無機質な電子音が、ホテルの静寂を切り裂いた。


「──時間だ」


 アラームが鳴ると、ユウトが跳ね起き、サイドテーブルの明かりを点ける。


「……ん、あぁ」


 俺は重いまぶたを擦りながら身を起こす。

 泥のように眠っていたせいか、頭の芯がまだ痺れている感覚だ。


「頭、回ってない顔だね。コーヒー淹れるけど、飲む?」


「頼む。ブラックで、濃いやつを」


 ユウトが能力でお湯を沸かし、インスタントコーヒーを二つ作る。

 立ち上る湯気と香ばしい匂いが、少しだけ『戦場』の気配を遠ざけてくれる気がした。


「ふわぁ……。もう朝カ?」


 隣のベッドで、幼女姿のベンケイが大きなあくびをして起き上がる。寝癖で髪が爆発している。


「夜の十二時だ。これからが本番だぞ、ベンケイ」


「いやダ、まだ寝るから敵のところまで連れてケ」


 文句を言いながら、彼女は影の中へと消えた。

 最初からそうしてくれれば俺もベッドで寝れたんだがな。


 午前一時。

 俺たちは装備を整え、ロビーへと降りた。

 そこには既に、真田たちが待機していた。


 全員、食事の時のリラックスした空気は消え失せ、鋭い刃物のような気配を纏っている。


「全員揃ったな」


 真田が腕時計を一瞥し、短く告げる。


「ここからは徒歩で移動する。目的地までは、およそ四十五分から一時間といったところか」


「車は使わないんですか?」


「エンジン音は闇夜じゃ目立ちすぎる。それに、敵の能力に引っかかるリスクも高いしな」


 ユウトが冷静に補足した。

 なるほど。ここからは隠密行動ステルスが基本というわけか。


「いいか、改めて肝に銘じておけ」


 真田が、俺たち全員を見回して念を押す。


「夜戦での命は一つだ。一度でもキルされて学校に戻されれば、今夜の再出撃は不可能。……つまり、その時点でこちらの戦力はガタ落ちだ」


 たった一度のミスで、この夜が終わる。

 その重圧プレッシャーが、冷たい夜風と共に肩にのしかかる。


「……行くぞ」


 俺たちは無人の街へと足を踏み出した。

 深夜の夢見市。街灯の灯すらないその道は静まり返っているがゆえに、どこか不気味な獣の体内を進むような緊張感があった。


 一歩一歩、慎重に。

 俺たちは息を殺し、決戦の地へと歩を進める。


「──もうすぐエリアを抜けるぞ」


 先頭を歩く真田先輩が、足を止めずに低く告げた。背後を振り返る。守護の塔・ルークからの距離は、およそ五〇〇メートル。


 ここが、自陣のバリアが届く限界ラインだ。

 ここから先は、いつ、どこから攻撃を受けてもおかしくない。


 全員の肩に、ピリッとした緊張が走る。

 歩きながら、真田先輩が前を見据えたまま言った。


望月もちづき曰く……鴉羽高校からすばには、ウチのネムルのような能力者がいるらしい」


「えっ、ネムルって……予知能力ってことですか?」


「ああ。遠隔透視か未来予知か知らねぇが、俺たちの動きは鴉羽には筒抜けなんだろう」


 真田先輩は事もなげに続ける。


「鴉羽は黎明と通じている。当然、情報は伝わっているはずだ。俺たちがこれから攻め込むことは、敵さんにはもうバレてるかもしれん」


 俺は思わず足を止めそうになった。

 奇襲作戦だと思っていた。敵が寝静まった隙を突くのだと。


 だが、相手が起きているどころか、こちらの侵攻のタイミングすら知っているのなら、わざわざ夜に攻め込むなんて、自殺行為じゃないのか?


「いや……」


 言いかけて、俺は考え直す。

 さっき、カエデが言っていた言葉──『焦らし』。


(そうか……逆だ)


 バレているからこそ、待つことに意味があったんだ。 「来るぞ、来るぞ」と分かっているのに、いつまで経っても来ない。


 少なくとも五時間……。

 闇の中で、いつ飛んでくるかわからない矢を待ち続ける時間は、どれほどのストレスだったろうか。待つというのは、辛いものだ。


 それが自分の生き死にに直結するとしたら、尚更だ。

 俺たちがホテルでご飯を食べて寝ていた間、敵はずっと死の恐怖が近くにあったはずだ。


 疲労の差は、戦力の差に直結する。


 俺がそう納得した、その時だった。


「いるゾ」


 エリアを出て二十分ほど歩いたビジネス街。

 俺の影がぐにゃりと歪み、ベンケイが人型の姿で飛び出してきた。


「全員、構えろ!」


 真田の鋭い号令が飛ぶ。

 弾かれたように全員が、打ち合わせ通りの配置につく。


 最前線で敵を迎え撃つのは、真田先輩とベンケイ。

 俺とカエデ先輩がその背中を追い、遊撃と支援を担う。

 そして最後尾には、狙撃手のユウトと、防御の要である小春先輩が控える。


「ベンケイ、数はわかるか?」


 真田が拳を構えたまま問う。

 ベンケイは夜風の匂いを嗅ぐように鼻を鳴らし、暗闇の奥を睨みつけた。


「二人……あと、もう一つ何かいるが、ソレは人間じゃない」


「人間じゃない? 暁天きょうてんの機械か?」


 ピリッとした緊張が走る中、隣にいたカエデが、懐から無造作に〝それ〟を取り出した。


 チャキッ、という乾いた金属音。

 月明かりに照らされたのは、無骨な鉄の塊──拳銃だった。


「……えっ?」


 俺は我が目を疑った。

 この世界では能力が主役だと思っていた。だが、それは紛れもなく現代兵器の象徴。


「カエデ先輩、それ……本物ですか?」


「ええ、本物~。お昼に置いてってくれたの~」


 彼女は悪戯が見つかった子供のように、ふふっと笑う。


「忘れ物みたい〜。せっかくだから、お返ししてあげなくちゃ~」


 彼女は慣れた手つきでスライドを引き、セーフティを外した。

 ふわふわとした笑顔と、殺傷能力の塊である銃。そのアンバランスさが、恐ろしい。


 視界が開けた。

 ビジネス街を抜け、片側四車線の大通り──国道へと出る。


 遮蔽物のない、広大なアスファルトの川。

 その向こう岸に、〝それ〟はいた。


「……嘘だろ」


 俺は息を呑んだ。

 月明かりの下、アスファルトの上を滑るように蠢く、巨大な影。


 それは、観光バスほどもある巨大な蛇だった。

 濡れたような白い鱗が街灯を弾き、鎌首をもたげたその頭上に、二つの人影が悠然と佇んでいる。


 中央に座るのは、黒いコートの男。昼間、学校に来ていたあの蝙蝠男だ。確か名前は黒沼理玖くろぬまりく

 その脇には、派手なメイクのギャルが控えている。


「やあやあ、真田くん。しばらくぶりだねえ」


 黒沼が、大蛇の上から芝居がかった動作で手を振った。

 四車線を挟んでの対峙。距離はあるが、夜の静寂が声を鮮明に届ける。


「随分と精が出るじゃないか。こんな夜更けにピクニックかい?」


「あいにくだが、散歩の途中だ。……そこを退いてくれるか?」


 真田先輩が低く唸る。

 黒沼は「おっと」と肩をすくめ、わざとらしい残念そうな顔を作った。


「それはできない相談だね。実は、黎明れいめいにはもう伝えてしまったんだよ。『東陵がそっちへ向かっている』ってね」


 彼は悪びれもせず、ペラペラと告白する。


「だから、黎明さんは今頃ピリピリしてるはずだ。君たちが行っても歓迎されないよ? どうだろう。ここは一つ、みんなで家に帰って寝るというのは?」


「……帰って寝る、だと?」


「そうそう。無駄な血を流すことはない。平和的解決スマートにいこうじゃないか」


 黒沼は笑いながら手を差し出す。

 だが、その時。ベンケイが小声で囁いた。


「……あいつの話を聞くナ。囲まれてるゾ」


「え……囲まれてる?」


 俺は眉をひそめ、周囲を見渡す。

 前後左右、この大通りに他の敵影はない。あるのは目の前の大蛇だけだ。


(どこにいるんだ?)


(横じゃない……上だ)


 ベンケイの警告に、俺はハッとして夜空を見上げた。


「──ッ!?」


 そこに星空はなかった。


 頭上を埋め尽くすように飛び回る、無数の黒い影。  バサバサという羽音が、風鳴りに紛れて空を覆っていたのだ。


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