表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サマー・ロスト 剣を捨てた無気力少年、負けたら「存在消滅」のデスゲームで覚醒する。  作者: 謝命雲丹丸
二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

53/69

第52話 本当の強さ

「──行くぞッ!!」


 真田の咆哮が、開戦の合図となった。

 俺たちは地面を蹴り、夜の闇へと躍り出た。


 もう、迷いはない。終わらない夜が、今はじま──。


「よし。まずはコンビニだ」


「……はっ?」


 あまりの急転直下に、俺は盛大にずっこけた。


「コ、コンビニ? 今から敵陣に突っ込むんじゃないんですか!?」


「馬鹿かお前は」


 真田先輩は、ポケットに手を突っ込んだまま、呆れたように鼻を鳴らした。


「今すぐ行ってどうする。開戦直後なんて、相手もテンション上がって殺る気満々だ。そんな時に正面からぶつかったら、ただの消耗戦になるだろうが」


「え、あ、はい……まあ、そうですけど」


「いいか、夜戦の基本は焦らしだ」


「そうね~、夜は長いから~」


 三年のカエデ先輩が、間延びした声で首をかしげる。

 戦場に似つかわしくない、ふわふわとした笑顔。


「夜戦の基本は焦らし~。そうやって暗闇の中でプレッシャーを与え続けるの~」


 のほほんとしてるけど、言ってることはかなりえげつない。


「──というわけで、まずは兵糧の確保だ」


 真田先輩が指差した先には、コンビニがあった。


「その後は近くのホテルで仮眠だ。丑三つ時《深夜二時》に仕掛けるぞ」


「枕投げしようね~」


 カゴに大量の唐揚げ弁当を放り込む真田、お菓子コーナーへ直行するカエデ、紅茶のティーバッグを吟味する小春。


 皆のマイペースさに圧倒されつつ、俺も恐る恐るおにぎりを手に取った。


 戦場のど真ん中にあるホテル。

 もちろんフロントに人はいない。俺たちは無人のロビーのソファを陣取り、調達してきた夕食を広げた。


 豪華なシャンデリアの下、コンビニ弁当を広げる異様な光景。


「うむ……やはり唐揚げは正義だな。冷めても美味い」


「このポテチの新作おいし~」


「紙コップで紅茶なんて、少し野蛮ね……」


 三者三様の食事風景。俺も冷たいおにぎりを齧りながら、ふと横のユウトを見た。  彼はサンドイッチを片手に、ふと思い出したようにこぼす。


「……あっ」


「ん? どうした?」


「そういえば……今日、九条先輩にご飯作ってもらう約束、してなかったか?」


 そうだ……、楽しみにしていたのに。


「オレも……食べてみたかったゾ……」


「え?」


 影から勝手に出てきたベンケイを見て、真田が拳を構え、小春が瞬時に氷を展開して俺たちの間に割り込む。


「待ってください!! 違います!!」


 俺は慌てて、間に割って入った。


「こいつは味方です! 俺の相棒です!!」


「ヨシツネくん。貴方の相棒は、トカゲじゃなかった?」


 小春が怪訝そうに眉をひそめる。


「だ、だから、これがその相棒のベンケイなんです!」


 俺は冷や汗を拭いながら説明する。


「さっき能力を進化させたら、こうなったんです。トカゲから、この姿に変身できるようになって……」


「そうだゾ。敵と間違えるなんて失礼な奴らだナ」


 ベンケイが腰の刀に手を置き、ふんぞり返る。


「……マジかよ」


 真田先輩は拳を下ろし、呆れたように頭を掻いた。


「トカゲが幼女に化けるたぁ……お前の能力も、規格外だな」


「え〜、可愛いじゃない~」


 唯一、カエデ先輩だけが緊張感なく微笑み、ポテチをつまんでいた。


「ま、戦力が増える分には文句はない」


 真田先輩は、ベンケイを一瞥すると、最後の一つだった唐揚げを口に放り込んだ。


「深夜一時半にロビー集合だ。……遅れたら置いていくぞ」


「はいっ!」


「は~い」


「承知しましたわ」


 先輩の号令で、短い夕食会は解散となった。

 部屋割りは、真田先輩がシングル、カエデ先輩と小春先輩がツイン、そして俺とユウトがツインだ。


 割り当てられた部屋に入ると、そこは変哲もないビジネスホテルのツインルームだった。


 窓の外を見れば、そこには誰もいない死の街が広がっているというのに、部屋の中だけは痛いほどに『日常』だ。


「オレはこっちのベッドをもらうゾ!」


 ベンケイが靴を脱ぎ捨て、手前のベッドにダイブする。

 ふかふかの感触が気に入ったのか、ゴロゴロと転がっている姿は年相応の子供に見えなくもない。


「……たくましい相棒だね」


「ああ、全くだよ」


 ユウトは苦笑しながらジャケットを脱ぎ、ハンガーに掛けた。


「ところでさ、何でみんなで行かないんだ? 五人だけ?」


「ああ、夜戦は、撃破ポイントというか経験値にボーナスが付くんだ」


「ボーナス?」


「そう。もし、戦力にならない弱いやつを大量投入して、返り討ちにされたらどうなると思う?」


「……なるほど。下手に数を送ると、敵を太らせるだけってことか」


「ご名答。だから、精鋭だけで攻めるのがセオリーなんだ」


 それと、とユウトは声を潜める。


「……この五人は覚悟がある人間だから」


……他人の人生を終わらせる覚悟ということだろう。


 俺は無言で頷いた。


「夜戦で一度やられて、学校(リスポーン地点)に戻されたら、その夜はもう再出撃できない。とにかく死なないように立ち回らないとな」


 彼は奥のベッドに腰を下ろし、ふと真面目な顔で俺を見た。


「なあ、ヨシツネ」


「ん?」


「さっきは、悪かったよ。……お前の『強さ』のイメージが、そこにあるんだって気づいてさ」


 ユウトの視線が、楽しそうにはしゃぐベンケイに向けられる。


「守りたいもの、取り戻したいもの。お前の根底にあるのが『ナツキ』だからこそ、その力は少女の姿をとったのかもしれないね」


「……分析するなよ。恥ずかしいだろ」


 俺は顔を逸らし、備え付けのミネラルウォーターを煽った。

 図星だ。


 俺は、剣道を通じて強くなった。体を鍛え、技を磨き、試合に勝つことで自信をつけてきた。〝天才〟なんて呼ばれて、自分たちは強いんだと錯覚していた時期もある。


 だが、本当に強かったのは──いつだってナツキだった。

 腕力じゃない。運動神経でもない。


 あの揺るがない芯の強さ。誰よりも優しく、けれど決して折れない『心の強さ』。  俺が心の奥底で焦がれ、畏敬していたのは、暴力的な力ではなく、そんな彼女の在り方だったのかもしれない。


 俺の能力が、屈強な恐竜ではなく、少女の姿をした剣士になったのも、無意識に彼女の強さを追い求めていたからなのだろうか。


「でも、悪くないと思う」


 沈黙を破り、ユウトがポツリと呟く。


「……しっかり休めよ」


「ああ。おやすみ、ユウト」


 ユウトは小さく手を振り、サイドテーブルの明かりを消した。


 部屋が闇に包まれる。

 静寂の中、ベンケイの寝息と、時計の秒針の音だけが響く。


 俺はソファに横たわり、天井を見つめた。

 数時間後には、命のやり取りが始まる。


 恐怖はある。だが、不思議と心は凪いでいた。


(……待っててくれ、ナツキ)


 瞼を閉じ、俺は泥のような眠りへと落ちていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ