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サマー・ロスト 剣を捨てた無気力少年、負けたら「存在消滅」のデスゲームで覚醒する。  作者: 謝命雲丹丸
二章

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第47話 努力と友情の勝利

「それじゃ、ここから東のルークを破壊したいから手伝っておくれ」


 俺が次の行動を告げると、冬香がすぐにタブレットを確認する。


「龍宝堂模型店ですね」


 どこだろう。詳しく聞こうとしたが、その情報に、吉澤から意外な反応が返ってきた。


『ソコナラ現実デモヨク行く』


「……へえ」


 俺は少し面白くなる。こんな性格の子でも個人的な趣味や日常があったわけだ。


「こっちは吉澤くんと俺の二人で充分だ」


『ソウダナ。六花タチハ、北ノエリアヲ狙エ』


 吉澤はすぐさま、先ほどの参謀を務めていた六花と呼ばれた女生徒に機械的な指示を出した。


「星羅と冬香も、六花ちゃんたちと合流して北へ向かってくれ」


 俺が指示を出すと、二人は頷いた。しかし、去り際に冬香がすっと距離を詰め、俺だけに聞こえる小声で囁いた。


「氷女と、光使いのメガネ、それに風使いの女。あと……知らない刀を持った男が一人います。気をつけてください」


「了解」


 やはり、あの厄介な光使いがいるか。それに未知の敵が一人。


『ジャ、イクゾ』


 ブォン、と低い駆動音を上げ、吉澤は空飛ぶスケートボードに乗る。


「おっと、待ってくれ!」


 俺は一匹の蝙蝠に変化し、ひらりと舞い上がると、遠慮なく吉澤の無機質な肩の上に着地した。


『……フム』


 吉澤は特に気にする様子もなく、ボードを急加速させた。

 しばらく進み、東陵のエリア境界付近に辿り着いたところで、吉澤はボードの歩みを緩めた。


『コノママ行ッテモ?』


「ああ、サポートは任せて欲しい。学校の垣根を越えた、俺たち二人の友情パワーを見せつけてやろうじゃないか」


『友情……フム、悪クナイ』


 模型店の攻略は、吉澤というチート火力がいる以上、二人で迅速に終わらせたい。

 景色が後方へとカッ飛んでいく。

 一気にエリア深部へと進み、目的の模型店が見えてきた。


 俺は吉澤の肩から気づかれぬ様にふわりと降り立つと、彼に悟られないよう、自然な動作で後ろへと下がった。


 当然、一番槍は彼に任せるとしよう。

 これには正当な理由がある。


 東陵のルーク防衛において、最も厄介なパターンは氷使いと光使いのコンビだ。  東陵には複数人のデバフ使いがいるが、中でも警戒すべきは、あの光の能力者だ。


 あれは、範囲内にいる人間全員に必ず効果を発揮する、回避不能の強制デバフ。領域に入った瞬間、身体能力を低下させられる初見殺しの能力だ。


 ただし、弱点もある。連発はできず、効果時間も数分で切れることが多い。


 防御不能の広範囲攻撃を仕掛けてくる相手への最適解。それは、高火力の近接アタッカーを一人だけ特攻させてデバフを吐かせ、その隙に自分が効果範囲外から攻撃するという戦法だ。


 そして今、目の前にはうってつけの最強の囮がいる。友情パワーを発揮して突き進む彼だ。


『オオオオオッ!』


 吉澤が駆動音を唸らせ、模型店へと突っ込む。

 店の前では、すでに桐谷が待ち構えていた。彼女の表情には、先ほどの古本屋での屈辱と、度重なる襲撃への焦りが見える。


 桐谷が氷壁を展開するが、吉澤には通じない。

 緑の光の剣が、分厚い氷を豆腐のように切り裂いていく。圧倒的だ。近接戦闘において、こいつを止められる生徒はそういない。


 流石に吉澤一人では、即座に〝光のデバフ〟は発動しないか。刀使いと風使いの子は見当たらない。


 さて、どこに隠れているのか。  俺は自身の体を分解した蝙蝠を上空へ放ち、偵察を続ける。


 その時だった。


 模型店の屋上に眼鏡をかけた男子生徒が姿を現した。長谷川だ。

 彼が手を上にかざした瞬間、辺り一面がカッとまばゆい光に包まれる。


『ガッ……!?』


 光を浴びた吉澤の動きが、糸の切れた人形のようにピタリと止まる。

 これが回避不能の範囲デバフ。


「今だ、桐谷くん!」


 長谷川が叫ぶ。だが、それこそが俺の待ち望んだ瞬間だった。

 俺は範囲外の安全圏にいる。そして、能力を使った直後の彼は無防備だ。


「悪いね、友情のために犠牲になってくれ」


 俺は上空に待機させていた蝙蝠たちを一斉に急降下させた。

 蝙蝠が変化し、数丁の自動小銃が火を噴く。


「なっ!?」


 長谷川が反応する間もなかった。吉澤に意識を集中していた彼は、頭上からの弾雨を浴び、一瞬で光の粒子となって消滅した。

 さらに、俺は攻撃の手を緩めない。


 そのまま射線をずらし、屋上に設置されていたルークへ向けて、残弾の全てを叩き込む。


 ドガガガガッ!


 轟音と共に模型店の看板が砕け散り、屋上のルークが爆発四散した。


「任務完了、だね」


 だが、代償は支払わねばならない。吉澤が。


 動きを止められたままの吉澤に、桐谷の怒りの矛先が向く。

 彼女が両手を突き出すと、巨大な氷塊が宙を出て舞い、破裂する。キラキラと輝くダイヤモンドダストが吉澤を飲み込んだ。


 ミシミシという圧縮音。


『ク……ソ……』


 最期に恨み節のようなノイズを残し、最強の剣士は氷の中で砕け散り、光となって消えた。


「君の勇姿は忘れないよ、吉澤くん」


 俺は軽く敬礼をすると、桐谷が膝をつくのが見えた。  さて、そろそろ限界かな?  吉澤くんとの友情の連携でルークを破壊し、長谷川を排除し、桐谷の精神を削りきった。


 東陵への「嫌がらせ」という任務は、十二分に達成している。引き上げよう。


 そう考えた時。


「桐谷先輩!」


 視界の端に、新たな影が現れた。名を叫びながら駆け寄ってくる、一人の男子生徒。


「助かったわ、ヨシツネくん」


 ヨシツネと呼ばれた生徒の登場で桐谷が安堵の声を漏らす。

 俺はポケットに両手を突っ込んだまま、ゆっくりと彼らに顔を向けた。

 その時、俺は後ろから、さらにもう一人、素早く近づく女生徒の姿を捉えていた。たしか風使いの女だ。


 (ご苦労なことだ)


 上空の蝙蝠で、この戦場の配置はすべて丸見えである。当然、伏兵の動きも把握済みだ。

 口元には、自然と営業用の微笑みが浮かぶ。


「おや、たった一人で増援とは……随分と物好きな子だね?」


 ヨシツネを挑発することで、隠れている風使いの注意をこちらに引きつける。  挑発を口にした、その瞬間。音もなく背後から迫る、風を纏った強烈な気配。


「らぁっ!」


 だが、俺にとっては、感知できてしまえば避けるのは容易い。


 バサバサバサッ──!


 俺の肉体はインパクトの瞬間、弾けるように無数の黒いコウモリへと姿を変え、四方八方へと散らばった。

 蹴りは空を切り、勢い余った風圧だけが通り過ぎていく。


 霧散した蝙蝠を操作し、少し離れた位置で再び凝集させる。まるで時間を巻き戻すように、元の黒沼理玖の形へと戻った。


「やれやれ、危ないじゃないか」


 穏やかな口調とは裏腹に、内心では少し感心していた。

 今の蹴り、まともに食らえば骨の二、三本は持ってかれたかもしれない。


「ちっ」


 蹴りを放った少女──凛が小さく舌打ちする。

 少年──ヨシツネが刀を構える。その構えには隙がなく、重心が安定している。  さっきの俺の変形を見ても、動揺するどころか冷静に分析しているようだ。


 (ふむ……こいつかなり強いな)


 そう確信する。この世界で数え切れぬほど死んだ為だろうか。初めて相対した相手でも、その潜在的な力量が、オーラのように知覚できるようになった。


 これは、人間の動物としての本能なのだろうか。よく武道の達人などは見ただけで相手の力量がわかるというが、凡人でもこれだけ殺され続ければ、生存本能が研ぎ澄まされ、嫌でもわかるようになるものである。


 この三人相手に戦うのは骨が折れそうだ。

 それにもう、疲れたしな。

 今日のノルマは達成した。これ以上の残業は御免だ。


 俺は戦闘態勢を取らず、あえてフレンドリーに話しかけた。


「君、初めてみる顔だけど結構強いね? 一年生かな?」


 俺が指を差すと、少年は警戒心を露わにする。


「そうですけど……」


「ふーん、羨ましいねぇ。才能ってやつ? ……お名前は?」


 隣の凛や、満身創痍の桐谷はまだ殺気を放っているが、この場の空気の主導権は俺が握っている。


「ああ、ごめん。俺は黒沼理玖くろぬまりく、〝鴉羽〟の三年生だ。あんまり対人戦は好きじゃ無くてね」


 そう言って、フワッと笑ってみせる。

 嘘ではない。無駄な戦いは好きではないだけだ。


「えーと、倉田義経です」


「そうか、クラタヨシツネくん。一応〝黎明〟への義理は果たしたし、さっきも言った通り、戦いが嫌いでね。つまり……帰って良いかな?」


 それは、一方的な要求ではなく、礼儀正しい許可を求めるような口調で。  戦いの引き際を提案する。やると言うなら仕方ない、一番弱そうな風使いから狙うか。


 逡巡するヨシツネより早く、桐谷が口を開いた。


「そうしていただけると、わたくしどもも大変ありがたいですわ」


 流石は桐谷だ。プライドよりも実利を取る。ここで俺と刺し違えるリスクを冒すより、撤退させる方が得策だと瞬時に判断したらしい。


「うん、じゃあ。さよなら」


 交渉成立だ。


 夕闇が迫る中、俺は優雅な足取りで戦場を去った。


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