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サマー・ロスト 剣を捨てた無気力少年、負けたら「存在消滅」のデスゲームで覚醒する。  作者: うにまる
二章

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第45話 昼にBBQとかイカレてんな

 さて、これでここら辺はエリア外となったわけで、敵も俺たちの動きは把握出来てないはずだ。このまま鴉羽に戻っても良いが。


「戻るべきか、もう少し暴れるべきか」


 独り言のつもりだったが、星羅に聞こえてしまったようだ。


「ガンガンいくっしょー!」

「こちらに、東から三人と二人、北から二人の計七人が向かってますね」


 冬香が東陵の増援情報を正確に提供する。どうやらこの二人はまだまだ暴れ足りない様だ。

 俺はすぐに思考を切り替える。


 敵はこちらの動きを把握出来ないが、冬香の能力は全ての動きを抑えている。これは強力なアドバンテージだ。

 さて、北の暁天側ルークを目指すか、東の黎明側ルークを目指すか。

 黎明のサポートで来たんだから、東を狙うと東陵は当然思っているだろうな。


「と言うわけで、北の暁天側ルークを目指そうか」


 今の任務は、黎明を助けるための嫌がらせなのだから、裏をかくのが一番楽しい。


「なら、ひとまず北から来てる二人を仕留めましょう」


 冬香の提案は即座に実行に移された。チロを隠し、大通りのそばで三人は身を潜める。


 間もなく、バイクに乗った男女二人が猛スピードで接近してきた。

 設置されていたスパイクベルトの上を通ると、甲高い音と共にタイヤがパンクし、バイクは急速に減速する。


「悪いわね」


 冬香の銃撃を皮切りに乱射を開始した。

 敵の能力だろう、わたのようなものを広げ防御しようとするが、俺たちの圧倒的な火力の前になすすべもなく、バイクに乗っていた男女は光となって消えた。完璧な奇襲と連携だった。


「さて、このまま北のエリアに入ろうか?」


 俺の提案に冬香がタブレットを確認する。


「筋肉馬鹿のグループ五人はこっちに向かってますね。氷女は東の方に向かってます」

「それじゃあ、少しおちょくってみようか」


 俺の顔には、まるで悪戯を思いついた子供のような笑みが浮かんでいた。

 チロに乗り、北のエリアに入る。


「ルークはステーキハウスのヤマノミですね。そちら側からは敵が来てませんから、追っ手の五人で仕留める気でしょう」


 ヤマノミ。俺が絵や書で表彰されたりすると、お祝いと言って、両親に内緒で爺ちゃんがたまに連れてってくれた高級な店だ。隠れ家っぽくて、好きな雰囲気だった。久しぶりにあの店のチーズたっぷりのハンバーグを食べたいものだ。


「よし、二手に別れよう。星羅、冬香。エリアに入ったり出たりしながら、そのまま暁天側に抜けてくれ」

「先輩は?」


 冬香が冷静に問う。


「古い友人に挨拶をね」


 二人を見送ったあと、俺は襲撃しやすそうな高い建物を探す。どうせエリア内にいるから敵に位置がバレているのだ、奇襲は不可能。ならば少しでも優位に立てるよう、高く見下ろしが良い所で対峙したい。


 ちょうど良さそうな、ファミレスの屋上テラスがある。あそこからなら眺めも良さそうだ。


 エリア内にとどまって待ち伏せするのは、相当な自信家か馬鹿ということ。小春からの通信で俺が来てるのはバレてるし、彼の性格なら、下級生に星羅たちを追わせて、自分自身でこちらを処理しようとするはずだ。


 俺はすぐに蝙蝠に変化し、屋上へと登る。

 そこには、豪華な食事の後があった。


「これヤマノミの肉か?」


 なんて贅沢……というかもったいない食べ方をしているのだろう。BBQで食べる様なものじゃないだろうに。


 肉もまだまだ残っているし、食事の途中で席を立つなんて、ここにいた奴らはなんて品がないんだろう。


 だが、準備万端のガスコンロと手付かずの肉がある。せっかくだ。  ガスコンロの火をつけ、カゴに残されていた肉を鉄板の上に乗せる。何故かあった切り分けられたパイナップルもついでに焼いてみよう。


 実は俺は酢豚に入ってるパイナップルがかなり好きだ。人に言うと嫌な顔をされるので、あまり言わないが。


「ふむ、いい匂いだ」


 俺はそう呟きながら、一人優雅に焼肉の準備を整えた。星羅たちも食べてから行けば良かったのに。さて、後は古い友人を待つだけだ。


 ご機嫌なランチを食べていると、彼は笑いながら屋上へとやって来た。


「大胆不敵とはこのことだな、黒沼」

「君も食べるかい? 真田くん」


 俺は焼いた肉を乗せた紙皿を差し出す。


「夜ならともかく、この世界で昼メシにBBQとか。お前、頭イカれてんのか?」


 真田の後ろからもう一人の生徒が顔をだす。確か雷を使う子だ。俺の蝙蝠とは相性が悪いので、あまり戦いたくはない相手ではある。まあ、俺と戦いに来たんだから当然か。


 これで追っ手の五人組は「二人」がこちらに、「三人」が星羅たちの元へ行ったわけだ。分断は成功。


「せっかく君たちのために準備したのに……残念だな」

「そうか、それはすまないな」


 真田はカットされた肉や準備された食器類を見て、本気で申し訳なさそうな顔をする。彼のこういう律儀なところが、俺は嫌いではない。

 まあ、ガスコンロの火をつけたのは俺だから、準備したのは俺と言っても過言ではないだろう。「料理は火力が八割」だと、昔、中華料理の〝鉄人〟がテレビで言ってた気がするしな。


「あっ? もしかして、ベジタリアンだったかな? 君はたしか……」

「そう言う意味じゃねー!」


 激怒した雷人が、拳に青白い雷を纏い、殴りかかってくる。

 俺はすぐに蝙蝠に変化し、それを回避した。


「やれやれ、話は最後まで聞くものだけどな。じゃ、ランチのお誘いには乗ってくれないみたいだし帰るよ。またね」

「逃がすかよ!」


 雷人が爪で空を引っ掻くと、雷が五本、空間を切り裂くように飛来した。

 数匹の蝙蝠が巻き込まれ、バチリと音を立てて消失する。


 やはり、相性は最悪。長居は無用だ。

 蝙蝠のまま、エリアを飛び出し、バイクを拝借し、さっき燃やした古本屋の方へと向かう。


 東陵のあの子──桐谷が消して行ったのだろう。古本屋はすでに鎮火している。都合の良いことに、ネットの氷の傘も既に粉々になって、焦げた木材と、水蒸気が混じり合い、辺りには独特の湿った匂いが漂っている。


 さて、冬香なら既に俺の意図に気づき、こちらに向かっているだろう。


「おい、もう鬼ごっこは終わりか?」


 雷人と真田の二人が、追いついてきたようだ。


「うーん、見逃して欲しいんだけど、駄目かな?」


 俺は肩をすくめて、わざとらしく嘆いてみせる。

 もちろん、彼らが追いつける速度で、調整しながら逃げて来たわけだが。彼の能力とは相性が悪いが、こうして挑発に乗って深追いしてくれる単純さは、非常に助かる。


「駄目に決まってんだろ!」


 案の定、雷人が即座に食いつく。彼が手を地面に向けると、バチバチと放電音を立てて、太い尾と鋭い爪をもった子犬のような雷獣が姿を現す。


「噛み殺せ!」


 雷人が叫ぶと、その獣は稲妻の如き速さで、俺の喉元を狙って飛び跳ねる。  だが、それも想定内だ。

 同時に上空から、黒い布を足で掴んだ一匹の蝙蝠が急降下してくる。


 ドン、という鈍い音が響く。


 その布に弾き返され、雷獣は勢いを失い、地面に転がった。

 その黒い布の正体は──『スポーツのタムラ』で拝借した、ゴム製のヨガマットだ。

 絶縁体であるゴムは、電気を通さない。


「なッ?」


 雷人が驚愕の声を上げる。

 一方、真田は動かず成り行きを見ている。彼も後輩を育てたいのだろう。俺を当て馬にするのは少々癪だが、その親心は理解できる。


 だが──それが真田の致命的な間違いだった。


 ズォォォォ……という低い駆動音と共に、上空からスノーボードの様な浮遊体に乗った、人間を模倣して作られた不気味な何かが降りてくる。


 その全身は、まるで美術室に置かれている石膏像のように、生気のないクリーム色をしていた。


 肩、肘、腰、膝のすべてが、黒い球体関節によって不自然に接続されている。  顔には鼻も口もなく、ただツルリとしたのっぺらぼう。感情も意識も感じさせない、その不気味な人形は、手にした緑に光る剣を、教科書通りの模範的な姿勢で構えている。


 カク、カク、と関節が硬質な音を立てるかのようなぎこちなさ。

 しかし、その切っ先は正確に、そして冷酷に雷人を捉えていた。


 まるで、人の動きの設計図をそのまま具現化したようなその存在は、生命への冒涜にも等しい生理的な嫌悪感を抱かせた。


『クロヌマ。加勢、シテヤル』


 抑揚のない、合成音声のような響き。


「ああ、ありがとう」


 俺は短く礼を言った。

 冬香が運よく、近くにいた彼を見つけ出し、助力を請ったのだろう。まさか、彼が来てくれるとは思わなかったが、これでこちらの勝ちはほぼ決まりだ。


 暁天高専の殺戮兵器。おそらく現在、このゲームにおける最強の剣士。


 その名は、吉澤傑ヨシザワ スグル


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