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サマー・ロスト 剣を捨てた無気力少年、負けたら「存在消滅」のデスゲームで覚醒する。  作者: うにまる
二章

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第43話 都市の目

 なんとか勇気を出して欲しいものだが。


 俺がそんな感傷に浸りながら、四股を踏む相馬の背中をぼーっと眺めていると──静寂を切り裂くような、賑やかな声が響いた。


「あー! リク先輩またサボってるー! マジウケるんですけど!」

「……星羅、声が大きい。道場に響くわよ」


 対照的な二人が、道場の入り口に立っていた。

 鴉羽高校の誇る二年生コンビだ。


 一人は、大蛇星羅オオトラ セイラ

 健康的な小麦色の肌に、金髪の派手な巻き髪。制服の着こなしも校則ギリギリ──いや、完全にアウトな黒ギャルだ。その見た目通り、場の空気を一瞬で明るく……あるいは騒がしくするムードメーカーである。


 もう一人は、雲居冬香クモイ トウカ

 艶やかな黒髪を耳にかけ、銀縁の眼鏡の奥から冷ややかな視線を送る知的な少女。口元のほくろが、その理知的な雰囲気に妙な色気を添えている。常にタブレット端末を携帯し、戦況を分析する鴉羽の参謀役だ。


「サボりじゃないよ。これは大事なメンタルケア、つまり相馬への愛ってやつさ」


 俺がひらひらと手を振ると、星羅はケラケラと笑いながら近づいてきた。


「愛って、ただ見てるだけじゃん! ソウマっちも大変だね~、こんな先輩もってさ~」

「……ッス」

「うわ、認めちゃったじゃん! ウケる!」


 星羅は相馬の背中をバンバンと叩く。相馬は無反応だが、嫌がってはいないようだ。この底抜けの明るさが、寡黙な相馬にはちょうどいいのかもしれない。


「先輩、ふざけてる場合じゃありません。……状況が変わりました」


 冬香が眼鏡の位置を指先で直しながら、淡々と告げる。


「うん、なにかあったのかい?」

「黎明から救援要請です」

「あー……やれやれ」


 俺はすぐに状況を理解する。昨日の時点で黎明のルークはあと一つのはず。別に同盟というわけではないが、黎明が落ちれば、綾香、修武館、東陵の攻撃は全てこちらに集中するだろう。

 それをわかっているからこその、救援要請だ。


「じゃあ、ホールに行こうか」


 俺は軽やかに立ち上がった。


 玄関前のホールへ向かうと、そこには既に大小様々の銃が整然と並べられていた。八九式5.56mm小銃、SIG Sauer P230JP、New Nambu M60

──その物々しい光景は、戦場を思わせる。


 鴉羽は湾岸地帯に位置する。すぐ近くには海外からの凶悪犯罪を防ぐ警察署があるが、そのような経緯から夢見警察は備蓄している銃器の量が豊富だ。故に、鴉羽の戦法はまず、その豊富な銃器を警察から拝借してくるのがお決まりとなっている。


 背水の陣よろしく、ルークは前方の町側だけで十分だ。水産業についての授業があるためか、海が好きな生徒が多く、必然的に水に関係する能力者が多い。海からの襲撃は自殺行為に等しい。


 故に前方にだけ注意を払い、綾香へ全力でぶつかる。そして、バランスが崩れそうな時は修武館や東陵を削り調整する。

 銃火器を使い、守りを固め、他校からのヘイトは必要以上に集めない。


 それが、俺が築き上げた鴉羽の基本戦術だった。


「それじゃあ、行ってくるよ」


 そう告げ、俺はSIG Sauer P230JPをホルスターに入れ、黒い羽織を肩に羽織った。


「お一人でですか? アキラノゾミでも連れて行った方が……」


 冬香が冷静に問いかける。


「いいよ。呼び戻すのも悪いし、そのまま綾香とドンパチやってて大丈夫」


 綾香はちょうど良い相手だ。自分の卒業後のことも考えると、後輩たちに実践経験を積ませる方が価値がある。だから、よほどのことがない限り、俺は校内から動かない。


「はいはーい! わたしも行くー!」


 派手な声と共に、星羅が手をあげた。正直、子守はごめんではあるのだが。


「仕方ありませんね。じゃあ、私も同行しましょうか」


 冬香が眼鏡を整えながら、すっと一歩前に出た。


「ほーらね、冬香! 本当はリク先輩と一緒に行きたいくせにー」


 星羅が茶化すように冬香の肩を叩いた。冬香はそれを冷たい視線で一蹴する。  やれやれ、どうやら可愛い後輩二人の同行は確定の様だ。


「じゃあ、二人とも一緒に行こうかね」


 無駄な問答を続けるのは時間のロスだと判断し、俺はすぐに同意した。

 ポケットから一枚のコインを取り出し、指先で器用に弾いた。煌めくコインが宙を舞う。


「表なら東陵、裏なら修武館で良いだろう」


 パチン、と手の甲に落ちたコインは、表を示した。


「よし、東陵のルークをいくつか壊しに行くよ」


 三人は校庭に用意されていた車に乗り込み、東陵のエリア境界近くを目指した。俺が運転席に座り、車を静かに発進させる。後部座席には冬香と星羅が座った。


「冬香、黎明に修武館に集中する様アドバイスを」

「既に連絡済みです」

「さすがだね」


 星羅は興奮気味に身を乗り出す。


「でもさー、襲撃先をコインで決めちゃうとか、超テキトーじゃん? ウケる」 「テキトーって訳ではないんだよ、星羅」


 俺はハンドルを切りながら、口角を上げた。


「全てを緻密に計画するってのは、実は無駄だったりする。東陵、修武館、どちらを叩いても効果は変わらないなら、決断の速さの方が大事だよ」


 これは、この世界で何度も経験して体で学んだことだ。常に良い決断をするより、選んだ道を正解にする方がよっぽど楽だ。


「……ですが先輩、あの筋肉馬鹿と陰湿氷女が同時に来たら先輩でも厳しいのでは?」


 冬香が冷静に分析を投げかける。


(あだ名が辛辣だなこの子は)


「ああ、あの二人が同時に来たらお手上げだね……でも、こっちにも頼れる二人がいるだろう?」


 俺はバックミラー越しに冬香へウインクしてみる。


「頼りになるとか本当は思ってないくせにー!」


 星羅が面白がるように笑う。


「まあ、なんとかするよ。さて、このドライブも終わりそうだ」


 俺は減速し、車を路肩に寄せた。

 冬香が能力で生み出したタブレット端末を操作する。

 その画面には、夢見の地図と各校のルークの位置情報が表示されていた。


「いつ見てもかなりチートだよねえ、冬香の能力は」


 俺の言葉は、単なる賛辞ではなかった。

 冬香の能力は、彼女が生成したタブレットを媒介とし、夢見市内の全ての公共電子インフラ、すなわち監視カメラや交通センサーを支配下に置く。


 この都市から得られる膨大な映像やセンサーデータを戦術情報として統合することで、彼女はルークの位置や敵の移動状況をリアルタイムで視認できるのだ。


 彼女は、都市の機能そのものを自らの戦術眼に変えていた。


「このルークの守りはいませんね。でも、いつものように氷女が飛んでくると思いますよ」


 冬香は淡々と告げ、端末を懐にしまう。


「じゃあ、増援が来る前に片付けようか」


 俺は羽織をはためかせ、敵地へと向かった。


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