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サマー・ロスト 剣を捨てた無気力少年、負けたら「存在消滅」のデスゲームで覚醒する。  作者: うにまる
二章

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第42話 神事

「ソウマはどこにいるかな?」


 キングの前にいた校内防衛組に声をかける。


「たぶん、稽古場かと」


──またか。本当に稽古中毒というのは困ったものだな。


 この俺、黒沼理玖くろぬまりくは、一年の一学期の頃、この最悪なゲームに巻き込まれた。

 何とか三年間生き延びることができているのは、ありがたいことである。


 一年の時に先輩から聞いた噂がある。


「全ての学校を消滅させれば、この能力を現実でも使えるようになる」


──もし本当なら、大金を手にすることも可能かもしれない。俺の夢を叶えるためにも、全部破壊し尽くそう。


 最初は俺ならできると確信していた。実際、俺の能力は強大で、先輩たちからも期待されていたのだから。


 しかし、一年が終わる頃には、恐ろしく強い猛者たちが跋扈し始めた。


 東陵高校とうりょうこうこう九条心咲くじょう みさきせいグラディス学園の白羽しらはまつり、そして俺たちとは完全な敵対関係にある綾香女学院あやかじょがくいん天城真央あまぎ まお


 ああ、やれやれ、彼女らに何度殺されたことか。腹立たしいことではあるが、俺如きでは勝てない。  


──そんな諦観と共に、二年生の生活も終わりを迎えようとしていた頃、あの男がこの世界に現れた。


 荒神相馬あらがみそうま


 一年にして相撲部の頂点に立った、まさに怪物だ。


 最初に見た時は、正直言ってがっかりした。喋りもとろくさいし、能力もただの硬化だけ。地味で情けない奴がきたと思ったものだ。


 けれど、相性というのは実に恐ろしい。

 相馬に限っていえば、それが完璧すぎた。彼の極めて堅実な能力は、ぶつかった相手を問答無用で沈めていったのだ。


 九条、白羽、天城──たしかにあいつらも化け物じみた強さだ。だが、それでも俺は、相馬こそが〝最強〟だと確信している。


 稽古場に着くと、相馬は黙々と四股を踏んでいた。


「おいおい、またやっているのかい?」

「……ッス」

「まあ、君らしいけどね」


 ドン──と。


 踏み下ろすたび、大地そのものがうなっている気がした。


 一年の時の彼は強すぎたせいで、周囲からは嫉妬され、しごきも相当きつかったようだ。仕方なく、俺が先輩や同級生たちに話をつけてやったら、途端にしごきが消えて、それからは妙に懐いてくるようになった。


 その後、相馬は二年になり高校生最強の座を獲り、四股名まで授かったという。


 名は──黒神山くろかみやま


 どうやら俺の名前から一字取ったらしいが、まったく、律儀というか、困った後輩というか。


「それにしても、よく飽きないものだね、君は──」

「……相撲は神事ッスから」


 相変わらず色々話をすっ飛ばす子だ。


 おそらく相馬にとって、四股を踏むことは神への捧げものなのだろう。祈りとして行われる行為であり、単なる運動を超えた大きな喜びとなっている。だから、何度繰り返しても飽きるなどありえない──ということなんだろう。


 四股には、たしか災いを祓い、豊作を願うなんて意味もあったはずだ。

 相馬が足を踏み鳴らすたびに、地面がわずかに震え、空気が清められていくような感覚すらある。


 ──なるほど。


 この男なら本当に、災いの一つや二つ、まとめて踏み飛ばしてもおかしくない。


「やれやれ、俺たちもそろそろ卒業だ。鴉羽はお前が綺麗にまとめて行ってくれよ」


「……。無理ッス」


「アホかい、君は。こっちだけじゃなくて、相撲部もお前さんが率いるんだろう? 少しは根性を見せたまえ」


「……リクさん……もう一年やってくれませんか?」


「ダブれってのかい、君は」


 思わず苦笑が漏れる。この男は強いくせに自信がないのが玉に瑕だ。


「君なら出来るよ。な、相馬」

「……ッス」


 とても心配だ。正直、能力を現世に持って帰ることはもう諦めている。だが、鴉羽高校が無くなるのは、ご先祖様に顔向けができない。


 鴉羽は夢見の発展に寄与した大商人、黒沼家、鳥嶋家、羽佐間家の三家が子弟や従業員の教育のために合同で建てた学校である。祖父の世代は『夢見のサンマ』なんて粋な言い方をする。


 クロヌマ、トリシマ、ハザマ。〝マ〟で終わる三家。黒い鳥の羽で、鴉羽高校。  なんとも風流な由来だが、それも今は昔の話だ。


 戦後の動乱で没落し、今やどの家もただの一般市民に過ぎない。俺の家門が築いた栄華も、過去の遺物だ。


 親父はもう、ただのくたびれたサラリーマンだ。

 お金に困っていたわけではないが、かつてのような裕福さがあったわけでもない。


 もう亡くなったが、爺ちゃんが生前、よく俺を丘の上へと連れて行ったものだ。  眼下に広がる街並みを杖で指し、決まってこう言った。


「理玖、ここから見える土地は、昔は全部黒沼のものだったんだぞ」


 全て接収され、奪われた土地。

 幼い俺は、その言葉を聞くたびに思ったものだ。


 (何故、戦ってでも守らなかったのか)


 だが、この歳になり、この理不尽なゲームに身を置くようになって、ようやく爺ちゃんの気持ちが理解できた。


 世の中には、抗えない力、どうしようもない流れというものがある。

 世は理不尽で、結局のところ、最後に物を言うのは〝力〟なのだ。


 だからこそ、俺はこの場所を無くしたくはない。

 そして──だからこそ、お前なんだよ、相馬。


 お前には、あの理不尽と戦える力がある。大切なものを守り抜くだけの、圧倒的な力が。

 俺や爺ちゃんが持てなかったその力を、どうか無駄にしないでほしいものだ。


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