第41話 能力進化(プロモーション)
「ヨシツネ、真田、桐谷の順だな」
望月が淡々と順番を告げる。
といわれても何をしていいのかはわからない。望月以外の生徒が俺から少し距離をとった。
「えっと、何をしていいのかわからないんですが」
困惑を正直に伝えると、望月は顎でキング──校庭に立つ石の塔──を示した。
「ああ、とりあえずキングにポジベリを当ててみろ」
言われるままに、俺はポジベリ──支給されたGPS代わりの端末──をキングに接触させた。すると、半透明のウィンドウが目の前に現れた。
昨日見たステータス画面だ。しかし、表示されているポイント数が尋常ではない。
「えー、21,949となっていますが……?」
昨日は1,252だったはずだ。桁が増えている。バグかと目を疑った。
「ああ、お前は〝ビショップ〟を倒したからな。それにしても八キル二デスか……」
望月は呆れる様に言う。
「そしたら、左下の太陽みたいなマークを押してくれ。そこがステータス振り分けの画面だ」
いくつかのマークがあったが、言われた通り太陽のマークを押すと、さらにいくつかの選択肢が出てきた。
「とりあえず今の選択肢は三つだ。ライフを回復する。能力を強くする。人にポイントを分ける。まずは必須のライフの回復からだ。テイクバックのボタンを押せ」
言われるままに、テイクバックと書かれた選択肢を押すと、表示上のポイントが100ポイント減る。
「そのままもう一回押して、全快まで繰り返しておけ」
指示通り、俺は計200ポイントを払い、ライフを最大の六まで回復させた。ポイントは21,749になった。
「さて、重要な説明だ」
望月はそう前置きし、次の選択肢を指し示す。
「能力を強くするのはプロモーション。これは10,000ポイントかかる。そして、ライフがなくなったり、ビショップに選ばれて死んでも消失しないリトリートというものもある。それは30,000ポイントだ」
望月は腕を組み、俺のポイント残高をチラリと見た。
「貯めておくのもいいだろう」
能力強化か、それとも保険か。
だが、俺に迷う暇はなかった。ナツキを一刻も早く生き返らせたい、その一心だ。
俺はプロモーションを続けて二回押した。ポイントは20,000減り、残りは1,749となった。
「さすがだな。清々しいくらいだ」
望月は小さく感嘆の声を漏らした。
とはいえ、能力の強化といっても何が変わったのだろうか。腰にぶら下げていた刀を見てみるが特に変化はない。そもそも、強い刀や特殊な刀はベンケイが出してくれるのだ。
「よし、そしたら最後だ。キングにポイントを寄付するキャスリングというものがある。現実に戻るために、全員のライフが一つ減る。つまり、何もしていないとライフが一つしか残っていない奴は消失してしまうわけだ」
なるほど、そうして強制的に戦わされるわけか。
「あれ? でもそうなると、ここを守ってる九条班が不利では?」
防御組はポイントを稼ぐのが難しい。そのことに気づいた俺の疑問はもっともだった。
「その通りだ。俺も含め、防御組も多少はポイントが加算されるが、攻撃組とは明らかに効率が違う。だからキングにポイントを寄付してくれれば、俺が防御班に割り振る」
やっぱりそうか。俺がこうしてポイントを稼げたのもダイゴやみんなのおかげだ。
「ちなみに、誰がどれくらい寄付したかは俺以外はわからないし、俺は誰かに口外するつもりはない。今回はひとまずしないというのでもかまわん」
俺は迷うことなくキャスリングを押して、残りの全ポイント1,749を寄付した。
「おい、良いのか? 全部じゃなくてもいいんだが」
望月はさすがに驚いた表情を見せた。
「ええ、みんなのおかげですし」
「そうか……助かるよ。それじゃあ、真田を呼んできてくれるか? 七時には校内から出てもらう事になるが、それまでは好きに過ごしてていいぞ」
俺は頷き、少し距離を空けていた真田に近づき、望月が呼んでいることを伝える。
「おう、わかった。ご苦労」
真田は力強い返事を残し、キングへと向かっていく。
少しずつ他の生徒たちも校庭に集まってきた。あと一時間か。なにをしようかと考えていると。
『おい、ヨシツネ。どこか二人きりで少し話せるカ?』
ベンケイから声をかけられ、先ほどのプロモーションによる能力向上を思い出す。
(そうか、刀や俺の身体能力があがるわけじゃなくて、ベンケイが強くなるのか?)
考えてみれば、そっちの方が納得がいく。だが、これ以上強くなるって……トカゲから恐竜になったとか?
『んじゃ、体育館でも行くか』
『あア』
旧体育館に着くと、涼しい空気が館内を満たしていた。
それにしても怒涛の展開だったが、無事に生き残れた。いや、二回死んだが。ベンケイに出会い、ナツキを思い出して、ユウトとも仲直りできた。最初は戸惑ったが、こっちに呼ばれて良かったのかもしれない。
『おい、オレの姿を見ても笑うなヨ?』
生意気な相棒、ベンケイ。いつも俺の予想を超えてきた。
ブラキオサウルスか? トリケラトプスか?
俺は子供の頃、ナツキに恐竜博士とまで呼ばれた男だ。どんな恐竜が出てきてもきっと受け入れられるだろう。
(そうか、俺の深層心理は、恐竜こそが最強だと子供の頃から強く認識していたわけだ)
トカゲの能力が顕現したことにも納得して頷く。
『お前がどんな形になっても、ベンケイはベンケイだ。笑うわけないだろ』
『そ……そうカ?』
『さあ、恥ずかしがってないで出てこいよ』
『わかっタ』
そうして、影から出てきたベンケイは、まるで小学生の女の子のような姿だった。
その紫がかった癖毛は肩先で跳ね、切れ長の瞳が妖艶に細められる。夜の帳が降りたばかりの空の色によく似たその瞳の色は、宝石の様に美しく、どこか異質な印象を与えていた。
白い羽織に真紅の袴のようなパンツを着用し、腰には、見た目にも重そうな日本刀が差し込まれている。耳元には鱗のような装飾が覗き、腰元からは、以前のトカゲを思わせる尻尾が揺れている。
まるで、この世の常識とはかけ離れた、絵物語から飛び出してきたような出で立ちだ。
「その発想はなかったわ……」
俺は苦笑する。
「おい、笑うなヨ」
(俺が一番強いと思っているもの。こっちの世界に来てからも、より一層、そう強く思ったもの。九条先輩、カエデ先輩、桐谷先輩。そして……ナツキ。みんな……女だ)
乾いた笑いが体育館に広がった。




