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サマー・ロスト 剣を捨てた無気力少年、負けたら「存在消滅」のデスゲームで覚醒する。  作者: うにまる
一章

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第40話 七校の均衡

 敵が去ったのを確認して、慌てて小春に駆け寄る。


「桐谷先輩、大丈夫ですか?」


 小春は荒い息を数度整えると、ふわりと立ち上がった。


「ええ、見ての通り問題ないわ」


 軽い微笑みには、戦闘による疲労が滲んでいる。


「でも、ルークも藍太郎も……やられてしまったわ」


 小春は悲しそうに顔を歪めた。


「仕方ないって。あいつ相手じゃ、小春が無事なだけでも上出来でしょ」


 凛が慰めるように小春の肩を軽く叩く。


「お二人とも、今のあの人のことを知っているんですか?」


 俺の問いに、小春が頷いた。


「ええ。彼は〝鴉羽高校〟のナンバー2よ。たまにこうしてちょっかいを出してくるの」


 ナンバー2……つまり、あのレベルの人間が、もう一人いるのか。俺の背筋に冷たいものが走る。


「東陵としては、現状は〝黎明〟と〝暁天〟の二校との戦いで手一杯だからね。鴉羽とは、そこまで敵対はしていないんだけどさ」


 凛が戦略的な立ち位置を説明してくれた。

 俺は一呼吸置いて、最も気になっていたことを尋ねる。


「ちなみに、ここのルークが落とされたということは、真田さんも……あの人に負けたということですか?」

「そうね。残念ながら、彼もやられてしまったみたいだわ」


 小春の言葉に、俺は小さく息を吐いた。

 あの重戦車のような真田先輩でさえ敗北する。それがこの世界の現実だ。


 今朝の時点では、このゲームはもっと単純で、簡単に蹴りがつくものだと思っていた。

 だが、どうやらそんな甘い話じゃなさそうだ。


 よく考えてみれば当然か。

 仮にどこか一校が消えれば、パワーバランスが崩れ、その歪みは巡り巡って自分の学校への圧力となる。他校だって、それを良しとはしないはずだ。

 俺がそんな分析をしている横で、小春がデバイスを取り出し、通信を開始した。


「桐谷です。凛たちが駆けつけてくれたおかげで、敵は撤退していきましたわ」 「そうか、それは良かった」


 デバイスの向こうから、落ち着いた声が響く。望月だ。


「それじゃあ、一度学校に戻ってきてくれるか? 今後の対策を練り直したい」 「了解しました」


 通話が切れる。

 望月との連絡を終え、当面の方針は決まったようだ。


 凛の荒っぽい運転で校内へと戻る。

 校庭の〝キング〟──あの石の塔の前に、望月と数名の生徒が待機していた。


「さて、どうやら聖グラディスが黎明のルークを破壊したようだ。これより〝夜戦〟に備える」


 望月の声は静かだが、周囲の空気をピリつかせるには十分だった。


「真田、桐谷、ユウト、ヨシツネはひとまず休息をとってほしい」


 ヤセン……初めて聞く単語だ。

 あとで、ユウトに確認しよう。


「真田班は雷人が、桐谷班は朔がそれぞれ引き継いでくれ」


 矢継ぎ早に、望月が指示を飛ばす。

 その横で、ユウトがこっそりと手招きをしてきた。


「俺らはしばらく後方待機だな。とりあえず教室に戻ろうぜ」

「了解」


 俺たちは校庭を後にし、教室へと戻った。

 無人の静まり返った校内に、二人の足音が響く。自分のベッドに腰を下ろすと、どっと疲れが出た気がした。


「なあ、さっき言ってたヤセンってなんだ?」


 俺は素朴な疑問をぶつける。


「昨日、夜まで学校に戻らないとバリアで入れなくなるって話しただろ?」

「うん、聞いた」

「黎明高校は今、拠点のルークがひとつもない状態になった。だから、今夜は学校を守る〝バリアが張られない〟んだよ」


 ユウトが窓の外、夕闇が迫る空を指差す。


「バリアがない無防備な夜に、敵のキングを直接破壊しに行く。夜の戦いだから、夜戦」

「なるほど……」


 つまり黎明の生徒たちは、これから夜が明けるまで、いつ攻め込まれるかわからない恐怖と戦わなきゃいけないわけか。

 それは、精神的になかなかキツイものがあるだろうな。


「二四時間、常に緊張しっぱなしってことか。……エグいゲームだな」


 俺はため息交じりにそう呟いた。  だが、ふと悪知恵が働く。


「あ、じゃあさ。夜のうちにこっそり敵のエリアに近づいといて、朝始まると同時に速攻でルークを壊すってのは?」


 出待ち作戦だ。これならリスクを最小限に抑えられる。

 だが、ユウトは苦笑して首を横に振った。


「あー、それは無理。朝八時のチャイムでビショップが決まるだろ? そのタイミングで、外に出てるポーンは全員、キングの前に強制招集されるんだ」

「……うわ、対策済みかよ」


 なかなかいい案だと思ったが、そう甘くはないらしい。


「じゃ、とりあえず夜に備えて寝るか。今のうちに回復しとかないと」


 ユウトの提案に、俺は素直に同意した。

 ベッドに横になると、泥のような眠気が一気に押し寄せてきた。


 ***


 誰かに強く揺さぶられ、俺は重い瞼を開いた。


「おい、ヨシツネ、起きろ」


 視界に入ったのは、ネムルの顔だ。


「ったく、だらしねえな」


 (お前にだけは言われたくないぞ)

 とは口に出さず飲み込んだ。


「ユウトは?」

 と尋ねると、ネムルは顎で下を指した。


「とっくに起きて、下に行ったぞ。もうすぐ六時になる。夜戦組は七時までには校外に出ないとマズいからな」

「ああ、サンキュー」


 ネムルに礼を言い、俺は急いでキング前へと向かった。

 階段を下りて玄関口のところで、丁度ユウトと鉢合わせた。


「あ、ヨシツネ! ちょうど良かった。起こしに行こうと思ったんだ」

「ネムルに叩き起こされたところ」


 俺はあくびを噛み殺しながらそう答えた。

 キングの前に行くと、望月の他に真田、カエデ、小春がいた。


「それじゃあ、夜戦になるようなら、お前たち五人で行ってもらう。指揮は真田に任せるが、おそらく暁天と鴉羽は邪魔をしてくるだろうからな」


 望月は淡々と指示を出す。


 また、あの黒沼という人と戦うことになるのだろうか。だが、真田やカエデといった三年生、そしてユウトと小春。このメンツなら、どんな相手でも勝利をもぎ取れる気もする。

 攻撃キャラじゃなさそうなカエデがいるのには少し違和感があるが、それでも心強くはある。


 その時、学校全体に六時を告げる「ふるさと」が流れた。


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