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サマー・ロスト 剣を捨てた無気力少年、負けたら「存在消滅」のデスゲームで覚醒する。  作者: うにまる
一章

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第3話 無慈悲な洗礼

 俺は──正直、混乱していた。 何が起きているのか、サッパリわからない。


 けれど、一つだけはっきりわかることがある。


──ユウトが、俺を守ってくれている。


「……ユウト?」


 自分の声が、情けなく震えているのに気づいた。


 ここは、俺たちがいつも過ごしていた街じゃない。あまりにも似ているが、決定的に何かが違う。 異常だ。異常という言葉では追いつかないくらい、奇妙で気持ちの悪い世界だ。


「……ヨシツネ、大丈夫か?」


 ユウトの声はいつも通り落ち着いていて、不思議と安心感を覚える──ほんのわずかだが。


「なんで……お前がここにいるんだよ?」


「説明は後だ。今はとにかく学校に戻ろう。帰れば……なんとかなるから」


 ユウトは冷静を装っていたが、その目には強い焦りがにじんでいた。

 だが、その焦りは俺を守るためのものだと理解できた瞬間、俺は少しだけ安心した。


 ユウトはナイフを持った少女に向き直った。


「なあ、こいつは俺の友達だ。見逃してくれないか。ここで無意味にやり合うのは勘弁してほしい」


 少女は一瞬だけ目を細め、俺たち二人をじっと観察した。 やがてナイフをベルトの鞘に戻し、肩をすくめる。まるで興味を失ったかのように。


「あなたの能力、知っているわ。ここで力を使えば、すぐお姉さまたちが飛んでくるわね」


 少女はにやりと笑いながら、こちらの提案を受け入れた。


「いいわ。今日は見逃してあげる。その代わり、貸し一つ」


「貸し? 俺はお前をいますぐ殺せる。イーブンだろうが」


 ユウトの「殺す」という言葉に、俺は恐怖と同時に安堵を覚えた。──どうやらユウトの方が強いらしい。


「私が死ねば、お姉さまたちが確実にあなたたちを殺しに来る。私は二人を見逃す。あなたは一人を見逃す。だから貸し一つ。おわかり?」


 ユウトは一瞬動きを止め、困惑した後、小さく首をすくめた。 そして俺を見つめた。


「そういうわけだ。この子の顔を覚えとけ。貸し一つだそうだ」


 意味はわからないが、少なくとも俺が彼女に殺されることはなさそうだ。


「……ユウト、この子、お前の知り合いなのか? ちゃんと説明してくれよ」


 ユウトは頷き、俺の背を押しながら歩き出した。


「そうだな。とにかくここは女学院に近い。一刻も早く学校へ戻るぞ」


 近くにあった車に乗り込むと、彼は助手席を指さして急かす。


「早く乗れよ」


「お前、免許持ってるのか? ていうか誰の車だよ」


「大丈夫だって」


 何が大丈夫なのか分からない。 でも、不思議とユウトの言葉を疑う気にはなれなかった。


 俺は助手席に乗り込み、シートベルトを締める。 さっきまで殺気を放っていた少女は、もう興味を失ったかのようにスマホをいじっている。


 ユウトがエンジンをかけると、車は音もなく滑り出した。 サイドミラーに映る少女の姿は、すぐに小さくなっていった。


「なあ、ユウト……これ、どういうことなんだよ」


 殺されかけたことを思い出し、声が少し荒くなる。心臓はまだドクドクと警鐘を鳴らし続けていた。

 ユウトは黙ったままハンドルを握り、やがて深いため息をついた。


「……ってことは、思い出すんだよなあ」


「は? 思い出すって、なにをだよ?」


「……いや、なんでもない。混乱してるのはお前だけじゃない。落ち着けって言っても無理なのはわかってるけど、でも、まず学校に戻らなきゃ」


 その言葉に、少しだけ理性が戻る。


「なあ、ここって……死後の世界かなんかなの?」


 ふと口から出た疑問。


「いや、生きてるよ。すぐ元の世界に戻れる」


 ユウトは軽く笑った。


 言葉に少しホッとしながらも、現実感はない。どうしてこうなったのか、どうやって戻るのか、全くわからないままだ。


 車で三十分ほど走れば学校だ。ユウトの言う通り、きっと学校に戻れば元の世界に戻れる。今は、それを信じるしかなかった。


──懐かしい気分だ。昔はこうして二人でよく遊んだっけ。


 あれ? 二人だったか……?


「なあ……」


「ん?」


「俺、誰かを"忘れてる"気がするんだ。ずっと昔から大事だった人を。 ユウトと二人で遊んでた記憶があるんだけど、それが……"二人じゃなかった"気がして……」


 ユウトはハンドルに力を込め、静かに答える。


「……それも、戻ったら分かるよ」


 沈黙に耐えられなくなったのか、彼はラジオのスイッチを入れる。 どのチャンネルもノイズしか流れない。世界そのものが、どこか壊れている違和感。ユウトがため息をつく。


 ノイズに揺られていると、視界の端に人影が揺れた。 歩道橋の上──女学院の制服を着た少女が、弓を構えて立っている。


 紫のスカートが風にたなびき、逆光の中でその姿は女神のように神々しく、死神のように不気味だった。


「おー、また女学院生だ」


 俺は気まずく、わざと少し間の抜けた声を出して彼女を指さす。


 隣のユウトが突然ハンドルを握りしめ、焦った声で叫んだ。


「ごめん! やっぱ俺ら死んだわ!」


「はぁ?」


 ズン──耳鳴りのような重低音とともに空気が震える。 鋭い光の矢が一直線に車に向かって飛来した。


 まるで太陽の一部が剥がれて飛んできたかのような目を焼く閃光。


「あの女! 貸しは無しだからな!!」


 ユウトの叫びが車内に響く。

 閃光、爆発、熱──

 声にならない悲鳴を上げながら、隣を見るとユウトと目が合った。


 まるで大丈夫だと言わんばかりの、変に落ち着いた目。 何が大丈夫なのかは分からない。

 そして──目の前が真っ白に染まった。 光でもない。


 ただ、存在そのものを塗りつぶす"白"。

 痛みも、熱も、恐怖も、何もかもが、一気に引いていく。 代わりに、無音の世界が広がった。


 "それ"はもっと劇的で感傷的なものかと思った。 

 

 でも実際には、ただあらゆるものがスッと遠ざかっていく、静かなものだった。


 心のどこかで、まだ何か言い残した気がする。誰かに伝えたかった何かがある。


 でも、その言葉が浮かぶ前に、俺の意識は暗転していった。


 そして、俺は人生で初めて体感した。



──"死"というものを。



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