第36話 お昼はやっぱり、BBQ
「さて、それじゃあ、お昼にしましょうか」
藍太郎はキョロキョロと店内を見渡し、すぐに冷凍庫を見つけて駆け寄った。 ガチャリと扉を開け、興味津々に中を物色しはじめる。
「よかった、まだ半解凍のようです。さすがステーキ屋、上質な肉ばかりですね」
そろそろ三日目だ。生鮮食品は腐敗が始まる頃だろう。食べるというのも──ある意味では生存を賭けた戦いのひとつだな。
「何かやることはありますか?」
「そうですね……せっかくだから外で食べましょうか? 肉を詰めるので、運んでもらえますか?」
藍太郎は手際よく、冷蔵庫から肉を取り出してクーラーボックスに詰めていく。 その様子が、妙に板についていた。
「昨日も思いましたけど、料理慣れてるんですね」
「こっちにきて九条先輩の料理を見てから、その姿に憧れまして。寮ではほとんど僕が料理をやってます」
どこか誇らしげに微笑む藍太郎。 両手いっぱいの肉を抱えて、大通りへ戻る。
「お、なんだ? なんかやるのか?」
ネムルが楽しそうに声をかけてくる。
「ええ、折角ですからバーベキューでもしましょう」
「時間とか大丈夫ですか?」
ユメが心配そうに尋ねる。
「カセットコンロにしますから大丈夫ですよ。さすがに炭を起こすのは時間がかかりますので」
藍太郎はにこやかに言って、持っていたクーラーボックスを地面に置いた。 ──たしかに、いつ戦闘になるかわからない状況で炭火は悠長すぎる。
「それじゃあ、僕はカセットコンロを拝借してきます。ネムルくんと河合くんは椅子とテーブルを。ヨシツネくんと凛くんは野菜やその他の食材を用意してくれますか?」
全員が頷き、それぞれの担当に散っていった。
「んじゃ、スーパーでも行くか」
「了解です」
凛に続いて歩き出す。数分も歩かないうちに、小さなスーパーが見つかった。
「野菜って何買えばいいんだ? にんじんとか玉ねぎとかか?」
「それ用のカット野菜があるんじゃないですかね?」
野菜コーナーへ向かうと、思った通り〝バーベキュー用カット野菜セット〟が並んでいた。
「へぇー、こんなのあるんだな」
(……長谷川先輩に比べて、優木先輩は家事スキルは低そうだな)
「なんか失礼なこと考えてるか?」
「いえ、滅相もないです」
この人……エスパーなんだろうか? 野菜を二袋、焼肉のタレや調味料をいくつか、さらに紙皿と割り箸、ウェットティッシュなんかをバスケットに放り込んでいく。
「お前、買い物慣れしてるな」
「親父が好きだったんですよ、バーベキュー」
「ふーん、じゃあ任せるわー」
おっと、これを忘れると怒られそうだ。
梅干しを二パック追加する。
『お! 気がきくナ!』
ついでに──甘いもの好きなユメのため、デザート用にパイナップルと板チョコ、それからバナナも入れておいた。
「パイナップル?」
「焼くと美味いんですよ」
「へぇー」
一通りカゴに入れて店を後にする。
大通りに戻ると、頭上から「こっちこっちー!」と声がした。
見上げれば、ユメがファミレスの屋上テラスで大きく手を振っている。
屋上に上がると、すでに藍太郎が到着していたようで、まな板の上で手際よく肉をカットしていた。
「いやー、能力で椅子とテーブルを作ろうかとも思ったんだけど、いい場所があったからさ」
ネムルが言うように、確かに眺めは抜群だった。
街並みを一望できる開放的なテラス──ここで食べれば、きっと格別だろう。
机の上ではカセットコンロが数台並び、鉄板の上では油が軽く跳ねていた。
「野菜、もう焼いちゃっていいですか?」
「ええ、肉も焼き始めます」
鉄板の上で肉がじゅうっと音を立てる。
藍太郎が手際よく焼き加減を確認し、ユメは皿や箸を整えながら、笑顔で待っている。
「お、いい香りだな」
ネムルが近づき、香りに顔をほころばせる。
凛がにんじんや玉ねぎを鉄板の脇に並べると、香ばしい香りがさらに広がる。
「そろそろ、お肉いいかもしれませんね」
「いただきます」
──全員の声が揃い、箸が一斉に動き出す。
焼けた肉を口に運ぶと、ほんのり甘い脂と香ばしい旨味が口いっぱいに広がった。
「うわ、うま」
思わず本音が漏れる。
「さすがステーキ屋の肉ですね」
藍太郎は少し誇らしげに言った。
「スーパーを見てて思ったんですが、今はもう涼しいからいいけど……夏だったら食材ってすぐ腐っちゃいません?」
「そうですね。校内は桐谷さんの氷や雷人くんの電気でなんとか維持してますが……食料確保には時間を取られがちになります」
藍太郎は淡々と説明する。
「まあ、最悪食中毒になっても、キングに触れば治るしな」
ネムルが肉を頬張りながら、あっけらかんと言う。
……なら、なんで昨日のたこ焼きであんなに死にかけてたんだ?
「わたし、お昼はお菓子で済ませる時もあるよ」
ユメが笑いながら言うと、
「食べられる時に、バランスよく食べないとですね」
藍太郎がやんわりと、しかししっかり釘を刺すように注意する。
ユメは「うーん、耳が痛い」と肩をすくめつつも、どこか嬉しそうだった。
その様子に、みんな思わず吹き出し、屋上には軽やかな笑い声が広がる。
──その横で、ベンケイは変わらず静かに梅干しを口に運んでいた。
屋上はゆっくりと、穏やかな時間に包まれていった。




