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サマー・ロスト 剣を捨てた無気力少年、負けたら「存在消滅」のデスゲームで覚醒する。  作者: うにまる
一章

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第30話 渇望、もっと強くなるために

 軽くのつもりだったが、思った以上に体力を消耗してしまった。

 グラウンドの端で仰向けに寝転び、荒くなった息を整える。


 しばらく空を見上げていると、朝の光が少しずつ校舎の影を薄くしていく。


「ほれ」


 気がつくと、隣にいた望月がスポーツドリンクを差し出していた。


「あ、すみません」


 慌てて起き上がり胡座を描く。


「朝から走り込みとか、お前ってなんか夢とか目標ってあるのか?」


「あー、なんとなくです。死にたくないですし。あと昨日負けたのが悔しかったってのもありますが」


「……この世界で強くなりたいってことか?」


「そりゃ、そうですね」


「能力を強くするコツ、昨日聞いてたよな?」


「ええ」


「……他人を押しのけてでも、能力を強くしたいか?」


 何を聞きたいんだろう──。問いかけられても、すぐに言葉は出てこなかった。


「うーん、程度によりますが……」


「裏報酬って知ってるか?」


 問いが直球すぎて、ドキリとする。だが望月は真っ直ぐにこちらを見ている──嘘はつけそうにない。


「はい……ユウトに聞きました」


「ああ、ユウトに教えたのは俺だからな。ナツキの件だろ?」


「……はい」


「じゃあ、お前らの目的はキングの破壊ってことでいいのか?」


「……そうですね」


「わかった。能力を手っ取り早く向上させる方法はいくつかある──一番簡単なのは他校のビショップを殺すことだ」


 なんとなく予想はしてたが──つまり、他人を完全に消し去るということか。


「もし、お前に覚悟があるなら、機会があればお前に任せるが、どうだ?」


 元からユウトと覚悟を決めている。


「はい。俺にやらせてください」


 自然と出てきた言葉は真っ直ぐだった。


「よし、わかった」


 望月は短くそれだけ言うと、満足げに頷き──ゆっくりとグラウンドを後にした。  


 残された俺は、風に揺れる白線を見つめながら、胸の奥で小さく息を吐く。


 覚悟は決めた。あとは、やるだけだ。


『ヨシツネはもっともっと強くなれるゾ』


『ああ、そうだな。ありがとう』


 小さく頷く。気づいたらグラウンドにはもう誰もいなかった。


(汗を流して体を整え、頭をスッキリさせるにはちょうどいい頃合いだ)


 旧体育館のシャワー室へと向かった。

 シャワーを浴びていると、影の中からベンケイが顔を出した。


『これ、なんダ? いい匂いだナ』


『ボディソープだよ。昨日コンビニで手に入れたやつ』


 柑橘系の香りがほんのり広がる。気に入って、自宅でも愛用してるやつだ。

 これは取り入るチャンスかも知れない。


『洗ってやろうか?』


『うむ、任せるゾ』


 タオルで泡立てて、ベンケイの体を洗ってやる。


『ふむ……これ、気持ちいいナ』


『そりゃよかった』


 ベンケイはまるで猫みたいに目を細めて、シャワーの水を気持ちよさそうに浴びていた。


『これは気に入りましタ。次からオレも毎回シャワーするゾ』


『へい、その代わりと言っちゃなんですが──また強い剣がありましたら、お貸しいただけますと』


『ふむぅ……考えとくゾ』


『ありがたき幸せ』


(これじゃ、どっちが主人かわかったもんじゃないな)


 タオルでベンケイを拭いてやると、満足げに影の中へと戻っていった。


 シャワー室を出て、少し冷えた廊下を歩く。

 朝の静けさの中に、自分の足音だけが響く。


 図書室に着くと、机を枕にして三人がぐっすり寝ていた。

 凛、ネムル、ユメ。三人ともまるで合宿明けの部活生みたいに無防備だ。


 どうやら藍太郎はまだ来ていないらしい。  


(……望月先輩が見たら、確実に説教コースだな)


 ガラッ。


「おはようございます」


 藍太郎が元気に入ってきた。

 寝ている三人と、呆けた顔の俺を見て、ため息をつく。


「まったく……朝からこれですか。まあ、いつものことですけど」


 それから、にやりとこちらを見て笑う。


「聞きましたよ。望月先輩と朝から鍛錬したって。褒めてましたよ、“意外と根性ある”って」


「いやいや、全然ついていけませんでしたよ」


 思わず苦笑いがこぼれる。


「ははっ、望月先輩相手なら仕方ないですね。うちの班はいつもこのザマですし」


 藍太郎が寝ている凛の頭を指さす。


「朝活なんて言葉、辞書に載ってない連中ばかりですからね」


 肩をすくめる彼の笑顔は、どこか清々しかった。


 藍太郎がすっと手をかざした。


「罪名、居眠罪! 判決、覚醒刑!」


 瞬間、三人の体が柔らかな光に包まれる。

 まるで糸で引っ張られたように、背筋がピンと伸びた。


 ユメが恥ずかしそうに照れ笑いをする。


「……おはようございます」


 ネムルは不本意そうに挨拶する。


「先輩の能力って意外となんでもアリなんですね」


 呆れる俺をよそに、藍太郎は胸を張って言った。


「これは正義の執行です」


 ネムルとユメはなんとか目を覚ましたが、凛はまだ器用に寝ている。

 藍太郎が指刺すと、凛の目の前で光の玉がピカピカと点滅しはじめる。


「わーったよ! わかってるってば!」


 光の玉を虫のように払いながら、不機嫌そうに叫ぶ。


「うむ、結構」


 満足げに頷いて、藍太郎は席についた。


「さて──今日の任務ですが、私たちは“暁天”を担当します」


 本当は、新しい剣を試すためにスライム女と手合わせしてみたかったが仕方ないな。

 けれど──昨日の“戦車”の砲弾を切れるか、そっちも確かめてみたい。


「水守医院に敵ルークがあるようです」


「どこだっけ?」


 ユメに小声で問いかける。


「名伏神社の前。蛇のお祭りするところ」


 市内でも一番大きなお祭りだ、子供の頃何度か遊びに行ったことがある。


「ああ、あの黄色い建物の病院か」


「そうそう」


 あのあたりは古い通りだから、道がやたらと入り組んでいる。

 戦車なんて出せるスペースあるのかな、と頭の片隅で考えていると、ポジベリが手渡された。


「今回はルークを壊すってより、敵戦力の削り作業ですね。聖グが押してるから、我々は支援──いや、嫌がらせに近いかも知れません」


 藍太郎が笑いながら言う。なるほど、全部を自分たちだけで片付ける必要はないわけだ。上手く他校の力を使って駆け引きする余地もあるんだな。


「黎明は真田班と桐谷班が攻撃をしかけます。黎明は修武館ともやり合っているため向こうが本命ですが、我々も重要な役目です」


 もしキングを破壊できそうなら、ユウトか俺が破壊しなければ──ナツキを復活させるには、それが絶対条件だ。


「じゃあ、エリアに出入りして向こうにストレス与える感じですかね」


 ユメが言う。


「ええ。おそらく守りに入っているでしょうから、外までは出てこないと思いますが」


──なるほど。でもそれじゃ、経験値が稼げそうにないな。


「不服そうだな」


 凛が寝起きの、不機嫌そうな顔で問いかけてきた。


「いえ、昨日戦車にやられたので。リベンジできたらしたいなーって」


「あー、あいつらか。今日は戦えないかもな」


「あいつら?」


 複数……ってことか?


「たしか兄弟なんだっけ?」


 凜が藍太郎に尋ねる。


「そうだという話ですね。外側の戦車と砲撃主で分かれてるんじゃないですか? 詳しくは私も知りませんけど」


「ヨシツネは……あれだ……」


 ネムルが半分寝ながら呟く。


「いわゆる……戦闘狂だな……?」


「そういうわけじゃないけどさ、まあ、負けっぱなしはあまり好きじゃないな」


 肩をすくめながら答えると、影からベンケイが割り込む。


『ベンケイも戦いたいゾ』


「能力を得たばかりですからね。私だって最初は色々試しましたよ。気持ちは分かります」


 藍太郎が軽く笑って同意してくれる。


「殺れそうな奴がいたら、やって良いぞ」


「駄目ですって。生存を最優先にしてください」


 凛からありがたいお言葉を一つ頂戴した。 藍太郎の言葉は聞こえなかった事にしよう。


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