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サマー・ロスト 剣を捨てた無気力少年、負けたら「存在消滅」のデスゲームで覚醒する。  作者: うにまる
一章

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第28話 絶対零度、氷の刃

 途中の水道にホースを繋ぎ、屋上に着いた。


「刀、出せるんだっけ?」


「ああ」


「じゃあ──ネムルが枕を出して、ヨシツネが切って、俺が固める。これで行こう」


 イオリが手際よく段取りをつける。


『ベンケイ、刀を頼む』


 影から刀を取り出した瞬間、「ほいよ」と枕が飛んできた。

 斬ると中からおが屑が舞い、檜の香りがふわりと広がる。


「ヒノキの枕なんてあるんだな」

「高級品だぞ」


 ネムルが得意げに胸を張る。たしかに、この香りに包まれたらぐっすり眠れそうだ。 イオリが手をかざすと、おが屑が正方形のブロック状に固まった。


「よし、どんどんいくぞー」


 ネムルが次々に枕を出し、俺が斬る。

 ヒノキのブロックをダイゴと人形たちが積み上げていき、やがて屋上に湯船の形ができていく。


── 昔やってたブロックで色々なものを作るゲームを思い出した。


「そろそろ水、出してくるね」


「頼む」


 ダイゴが階下へ向かう。 ……しかし、湯船がでかい。

 十人は余裕で入れそうだ。水がチョロチョロと流れ出すが、これ満タンまで一時間コースじゃないか。


「着替えの準備でもするか」


 そう言って部屋に戻る。

 ユウトは窓際でスマホを眺め、ネムルは毛布にくるまってうたた寝。 イオリはゲームを続け、ダイゴは真剣な顔で小説を読んでいた。


 それぞれが思い思いに、風呂の完成を待っている。


「そろそろか」


 ユウトの一言で、全員が屋上へ。湯船には月明かりが映り、波紋がゆらゆらと揺れている。 ユウトが手を差し入れると、じんわりと湯気が立った。


「さすが全身湯沸かし器だな」


 ネムルが軽口を叩く。


「ちょっ、話しかけないで。制御ムズいんだから」


「へーい」


 湯気が増えるたび、夜風に混じってあたたかい香りが広がっていく。

 空を見上げると、満月が顔を出していた。


「月が綺麗だな」


「おいおい、俺にそのケはねぇぞ」


 ネムルが照れ笑いを浮かべる。  

──いや、告白したつもりはない。


「んじゃ、入ろうぜ!」


 ネムルが勢いよく服を脱ぎ捨て、あっという間に全裸になった。


「お、おい早いって!」


 思わず止めようとした、そのときだった。新校舎の方角から、黒い影のようなものが、音もなく近づいてきた。


 雲……? いや、速い。まるで生き物みたいにうねりながら、こっちに向かってくる。


「なぁ、なんだろう、あれ?」


 俺が黒い雲を指さすと、みんなが一斉に固まった。


「悪魔や……! 悪魔がきたんや!」


 なぜか関西弁になったネムルが、湯船の縁で震えだす。


「切れ、切れー!」


 イオリが俺を見ながら黒い雲を指さし、半ば叫ぶように言った。

 何が起きてる? 攻撃? 敵襲か?


 とっさに刀を抜き、黒い雲へ一閃。  


──が、手応えはない。


 斬ったはずの雲は、何事もなかったかのように通り過ぎていく。

 冷たい風が、頬を撫でる。


 次の瞬間……。


 湯船が、消えていた。


「……は?」


 目の前の極楽ヒノキ風呂が、跡形もなく。

 ヒノキの香りだけが残っている。


「な、なぜ気づかれた……?」


 イオリが青ざめ、ユウトは無言で空を見上げた。

 ネムルがその場に崩れ落ち、湯桶を抱えながら泣き出す。


 ダイゴが小さく息をつき、力なく呟いた。


「これは……東海林さんの能力だね」


 同じクラスの女子だ。  

──どうやら湯船ごと、持っていかれたらしい。


 もう一度作り直す気力もなく、俺たちは泣きながらシャワーを浴びた。




 朝、ゴソゴソという物音で目を覚ます。


「……あっ、ごめん。起こしちゃった?」


 小声でダイゴが謝ってきた。どうやら支度をしているらしい。


「いや、早めに起きたかったからちょうど──うわっ!?」


 思わず声が漏れる。俺のベッドの足元で、イオリが前衛的なオブジェみたいな体勢になっていた。


 片足を壁に立てかけ、もう片方はベッドの端。首が九十度くらい曲がっている。


「あー……葉山くん、寝相悪いんだよね……」


 「寝相」で済ませていいのかこれ?もはや芸術の域だろ。

 今の声でユウトも目を覚ましたらしい。


「すまん、でかい声出して」


 小声で謝ると、ユウトは布団の中から片手を上げて、


「いいよー……」


 と、あくび混じりにゆるい返事をした。

 隣のベッドでは、ネムルが相変わらず幸せそうに爆睡している。


 まあ、目も覚めたし少し体を動かすか。

 タオルを持って、屋上に向かった。


 ベンケイに刀を出してもらい、素振りを始める。

 朝のこの時間が好きだ。


 静寂と、一日の始まりを告げる期待が混ざり合って、なんとも言えない清々しさがある。


『なぁ、昨日言ってた“新しい刀”って、どんなのなんだ?』


『極寒の氷の海の底の底。その深淵の主である巨大な魚の腹の中で眠っていた伝説の剣だゾ!』


『おお、本当かどうか分からんが、なんかすごそうだな』


『本当だゾ! 疑うナ!』


『わかってるって、信じてるって……』


『今使ってる剣だって、軍神が使ってた名刀中の名刀なんだゾ! 枕切りになんて使うようなもんじゃないゾ!』


『ああ、ごめんよ』


 やれやれ。どこでそんなインチキ骨董商みたいな与太話を仕入れてくるんだか。


『……んー』


 まだ納得しきれていないジト目のベンケイが、影の中から上半身だけ出てきて手をかざす。

 光の粒が空気中に舞い上がり──そこから一本の剣が姿を現した。


 刀身は透き通るような蒼白の輝きを放ち、まるで氷そのものを削り出したかのように澄んでいる。

 鍔は簡素ながら、どこか異国的な幾何学模様が淡く光を返していた。


 なるほど──これは確かに“剣”だな。

 少なくとも日本の文化からは生まれなさそうだ。どこか異質な気配をまとっている。刀身の奥に、冷たい光がゆらめいた。


「へぇー、綺麗な剣だね」


 後ろからダイゴの声。いつの間にか屋上に上がってきていたらしい。


「手伝おうか、修業」


 修業ってほどでもないが、試し切りはしてみたい。


「ああ、助かる。試し切りしたいから、またあの人形出してくれるとありがたい」


 ダイゴがさっと空中に筆を走らせると、ふわりとマネキン人形が現れた。

 さて、試し切りだ。


 剣を握った瞬間、刀とはまるで違う感触が手に伝わる。

 鋭く切るというより、ぶった斬る──そんな手応えだ。


 軽く二、三度、空を切る。刃が空気を裂く音が小気味いい。

 次の瞬間、マネキンの胴を斬り払うと──


「パキン」


 切り口が瞬間的に凍りつき、白い薄氷が走る。冷気が指先まで伝わってくるほどだ。

 すごいな。これなら、スライム女も問題なく倒せそうだ。


『どうダ?』


 影の中から声が響く。ドヤ顔が、ありありと脳裏に浮かぶ。


『いや、まいりました。さすが伝説の剣です』


『そうだロ、そうだロ! もっと崇めてもいいゾ!』


「すごいね、もしかして他にもいろんな剣があるの?」


 ダイゴが目を丸くしている。


『どうなの? まだ剣って、たくさん種類あるのか?』


『沢山あるけど──貸さないゾ。ヨシツネは大事にしないからナ!』


『そんなぁ……』


 ──次はどんな剣を出してくれるんだろうか。


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