第25話 たこ焼きのポテンシャル
『ユウトと、さっきのリン。ヨシツネと。まぁ大体同じくらいの強さダ。で、その三人が組めば、サナダにやっと勝てるくらいだナ』
『真田先輩、そんなに強いのか……』
『タイマンなら勝ち目はゼロだナ。だけど──』
ベンケイは影の中でブルッと震えた。
『クジョーは、サナダが十人いてもきっと勝てナイゾ。コイツは人間の皮をかぶった“化け物”ダ。正直、怖いゾ』
九条と目が合うと、にっこり──柔らかく微笑まれた。
「どうしたんだい?」
背筋を氷でなぞられたような悪寒が走る。
まぁ、味方なんだ。心強いと思おう。
「いえ……美味しいです。こういうの、初めてなんで」
「これから何度もやることになるさ。──これはボクの先輩から続く、我が校の伝統だからね」
「そうそう。ちなみに我が班では、たこ焼きスキルの習得も義務ですよ」
藍太郎が笑う。
「……“も”ってことは、長谷川くんの炒飯は味わったのかい?」
九条が目を細める。
「ああ、今日の昼にな。腕がさらに上がってて驚いたぜ」
真田が代わりに答える。
「はい、本当に! あんなに美味しい炒飯、初めて食べました」
思わず声が弾んだ。あの炒飯は、文句なしの絶品だった。
そして今、口にしているたこ焼きも──やっぱり美味い。
「そうかい。後を継いでくれる人がいるってのは、嬉しい話だ」
「でも、僕はもう一度──九条先輩の炒飯が食べたいですよ」
藍太郎が遠い目をする。
「ん? あんなので良けりゃ、いつでも作るぜ?」
「「「是非!」」」
思わず叫んだ声が、ユウトと藍太郎の声と重なった。
今日の炒飯よりさらに美味いと噂の“九条飯”。……そりゃあ食べてみたいに決まってる。
「お、おぅ……わかった、明日な」
三人の期待の眼差しの圧に若干引いた九条が、苦笑いしながら頷いた。
「あ、そういえば──スライムのこと、相談してみる?」
ユウトが思い出したように言う。
「スライム? 黎明の子かい?」
「はい。斬ってもすぐくっついちゃうんですよ」
「……ふむ、なるほど。確かに君の刀とは相性が悪そうだねぇ」
そこへ望月が現れ、一枚の紙を九条に渡す。
九条はそれにちらりと目を通し、望月へ話を振った。
「ヨシツネくんの刀じゃ、黎明のスライムを斬っても意味がないんだってさ。何か良い方法はあるかい?」
「スライムか……そうだな。お酢をぶっかけるのが手っ取り早いかと思うが。あるいは──凍らせてしまえば……まぁ、それができれば苦労はしないか」
「お酢ですか?」
「あぁ、溶けると思うぞ」
なるほど。じゃあ次からはお酢の瓶を持ち歩くか?
戦闘中に刀にお酢をかけて斬るとか……ベンケイが怒るかな?
『なぁベンケイ、刀にお酢をかけたら怒るか?』
『フザケルナ! オレが貸してるのは“名刀中の名刀”だゾ! 炒飯じゃないゾ!?』
『ですよねー』
『……あのドロドロ女のことだナ? わかったヨ……次は“別の剣”を貸してやるヨ』
『別の剣?』
『凍らせれば良いんダロ? 任せトケ!』
『マジ!? できるのか!?』
『ただし、大事に使えヨ』
「……あ、なんか凍らせられるかもしれません」
「へぇ、便利で優秀な能力だ」
望月がたこ焼きを素手でひとつつまんで口に運ぶ。
「やはり長谷川のが一番美味いな」
そう呟くと、何事もなかったように立ち去っていった。
気づけば、九条がじっと大きな瞳でこちらを見つめていた。
「ど、どうかしましたか?」
美人にこんな風に凝視されると、さすがに落ち着かない。
「ねぇ、ベンケイちゃんとお話ししてるよね?」
「えっ……」
しまった。
「ずーるーいー!」
「い、いやその……」
「ボクにもお話しさせておくれよ!」
肩を掴まれ前後に揺さぶられる。
「わかりました、わかりましたから……じゃあ、ちょっと聞いてみますね」
『おい、出て来て助けてくれよ!』
『…………』
──ベンケイは沈黙を貫いた。
わざと俺を困らせているのか、それとも気分じゃないのか。
どっちにしろ、完全に俺が矢面に立たされるハメになったわけである。
「あー。どうやらもう寝ちゃったみたいです。お腹いっぱいみたいで」
疑いの目でじっと睨まれる。
「起きたらすぐ教えてよね」
「は、はい…」
「ヨシツネ、こっちのたこ焼きも食ってみろよ」
運よくネムルが声をかけてくれた。
「よし、今行く!」
「いや、持ってきたんだけど……」
ネムルの肩を組み、無理やり座っていた席へ向かう。
「助かったよ、ベンケイと話させろって詰められてさ」
「あぁー、九条先輩、ああいうの好きそうだもんな」
ネムルのテーブルに腰を下ろすと、ユメがこちらを見て声をかけてくる。
「あっ、ヨシツネくんだ。これも食べてみて」
差し出された皿の上には、やけに茶色い物体。甘ったるい香りが漂い、テーブルにはチョコの包み紙が散乱していた。
「……チョコ入り?」
怪訝そうに眉をひそめると、ユメは慌てて両手を振った。
「ホットケーキミックスだから! 絶対美味しいって!」
うーん。それなら食べられるか?
「……うん、普通に美味しい」
「じゃ、お次はこれだ」
ネムルのたこ焼きを一口。……ん? ぷにっとした食感?
「……グミ? コーラ味……?」
シュワッとした甘みが口いっぱいに広がる。ソースは……これ、ブルーベリーか?
「……意外と美味い……のか?」
自分でも信じられない感想が口をついて出た。
「だろ? 今、至高のたこ焼きを作ってるんだよ」
ドヤ顔で言い放つネムル。
(これをたこ焼きと言いよるか、こいつは)
たこ焼きとはなにか、常識が試される瞬間だ。
「まぁ、伝統とは言えな。こう何度もたこ焼きばかりだとな」
「……そんなもんか」
妙に納得させられている自分が、ちょっと悔しい。
「まぁ、長谷川先輩のたこ焼きは美味いんだがな……俺は思うんだ。たこ焼きのポテンシャルは、もっと別ルートを目指すべきだってな」
「べつるーと」
「あぁ。俺達は、たこ焼きを世界に認めさせようと思っている」
「せかいに」
──もう今のままで充分認められてるだろ。
「じゃあ、次は俺のだ」
雷人が、得意げに緑のたこ焼きを差し出してくる。
……うん、さっきチョコとグミと並んでるの見てたから知ってる。わさびだよね、コレ。
横でノノが、すでに俺を憐れむ目で見ている。
「ちなみに聞きますけど、コレは?」
恐る恐る問いかける。
「わさびだ」
「……」
「WASABIは既に海外で人気らしいからな」
臆面もなく言い切る雷人。
「なるほど! 流石先輩!」
「ディスイズグッドテイスト、マイネームイズライト」
ネムルと雷人、二人で納得顔を交わしている。
──この二人を混ぜると危険だ。
「えっと、味見はしましたか?」
「「あ……じ……み……」」
(……こいつら、初めて日本語を話したエイリアンか?)
このテーブルも駄目だった。




