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サマー・ロスト 剣を捨てた無気力少年、負けたら「存在消滅」のデスゲームで覚醒する。  作者: うにまる
一章

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第25話 たこ焼きのポテンシャル

『ユウトと、さっきのリン。ヨシツネと。まぁ大体同じくらいの強さダ。で、その三人が組めば、サナダにやっと勝てるくらいだナ』


『真田先輩、そんなに強いのか……』


『タイマンなら勝ち目はゼロだナ。だけど──』


 ベンケイは影の中でブルッと震えた。


『クジョーは、サナダが十人いてもきっと勝てナイゾ。コイツは人間の皮をかぶった“化け物”ダ。正直、怖いゾ』


 九条と目が合うと、にっこり──柔らかく微笑まれた。


「どうしたんだい?」


 背筋を氷でなぞられたような悪寒が走る。

 まぁ、味方なんだ。心強いと思おう。


「いえ……美味しいです。こういうの、初めてなんで」


「これから何度もやることになるさ。──これはボクの先輩から続く、我が校の伝統だからね」


「そうそう。ちなみに我が班では、たこ焼きスキルの習得も義務ですよ」


 藍太郎が笑う。


「……“も”ってことは、長谷川くんの炒飯は味わったのかい?」


 九条が目を細める。


「ああ、今日の昼にな。腕がさらに上がってて驚いたぜ」


 真田が代わりに答える。


「はい、本当に! あんなに美味しい炒飯、初めて食べました」


 思わず声が弾んだ。あの炒飯は、文句なしの絶品だった。

 そして今、口にしているたこ焼きも──やっぱり美味い。


「そうかい。後を継いでくれる人がいるってのは、嬉しい話だ」


「でも、僕はもう一度──九条先輩の炒飯が食べたいですよ」


 藍太郎が遠い目をする。


「ん? あんなので良けりゃ、いつでも作るぜ?」


「「「是非!」」」


 思わず叫んだ声が、ユウトと藍太郎の声と重なった。


 今日の炒飯よりさらに美味いと噂の“九条飯”。……そりゃあ食べてみたいに決まってる。


「お、おぅ……わかった、明日な」


 三人の期待の眼差しの圧に若干引いた九条が、苦笑いしながら頷いた。


「あ、そういえば──スライムのこと、相談してみる?」


 ユウトが思い出したように言う。


「スライム? 黎明の子かい?」


「はい。斬ってもすぐくっついちゃうんですよ」


「……ふむ、なるほど。確かに君の刀とは相性が悪そうだねぇ」


 そこへ望月が現れ、一枚の紙を九条に渡す。

 九条はそれにちらりと目を通し、望月へ話を振った。


「ヨシツネくんの刀じゃ、黎明のスライムを斬っても意味がないんだってさ。何か良い方法はあるかい?」


「スライムか……そうだな。お酢をぶっかけるのが手っ取り早いかと思うが。あるいは──凍らせてしまえば……まぁ、それができれば苦労はしないか」


「お酢ですか?」


「あぁ、溶けると思うぞ」


 なるほど。じゃあ次からはお酢の瓶を持ち歩くか?

 戦闘中に刀にお酢をかけて斬るとか……ベンケイが怒るかな?


『なぁベンケイ、刀にお酢をかけたら怒るか?』


『フザケルナ! オレが貸してるのは“名刀中の名刀”だゾ! 炒飯じゃないゾ!?』


『ですよねー』


『……あのドロドロ女のことだナ? わかったヨ……次は“別の剣”を貸してやるヨ』


『別の剣?』


『凍らせれば良いんダロ? 任せトケ!』


『マジ!? できるのか!?』


『ただし、大事に使えヨ』


「……あ、なんか凍らせられるかもしれません」


「へぇ、便利で優秀な能力だ」


 望月がたこ焼きを素手でひとつつまんで口に運ぶ。


「やはり長谷川のが一番美味いな」


 そう呟くと、何事もなかったように立ち去っていった。

 気づけば、九条がじっと大きな瞳でこちらを見つめていた。


「ど、どうかしましたか?」


 美人にこんな風に凝視されると、さすがに落ち着かない。


「ねぇ、ベンケイちゃんとお話ししてるよね?」


「えっ……」


 しまった。


「ずーるーいー!」


「い、いやその……」


「ボクにもお話しさせておくれよ!」


 肩を掴まれ前後に揺さぶられる。


「わかりました、わかりましたから……じゃあ、ちょっと聞いてみますね」


『おい、出て来て助けてくれよ!』


『…………』


 ──ベンケイは沈黙を貫いた。

 わざと俺を困らせているのか、それとも気分じゃないのか。


 どっちにしろ、完全に俺が矢面に立たされるハメになったわけである。


「あー。どうやらもう寝ちゃったみたいです。お腹いっぱいみたいで」


 疑いの目でじっと睨まれる。


「起きたらすぐ教えてよね」


「は、はい…」


「ヨシツネ、こっちのたこ焼きも食ってみろよ」


 運よくネムルが声をかけてくれた。


「よし、今行く!」


「いや、持ってきたんだけど……」


 ネムルの肩を組み、無理やり座っていた席へ向かう。


「助かったよ、ベンケイと話させろって詰められてさ」


「あぁー、九条先輩、ああいうの好きそうだもんな」


 ネムルのテーブルに腰を下ろすと、ユメがこちらを見て声をかけてくる。


「あっ、ヨシツネくんだ。これも食べてみて」


 差し出された皿の上には、やけに茶色い物体。甘ったるい香りが漂い、テーブルにはチョコの包み紙が散乱していた。


「……チョコ入り?」


 怪訝そうに眉をひそめると、ユメは慌てて両手を振った。


「ホットケーキミックスだから! 絶対美味しいって!」


 うーん。それなら食べられるか?


「……うん、普通に美味しい」


「じゃ、お次はこれだ」


 ネムルのたこ焼きを一口。……ん? ぷにっとした食感?


「……グミ? コーラ味……?」


 シュワッとした甘みが口いっぱいに広がる。ソースは……これ、ブルーベリーか?


「……意外と美味い……のか?」


 自分でも信じられない感想が口をついて出た。


「だろ? 今、至高のたこ焼きを作ってるんだよ」


 ドヤ顔で言い放つネムル。


(これをたこ焼きと言いよるか、こいつは)


 たこ焼きとはなにか、常識が試される瞬間だ。


「まぁ、伝統とは言えな。こう何度もたこ焼きばかりだとな」


「……そんなもんか」


 妙に納得させられている自分が、ちょっと悔しい。


「まぁ、長谷川先輩のたこ焼きは美味いんだがな……俺は思うんだ。たこ焼きのポテンシャルは、もっと別ルートを目指すべきだってな」


「べつるーと」


「あぁ。俺達は、たこ焼きを世界に認めさせようと思っている」


「せかいに」


──もう今のままで充分認められてるだろ。


「じゃあ、次は俺のだ」


 雷人が、得意げに緑のたこ焼きを差し出してくる。  

……うん、さっきチョコとグミと並んでるの見てたから知ってる。わさびだよね、コレ。


 横でノノが、すでに俺を憐れむ目で見ている。


「ちなみに聞きますけど、コレは?」


 恐る恐る問いかける。


「わさびだ」


「……」


「WASABIは既に海外で人気らしいからな」


 臆面もなく言い切る雷人。


「なるほど! 流石先輩!」


「ディスイズグッドテイスト、マイネームイズライト」


 ネムルと雷人、二人で納得顔を交わしている。  

──この二人を混ぜると危険だ。


「えっと、味見はしましたか?」


「「あ……じ……み……」」


 (……こいつら、初めて日本語を話したエイリアンか?)


 このテーブルも駄目だった。


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